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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第62巻第15号 2015年12月

喀痰吸引に関わる訪問介護員と訪問看護師の協働の実際

橘 達枝(タチバナ ミチエ) 吉田 浩子(ヨシダ ヒロコ)

目目的 社会福祉士及び介護福祉士法の一部改正により,2012年4月から「介護職員等による喀痰吸引等実施のための制度」が施行され,地域包括ケアシステムに関わる介護職の医行為の実施には,訪問介護員と訪問看護師の連携の強化が必要とされるが,その実態は今だ不明である。そこで本研究は,介護職と看護職のより良い協働の在り方を検討するための新たな実証的知見を得ることを目的として,医行為を手がかりに都市部の在宅療養者の介護・看護を担う訪問介護員と訪問看護師の協働の実態を調査し,その結果からより効果的な協働の手法を検討した。

方法 2013年10月から12月に,首都圏A県の訪問介護員と訪問看護師各1,000人のうち,同意が得られた対象者に,無記名自記式質問紙調査を行った。対象の背景,改正法前後の喀痰吸引の状況,訪問介護員の喀痰吸引に対する意向,協働の経験・内容について,職種の関連を検討するため,χ2検定を用いて分析した。

結果 訪問介護員454人,訪問看護師361人(回収率:45.4%,36.1%)の回答から,誤記や無回答を除外し,訪問介護員194人,訪問看護師213人(有効回答率:19.4%,21.3%)の回答を分析対象とした。訪問介護員(n=194)において,喀痰吸引経験者の割合が同制度施行後に減少しており(同制度施行前9.3%,施行後は8.2%),訪問看護師(n=213)においても,訪問介護員の喀痰吸引を支援した経験がある者の割合が同制度施行後に減少した(施行前18.3%,施行後14.1%)。また,訪問介護員の喀痰吸引実施について肯定的な考え(やむを得ない・必要である)を表明した割合は,訪問介護員(56.2%)が訪問看護師(94.4%)に比べ有意に少なく,制度施行後の訪問介護員の喀痰吸引に対する姿勢は消極的であった。一方,両職種ともに約3割は,自分の家族の喀痰吸引の依頼先として,経験豊富あるいは認定を受けた訪問介護員を選択し,技術の習得により訪問介護員の医行為に対する抵抗感が緩和される可能性が示唆された。また,利用者宅で利用職種が偶然居合わせた場合は積極的に情報交換が行われていることがわかった。

結論 本調査結果から,訪問看護師が計画的に訪問介護員と利用者宅を同行訪問し,指導・支援することで訪問介護員の医行為の習得が可能になり,訪問介護員の医行為の実施促進につながる可能性が示唆された。実践の場で訪問看護師が訪問介護員の行う喀痰吸引等への教育・支援ができる協働の仕組み作りが現状の改善に有効である。

キーワード 訪問介護員,訪問看護師,医行為,協働,地域包括ケアシステム,都市部高齢化

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第63巻第1号 2016年1月

国民生活基礎調査における
日常生活に影響のある者の割合に対する無回答の影響

橋本 修二(ハシモト シュウジ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
尾島 俊之(オジマ トシユキ) 辻 一郎(ツジ イチロウ)

目的 平成22年と25年の国民生活基礎調査における生活影響あり割合(健康日本21(第二次)の健康寿命の基礎資料)に対する生活影響の無回答の影響を評価した。

方法 同調査を統計法33条による調査票情報の提供を受けて利用した。自覚症状と通院の有無ごとに,生活影響ありと生活影響の回答なしの年齢調整割合を算定した。生活影響の無回答者における生活影響の有無を自覚症状と通院の回答状況から推計し,生活影響あり年齢調整割合について,調査対象者(生活影響の無回答者を含む)の推計値と生活影響の回答者の調査値を比較した。年齢調整の標準人口には平成25年の調査対象者を用いた。

結果 生活影響の回答なし割合は平成22年が13%で25年が2%であった。自覚症状または通院がありの場合は,なしの場合と比べて,生活影響あり年齢調整割合は著しく大きかったが,生活影響の回答なし年齢調整割合はほぼ一致した。生活影響あり年齢調整割合について,通院と自覚症状の回答状況による調査対象者の推計値は生活影響の回答者の調査値とほぼ一致し,平成22年では男性12.6~12.7%と女性15.2%,25年では男性12.1%と女性14.6%であり,推計値と調査値の比が1.002~1.005倍であった。

結論 平成22年と25年の生活影響あり割合に対して,生活影響の回答なしがほとんど影響しなかったと示唆された。

キーワード 健康寿命,健康日本21(第二次),日常生活に制限のある期間の平均,国民生活基礎調査,保健統計

 

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第63巻第1号 2016年1月

熊本市およびその近郊における主介護者の抑うつ状態に影響を及ぼす要因研究

-主介護者の性格特性を加味して-
松村 香(マツムラ カオリ) 沼田 加代(ヌマタ カヨ) 畠山 玲子(ハタケヤマ レイコ)
小林 きよみ(コバヤシ キヨミ) 工藤 明美(クドウ アケミ) 有田 明美(アリタ アケミ)

目的 在宅で要介護高齢者を介護している介護者が,介護状況をどのように捉えるかは,その人の性格特性によって異なってくる。本研究は,要介護高齢者を介護する主介護者(以下,介護者)の抑うつ状態に影響を及ぼす要因について,介護者の性格特性と経済的側面を加味して検討を行うことを目的とした。また,本研究に先行して首都圏においても類似の調査を行っているが,地域を変えても同様のことがいえるのか,その結果の普遍性を探ることも目的とした。

方法 熊本市およびその近郊にある居宅介護支援事業所,訪問看護・介護ステーション,デイサービスの合計965カ所のうち,研究の協力が得られた14カ所の事業所を利用している要介護高齢者の介護者161名を対象として自己記入式質問票調査を実施した。

結果 回答が得られた136名(回収率84.5%)から,調査項目に欠損値を持たない121名を有効回答として解析対象とした(有効回答率89.0%)。解析にはt検定,一元配置分散分析,相関係数ならびに階層的重回帰分析を使用した。階層的重回帰分析の結果,介護者の抑うつ状態に影響を及ぼす要因として,介護者の「性別」「介護負担感」の高さ,介護者の性格特性のうち「神経質」の高さ,「調和性」の低さの4要因が関連していた。

結論 介護者の抑うつ状態に影響を及ぼす要因として,「介護負担感」の高さや介護者の「神経質」な性格特性の高さが,地域が違っても同様の結果が得られていることは,その結果に普遍性があると考える。介護者の抑うつ状態の予防には,「介護負担感」の軽減に加えて,介護者自身の「神経質」などの性格特性にも焦点を当て,対象者に合わせた介入や援助を展開することによって,抑うつ状態の予防につながる可能性があると考える。

キーワード 主介護者,抑うつ状態,要因,介護負担感,性格特性,神経質

 

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第63巻第1号 2016年1月

A市地域子育て支援拠点事業の利用者評価

-2012年度評価における満足度分析-
小野セレスタ 摩耶(オノセレスタ マヤ) 

目的 地域子育て支援拠点事業(以下,拠点事業)を利用している保護者への利用者評価調査から,①利用者満足度を構成する要因を明らかにした上で,②利用者満足度を構成する要因と総合満足度との関連を明らかにする。

方法 調査対象者は,近畿地方A市(人口約20万人)の拠点事業(全8カ所)を調査時に利用している保護者である。調査実施方法は,利用者評価票を各事業実施場所に100枚ずつ留め置き記入を依頼し,回収箱に投函する形式をとった。調査期間は,2012年10月2~20日である。分析方法については,研究目的①では探索的因子分析を,研究目的②では,研究目的①より得られた領域別満足度がそれぞれどの程度総合満足度(紹介意向,継続利用意向,全体的満足)に影響するのかを明らかにするために,重回帰分析を行った。

結果 配布800件のうち有効回収数は381件(有効回答率47.6%)であった。研究目的①では,13項目3因子となり,それぞれ「スタッフの対応」(α=0.915),「交流・仲間づくりの機会」(α=0.925),「サービスの提供環境」(α=0.711)と名付けた。研究目的②では,いずれも1%水準で有意なモデルとなった。

結論 本研究では,満足度を構成する因子やそれら因子と紹介意向や継続利用意向,全体的満足との関係性を探索的に明らかにした。拠点事業の満足度を向上するためには,親子の交流や子育ての仲間ができたと感じられるような支援が必要である。そのためは,継続的な利用が必要であり,その際サービスの提供環境は重要な役割を果たすと考えられる。また,親子の交流や子育ての仲間づくりを推進して行くためには,スタッフの対応が重要な役割を果たすといえる。拠点事業に限らず,サービスや事業は利用者の満足度によってのみ評価されるべきものではなく,実施者視点(自己評価等)と利用者の評価が組み合わされ,客観的に評価され初めて説得力が出る。拠点事業は今後さらに保護者のニーズや地域特性に合った運営や支援方法が求められていく。その際,実施者・支援者の視点で運営や支援の在り方等の研究を積み上げていくとともに,利用者評価を取り入れながら方向性を検討することは,利用者視点の重視やサービスの質の向上に欠かせない。さらに多変量解析等詳細な分析を実施し,評価票の精緻化に取り組む必要がある。

キーワード 子ども・子育て支援,地域子育て支援拠点事業,利用者評価,利用者満足,利用者視点

 

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第63巻第1号 2016年1月

健常者と認知症者における手指機能と認知機能の性・年齢別変化

坪井 章雄(ツボイ アキオ) 林 隆司(ハヤシ タカシ)
大橋 幸子(オオハシ サチコ) 目黒 篤(メグロ アツシ)

目的 健常者の手指機能は,加齢に伴い低下することが知られている。健常者と認知症者の手指機能と認知機能に関する研究は少なく,手指機能と認知能力の関連は報告されているものの,年齢別の検討は不十分である。本研究では,健常者と認知症者の認知機能と手指機能の変化について性別,年齢群ごとに比較検討した。

方法 45歳以上の健常者と認知症者に対して,認知機能の指標として改訂長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)を,手指機能の指標としてIPU巧緻動作検査(Ibaraki Prefectural University Finger Dexterity Test:IPUT)を用いた。

結果 45~94歳の健常者670名(男性242名,女性428名),および45~102歳の認知症者917名(男性206名,女性711名)について,HDS-RとIPUTを測定した。HDS-RおよびIPUTの年齢群別平均値は健常者・認知症者ともに50歳代より徐々に低下する傾向が示された。認知機能および手指機能ともに加齢によって低下していたが,認知症者においては年齢との関連が小さくなっていた。

結論 健常者および認知症者ともに,全体としては認知機能の指標としたHDS-Rと手指機能の指標としたIPUTで有意な負の相関が示された。しかし,認知症者では健常者に比べ弱い傾向が示された。このことは,認知症者では疾病の重症化によりHDS-Rの個人差が大きくなるため,HDS-RとIPUTの関連が小さくなったと考えられる。

キーワード 健常者,認知症者,認知機能,ペグボード,手指機能

 

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第63巻第1号 2016年1月

人口の少ない地域における訪問看護ニーズの実態

-訪問看護を利用できない地域に居住する要介護者の実態に焦点を当てて-
田口 敦子(タグチ アツコ) 吉澤 彩(ヨシザワ アヤ) 岩﨑 昭子(イワサキ アキコ)
鈴木 順一郎(スズキ ジュンイチロウ) 永田 智子(ナガタ サトコ)

目的 本研究では,訪問看護の提供のない地域を含む人口の少ない高知県安芸保健医療圏を対象地域とし,在宅において,「訪問看護が必要であるが訪問看護を利用していない要介護者(以下,潜在ニーズ)」がどの程度いるか,訪問看護事業所のない地域に住む要介護者の特徴,および訪問看護の必要がある要介護者がどのような状況において訪問看護を必要としているのかを明らかにすることを目的とした。

方法 本研究は,質問紙調査(定量調査)とヒアリング調査(定性調査)とを組み合わせて行う定性・定量相互融合法を採用した。定量調査では,安芸保健医療圏の住民が利用する全居宅介護支援事業所32カ所の介護支援専門員を対象に,郵送自記式質問紙調査を実施した。調査項目は,訪問看護の利用および必要性,居住する市町村,性別,年齢,要介護度,介護保険によるサービス利用等であった。定性調査では,訪問看護事業所のない地域にある居宅介護支援事業所17カ所のうち,経験年数10年以上のベテラン介護支援専門員がいる2カ所(3人)を対象に,ヒアリング調査を実施した。介護支援専門員が担当する「訪問看護が必要であるが,事業所がないために利用していない要支援・要介護者」7人について,「訪問看護の必要性がある要介護者がどのような状況において訪問看護を必要としているのか」を尋ねた。調査期間は2013年1~3月であった。

結果 定量調査では,1,621人(有効回答率:76.5%)を分析対象とした。そのうち,訪問看護の利用者は28人(1.7%)であった。また,潜在ニーズは,187人(11.5%)であった。訪問看護事業所がある地域2市村とない地域7市町村を比較したところ,潜在ニーズ187人のうち,訪問看護事業所のない地域に住む者は128人であり,訪問看護事業所のある地域に住む者は59人であった。訪問看護が必要な者における潜在ニーズの割合は,訪問看護事業所のない地域(96.2%)の方が,訪問看護事業所のある地域(73.8%)より有意に高かった(p<0.001)。また,定性調査によると,訪問看護事業所のない地域では,「病状の悪化を防ぐための生活習慣を継続することが難しい」「受診ができず必要な医療処置を受けられない」「本人・介護者の医療処置の習得や病状への判断が難しい」「24時間,医療ニーズに対応する介護者の負担が大きい」「継続性の見込めないボランタリーな支援に支えられている」「介護支援専門員が医療面の調整を担うのに負担が大きい」ことについて,訪問看護を必要とする療養状況があることが明らかになった。

結論 訪問看護事業所のない地域にも訪問看護ニーズが存在し,それらの療養状況は,医療処置や介護力不足の状況において訪問看護を必要としていることが明らかになった。これらのニーズに継続的に対応できる訪問看護サービス提供の仕組みを構築していくことが必要であると考える。

キーワード 訪問看護事業所,人口過疎,潜在ニーズ,提供体制,訪問看護,二次保健医療圏

 

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第63巻第1号 2016年1月

肺炎球菌ワクチン接種率の地域差と背景要因

田代 敦志(タシロ アツシ)  菖蒲川 由郷(ショウブガワ ユウゴウ)
齋藤 玲子(サイトウ レイコ)  近藤 克則(コンドウ カツノリ)

目的 高齢者における中学校区別の肺炎球菌ワクチン接種率に関する調査を行い,接種率の背景要因について個人要因と環境要因の双方から実態を明らかにし,定期接種化された後に接種率の向上に必要な取り組みについて検討した。

方法 N市在住の65歳以上の住民を対象として,要支援・要介護認定を受けていない8,000名の高齢者に郵送法で無記名自記式アンケート調査を実施した。57中学校区別に接種率を求め,住民構成を調整した後の地域差を分析した。接種の有無に関連する個人要因についてロジスティック回帰分析に加え,中学校区別の相関分析,個人と校区別集団の2つのレベルでマルチレベル相関分析を実施し,さらに,クラスタ標準誤差を使ったロジスティック回帰分析を行い,集団レベルの環境要因の影響も加味して接種率の地域差を評価した。

結果 肺炎球菌ワクチンの接種率は13.5%(男性14.5%,女性12.5%)で,男性の方が若干高い値であった。年代別では,男女とも前期高齢者では10%以下であり,80~84歳では20%を超えていた。中学校区別の接種率では,5%以下の地域が4カ所ある一方で20%を超える地域も2カ所存在し,性別と年齢を調整した後においても有意(P<0.01)な接種状況の地域差が認められた。ロジスティック回帰分析の結果,ワクチン接種を促進する要因として,高い年齢(P<0.01),低い主観的健康感(P<0.05),呼吸器疾患あり(P<0.01)が認められた。相関分析で中学校区別の接種率と関連する要因は認めず,マルチレベル相関分析において個人レベルでのみ,高い年齢,低い主観的健康感,呼吸器疾患あり,短い教育年数が接種ありと有意に相関した(P<0.01)。また,地域レベルの変数を説明変数に加えクラスタ標準誤差を使ったロジスティック回帰分析において,環境要因として中学校区別の教育年数や所得格差は有意ではなく,個人レベルの年齢,主観的健康感や呼吸器疾患の有無とは異なり,ワクチン接種に与える影響は認められなかった。

結論 高齢で主観的健康感が優れず呼吸器疾患を持った住民が多い地域において,肺炎球菌ワクチンの接種率が高く,調査した範囲で接種の有無に環境要因の影響は認められなかった。また,健康リテラシーが高いと推定される教育年数が長い集団ほど接種率は低い傾向が認められたことから,ワクチンの有用性について広く啓発活動を実施し,現在の健康状態に過信することなくワクチン接種を推奨する取り組みが求められている。

キーワード 肺炎球菌ワクチン,接種率,個人要因,環境要因,クラスタ標準誤差

 

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第63巻第2号 2016年2月

市町村における外部委託事業のマネジメントの実態

-特定保健指導を例に-
鳩野 洋子(ハトノ ヨウコ) 森 晃爾(モリ コウジ) 曽根 智史(ソネ トモフミ) 永田 昌子(ナガタ マサコ)
前野 有佳里(マエノ ユカリ) 柴田 善幸(シバタ ヨシユキ) 小橋 正樹(コハシ マサキ)

目的 保健事業を外部委託する際のマネジメント項目を明らかにしたうえで,特定保健指導の外部委託を例に,外部委託事業のマネジメントの実態を把握することを目的とした。

方法 第一段階として6自治体の保健専門職にインタビューを行い,抽出した項目について,インタビュー対象者に妥当性を尋ね,意見に基づき修正してマネジメント項目を作成した。第二段階として,平成25年4月1日現在の全市町村1,738(災害避難対策区域の自治体を除く)の統括的立場の保健師あてに質問紙を送付し,担当者に配布してもらうよう依頼した。質問内容は,マネジメント項目の実施状況(5件法),外部委託の実施方法・種別,自治体の属性である。

結果 マネジメント項目は38項目に整理された。質問紙調査は,954件の回答が得られ,このうち特定保健指導の外部委託を実施していると回答した対象のうち,外部委託の実施方法および外部委託の種別の回答に欠損がない404件を分析対象とした。外部委託の実施方法は,「部分委託」が75.2%で,種別は「公募型以外の随意契約」が78.0%だった。マネジメントの実施状況では,外部委託の検討段階や外部委託を準備する段階においてはマネジメントを実施している割合が高いが,委託事業者により事業が提供されている段階,評価の段階と進むにつれて実施割合が低くなっていた。

結論 特定保健指導の外部委託事業のPDCAサイクルが十分に回っていない実態が明らかになった。マネジメント項目のさらなる洗練とともに,保健師の外部委託事業のマネジメントに対する意識の啓発と,評価のスキルの向上,委託先の資源が少ない地域でのマネジメントのあり方が課題である。

キーワード  保健事業, 外部委託,マネジメント,特定保健指導,保健師

 

論文

 

第63巻第2号 2016年2月

地域在住高齢者の運動教室における

スクエアステップの達成度が体力変化に与える影響

 

神藤 隆志(ジンドウ タカシ) 藤井 啓介(フジイ ケイスケ) 北濃 成樹(キタノ ナルキ)

角田 憲治(カクタ ケンジ) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ)

目的 現在,地方自治体が主催する介護予防事業の一つとして運動器の機能向上プログラム(以下,運動教室)が全国各地で盛んに行われており,高齢者の体力の維持・向上に一定の成果をあげている。本研究では,介護予防運動としての有効性が報告され,運動教室の主運動課題として普及が進んでいるスクエアステップを取り上げ,参加者のスクエアステップのステップパターンの達成度が運動教室前後の体力変化に与える影響を検討した。

方法 対象は要支援・要介護認定を受けていない地域在住高齢者33名(69.7±3.6歳,男性4名)であった。スクエアステップを主運動課題とした週1回,1回90分,全11回の運動教室を行い,スクエアステップの達成度の評価として対象者が3カ月間で達成した総ステップパターン数を調査した。体力は平衡性(開眼片足立ち時間),筋力(5回椅子立ち上がり時間),起居移動能力(TUG;Timed Up and Go),歩行能力(5m通常歩行時間),反応性(全身選択反応時間)を評価した。認知機能の評価にはファイブ・コグ検査を用いた。達成度の最頻値を基準に対象者を3群に分け,3群間の体力変化の違いを2要因分散分析により検討した。なお,運動教室前の値に群間の有意差が認められた場合は,その値を共変量に投入した共分散分析を行った。

結果 3カ月間のスクエアステップ実践により達成されたステップパターン数は61.9±11.4パターンであり,達成度の上位群が中位群,下位群と比べて認知機能が有意に高かった(p<0.05)。3群間の体力変化の違いを比較したところ,開眼片足立ち時間において3群間に有意な交互作用が認められ(p<0.05),上位群においてのみ有意な向上が認められた。運動教室前の値で調整するとこの交互作用は消失し,3群における有意な時間の主効果のみ認められた(p<0.05)。この他に3群において有意な時間の主効果が認められた項目は,TUG,全身選択反応時間であった(p<0.05)。

結論 3カ月間の運動教室においてスクエアステップの達成度が高かった者は,運動教室前の認知機能が高かった。一方で,達成度にかかわらず平衡性,起居移動能力,反応性などの体力が向上したことから,スクエアステップは個人に合った難度のステップパターンに取り組むことで,体力への効果が見込める運動課題であることが示唆された。

キーワード 運動教室,Square-Stepping Exercise,身体機能,認知機能

論文

 

第63巻第2号 2016年2月

職域男性の肥満・高血圧・脂質異常と食生活との関連

-愛媛県愛南町地域診断モデル事業の取り組みから-

 

西岡 亜季(ニシオカ アキ)  植田 真知(ウエタ マチ) 松浦 仁美(マツウラ ヒトミ)

井上 和美(イノウエ カズミ) 加藤 泉(カトウ イズミ) 坂尾 良美(マツオ ヨシミ)

廣瀬 浩美(ヒロセ ヒロミ)上田 由喜子(ウエダ ユキコ)

目的 公衆衛生では,地域診断に基づいて保健事業を実施し,地域の環境を健康に向けて促進できるようアプローチすることが求められている。愛媛県宇和島圏域は,男女とも健康寿命が県平均より短く,かつ管轄の愛南町は65歳未満で死亡する割合が県下トップの状況にある。そこで,本研究では地域診断推進事業のモデル町である愛南町の20~40歳代の住民の食生活を調査し,40歳代男性が有所見となる要因について明らかにすることを目的とした。

方法 20~40歳代の職域男性231名を対象に,文書にて本研究への参加募集を行い,平成26年10~11月に食生活および食品摂取頻度に関する自記式質問紙調査,味覚感度調査を実施した。項目は,属性,過去1年間に行われた健康診断の結果,自記式質問紙は,田中らの先行研究を参考に普段(過去1カ月)の食生活に関する23項目と食品摂取頻度に関する23項目とした。味覚感度調査には,ソルセイブ(食塩味覚閾値判定ろ紙)を用い塩味を認識する閾値を調べた。食生活および食品摂取頻度については,2つのカテゴリーに再区分し,BMI,血圧,血中脂質との関連についてχ2検定およびロジスティック回帰分析を行い,食品摂取頻度については重回帰分析を行った。

結果 調査の回収率は94%であったが,記入漏れがあった者は除外したため有効回答数は117名(50.6%)となった。「食べるのが速い」男性は,「普通,遅い」男性よりも肥満/脂質異常になるオッズが約3.9倍/2.5倍,また「野菜たっぷりの料理はあまりない」男性は「1日1食以上」野菜を食べる男性よりも肥満/高血圧になるオッズが約3.0倍/3.5倍という結果が得られた。味覚感度と肥満・高血圧・脂質異常との間に関連は認められなかった。

結論 食生活の観点から有所見の要因を検討した結果,肥満が健康課題の1つの要因となっており,「食べるのが速い」「野菜の摂取量が少ない」「濃い味を好む」ことがわかり,「缶コーヒー」「乳酸菌飲料」「缶ジュース」の摂取頻度も影響していた。塩分や砂糖のとり過ぎを意識しない割合は,肥満者よりも肥満でない者の方が有意に高く,将来を見据えた生活習慣病予防の展開には,気づきや意識を高めるツールが必要であることが示唆された。

キーワード 職域男性,地域診断,生活習慣病,公衆衛生,協働,食生活

論文

 

 

 

 

第63巻第2号 2016年2月

特定健診結果とレセプトデータを利用した腹囲と平均年間医療費の関係について

 

船山 和志(フナヤマ カズシ)  飛田 ゆう子(トビタ ユウコ) 東 健一(ヒガシ ケンイチ)
段木 登美江(ダンギ トミエ) 佐藤 世津子(サトウ セツコ)
小林 すずろ(コバヤシ スズロ) 水野 哲宏(ミズノ テツヒロ)

 

目的 生活習慣病予防対策事業の経済効果を簡易に推測することを目的に,特別な検査器具を必要としない腹囲測定値を用い,医療費との関係について検討したので報告する。

方法 全国健康保険協会神奈川支部から提供された横浜市内に在住する被保険者本人のうち,平成24年度の特定健診を受診した88,556人の健診結果と医科レセプトデータをもとに分析を行った。低体重と高度肥満者に該当しないものを分析対象とし,年齢を調整した腹囲ごとの平均年間医療費を推計し,男女別に単回帰分析を行った。

結果 男性では,回帰式はy=2688.8x-79078(R2=0.960),女性では,回帰式はy=2453.3x-52037(R2=0.876)となり,どちらも回帰式と回帰係数は統計的に有意(p<0.01)であった。

結論 本研究の分析対象者においては,腹囲と年齢調整した平均年間医療費推計値は正の相関があり,腹囲1㎝減少につき,男性で2,700円,女性で約2,500円の平均年間医療費が減少していた。ただ,今回の結果は単年度の限られた集団から得られたものであり,対象者の社会状況,経済状況や治療状況等,医療費に大きく影響を与えていると考えられる様々な要因については検討していないため,解釈にはそれらのことを考慮する必要がある。ただ,特別な検査器具を用いずに測定できる,腹囲を用いた経済効果の推測は,市町村の健康づくり教室などの現場で有用と考えられた。

キーワード 特定健診,全国健康保険協会,レセプトデータ,腹囲,医療費

 

論文

 

 

 

第63巻第2号 2016年2月

生活習慣病予防教室に参加した地域住民の

QOLの向上とその効果の持続に関する研究

 

井倉 一政(イグラ カズマサ)  西田 友子(ニシダ トモコ)  榊原 久孝(サカキバラ ヒサタカ)

目的 これまでのQOLに関する研究の多くは,疾患罹患の有無やQOLの高低によってどのような特徴があるかを考察したものであった。また,特定健康診査・特定保健指導では,運動の実践や食事指導の介入期間の終了後も継続して効果をあげることが期待されているにもかかわらず,散見される介入研究では,その多くが介入前後の比較であり,介入期間終了後もQOLの変化を継続して観察した研究はほとんどみられない。そこで本研究は,生活習慣病予防教室に参加した者と対照群を2年後まで継続して観察し,地域住民のQOLの向上とその持続について考察することを目的とした。

方法 住民健診の受診者(40~69歳の糖尿病,高脂血症の要注意者)に健康教室への参加を募り,無作為に介入群と対照群を100人ずつ選定し,最後まで参加した介入群84人,対照群77人を対象とした。介入群は集団健康教育(運動,栄養)と個別指導,日々の記録のやり取りなどを組み合わせて実施した。集団健康教育は,3カ月間は毎週実施し,3カ月後から1年後までは徐々に頻度を減らし,1年を過ぎてからは実施しなかった。対照群は,健診とその結果に基づく個別保健指導を実施した。両群の介入前,3カ月後,1年後,2年後のQOL(SF-36)の変化を観察した。

結果 身体的健康度である「体の痛み」「全体的健康感」の3カ月後の改善は,介入群の方が大きく,2年後でも同様であった。精神的健康度の「活力」「心の健康」の改善も3カ月後の介入群で向上し,1年後まで介入群で改善が認められたが,2年後では有意な差は認められなかった。

結論 健診結果に基づいて個別保健指導を行うだけでは,QOLの向上を図り,その効果を持続することは難しいと考えられた。特にQOLの精神的健康度の向上とその効果の持続のためには,集団指導の重要性が示唆された。

キーワード QOL,SF-36,効果の持続,生活習慣病予防教室,地域住民

論文

 

 

 

第63巻第2号 2016年2月

高齢者向けの集団健診が余命および健康余命に及ぼす影響

-草津町介護予防事業10年間の効果評価の試み-

西 真理子(ニシ マリコ)  吉田 裕人(ヨシダ ヒロト)  藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)  深谷 太郎(フカヤ タロウ) 

天野 秀紀(アマノ ヒデノリ) 熊谷 修(クマガイ シュウ)  渡辺 修一郎(ワタナベ シュウイチロウ) 

村山 洋史(ムラヤマ ヒロシ)  谷口 優(タニグチ ユウ)  野藤 悠(ノフジ ユウ)

干川 なつみ(ホシカワ)   土屋 由美子(ツチヤ ユミコ)  新開 省二(シンカイ ショウジ)

目的 群馬県草津町における介護予防事業の中核を成してきた健診が,余命および健康余命に及ぼす影響を明らかにし,高齢者向け健診の効果を検討することである。

方法 2001年に草津町の70歳以上の地域在宅高齢者を対象に実施した訪問面接調査の応答者のうち,健診会場への移動能力「あり」と判断された者800人について,その後2002年から2005年の4年間に実施した健診の受診回数を調べた(範囲:0-4回)。次いで,4回目の健診が終了した翌月時点で生存が確認された者を,さらに4年11カ月間追跡し,その間の死亡ならびに自立喪失の有無を調べ,4年間の健診受診状況とその後の死亡(余命)および自立喪失(健康余命)との関連を検討した。自立喪失は,新規の介護保険認定または認定なし死亡と定義し,介護保険認定を「要介護2以上」とした基準Aと「要支援以上(全認定)」とした基準Bの2つを設定した。分析では,健診の受診回数により対象者を3群に分類し(0回,1-2回,3-4回),追跡期間中の生存率および自立率の推移をKaplan-Meier法により比較した。その上で,健診の受診頻度の違いによる追跡期間中の死亡および自立喪失のリスクを,性,年齢,2001年時点での総合的移動能力,慢性疾患の既往,心理的変数などの交絡要因を調整変数としたCox比例ハザードモデルを用いて調べた。

結果 健診の受診頻度が高い群ほど,その後の生存率および自立率が良好であった。比例ハザード分析からは,重要な交絡要因を調整しても,健診非受診者に比べて3-4回受診者の死亡リスク(HR=0.57,95%CI=0.36-0.90)および自立喪失リスク(基準A:HR=0.55,95%CI=0.37-0.82)が統計的に有意に低いことが明らかとなった(基準Bでは低い傾向が示された:HR=0.72,95%CI=0.50-1.06)。健診未受診者に比べた1-2回受診者の死亡および自立喪失リスクの低さは有意ではなかった。

結語 草津町で実施した高齢者健診には,余命および健康余命を延伸する効果があり,この効果は継続的に健診を受診した場合に特に期待できるものであることが示された。

キーワード 高齢者健診,総合的機能評価,介護予防,余命,健康余命

 

論文