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論文記事 | 一般財団法人厚生労働統計協会|国民衛生の動向、厚生労働統計情報を提供

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論文

第61巻第2号 2014年2月

筑波研究学園都市の労働者を対象とした主観的健康感の実態調査

平井 康仁(ヒライ ヤスヒト) 鈴木 瞬(スズキ シュン) 道喜 将太郎(ドウキ ショウタロウ)
金子 秀敏(カネコ ヒデトシ) 小林 直紀(コバヤシ ナオキ) 関 昭宏(セキ アキヒロ)
商 真哲(ショウ ナオアキ) 羽岡 健史(ハオカ タケシ) 大井 雄一(オオイ ユウイチ)
梅田 忠敬(ウメダ タダヒロ) 宇佐見 和哉(ウサミ カズヤ) 友常 祐介(トモツネ ユウスケ)
吉野 聡(ヨシノ サトシ) 笹原 信一朗(ササハラ シンイチロウ) 松崎 一葉(マツザキ イチヨウ)

目的 研究学園都市における労働者の主観的健康感の実態を明らかにする。基本属性ごとに労働環境と主観的健康感の関連を明らかにする。

方法 筑波研究学園都市交流協議会に所属する機関の労働者21,922人を対象としてWeb調査を実施した。調査項目は,基本属性(性別,年齢,婚姻状態)・労働環境(労働時間,勤務形態,職種)・主観的健康感とした。基本属性ごとに解析を行うため,対象を,性別(男性,女性),年齢別(若年群,高齢群),婚姻別(未婚群,既婚群)の3つの属性の組み合わせにより8群に層化した。また,主観的健康感の回答から「健康群」「非健康群」の2群に群分けした。基本属性ごとに,労働環境と主観的健康感の関連についてKruskal-Wallis検定を用いて解析した。

結果 回収率は43.5%(9,528人)であった。解析は就労年齢である20~50歳代の者のうち離婚,死別,別居を除外した8,733人を対象とした。このうち健康群は83.2%,非健康群は16.9%で,健康群の割合は女性,20歳代,既婚者で高く,先行研究と同様の結果が得られた。8群に層化して労働環境と主観的健康感の関連について行った解析では,労働時間別では,若年および高齢の既婚男性群において,短時間群および長時間超勤群が短時間超勤群,中時間超勤群と比べて健康群の割合が有意に低く,高齢既婚女性群においては勤務時間が短いほど,健康群の割合が高い傾向を認めた。勤務形態別では,高齢未婚女性群において,常勤(任期付き)が健康群の割合が最も低く,非常勤,派遣が健康群の割合が高い傾向を認めた。職種別では,若年既婚男性群において,教育・研究系が最も健康群の割合が高く,技術系の健康群の割合が有意に低く,若年未婚男性群において,教育・研究系の健康群の割合がその他の群に比べて高い傾向を認め,高齢既婚男性の群において,教育・研究系と技術系が事務系と比べて健康群の割合が高い傾向を認めた。

結論 先行研究同様に性別,年齢,婚姻状態により主観的健康感の実態は異なっていた。性別,年齢,婚姻状態により層化して解析を実施したところ,主観的健康感を規定する要因や,労働環境と主観的健康感の関連は基本属性により異なることが示唆された。

キーワード 主観的健康感,労働者,労働環境,層別解析

 

 

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第61巻第2号 2014年2月

在日外国人の生活課題の検討

-あるNPO法人の相談援助記録から-
保科 寧子(ホシナ ヤスコ)

目的 本研究は,ある在日外国人の支援団体(NPO法人)が実施していた相談援助の記録を用いて,日本で生活する外国人の生活課題の概要を把握することを目的とした。

方法 分析対象としたデータは,2003年度から2009年度の7年間に相談援助を行った記録3,484件である。はじめに単純集計により,この相談援助の内容の概要を把握した。次に各相談記録から分類した相談内容項目それぞれについて,1~3回の相談対応で支援の終わった群と4回以上の相談対応を行った群に分け,χ2検定にて両群間の差の有無を分析した。そして,ここからどの相談内容項目が総相談回数の多い相談者と関係しているかを検討した。

結果 単純集計から,子どもの教育・学校対応,簡単な情報提供で対応可能な生活相談(銀行口座の開設方法や近所の情報を得たいなど),就労,出入国管理に関する相談が多いことがわかった。数は多くはないが,児童虐待や保証人の依頼,不安の訴えや親族の行方不明などの相談もみられた。また,相談回数が4回以上ある外国人に有意に多かった相談内容は,児童虐待,生活保護,生活状況の確認,医療・病院受診,生活相談,書類翻訳作成,教育・学校対応,公的機関等への同行,住居の9項目であった。一方で,配偶者からの暴力,結婚希望,親権認知の3項目は,1~3回の相談対応で終わった群が有意に多かった。

考察 地域社会で生活上の小さな相談のできるような関係が形成できていない外国人の状況が推測された。また教育に関する相談が多く,外国人親は日本の教育システムに慣れず不安を感じていることも改めて確認できた。総相談回数の多い外国人は日本語の不自由さはあまり感じていないが,子どもの教育や病院,公的機関での対応に困難を感じており,行政手続きなどへの支援が必要である。あわせて彼らには経済的な支援や,生活の見守りも必要な状況がうかがえた。総じて今後は外国人を取り込んだ地域づくりが求められると考える。

キーワード 在日外国人,生活課題,相談援助,NPO法人,χ2検定

 

 

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第61巻第2号 2014年2月

障害者公的介護サービスの地域差に関する研究

-頸髄損傷者の公的介護サービス利用状況を対象として-
丸岡 稔典(マルオカ トシノリ) 井上 剛伸(イノウエ タケノブ) 八幡 孝雄(ヤワタ タカオ)

目的 かねてより地方と都市の間には障害者向け公的介護サービスの供給状況に差があることが指摘され,その解消が課題となっている。本研究では,頸髄損傷者の公的介護サービスの利用状況に関する調査データを居住都道府県の財政状況とサービス供給体制の2つの側面から分析する。

方法 2008年度に実施された全国頸髄損傷者実態調査データの一部を用いた。居住都道府県の経常収支比率,財政力指数,居宅介護事業所密度,重度訪問介護事業所密度を説明変数として,公的介護サービス利用有無,家族介護有無を目的変数としたロジスティック回帰分析ならびに公的介護サービス利用時間を目的変数とした重回帰分析を実施した。

結果 分析は日常生活上の介助の必要性があると回答した頸髄損傷者590名を対象とした。経常収支比率が高く,また財政力指数が低い都道府県居住者は公的介護サービスを利用しておらず,公的介護サービス利用時間が少なかった(p<0.05)。経常収支比率が高い都道府県居住者は家族を主たる介護者としやすかった(p<0.05)。一部のモデルでは,財政力指数が低い都道府県居住者は家族を主たる介護者としやすい結果となった(p<0.05)。また,一部のモデルでは居宅介護事業所密度が低い都道府県居住者の公的介護サービスの利用率が低くなり(p<0.05),重度訪問介護事業所密度が低い都道府県居住者の公的介護サービス利用時間が短くなる結果となった。

結論 居住する都道府県の財政状況と公的介護サービスの利用有無や公的介護サービスの利用時間に関係があり,財政状況が硬直的で余裕のない都道府県の居住者は公的介護サービスの利用を抑制する傾向がみられた。公的介護サービス利用に訪問介護事業所密度の影響が予測され,サービス利用が進んでいない地域でのサービス供給体制の整備が必要であると推察された。とりわけ長時間の介護が必要な重度障害者の地域生活を考慮する上で,居宅介護事業所のみでなく重度訪問介護事業所を含めた整備を図る必要があると考えられる。

キーワード 公的介護制度,地域差,頸髄損傷,財政,事業所密度

 

 

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第61巻第2号 2014年2月

院内がん登録における重複登録割合の推定

渡邊 多永子(ワタナベ タエコ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ) 佐井 至道(サイ シドウ)
山城 勝重(ヤマシロ カツシゲ) 海崎 泰治(カイザキヤスハル) 津熊 秀明(ツクマ ヒデアキ)
固武 健二郎(コタケ ケンジロウ) 猿木 信裕(サルキ ノブヒロ) 岡村 信一(オカムラ シンイチ)
柴田 亜希子(シバタアキコ) 西本 寛(ニシモト ヒロシ)

目的 全国のがん診療連携拠点病院から提供される院内がん登録データには,全国のがん罹患の約6割以上についての情報が蓄積されている。一方で匿名化後に収集されており,同一患者が複数の提出施設を受診すると重複して登録されてしまう可能性がある。本解析はデータ内に含まれる重複登録割合の推定を目的とする。

方法 2通りの方法で重複登録割合の推計を行った。1つは,組合管掌健康保険組合8組合から提供された診療報酬請求書(レセプト)データベースを用い,がん診療連携拠点病院を受診した5大がんの患者のうち同一年の間にほかの拠点病院も受診している患者の割合を算出することで重複の割合を推計した。もう1つは,院内がん登録データ2008年症例の中で,多数の性質の詳細が一致する組み合わせ(類似特性症例)を重複と推定して算定した。

結果 重複登録割合は,レセプトデータによる推計では6.6~8.5%,院内がん登録データ内の類似特性症例による推計では8.6%と算定された。

結論 院内がん登録データには8%程度の重複登録が含まれると推定された。

キーワード 院内がん登録,ミクロデータ,重複

 

 

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第61巻第3号 2014年3月

第15回OECDヘルスアカウント専門家会合

満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ)

本誌において,著者は第10回OECDヘルスアカウント専門家会合から議題および論点について報告してきた。今回は,2013年10月16~17日に開催された第15回OECDヘルスアカウント専門家会議について報告する。

Ⅰ は じ め に

日本の総医療費は,2012年に初めて対GDP比でOECD加盟国の平均を超えた1)。しかし,この総医療費は,厚生労働省大臣官房統計情報部が公表している国民医療費とは異なり,OECD(経済協力開発機構)が2000年に公表した国民保健計算(National Health Accounts)のガイドラインであるSHA(A System of Health Acc­ounts)1.0に準じて推計した総保健医療支出のことである2)。総保健医療支出は,厚生労働省統計情報部から公表される医療保険制度下における支出の国民医療費に加えて,一般薬,正常分娩や歯科自由診療など医療保険の対象外の費用,介護,健康維持・増進,公衆衛生,医療機関の運営および施設整備のための費用,医療保険の運営費用なども含む3)。したがって,日本の総保健医療支出は,国民医療費と比較すると約2,3割高くなる。2010年度の総保健医療支出は約46.2兆円であり,対GDP比率で約9.6%である。一方,国民医療費は約37.4兆円であり,対GDP比率は7.8%である4)。
毎年OECD本部(フランス・パリ)で行われるヘルスアカウント専門家会合では,様々な議題が討議されているが,この数年はSHAの改訂に関する議題が大半を占める。急速な医療技術の進歩,多くの国で複雑化している保健医療システムをより正確にモニタリングするために2006年からはじまったSHAの改訂は,2011年
に終了した。改訂版SHAは,SHA2011という名称で公開され,2016年度からSHA2011に準拠した推計値に切り替わる予定である5)6)。

 

Ⅱ 第15回ヘスアカウント専門家会合の議題

 

本会合では,OECD事務局が各議題について説明を行い,ヘルスアカウント専門家とOECD事務局の議論を経て,今後の方針が決められていく。今回の議題は,9つであった(表1)。

議題1と2では,OECD事務局部門長の挨拶に続き,議長が選出され(オランダのヘルスアカウント専門家),議題および議事進行は例年通りOECD事務局が行うことが承認された。次に,事前に配布されていた前回(第14回会合)の要旨に関する説明があり,全加盟国が承認した。

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第61巻第3号 2014年3月

OECDヘルスデータ担当者会合(2013)の報告

中山 佳保里(ナカヤマ カオリ)

Ⅰ は じ め に

OECD(経済協力開発機構)では,34の加盟国から保健医療および保健医療制度に関するデータを収集し,ウェブ上のデータベース「OECDヘルスデータ」として,毎年公表している。
データベースの改善のため,加盟国(保健担当省,統計担当機関等)および関係機関(WHO,Eurostat等)が出席するOECDヘルスデータ担当者会合(以下,会合)が,年1回開催されており,データ範囲の拡大や比較可能性の向上について議論している。本稿では,2013年10月17,18日に開催された会合(於パリ,参加者数約80名)の議論について報告する。

Ⅱ 2013年OECDヘルスデータ担当者会合

OECDの会合では,一般的に議題ごとに事務局担当者からプレゼンがあり,参加国が提示された議論のポイントについて発言する形式をとる。現在,Francis Notzon氏(米国),MikaGissler氏(フィンランド)が共同議長となっているが,折しも米国の国会で暫定予算が成立せず政府機関が閉鎖されている時期だったため,米国のNotzon氏は出席できず,今回はGissler氏が議長を務めた。会合では,何かの議決を行うということはなく,出席者の発言を踏まえて,事務局がその場で今後の対応等について回答するか,テーク・ノートして今後の研究活動に反映されることになる。

 今回は,多岐にわたる議論の中から,OECDの医療関連の最近の刊行物と個別議題として自覚的健康状態についてご紹介する。なお,会合で使用されたプレゼン資料は,OECDウェブサイト1)から参照可能であるので適宜ご参照いただきたい。

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第61巻第3号 2014年3月

薬局での対面販売による禁煙補助薬によって禁煙成功者を
生み出すのに要したコストの推計

谷口 千枝(タニグチ チエ) 田中 英夫(タナカ ヒデオ) 武田 佳司実(タケダ カスミ)
尾瀬 功(オゼ イサオ) 岡 さおり(オカ サオリ)
坂 英雄(サカ ヒデオ) 榊原 久孝(サカキバラ ヒサタカ)

目的 わが国では,薬局で購入できる禁煙補助薬を使った禁煙の実施が,医療保険を使った禁煙治療とともに,禁煙を効果的に行う方法として定着している。禁煙補助薬を用いた禁煙の実施によって,1人の禁煙成功者を生み出すのに要したコストを推計することを目的とした。

方法 名古屋市内の薬局において,薬剤師との対面販売による禁煙補助薬(以下,OTC禁煙補助薬)を購入した98人をコスト算出の対象とした。この98人について,実際のOTC禁煙補助薬購入金額の総額を求めた。加えて,薬局の薬剤師が対象者にかけた指導時間コストと,対象者がOTC禁煙補助薬を販売する薬局を見つけるのに要する時間コストを,著者の1人が名古屋市内の7店舗で行った体験調査によって求め,算出した1人当たりのコストを98人分に当てはめた。これらの98人分の総和を,全体で要したコストと定義した。また,対象となった98人の初回のOTC禁煙補助薬購入時点から14週間後の時点における喫煙状況を電話調査によって把握し,その結果から禁煙成功率を求めた。全体で要したコストを禁煙成功者数で除して,1人の禁煙成功者を生み出すコストとした。そのコストの信頼区間は,禁煙成功率の90%信頼区間を用いた。

結果 98人中,ニコチンパッチ購入は80人,ニコチンガム購入者は18人であった。対象者98人が要したコストは,購入したOTC禁煙補助薬1,891,890円,薬剤師の指導時間コスト58,656円,対象者がOTC禁煙補助薬取り扱い薬局を見つけるのに要した時間コスト208,446円の総額2,158,992円と推計した。また98人の禁煙成功率は13.3%(13人/98人,標準誤差3.3%)であった。以上のことから,禁煙補助薬によって禁煙成功者1人を生み出すのに要したコストを165,643円(117,810円~278,867円)と推計した。

結論 OTC禁煙補助薬は,ほかのワクチンによる感染予防などと比べて費用対効果が高い。多くの薬剤師が禁煙補助薬を販売する際に行う禁煙指導内容の充実を図ることで,さらに効果的な禁煙誘導のためのツールになるものと期待される。

キーワード 禁煙,OTC禁煙補助薬,費用対効果,薬局

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第61巻第3号 2014年3月

都道府県別の平均要介護期間と損失生存可能年数の
地域格差と医療・福祉資源の関連について

-医薬品情報に着目した地域相関研究-
内田 博之(ウチダ ヒロユキ) 中村 拓也(ナカムラ タクヤ) 金子 彩野(カネコ アヤノ)
大竹 一男(オオタケ カズオ) 内田 昌希(ウチダ マサキ) 小田切 陽一(オダギリ ヨウイチ)
夏目 秀視(ナツメ ヒデシ) 小林 順(コバヤシ ジュン)

目的 平均要介護期間と年齢調整YPLL(years of potential life lost)率に着目し,各指標の都道府県別の地域格差と医療・福祉資源との関連を明らかにし,医薬品情報を含んだ関連要因の抽出を目的として地域相関研究を行った。

方法 2008年の厚生労働省,総務省の各種統計資料のデータを使用し,都道府県別の平均要介護期間と年齢調整YPLL率を算出した。また,都道府県別の医療・福祉資源に関する要因のデータも得た。2つの指標と各種要因との間の相関係数を算出し,統計学的に有意な相関を示す要因を抽出した。相関マトリクスを作成し,多重共線性を配慮して候補要因を絞り,2つの指標を目的変数とした重回帰分析を行った。

結果 平均要介護期間との相関が認められた要因のうち医薬品情報に関する要因として,男性では「電算処理済み処方箋1枚当たりの報酬別内訳の技術料」および「特定保険医療材料料」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「糖尿病内科医師数」と「居宅介護サービスの通所介護利用者数」が関連の大きい説明変数として得られた。女性では医薬品情報に関する要因として,「電算処理済み処方箋1枚当たりの報酬別内訳の特定保険医療材料料」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「リウマチ科医師数」と「居宅介護サービスの訪問介護利用者数」が関連の大きい説明変数として得られた。年齢調整YPLL率との相関が認められた要因のうち医薬品情報に関する要因として,男性では「薬剤師数」「薬局総数」「調剤の電算化率」および「後発医薬品調剤率」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「後発医薬品調剤率」「特別養護老人ホームの定員」および「薬局総数」が関連の大きい説明変数として得られた。女性では医薬品情報に関する要因として,「薬局総数」「内服薬処方箋1枚当たりの薬剤料の3要素分解(1種類1日当たり薬剤料)」が抽出されたが,重回帰分析の結果からは,「呼吸器内科医師数」が説明変数として得られた。

結論 相関分析の結果より,男女ともに平均要介護期間および年齢調整YPLL率に影響を与えている要因には,医薬品情報に関連した要因が説明変数の候補として抽出されたが,重回帰分析の結果より,医薬品情報と関連した要因として,男性において「後発医薬品調剤率」と「薬局総数」が年齢調整YPLL率との関連の大きい要因として把握された。

キーワード 平均要介護期間,YPLL率,地域相関研究,健康寿命,早期死亡

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第61巻第3号 2014年3月

地域における高齢者の社会的ネットワーク形成要因
および心理的well-being

-新たな友人の獲得に着目して-
岡本 秀明(オカモト ヒデアキ)

目的 近年,高齢者の社会的孤立や孤立死への関心が高まり,地域における社会的ネットワークの重要性があらためて認識されている。本研究では,地域における高齢者の社会的ネットワーク形成のうち,新たな友人の獲得に焦点をあて,第1に,高齢者の新たな友人の獲得の関連要因,第2に,高齢者の新たな友人の獲得と心理的well-beingの関連性を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都区部4区在住の高齢者(65~84歳)1,200人を無作為抽出し,自記式調査票を用いた郵送調査を実施した。有効回収数500人のうち,分析対象は,主要項目に欠損値のない445人とした。関連要因の検討には,新たな友人の獲得の有無を示す変数を従属変数とした2項ロジスティック回帰分析を用いた。心理的well-beingとの関連性には,生活満足度(LSIK)と日頃の活動満足度のそれぞれを従属変数とした重回帰分析を用いた。

結果 第1に,新たな友人を獲得した高齢者は,変化や新しさを伴う活動的志向が高く(p<0.01),SOC(首尾一貫感覚;Sense of Coherence)が高い(p<0.01)という特性であった。なお,学歴に有意傾向がみられ,中学校卒業と比較して短大・大学等卒業のほうが,新たな友人を獲得しやすい傾向(p<0.10)がみられた。第2に,新たな友人を獲得した者は,獲得していない者と比較して,生活満足度(p<0.05),日頃の活動満足度(p<0.001)がそれぞれ高かった。

結論 新たな友人を獲得したことがある高齢者の割合は,およそ2割に達しており,調査協力が得られた高齢者に限定されるが,高齢期においても新たな友人とのネットワークが形成されることはまれではないことが示唆された。また,新たな友人の獲得に関して,関連要因は性別や身体的な健康要因ではなくて心理的な特性が重要であること,心理的well-beingを高めることが明らかになった。

キーワード 社会的ネットワーク,新たな友人の獲得,高齢者,活動的志向,SOC(Sense of Coherence),心理的well-being

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第61巻第3号 2014年3月

地域住民における認知的ソーシャル・キャピタルと
メンタルヘルスとの関連

藤田 幸司(フジタ コウジ) 金子 善博(カネコ ヨシヒロ) 本橋 豊(モトハシ ユタカ)

目的 農村部における地域住民の認知的ソーシャル・キャピタル(以下,SC)とメンタルヘルスとの関連について,前向きコホート研究によって検証する。

方法 秋田県A町において,30歳以上の地域住民を対象に,2008年10月に初回調査,2010年7月に追跡調査を悉皆にて実施した。いずれも自記式質問紙を用いた留置法(健康推進員による配布回収)にて実施し,追跡可能であった2,153人のうち,初回調査時の年齢が90歳以上であった15人を除く2,138人のデータを分析に用いた。分析項目として,性別,年齢,世帯の暮らし向き,主観的健康感,追跡期間中におけるネガティヴ・イベントの発生を用いた。認知的SCの評価は,互助と信頼,社会の責任感,地域への愛着,対人的なつながり,地域の優しさを問う5つの質問項目からなる認知的SCスコアを用いて認知的SC得点(得点範囲0~15点)を算出し,9点以下(第1四分位数)を低SC群とした。また,メンタルヘルスの指標としてK6を用い,9点以上(得点範囲0~24点)を抑うつ傾向ありとした。初回調査時に抑うつ傾向なし(K6<9点)であった集団の,1年9カ月後の追跡調査時における抑うつ傾向(あり/なし)を従属変数,認知的SCスコア(低/高)を説明変数とした多重ロジスティック回帰分析を行った。

結果 初回調査時に抑うつ傾向なし(K6<9点)であった1,438人のうち,追跡調査時に抑うつ傾向あり(K6≧9点)となったのは123人(8.6%)であった。多重ロジスティック回帰分析の結果,初回調査時の低SC群は,抑うつ傾向ありとなる確率が高SC群の約2倍であった(オッズ比1.94,95%信頼区間:1.30-2.90)。また,性別,年齢(10歳階級)を調整した場合のオッズ比は1.70(95%信頼区間:1.12-2.59),性別,年齢,世帯の暮らし向き,主観的健康感,追跡期間中のネガティヴ・イベント(身近な人のつらい喪失)を調整した場合のオッズ比は1.66(95%信頼区間:1.08-2.56)と有意であった。

結論 認知的SCが高いことは,メンタルヘルス悪化を予防する可能性が示唆された。地域づくり活動やコミュニティ・パワメントなどのアプローチが,地域住民のメンタルヘルスの向上に有効であると考えられる。

キーワード メンタルヘルス,ソーシャル・キャピタル,地域保健,地域づくり,地域住民

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第61巻第4号 2014年4月

特別養護老人ホームにおける
機能訓練指導員による仕事の創造

植田 大雅(ウエダ ヒロマサ) 杉澤 秀博(スギサワ ヒデヒロ)

目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)では,機能訓練指導員の配置が義務づけられている。しかし,特養の利用者の重度化が進んでいる中にあって,重度化する利用者に対しては機能回復効果を見込むことは難しいことに加え,機能訓練指導員の役割や機能が施設や個人の裁量に委ねられており,よくいえば独創的,悪くいえば非系統的なサービス提供がなされていることが多い。本研究では,特養に勤務する機能訓練指導員がどのような役割をもって仕事に取り組んでいるかを明確にすることにある。

方法 分析データは,特別養護老人ホームに勤務している機能訓練指導員8名に対する面接調査であり,項目として認知症や看取り介護など重度化する特養利用者に対する①日頃の業務内容,②他職種とのかかわり,機能訓練指導員の業務を超えての活動,③仕事への満足度・達成感,④仕事上の困難であり,さらに,⑤特養に機能訓練指導員として勤務するようになった時期,きっかけを柱として行った。そのデータをM-GTAを使って分析した。

結果 分析の結果,3つのカテゴリー,2つのサブカテゴリー,11の概念が生成された。3つのカテゴリーは《他者との関係性を意識し,仕事の内容を決定する》《生活の中に機能訓練を位置づける》《周囲の人との心理的距離の近さ》であった。以上3つのカテゴリーの関係は,次のように示すことができた。《他者との関係性を意識し,仕事の内容を決定する》《生活の中に機能訓練を位置づける》といった活動を展開できるのは,《周囲の人との心理的距離の近さ》といった他者との良好な関係性を構築できていることにある。

結論 本研究で,第1に特養における機能訓練指導員の取り組みが,ほかの職種との関係の中で位置づけられていることが示唆された。第2には,訓練室で行う機能訓練というより生活行為を機能訓練の機会として利用し,位置づけた取り組みが行われていることが示された。第3には,以上のような機能訓練の手法の部分に関してはこれまで先行研究にもみられた部分であるが,本研究においては新しい役割として,訓練の手法だけでなく,機能訓練指導員が利用者と1対1で長時間にわたりかかわることのできる職種であり,そのことが利用者だけでなく,周囲の人への共感,ニーズの理解といった心理的な距離の近さを生み出し,機能訓練の工夫やあり方の創造・実践へとつながることが示唆された。

キーワード 機能訓練指導員,利用者の重度化,生活行為,心理的距離,仕事の創造,新たな役割

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第61巻第4号 2014年4月

滋賀県野洲市における特定健診未受診理由を踏まえた
特定健診受診勧奨手法の開発と受診率向上への効果

宮川 尚子(ミヤガワ ナオコ) 門田 文(カドタ アヤ) 清水 めぐみ(シミズ メグミ)
山澤 幸子(ヤマザワ サチコ) 宇野 裕子(ウノ ユウコ) 大黒 清夏(オオグロ サヤカ)
今堀 初美(イマホリ ハツミ) 山下 亜希代(ヤマシタ アキヨ) 櫻井 真汐(サクライ マシオ)
駒井 文昭(コマイ フミアキ) 吉田 和司(ヨシダ タカシ) 門脇 崇(カドワキ タカシ)
上島 弘嗣(ウエシマ ヒロツグ) 三浦 克之(ミウラ カツユキ) 岡村 智教(オカムラ トモノリ)

目的 平成20年度より開始された特定健診の平均受診率は市町村国保で31%前後であり,参酌標準の65%と大きく乖離している。健診受診率に影響を及ぼす要因について,受診勧奨施策の受診率への効果を検討した報告は少ない。本研究では,滋賀県野洲市において特定健診未受診者の未受診理由を明らかにし,得られた未受診理由を踏まえた健診受診勧奨手法を開発して,その効果について検討した。

方法 滋賀県野洲市の国保加入者を対象として,平成21年度に,前年度(平成20年度)の特定健診未受診者4,122人のうち無作為抽出した1,579人に郵送にて特定健診未受診の理由を尋ねる質問紙調査を実施し,760人(48.1%)から回答を得た。特定健診未受診理由に基づき,未受診理由を踏まえた受診勧奨手法を開発し,平成22年度に受診率向上のための対策を実施した。勧奨手法の効果は,健診実施期間が平成22年度と同じであった平成20年度の健診受診率との比較により評価した。

結果 健診未受診理由調査の結果,年齢層に関わらず「病院などにかかっている」「事業所健診等を受けている」「たまたま受け忘れた」「健康だから」が多く,中壮年層では加えて「受ける時間がない」も多かった。これらの未受診理由を踏まえて,個人と集団,それぞれへのアプローチを組み合わせた受診勧奨手法を開発した。個人へのアプローチとしては健診開始時に受診券と一緒に受診勧奨チラシを対象者全員に個別送付し,また健診期間の中間時点に,その時点の未受診者全員に再度,受診勧奨チラシと健診実施機関一覧表を個別送付した。集団に対するアプローチとしては同じく健診期間の中間時点で,「健康で自覚症状のない時の受診の重要性」をテーマにした記事の広報掲載とポスターの掲示を行った。この受診勧奨手法を用いた平成22年度の特定健診受診率は,用いていない平成20年度に比べて7.2%有意に上昇し,これは年齢層に分けても同様の結果であった。受診のきっかけを調査したところ,今回の受診勧奨手法をあげた者の割合は,ほぼ受診率の増加分に相当する660人(受診率8%相当)であった。

結語 特定健診未受診理由を踏まえた受診勧奨手法を開発し,その効果を評価した。タイミングを見計らった個別通知や,健診受診の意義を伝える勧奨を,集団および個人を対象に実施したことにより,高年層,中壮年層ともに健診受診率は大きく上昇し,本受診勧奨手法の有用性が示された。

キーワード 特定健康診査,受診率,受診勧奨,未受診理由,市町村国保

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第61巻第4号 2014年4月

静岡県における自殺EBSMRの地域格差
および社会生活指標との関連

久保田 晃生(クボタ アキオ) 坂本 久子(サカモト ヒサコ) 山野 富美(ヤマノ フミ)
大石 かおり(オオイシ カオリ) 内田 勝久(ウチダ カツヒサ)

目的 本研究の目的は,2007年に行われた静岡県の自殺死亡に関する研究に基づき,自殺死亡の地域格差および社会生活指標との関連を検討し,今後の静岡県における自殺予防施策の基礎的資料を得ることである。

方法 静岡県内における性別の自殺EBSMR(経験ベイズ推計に基づく標準化死亡比)(2006〜2010年)をマップ化して,県内の地域格差を確認した。また,2007年に行われた研究で分析された地域の社会生活指標を収集し,自殺EBSMRとの関連について,主成分分析および重回帰分析を行い検討した。

結果 静岡県内の自殺EBSMRは,男女とも同様の傾向を示した。男性では東部地域において自殺EBSMRが高い地域が散見された。本研究の社会生活指標を主成分分析した結果,第1主成分は「都市化の程度に関係する因子」,第2主成分は「暮らしの状況を分ける因子」として解釈された。自殺EBSMRを加えた分析においても,因子構造は同様であった。自殺EBSMRを目的変数,社会生活指標を説明変数として重回帰分析を行った結果,男性は「小売店数(人口千対)」「離婚率(人口千対)」が,女性は,「第三次産業就業者比率(%)」「病院数(人口10万対)」が有意に関連する指標として選択された。このうち,自殺EBSMRとの単相関では,男性の「小売店数(人口千対)」と女性の「第三次産業就業者比率(%)」で有意な正の相関が認められた。

考察 静岡県の2007年の先行研究の結果と同様の傾向を示すことが確認され,男性では過疎地域での自殺予防,女性では都市部での自殺予防のように,都市化に基づいた自殺予防の取り組みが必要ではないかと考えられた。

キーワード 自殺,地域格差,社会生活指標

論文

 

第61巻第4号 2014年4月

活動量計を用いた日常歩行速度とADL低下に関する研究

高柳 直人(タカヤナギ ナオト) 山城 由華吏(ヤマシロ ユカリ) 須藤 元喜(スドウ モトキ)
仁木 佳文(ニキ ヨシフミ) 時光 一郎(トキミツ イチロウ)
金 美芝(キム ミジ) 金 憲経(キム ホンギョン)

目的 老年症候群とは高齢者に特有な身体的,あるいは精神的症状の総称である。老年症候群は日常生活に影響を与える症状であることが多く,発症により日常生活動作(ADL)や生活の質(QOL)を低下させることが知られている。この老年症候群を早期に発見し,対応することが高齢者の健康寿命の延伸を図る上で非常に重要である。先行研究からADLの低下は歩行速度の低下と密接に関与していることが明らかとなっており,日常生活における歩行速度を測定することで,より簡便なADL低下リスクのモニタリングが可能であると考えられる。本研究では虚弱後期高齢者における6カ月後の日常歩行速度変化とADL変化との関連性を調査することで,日常生活をもとにした将来のADL低下リスクの推定について検討することを目的とした。

方法 21歳から51歳の健常者50名に関して活動量計を用いることで,ケーデンス(歩行ピッチ)と加速度変化をもとにした指標である運動強度を測定し,歩行速度との関連性を調べた。また,虚弱後期高齢者87名に関して日常生活における歩行速度を測定し,6カ月後に歩行速度が低下した群と上昇した群の2群に分類することで各群における6カ月後のADL変化を測定した。

結果 運動強度と歩行速度との相関係数を算出したところ非常に高い相関が認められたため,重回帰分析を行うことで日常生活における歩行速度の推定式を確立した。この推定式を用いて虚弱後期高齢者における6カ月間の日常歩行速度とADLの変化を調べたところ,歩行速度低下群は上昇群と比較して「知的能動性」が有意に低下し,「老研式活動能力総得点」は低下傾向を示した。

結論 日常生活における歩行速度は老研式活動能力指標により測定したADLの低下と関与していることが明らかとなった。今回の結果から,日常生活の中で歩行速度の低下をモニタリングすることで,ADL低下の恐れがある対象者に関して老年症候群への予防対策の可能性が示唆された。

キーワード 歩行速度,運動強度,ADL(Activities of Daily Living),虚弱

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第61巻第4号 2014年4月

Diagnosis Procedure Combination(DPC)データ,
機能評価係数Ⅱおよび経営指標を含めた
大学病院の評価について

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ) 長澤 薫子(ナガサワ カオコ)
小林 英史(コバヤシ エイジ) 横田 邦信(ヨコタ クニノブ)

目的 私立大学病院の27学校法人を対象とし,機能評価係数Ⅱ,「DPC導入の影響評価に関する調査」データおよび経営指標より計算したMahalanobisの距離(MD)を用いて総合評価を試みた。

方法 平成21年度の「DPC導入の影響評価に関する調査」9項目(以下①:一般病棟入院件数,移植手術件数,臨床治験件数,平均在院日数,手術件数,化学療法件数,放射線療法件数,救急車搬送件数,全身麻酔件数),機能評価係数Ⅱ(以下②),経営指標(以下③:帰属収支差額比率,人件費率,総負債率)を用いた。これらより,1)①によるMDと②の相関,2)①の各件数と①によるMD,②,③との相関,3)①によるMDおよび②と③との相関,4)②による順位,①によるMD,①+②によるMD,③によるMD,①+③によるMD,①+②+③によるMD,それぞれのMD順位の検討,5)前項の順位各々の相関,6)項目選択でMDに寄与する項目,を検討した。

結果 1)診療件数を反映する①によるMDと②は有意な相関を認めなかった。2)①によるMDは一般病棟入院件数,移植手術件数,臨床治験件数,手術件数,全身麻酔件数と有意な正の相関を示し,平均在院日数とは負の相関の傾向を示した。②は化学療法件数と救急車搬送件数と有意な正の相関を示した。3)①によるMDと人件費率との間にのみ有意な負の相関を示した。②は③の3項目いずれとも有意な相関を認めなかった。4)②の順位と,①,①+②,③,①+③,①+②+③,それぞれで計算したMDの順位による順位は変動が大きく一定の傾向を認めなかった。5)②の順位と,①,①+②,③,①+③,①+②+③,それぞれで計算したMDの順位とは,いずれとも有意な相関を認めず,②の順位には①の件数や③の関与が低いと思われた。6)共通して項目選択で寄与する項目には,②の要素である効率性指数に関与する平均在院日数と救急医療指数に関与する救急車搬送件数が有効としてあげられた。

結論 機能評価係数Ⅱは経営指標を反映しないが,「DPC導入の影響評価に関する調査」9項目によるMDには経営の要素が加味され,組み合わせることでより良い総合評価が可能である。

キーワード Diagnosis Procedure Combination(DPC),Mahalanobisの距離(MD),機能評価係数Ⅱ,帰属収支差額比率,人件費率,総負債率

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第61巻第4号 2014年4月

出生率回復の地域差に関する研究

石井 憲雄(イシイ ノリオ)

目的 都道府県別の合計特殊出生率(Total Fertility Rate,以下,TFR)は,わが国の少子化対策上,非常に重要な指標であるにも関わらず,厚生労働省による公表値は時系列で比較可能なものとなっていないのが現状である。そこで,本稿の目的は,時系列で比較可能な2000年以降の都道府県別TFRを推計し,近年の出生率回復に見られる地域差を明らかにすることである。

方法 非国勢調査年の都道府県別TFRについて,国勢調査年との整合性を図るため,分母に用いる再生産年齢人口に各年における日本人人口の推計値を用いて再計算を行った。

結果 都道府県別TFRの再計算の結果,2005年以降のTFRの変化は地域によって大きな差があることがわかった。西日本の大部分の県では2005年から2012年にかけてTFRが0.20ポイント前後回復しているのに対し,東北6県(青森県,岩手県,宮城県,秋田県,山形県,福島県)などでは,0.10ポイント未満の回復となっている。なかでも福島県では,全国で唯一2012年のTFRが2005年の水準を下回り,東日本大震災による原発事故の影響が伺える結果となった。

結論 本研究の結果,都道府県別のTFRは,全47都道府県で例外なく2005年を境に反転していることが確認された。これは,厚生労働省公表のTFRでは把握できなかった事実であり,わが国の少子化対策上,重要な発見であると考えられる。今後,その要因を解明することが課題である。

キーワード 少子化,出生率,合計特殊出生率,TFR,人口動態統計,厚生労働省

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第61巻第5号 2014年5月

介護費用の財源に対する大学生の意識とその関連要因

桑原 里佳(クワバラ リカ) 野口 代(ノグチ ダイ) 山中 克夫(ヤマナカ カツオ)

目的 高齢化が急速に進むわが国において,介護費用の財源が問題となっている。政府は40歳以上から徴収した保険料と直接税を財源とする現状に対し,2014年4月の消費増税を決定し,2015年10月のさらなる消費増税を2014年12月にも判断する予定である。こうした重要な決断に際し,本研究では,将来的に財源を担っていく若者(大学生)に対し,介護費用の財源に対する意識を調査し,またその関連要因について明らかにすることを目的とした。

方法 対象者は,茨城県内の大学に通う1年生から4年生までの学生168名(医療系を除く文系,理系)とした。回答を得た167名(回収率99.4%)のうち,属性情報に欠損値のみられない157名を分析対象とした(有効回答率94.0%)。なお,データは大学の講義を介し集合調査法により収集した。

結果 介護費用の財源確保に関して,最も実施すべきだと思う方法に関しては,「直接税の増税」と答えた者が35.7%,「間接税の増税」が22.9%,「40歳未満からも保険料を徴収」が11.5%,「利用料の自己負担割合の引き上げ」が8.9%,「今までと同様,介護保険料を増額」が8.3%,「1人当たりのサービス量の制限」が6.4%,「要介護度が軽度の人をサービス対象から外す」が1.9%であった。意識に関連する要因としては,「福祉サービスを充実させたほうが良いので,多少の経済的負担はやむを得ない」という意見を持つ者は,「経済的負担を軽くした方が良いので,多少福祉サービスが不足するのはやむを得ない」という意見を持つ者よりも,「直接税の増税」「間接税の増税」「40歳未満からも保険料を徴収」に賛成した者が有意に多く,逆に「要介護度が軽度の人をサービス対象から外す」「利用料の自己負担割合の引き上げ」に賛成した者が有意に少なくなっていた。また,女子学生は男子学生に比べ,さらに,福祉系の学部学生はそれ以外の学部学生に比べ,「1人当たりのサービス量の制限」に賛成する者が有意に少なくなっていた。

結論 本調査では,学生は国民の負担の点でより公平性が保たれる方法(最も多かった回答は直接税の増税)に賛成し,逆に介護サービスを制限する方法に反対する傾向がみられた。こうした傾向から,政府は今後の施策(間接税率の引き上げなど)について,若者に十分な説明を行うべきであると思われた。

キーワード 介護費用,財源,直接税,間接税,保険料

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第61巻第5号 2014年5月

中国帰国者における体力および生活の質

-帰国者支援・交流センター通所者の現状-
熊原 秀晃(クマハラ ヒデアキ) 西田 順一(ニシダ ジュンイチ)
 森村 和浩(モリムラ カズヒロ) 田中 宏暁(タナカ ヒロアキ)

目的 最新の厚生労働省の調査において,中国帰国者の高齢化が進んでおり,「健康の不安」が将来に対する心配・不安として最も多く回答されたことが示されている。また,先行研究で,帰国後間もない者では地域社会への適応不足と共に生活の質(QOL)やメンタルヘルスが低下していることが報告されている。しかし,帰国後長期間を経た現在の帰国者に対する身心の健康状態やQOLに関する報告は極めて少ない。本研究は,現在の帰国者のQOLやメンタルヘルスの現状を調査すると共に,日常身体活動量および身体的体力の水準を明らかにすることを目的とした。

方法 対象者は,A地区中国帰国者支援・交流センターに通所する成人男女46名(62±10歳)であり,帰国後10年以上経過した者が8割であった。日常身体活動量は,加速度計内蔵歩数計を用い評価した。全身持久力は,多段階漸増運動負荷試験により血中乳酸閾値相当の運動強度を測定した。また,下肢筋力,柔軟性体力,静的バランス能力を評価した。メンタルヘルスはGeneral Health Questionnaire28項目版(GHQ28),包括的QOLはWHOQOL26,健康関連QOLはSF36v2を用い評価した。

結果 身体活動量(6,820±2,872歩/日;9.1±6.5METs・時/週)は,生活習慣病等の予防に推奨されている水準に比して極めて低値であった。また,全身持久力(4.4±0.8METs)と下肢筋力は,改善が望まれる水準であった。包括的QOLは,一般日本人の平均値より比較的高値を示し,移住に対して適応していると推察された。しかし,健康関連QOLは,身体的側面と役割/社会的側面(43.1±12.0,42.8±10.2ポイント)が日本国民の平均より有意に低値であった。また,GHQ28の得点合計は4.1±4.7点であり,対象者の約2割がメンタルヘルスに何らかの問題を有すると判定された。

結論 帰国者の健康関連QOLは低く,健康上の障害や不安を抱えている者が多いことが推察された。また,メンタルヘルスに問題を有する者が潜在することが示唆された。生活習慣病やロコモティブシンドロームの予防,および精神的ストレス性疾患の低減に重要と考えられている身体活動量や健康関連体力は低水準であった。高齢化が進む現在の帰国者には,より具体的に身心の健康づくりを推進する支援が必要と考えられた。

キーワード 身体活動量,健康関連体力,QOL,健康支援,中国残留邦人

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第61巻第5号 2014年5月

介護予防基本チェックリストにおけるうつ項目の検討

南部 泰士(ナンブ ヒロヒト) 石井 範子(イシイ ノリコ) 柳屋 道子(ヤナギヤ ミチコ)

目的 本研究は,基本チェックリスト「うつ」5項目に日本語版気分・不安障害調査票(K6)を加えることにより,気分,不安障害をより多くスクリーニングできるかどうか,また,基本チェックリストにおける25項目の生活機能とK6の関連性を明らかにすることである。

方法 対象は,秋田県A市B地域の65歳以上の人で,健診時に生活機能評価を受けた460人の,性別,年齢,基本チェックリスト25項目,K6について,面接で調査し,関連性を分析した。

結果 基本チェックリスト「うつ」で2項目以上該当し,うつを示すが,K6で気分・不安障害が陰性(0~4点)の者は,男性で15名,女性で28名いた。基本チェックリスト「うつ」で1項目以下の該当で,うつを示さないが,K6で気分・不安障害が軽度(5点以上)の者は,男性で7名,女性で9名いた。基本チェックリスト「うつ」は生活機能と関連しており,うつを示した者の中で,男性17項目,女性9項目に生活機能の低下がみられた。

結論 基本チェックリストでうつを示す人,気分・不安障害を示す人は生活機能の低下をきたしていた。基本チェックリスト「うつ」5項目およびK6を単独でスクリーニングを実施した場合,気分,不安障害のある高齢者を見逃してしまう可能性があるため,併用して使用することによって,より効率的なスクリーニングが可能であることが示唆された。

キーワード 介護予防,基本チェックリスト,生活機能,日本語版気分・不安障害調査票(K6),うつ

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第61巻第5号 2014年5月

大学生の家族形成意欲と関連要因に関する調査研究

-男女共同参画社会に向けた若者への支援について-
齋藤 幸子(サイトウ サチコ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル) 内山 絢子(ウチヤマ アヤコ)
近藤 洋子(コンドウ ヨウコ) 原 美津子(ハラ ミツコ) 宮原 忍(ミヤハラ シノブ)

目的 少子化問題研究の一環として,大学生を対象に青年の結婚の意思を規定する因子を調べることを目的とし,恋愛観,性役割観,価値観などを調査,次世代の家族形成支援の一助となる資料を得ようとした。

方法 首都圏の大学3カ所において,男女大学生を対象に集合調査法によるアンケートを実施し,有効回答252件を分析した。調査内容は,結婚の意思,子どもが欲しいか(以下,出産意欲),恋愛観,性役割観などで,性別のほか,結婚の意思の有無により2群に分けて検討した。さらに,結婚の意思を規定する因子を探るため,男女別に多重ロジステイックモデル分析を行った。

結果 将来の結婚の意思は,「する」61%,「しない」2%,「わからない」33%,無回答4%であった。結婚の意思がないまたは未定の群でも,69%に出産意欲があった。男女のつき合い方や,生き方に関わる価値観で性差が認められ,デート・バイオレンスにつながるような行為の許容度や,「子どもを保育所に預けるのはかわいそう」など従来型の価値観を支持する割合は,男性の方が高かった。結婚の意思の有無別分析では,結婚群の性役割を支持する割合が高かった。性役割に関しては,男女共同参画社会の実現に賛成しながら,家庭内の固定的性役割分担にも賛成するという,女性に対するダブルバインドの価値観をもつ者の存在が認められた。結婚の意思についての多重ロジステイックモデル分析では,男女で異なる因子が見いだされたが,カップル形成に関わるという意味では共通する側面があった。女性では「カップル形成の見通しに関する肯定感」が強い因子であった。

結論 結婚の意思が未定でもそのうちの7割に出産意欲があることから,子どもをもつことの価値の高まりが,家族形成意欲を促すものと考えられた。価値観や結婚の意思を規定する因子は男女で異なっており,若者への家族形成支援においては,男女それぞれの価値観とカップルの関係性に注目することの必要性が示唆された。性別役割分担を支持する群の方が,将来結婚する可能性が高かったことについては,裏を返せば,男女平等を支持する群は,現在の結婚のあり方を支持できず回避する傾向があるということである。わが国が男女共同参画社会の実現をもって少子化問題を乗り越えようとするのであれば,多様な家族のあり方を認めるなど,男女平等を支持する者が家族形成を望むような社会環境を用意することが必須である。

キーワード 少子化,結婚,出産,家族形成,性役割観

論文

 

第61巻第5号 2014年5月

2歳未満児の虐待による
頭部外傷における初回入院にかかる疾病費用分析

植田 紀美子(ウエダ キミコ) 丸山 朋子(マルヤマ トモコ) 藤原 武男(フジワラ タケオ)

目的 わが国では,子どもの虐待の予防,被虐待児の診断や治療,被虐待児や家族に対する継続的支援など,各分野の研究や対策は進み始めているものの,虐待における経済分析の分野は着手されていない。部分的な経済的評価として,虐待にかかる費用分析が最優先である。そこで,本研究では,2歳未満児の虐待による頭部外傷(Abusive head trauma,以下,AHT)における初回入院にかかる疾病費用を明らかにすることを目的とした。

方法 A,B施設に頭部外傷による頭蓋内病変を疑い頭部CTを施行し,入院した2歳未満児(対象期間:A施設2005年4月から2011年3月,B施設2002年4月から2005年3月)を対象とした。診療録(サマリー)によりAHT児とnon-AHT児に分け,診療報酬明細書の分析により初回入院期間における医療費,入院期間等を比較した。

結果 AHT児41例,non-AHT児69例を分析した。AHT児で男児の割合が多かった。初回平均入院日数は,AHT児で50.6日(A施設71.7日,B施設26.1日)とnon-AHT児の5.9日(A施設4.4日,B施設6.5日)の約10倍であった(p<0.001)。同様に,初回入院にかかる平均医療費もAHT児で230万円(A施設307万円,B施設140万円)とnon-AHT児の25万円(A施設28万円,B施設24万円)の約10倍であった(p<0.001)。医療費内訳では,AHT児はnon-AHT児と比べると,初回入院にかかる医療費のうち,手術にかかる医療費の割合が高かった(p<0.001)。

結論 AHT児の初回入院医療費は,non-AHT児の約10倍であった。入院日数の差を反映するものであった。A施設のAHT児の多くが退院後に地域に戻ることから,AHT児が地域に戻るまでの初回入院にかかる医療費は,A施設の分析結果である310万が参考になると考えられる。この医療費はAHTを防ぐことができれば本来生じない医療費であり,経済的損失の観点からも虐待予防は急務である。

キーワード 子ども虐待,頭部外傷,費用分析,経済的評価

論文

 

第61巻第5号 2014年5月

がん診療連携拠点病院における緩和ケア提供体制と実績評価

田中 宏和(タナカ ヒロカズ) 片野田 耕太(カタノダ コウタ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ)
中村 文明(ナカムラ フミアキ) 小林 廉毅(コバヤシ ヤスキ)

目的 わが国ではがん対策基本法に基づいてがん対策が推進されており,その1つの施策として,がん診療連携拠点病院(以下,拠点病院)が整備されている。拠点病院では指定要件に緩和ケアチームの設置が規定されているが,緩和ケアチームの定義があいまいなため現実の緩和ケアの実績や体制等には格差が懸念されている。本研究では,拠点病院における緩和ケアの提供体制と実績のばらつきを公表されているデータから観察し,緩和ケアの提供体制と実績を検討することを目的とした。

方法 国立がん研究センターのがん情報サービスウェブサイトに掲載されている,2010年9月時点の全拠点病院377病院の個別データから,緩和ケア診療加算,緩和ケア病棟入院料,がん性疼痛緩和指導管理料の算定実績件数(2010年9月から2011年8月の集計)を解析した。全拠点病院377病院で解析し,都道府県拠点病院と地域拠点病院,拠点病院の初回指定日が2005年以前の病院と2006年以降の病院で層別解析を行った。

結果 緩和ケア診療加算の1件以上の実績があった病院の割合は,34.0%(377病院中128病院),緩和ケア病棟入院料の実績があった病院の割合は17.6%(376病院中66病院),がん性疼痛緩和指導管理料の実績があった病院の割合は87.3%(377病院中329病院)だった。緩和ケア診療加算と緩和ケア病棟入院料の両方に実績がなかった病院の割合は,56.4%(376病院中212病院)だった。都道府県拠点病院では,地域拠点病院より緩和ケア診療加算の実績がある病院の割合が多い傾向にあった(54.9% vs 30.7%)が,初回指定日が2005年以前の病院と2006年以降の病院では実績のある病院の割合は差(35.3% vs 33.3%)が小さかった。

結論 緩和ケア診療加算を算定するためには,拠点病院の指定要件となっている緩和ケアチームより医師が専従であるなど厳しい人員配置が求められる。このことから拠点病院の緩和ケアチームといってもその内容には,緩和ケア提供体制と実績に差があることが観察された。各種診療報酬算定では明確な施設基準が示されているため,漠然とした緩和ケア提供体制の有無ではなく,一定の基準を満たした体制があることを客観的に判断可能である。現状では拠点病院でも診療報酬で規定される緩和ケア提供体制を満たしていない施設が多数あることから,これらを継続的に調査することで緩和ケアの整備状況を評価管理することにつながると考えられる。

キーワード がん診療連携拠点病院,均てん化,緩和ケア,緩和ケアチーム,緩和ケア診療加算,専従

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第61巻第5号 2014年5月

風しん,麻しん全数報告に伴う報告患者数の変化

-感染症発生動向調査-
永井 正規(ナガイ マサキ) 太田 晶子(オオタ アキコ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
橋本 修二(ハシモト シュウジ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)

目的 感染症発生動向調査において,風しんと麻しんが2008年に定点報告対象から全数報告対象に変更された。全数報告に伴う報告の漏れについて,既存の資料を基に考察する。

方法 国立感染症研究所が公表している感染症発生動向調査結果資料と,定点からの報告に基づいて行われた全数推計資料を利用した。

結果 風しん,麻しんともに全数報告に伴って報告数が大きく減少していた。2013年の大きな流行年の全数報告数は2004年の流行年の全数推計数に比較して少なく,先天性風しん症候群の報告数が2013年32件に対して2004年が10件で,2013年が格段に多いことと矛盾していた。

結論 全数報告に変更されて以後,風しんにおいて特に届出漏れの多いことが推測された。全数報告には届出漏れがあり,実際の患者数と報告数との差がどの程度であるのかは重要な検討課題である。

キーワード 感染症発生動向調査,風しん,麻しん,定点報告,全数報告

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第61巻第6号 2014年6月

高齢者介護施設における感染症予防策と対応策の検討

大浦 絢子(オオウラ アヤコ) 山崎 貴裕(ヤマザキ タカヒロ)
扇原 淳(オオギハラ アツシ) 町田 和彦(マチダ カズヒコ)

目的 高齢者介護施設において,感染症への予防策・対応策の徹底は,リスクマネジメントという観点から必要不可欠である。本研究は,介護老人福祉施設における感染症の実態とその予防策および対応策に関する情報を収集し,介護老人福祉施設がより効果的な感染症対策を実施するための情報を提示することを目的とした。

方法 全国の高齢者介護施設4,268件を対象とし,郵送法によるアンケートを実施した。調査項目は,施設の基本属性,感染症発生の状況,感染症予防策・対応策の実施状況に関する全28項目である。全項目の単純集計と,感染症予防策・対応策と各感染症の発生の有無との関係を検討するために,x2検定およびオッズ比の算出を行った。

結果 調査票の回収割合は13.3%であった。過去5年における各感染症発生の状況は,568施設中301施設で何らかの感染症が発生していた。また,感染症発生の有無と各感染症予防策・対応策との関係を分析したところ,介護時のマスク使用,感染症マニュアルの内容把握,介護時のエプロン着用,感染症に関して困っていること,感染症に関する情報の必要性の5項目において有意な差が認められた。一方で,手洗い,手袋の着用,予防接種の項目においては感染症発生との有意差は認められなかった。

結論 高齢者介護施設における感染症予防には,5つの対策が感染症の発生へ何らかの関連を示していることが示唆された。今後は,調査内容を再度精査し同調査を行うことが課題である。

キーワード 高齢者介護施設,感染症予防,感染症対策

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第61巻第6号 2014年6月

地域包括支援センターの専門職の燃えつきと
ソーシャルサポートに関する研究

澤田 有希子(サワダ ユキコ) 石川 久展(イシカワ ヒサノリ)
大和 三重(オオワ ミエ) 松岡 克尚(マツオカ カツヒサ)

目的 本研究は,地域包括支援センターに従事する専門職を研究対象とし,燃えつきを緩和する効果をもつとされる職場内のソーシャルサポートが地域包括支援センターの専門職の燃えつきを緩和する効果をもつという仮説を立てて,検証することを目的とした。

方法 本研究の対象は,2011年1月末から2月に,全国の454の市区町村にある地域包括支援センター966カ所に配置された社会福祉士,看護師・保健師,主任ケアマネジャーであり,調査方法は郵送法を用いた。有効回答数は1,145であった。質問紙では,燃えつき尺度17項目,ソーシャルサポート尺度18項目,スーパーバイザーの有無,研修参加回数,ならびに属性として,性別,年齢,学歴,配偶者の有無,専門職種,経験年数などのデータを得た。分析には,燃えつき尺度を従属変数,上司サポート,同僚サポート,スーパーバイザーの有無,研修参加回数を説明変数とし,性別,年齢,学歴,配偶者の有無,専門職種,経験年数などの基本属性を統制変数として,強制投入法により重回帰分析を行った。

結果 分析対象者の1,145名のうち,男性が17.6%,女性が82.4%,平均年齢は41.6歳(SD=10.3)であった。職種の内訳は,社会福祉士が35.2%,看護師・保健師が39.0%,主任ケアマネジャーが25.9%であった。分析の結果,燃えつき尺度の下位尺度である情緒的消耗感,脱人格化,個人的達成感のすべてのモデルにおいて上司サポート,同僚サポート,年齢の要因が燃えつきを緩和する効果を示した。そのほかに,経験年数の長さ,職種の違い,研修参加回数が情緒的消耗感に,配偶者の有無が脱人格化に,研修参加回数や性別の違いが個人的達成感に有意な関連を示した。

結論 地域包括支援センターの専門職について,職場内のソーシャルサポートが職員の燃えつきを緩和する効果をもつという仮説は支持された。この結果から,上司や同僚からのサポートが期待できると知覚している人は燃えつきにくいことが明らかにされた。上司や同僚からのサポートを充実させることは,職場内における職種間の連携を円滑にし,利用者へのよりよい支援の提供だけでなく,職員自身の燃えつき予防にもつながることが示唆された。一方,年齢が若い人ほど燃えつきやすいことが示されており,スーパービジョン制度の導入など,今後,人材の育成を視野に入れた若年層への支援の必要性が示されたといえる。

キーワード 地域包括支援センター,燃えつき,ソーシャルサポート,専門職,人材育成

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第61巻第6号 2014年6月

特定保健指導による行動変容が
メタボリックシンドロームの改善に及ぼす影響

道下 竜馬(ミチシタ リョウマ) 松田 拓朗(マツダ タクロウ) 重富 千明(シゲトミ チアキ)
大上 裕貴(オオウエ ユウキ) 仲野 裕香(ナカノ ユカ) 前原 雅樹(マエハラ マサキ)
市川 麻美子(イチカワ マミコ) 平田 明子(ヒラタ アキコ) 渡部 貴和(ワタベ キワ)
堀田 朋恵(ホッタ トモエ) 吉村 英一(ヨシムラ エイイチ) 武田 典子(タケダ ノリコ)
美根 和典(ミネ カズノリ) 宗清 正紀(ムネキヨ マサキ) 瓦林 達比古(カワラバヤシ タツヒコ)
清永 明(ミヨナガ アキラ) 田中 宏暁(タナカ ヒロアキ) 檜垣 靖樹(ヒガキ ヤスキ)

目的 本研究では,特定保健指導参加者と非参加者を対象に行動変容ステージの変化がメタボリックシンドローム改善に及ぼす影響について検討した。

方法 本学職員の特定保健指導に参加した男性29名(介入群;平均年齢50.9±7.4歳)と支援形態,年齢,Body mass index(BMI)をマッチングした男性58名(対照群;平均年齢51.4±6.8歳)を対象とした。自記式質問票より行動変容ステージ(無関心期,関心期,準備期,実行期,維持期)を評価し,無関心期,関心期および準備期を第1ステージ,実行期と維持期を第2ステージとし,ベースライン時と比較して追跡1年後の行動変容ステージが第2ステージを維持していた者,第1ステージから第2ステージに前進した者を維持・前進群とした。また,第1ステージから変化がなかった者,第2ステージから第1ステージに後退した者を不変・後退群とした。介入群と対照群それぞれを行動変容ステージが維持・前進した群,不変・後退した群の4群に分け,追跡1年後のメタボリックシンドローム危険因子の変化を4群間で比較検討した。

結果 介入群29名のうち23名(79.3%),対照群58名のうち20名(34.5%)に行動変容ステージの維持・前進が認められた。介入群,対照群ともに行動変容ステージが維持・前進した群は,追跡1年後の腹囲,BMI,拡張期血圧,中性脂肪が有意に低下した(p<0.05)。介入の有無に関わらず,行動変容ステージが維持・前進していた群は行動変容ステージが不変・後退していた群に比べて,腹囲,BMI,拡張期血圧,中性脂肪の変化量が有意に大きかった(p<0.05)。しかし,行動変容ステージが維持・前進した介入群と対照群との間には,各危険因子の変化量に有意な差は認められなかった。

結論 本研究の結果より,行動変容ステージを維持・前進させることが,メタボリックシンドロームの改善に重要であることが示唆された。したがって,メタボリックシンドローム改善のためには,食事や運動などの生活指導に加え,行動変容を促すような支援が必要であると考えられる。

キーワード 特定保健指導,行動変容ステージ,メタボリックシンドローム

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第61巻第6号 2014年6月

大学生に対する調査で明らかになった
小児期から青年期における骨折の発生率

宮村 季浩(ミヤムラ トシヒロ) 和泉 恵子(イズミ ケイコ) 鈴木 孝太(スズキ コウタ)
陳  揚佳(チン ヨウカ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ)

目的 骨折は,小児期から青年期における健康上の大きな問題の1つであるが,その疫学データが十分に示されていない。本調査は,大学生に対する調査を元に,小児期から青年期における骨折歴および骨折の発生率について明らかにする。

方法 調査対象は,山梨大学の18歳以上25歳以下の日本人学生3,639名で,2012年の学生定期健康診断の問診で,保健師・看護師が0歳から18歳までのすべての骨折について聞き取り調査を行った。

結果 0歳から18歳までの間に,704名(21.4%)が骨折を経験しており,男性574名(24.0%),女性130名(14.4%)と男性で有意に多かった。骨折を経験した者の中の145名(20.6%)が複数回の骨折を経験していた。年齢ごとの全骨折の,発生率が最大となるのは,男性で13歳,女性では13歳と17歳に2つのピークがあった。骨折部位ごとでは,手関節・手指の発生率が最も高かった。また,女性と比べて男性で四肢の骨折と比べ頭部・体幹の骨折が多く,さらに,四肢の骨折と比べ,頭部・体幹の骨折は受傷年齢が高い傾向が認められた。

結論 骨折は,18歳までに2割以上の者が経験する頻度の高い健康上の問題である。小児期から青年期における骨折の予防のため疫学的なデータを整備し,さらには発生率の地域差やその受傷原因について明らかにして行くことが重要な課題である。本調査は,そのための基礎資料となるものと考える。

キーワード 疫学,骨折,発生率,小児期から青年期

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第61巻第6号 2014年6月

簡易な軽度認知障害(MCI)診断ツール:
触圧覚を活用した“ス・マ・ヌ”法の提案

本山 輝幸(モトヤマ テルユキ) 藪下 典子(ヤブシタ ノリコ) 根本 みゆき(ネモト ミユキ)
清野 諭(セイノ サトシ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ) 朝田 隆(アサダ タカシ)

目的 認知症の多くは,徐々に認知機能の低下がみられ,認知症の前駆状態である状況が存在し,このような状況を軽度認知障害(mild cognitive impairment:MCI)と称している。本研究の目的は,触圧覚による感覚刺激を活用したMCI診断につながる簡易ツールの開発を試み,その有用性について検討することであった。

方法 医師の診断によりMCIが疑われると診断された70歳以上の高齢者(MCI群)27名(男性13名,女性14名,76.3±3.7歳),および認知機能が正常と判断された70歳以上の高齢者(健常群)28名(男性5名,女性23名,74.1±3.8歳),計55名(男性18名,女性37名,75.2±3.8歳)を対象とした。本研究では,触圧覚刺激として背中に書かれた文字を当てる方法を採用し,MCI診断ツールへと応用させた。背中に書かれた文字を言い当てるためには,視覚や聴覚の情報に頼らず,触覚のみで文字の形を判断しなければならないため(形状弁別能力),触覚入力,空間認知,短期記憶,判断などの脳領域において一連の作業(活動)を要する。そこで,形状のよく似ている3種の文字(“ス・マ・ヌ”)を採用した(“ス・マ・ヌ”法)。検討方法は,MCI群と健常群において3文字種の正答率を算出し,χ2検定により比較した。有意水準は5%とした。

結果 健常群に比べMCI群では有意に正答率が低かった。特に,“ヌ”に関しては2回連続誤答率が55.6%であった。5歳刻みにした年齢群および男女間での正答率に有意差はみられなかったことから,年齢および男女問わずMCIを診断できる可能性が考えられた。

結論 本研究より,触圧覚を利用した背中に書かれた文字を判断する“ス・マ・ヌ”法は,MCI者を診断するうえで有用な手段となりうる可能性が示された。今後は,高齢者の予後を追跡することにより有用な診断ツールとして確立させ,MCI改善を目的としたリハビリテーションツールとして発展させたい。

キーワード 軽度認知症,簡易診断ツール,触圧覚

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第61巻第6号 2014年6月

レセプトデータ突合による医療費増加のリスク因子の検討

-特定健康診査における質問表および各検査項目の分析-
玉置 洋(タマキ ヨウ) 平塚 義宗(ヒラツカ ヨシムネ)
岡本 悦司(オカモト エツジ) 熊川 寿郎(クマカワ トシロウ)

目的 本研究の目的は特定健康診査のデータ(特定健康診査における問診票の21項目および検査の28項目)と国保医科レセプトデータを突合することにより,医療費増加のリスク因子を検討することにある。

方法 静岡県三島市(人口約11万人)の市国保被保険者約3万1千人(一般国保・退職・前期高齢)を対象に2012年6月から2013年5月までの1年間に医科レセプトの請求があった者の1年間の医療費を求め,さらにその中から4年前の2008年度の特定健康診査を受診した7,438人(男2,849名,女4,589名,平均年齢64.8±7.3,39~74歳)について2008年6月から2009年5月までの1年間の医療費を求めた。医療費増加のリスク因子を求めるため,対象者の4年後の医療費の増加金額を従属変数,特定健康診査の問診結果21項目と検査結果28項目を独立変数として分位点回帰分析を行った。

結果 4年後の医療費増加額は1人平均49,179円/年で,全体の56.5%で年間医療費が増加していた。分位点回帰分析の結果,医療費増加額が大きい80%分位点において,検査値項目から年齢,腹囲,インスリン・血糖降下薬,尿素窒素,血糖値の項目で有意な正の係数が得られた。また質問用紙の項目では脳卒中既往歴,心臓病既往歴,「歩行または同等の身体活動を1日1時間以上」の項目で有意な正の係数が得られた。逆に検査値項目の体重,ALT(GPT)および質問項目の性別(女性),「同年齢・同性の人より歩く速度が速い」「睡眠で休養十分」の項目においては有意な負の係数が得られた。

結論 特定健康診査の問診票および検査データと医科レセプトのデータを突合し,医療費増加のリスク因子を明らかにすることにより,エビデンスに基づいた医療費適正化計画の策定に有用であることが示唆された。

キーワード 電子レセプト,特定健康診査,データ突合,医療費増加,医療費適正化計画

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第61巻第7号 2014年7月

企業社員に対する継続的な野菜摂取のための
効果的な支援戦略の検討

大城 祐子(オオシロ ユウコ)

目的 企業で,社員が継続的に野菜を自らたくさん食べたくなる仕組みを作るために,野菜摂取と,本人の知識や意識,周囲の環境からの影響の関連性を検討することを目的とした。

方法 調査は,2011年8~9月,大手製造企業A社の健康診断受診者1,083人に,調査票を配布し,健診当日に回収した。分析対象を男性の社員食堂や外食の利用者とし,さらに野菜を食べる「意識」はあるが「行動」が伴わない層(ターゲット群),「意識」があり「行動」している層(対照群)とした。この群ごとに,意識や知識,職場や家族環境などの要因間の関係を示す野菜摂取行動モデルを共分散構造分析により作成した。また,二元配置分散分析により,この2群と関連因子が野菜摂取レベルにどのような影響を及ぼすか確認した。

結果 調査票の回収数975人(回収率90.0%),有効回答数は946人(有効回答率87.3%)であった。分析対象(488人)を群分けした結果,ターゲット群は215人(44.1%),対照群は208人(42.6%)となった。2群とも,6つの関連要因(「意識」「知識」「家族」「職場の人」「情報へのアクセス」「食べたいメニュー」)を用いて,適合度の高い野菜摂取行動モデルを得ることができた。ターゲット群では,社員食堂や外食等で「食べたいメニュー」があることと「家族」が食卓に野菜を提供することが,野菜摂取に直接関連していた。また,二元配置分散分析の結果,「情報へのアクセス」と「食べたいメニュー」で交互作用が確認され,これらの因子では,ターゲット群の方が「主観的な野菜摂取レベル」の増加に強く影響を及ぼしていた。

結論 野菜摂取について,「意識」と「行動」にギャップがある男性社員には,家庭の食卓で野菜が出され続けることや,社員食堂等で食べたくなるような魅力的な野菜メニューの提供が必要であるとともに,情報提供方法や手段についてより工夫が必要である。

キーワード 行動変容ステージ,社員,野菜摂取,ソーシャル・マーケティング,職場

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第61巻第7号 2014年7月

パーキンソン病患者の主介護者における
介護負担感と家族機能に対する認知的評価との関連

仲井 達哉(ナカイ タツヤ) 杉山 京(スギヤマ ケイ) 澤田 陽一(サワダ ヨウイチ)
桐野 匡史(キリノ マサフミ) 柏原 健一(カシハラ ケンイチ) 竹本 与志人(タケモト ヨシヒト)

目的 本研究の目的は,パーキンソン病患者の在宅療養を支える主介護者を対象に,介護負担感と家族機能に対する認知的評価との関連性を明らかにすることである。

方法 調査対象者は,A病院神経内科外来へ通院するパーキンソン病患者の主介護者492名であり,自記式質問紙ならびに診療録からの診療情報の抽出を行った。調査項目は,患者および主介護者の属性に加え,病状やADLなどの心身機能状態,介護環境等の心理社会的状況で構成した。介護負担感の測定にはCare-Giving Burden Scale(CBS-8)を使用した。CBS-8は,「社会的活動の制限の認知」「否定的感情の認知」の2つの側面から介護負担感を評価する尺度である。家族機能認知の測定には,竹本らの家族機能認知尺度を使用した。家族機能認知尺度は,Olsonの理論を参考に,「家族の凝集性」「家族の適応力」「家族のコミュニケーション」の3領域で構成されている尺度である。統計解析には,家族機能認知を独立変数,介護負担感を従属変数とした因果関係モデルを構築し,加えて主介護者の属性や患者の心身機能状態等を介護負担感の背景変数として設定し,構造方程式モデリングを用いてモデルの適合度と各変数間の関連性を検討した。

結果 「家族の凝集性」は,「社会的活動の制限の認知」および「否定的感情の認知」と有意な関連性を示した。「家族の適応力」は,「社会的活動の制限の認知」と有意な関連性を示した。特に,「家族の凝集性」は介護負担感の2因子ともに有意な関連を示した。介護負担感に対する説明率は,「社会的活動の制限の認知」が53.9%,「否定的感情の認知」が38.6%であった。

結論 家族機能の認知的評価において,「家族の凝集性」が低いほど「社会的活動の制限の認知」および「否定的感情の認知」が高く,「家族の適応力」が低いほど「社会的活動の制限の認知」が高いことが明らかとなった。「家族の凝集性」は,「社会的活動の制限の認知」および「否定的感情の認知」の双方と有意な関連が認められており,支援策の検討においては家族成員のつながりに着目した介入視点の重要性が推察される。

キーワード パーキンソン病,主介護者,介護負担感,家族機能認知,構造方程式モデリング

論文

 

第61巻第7号 2014年7月

特定健康診査の受診に関する要因分析

-保険者の生活習慣病予防のための取り組みの評価-
満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ) 関本 美穂(セキモト ミホ)

目的 特定健診受診に関する関連要因分析を行い,保険者による生活習慣病予防のための取り組みの状況を評価する指標について検討する。

方法 23市町村の国民健康保険の2008から2010年度の3年を対象として,特定健診対象者データ,特定健診データ,医療費データを利用して,特定健診の受診者と未受診者の記述統計を算出する。次に,特定健診受診の関連要因の分析として,対象期間中に新たに加入した被保険者,脱退した被保険者を除外することで,3年間連続で特定健診対象者となった者を対象に,特定健診受診回数で被保険者を層別化(0回,1~2回,3回)して,属性(年齢・性別)および医療費・累積医療費を比較する。また,ロジスティック回帰分析によって,特定健診の受診に関する要因を分析する。

結果 特定健診受診者は,未受診者と比較して年齢が高く,女性が多く,医療機関の受診割合が高いが,1人当たりの医療費は低い。受診者の1人当たり医療費が少ない原因は,入院医療費であった。特定健診受診回数が多いほど,平均年齢は高く,女性の割合が高く,医療利用の割合も高くなるが,各年度の総医療費は低い。特定健診受診の関連要因は,過去の受診が他の因子よりも強い因子であった。

結論 被保険者の年齢や性別の構成の違いが,保険者間の特定健診受診率の異なる原因の1つであるため,市町村の国民健康保険には,一律の参酌標準値を設定するよりも,前年度データとの比較によって毎年の保険者の取り組みを評価することが現実的だと考えられた。特定健診受診率は,次年度も継続して受診する傾向のある“過去の特定健診受診群”の受診率(継続受診率)と,それ以外の“過去の特定健診未受診群”が対象年に新たに受診した率(新規受診率)を評価することが考えられる。一方,特定健診未受診者は,“過去の特定健診受診群”が未受診となった群(中断群)と一度も特定健診を受けたことがない群(未経験群)に区分できる。特定健診およびレセプトデータから,被保険者の特徴を経年的に把握して受診勧奨を行うことで,保険者自身が各受診率の目標値を設定できるようになり,ひいては保険者による生活習慣病予防のための取り組みの状況の評価につながり,質の向上にも貢献できるものと考えられる。ただし,医療機関で治療中の者に関しては,電子レセプト等の詳細な医療行為データを分析して実態を把握し,保険者と医療機関の連携の検討することが,今後の課題である。

キーワード 特定健康診査,医療費,継続受診率,新規受診率,中断率,未経験率

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第61巻第7号 2014年7月

行動観察による社会能力評価「かかわり指標(成人用)実践版」の
臨床的妥当性に関する研究

徳竹 健太郎(トクタケ ケンタロウ) 篠原 亮次(シノハラ リョウジ) 杉澤 悠圭(スギサワ ユカ)
田中 笑子(タナカ エミコ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡辺 多恵子(ワタナベ タエコ)
望月 由妃子(モチヅキ ユキコ) 呉 柏良(ウ バイリョウ)
難波 麻由美(ナンバ マユミ) 安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 本研究は,成人の典型的なかかわり場面における行動観察評価と臨床評定の関連から,行動観察による社会能力評価「かかわり指標(成人用)IRSA:Interaction Rating Scale Advanced実践版」 の臨床的妥当性を検討することを目的とする。

方法 18歳以上の男女43名を対象に,日常的なかかわり場面を再現した2名1組の課題を実施した。研究者によるIRSA実践版を用いた行動観察評価と,臨床専門職による臨床評定を得点化し,関連を検討した。行動観察評価および臨床評定による「協調」「自己制御」「自己表現」の各領域得点と総合得点について,Spearmanの相関係数を算出した。

結果 行動観察評価と臨床評定の間には「協調」(r=0.62)「自己制御」(r=0.61)「自己表現」(r=0.59)「総合」(r=0.72)すべての項目に有意(p<0.001)な正の関連がみられた。

考察 行動観察評価得点と臨床評定得点に相関がみられ,IRSA実践版の臨床的妥当性が示された。社会能力の特徴を簡便に測定できる「IRSA実践版」を実践の場で活用することにより,社会能力の向上,発揮に困難のある成人に対する支援への一助につながる可能性がある。

キーワード 社会能力,かかわり,評価,指標

論文

 

第61巻第7号 2014年7月

転倒者が少ない地域はあるか

-地域間格差と関連要因の検討:JAGESプロジェクト-
林 尊弘(ハヤシ タカヒロ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)
山田 実(ヤマダ ミノル) 松本 大輔(マツモト ダイスケ)

目的 転倒予防における1次予防(ポピュレーション戦略)の可能性を探るため,果たして転倒が少ない地域があるのか,あるとすれば転倒割合に関連する要因は何かを社会的要因に着目して検討することを目的とした。

方法 A半島に属している6保険者(9市町村)に居住する要支援・要介護認定を受けていない高齢者に郵送調査を行った。分析では,地域間の高齢化の影響を減らすため前期・後期高齢者に層別化し,小学校区(n=64)ごとの過去1年間の転倒歴がある者の割合(転倒割合)を求めた。次に,過去1年間の転倒歴と関連しうる社会的要因として,等価所得(中・高所得者割合)や教育年数(高学歴者割合),地域組織への参加(スポーツ組織への参加割合)に着目し,小学校区を分析単位とした地域相関研究を行った。

結果 アンケート調査の回答者は29,117人であった(回収率62.4%)。そのうち分析対象は,ADL非自立者,抑うつ(傾向)の者を除外した16,102人とした。前期高齢者では,転倒割合は小学校区で最小7.4%~最大31.1%と約4倍の差があった。中高所得者が多い(r=-0.54),高学歴者が多い(r=-0.41),スポーツ組織への参加が多い(r=-0.60)地域で転倒割合は有意に低かった。また,所得・教育水準で調整しても,「スポーツ組織への参加」割合が多いほど,転倒が少ない関連がみられた(p<0.01)。後期高齢者でも関連は弱くなるものの(r=-0.32)同様の結果であった。

結論 前期高齢者では少ない所に比べ約4倍,後期高齢者でも約3倍も転倒割合が高い小学校区が存在した。その一部は,社会経済水準の違いで説明できたが,それを考慮しても「スポーツ組織への参加」が多い地域ほど転倒が少なかった。今後,他の交絡要因を考慮した研究が必要だが,転倒の少ないまちづくりによるポピュレーション戦略の可能性が示唆された。

キーワード 介護予防,転倒予防,ポピュレーション戦略,地域づくり・まちづくり

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

東日本大震災における社会福祉施設が果たした役割について

藤野 好美(フジノ ヨシミ) 三上 邦彦(ミカミ クニヒコ) 岩渕 由美(イワブチ ユミ)
鈴木 聖子(スズキ セイコ) 細田 重憲(ホソダ シゲノリ)

目的 岩手県における東日本大震災による社会福祉施設の被害の状況やその後の状況について把握し,被災時の社会福祉施設の役割について明らかにするとともに,これからの社会福祉施設のあり方を再考することを目的とする。

方法 郵送による質問紙調査を行った。調査対象施設は,平成24年2月1日時点で岩手県ホームページに掲載されている情報をもとに,被災地域の児童福祉施設,障害者福祉施設,高齢者福祉施設,総計272カ所の事業所に調査票を送付した。

結果 質問紙調査は,114カ所の事業所から返送があり,回収率は41.9%であった。震災による直接的影響で亡くなった利用者がいる施設は21%,行方不明の利用者については5%,亡くなった職員がいる施設は11%,行方不明の職員は3%となっている。施設の建物や設備に利用ができなくなるレベルの被害が「あった」と回答した施設は27%,利用に支障のないレベルの被害が「あった」と回答した施設も29%であった。通所サービスを提供する54施設中,震災後1カ月には15%がほぼ通常どおりのサービス提供が行われていたが,76%は一時停止あるいは一部停止が続いており,9%の施設は完全に停止している状況であった。避難者を受け入れた施設は59%であった。入所施設は60%,通所施設においても57%の施設が避難者を受け入れていた。また,1日で最も多く受け入れた人数は,10人以下が23施設,20人以下でみると32施設であるが,41人以上では19施設で,うち100人以上が5施設であった。

結論 社会福祉施設には「高齢者,障害者等災害弱者と呼ばれる人たちの避難所」「在宅の高齢者,障害者を支える家族の避難所」「地域住民にとっての避難所」といった役割があると考えられる。震災をきっかけに地域との関係,つながりを深めた施設もあり,災害時に施設の利用者・入所者はもちろんのこと,地域住民をもサポートする社会福祉施設が目指されるようになっている。

キーワード 東日本大震災,社会福祉施設,災害支援,避難所,福祉避難所

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

高齢者介護施設職員における利用者家族との関係性認知

-認知構造と家族支援にかかわる要因への影響の検討-
北村 世都(キタムラ セツ) 内藤 佳津雄(ナイトウ カツオ)

目的 高齢者福祉施設における利用者家族に対して,施設職員がどのような関係性の認知を行っているのか(関係性認知)について,その認知構造を明らかにした上で,それらの認知と家族支援にかかわる関連要因との関係を明らかにすることを目的とした。

方法 全国35カ所の特別養護老人ホーム介護職員1,259名に対し,郵送法による質問紙調査を行った。質問紙は関係性認知15項目,家族支援スキル3項目,家族支援重要性評価1項目で構成された。

結果 990名の分析対象者において,関係性認知の項目について主因子法による因子分析(プロマックス回転)の結果,防衛,親密,尊重の3因子13項目の関係性認知項目が抽出された。この3因子と家族支援スキル,家族支援重要性評価の関係を,共分散構造分析を行ったところ,家族支援スキルは親密的関係認知と防衛的関係認知に影響を受け,家族支援スキルから家族支援重要性評価へは正の,家族支援重要性評価から家族支援スキルへは負のパスが認められた。

結論 施設職員は利用者家族に対し,親密・尊重・防衛の3因子による関係性の認知を行っていたが,関係性認知にかかわらず家族支援が重要であるとの認識を持っていた。共分散構造分析からは,施設職員において利用者家族への親密的関係認知が高いこと,および防衛的関係認知が低いことは,家族支援スキルを高めていることが示唆された。さらに家族支援スキルと家族支援重要性評価の間のパスから,施設職員が家族支援に自信を持つと家族支援が以前にも増して重要だと思えるようになるが,逆に家族支援の重要性を認識すればするほど自分の支援スキルに自信を持つことができなくなるという認知的な循環が認められた。施設職員において,家族支援に対する意欲や動機づけを維持することの難しさが示唆された。

キーワード 高齢者施設,介護職員,家族介護者,職員と家族の関係性,関係性認知

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

中年期における特定健康診査の受診行動と
関連する要因の検討

西田 友子(ニシダ トモコ) 舟橋 博子(フナハシ ヒロコ) 榊原 久孝(サカキバラ ヒサタカ)

目的 国民健康保険による特定健康診査の受診率向上を目指し,健診受診率の最も低い40~50歳代の特定健康診査対象者を対象に,健診受診に影響を与える要因を明らかにすることとした。

方法 愛知県A市の国保被保険者のうち,40~50歳代の特定健康診査対象者全員を対象とし,郵送による質問紙調査を行った。健診受診と関連する要因として,年齢,最終学歴,配偶者の有無,家族との同居,職業,経済状況,世帯収入,定期的な医療機関への通院,かかりつけ病院の有無,健康状態,心の健康状態(K6),ソーシャルサポート,睡眠状況,朝食摂取,運動習慣,喫煙状況,飲酒習慣について検討した。回答が得られた660人(回収率25.2%)のうち,市町村国保以外で健診・人間ドックを受けている者は除外し,健診受診群263人,未受診群263人を対象に解析を行った。

結果 男女別に健診受診の有無と学歴や配偶者の有無,経済状況,生活習慣などの調査要因との比較を行い,関連がみられた項目を説明変数に用いて多変量ロジスティック回帰分析を行った。結果,男性では,配偶者の存在,かかりつけの病院があること,朝食を毎日食べることが健診受診行動に影響する要因であった。女性では,最終学歴が高いこと,かかりつけの病院があること,喫煙しないことが健診受診を高める要因であった。

結論 本研究では健診受診と関連する要因として,男性では配偶者の存在が影響することが明らかとなった。この結果から,男性の健診受診行動は配偶者など身近な者の影響を受けやすく,周囲からの勧めによって健診受診を促すことが出来ると期待される。今後,健診対象者本人への受診勧奨だけでなく,例えば夫婦や家族そろっての健診受診を勧めるなど,身近な者を通して受診を促すようなアプローチの検討も重要であると考える。また,本研究では,男女ともに,かかりつけの病院の存在が健診受診に関連していることが明らかになった。かかりつけ病院という身近な医療機関の存在は,予防行動を促し健診受診を高める要因になると考える。一方で,身近な医療機関のない者にも焦点を当てた,受診機会の拡大についても,今後検討が必要である。

キーワード 中年期,特定健康診査,受診行動,配偶者,かかりつけ病院

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

日本の自殺率上昇期における地域格差に関する考察

-1973~2002年全国市区町村自殺統計を用いて-
岡 檀(オカ マユミ) 久保田 貴文(クボタ タカフミ)
椿 広計(ツバキ ヒロエ) 山内 慶太(ヤマウチ ケイタ)

目的 筆者らは,これまでに行った自殺に関する地域研究により,たとえ経済問題のような危険因子に等しく曝露されたとしても,「自殺希少地域」においては何らかの自殺予防因子が機能することによって,自殺率の発生が抑制されるという知見を持つに至った。わが国では1980年代と1990年代の2回,経済危機を背景とした全国規模の自殺率急上昇が起きている。先行研究を踏まえれば,過去の経済危機において全国一律に自殺率が上昇したわけではなく,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」では,その上昇度に差異が生じていた可能性がある。本研究は,その仮説を検証することを目的としている。

方法 解析には1973~2002年の全国3,318市区町村自殺統計のデータを用いた。市区町村ごとに標準化自殺死亡比を算出し,30年間の平均値を求め,この値を「自殺SMR」として市区町村間の自殺率を比較する指標とした。自殺SMRの高低により,全国市区町村を4群に分類した。まず,これら4群の30年間の自殺率の推移を概観した。次に,過去2度の経済危機時の,前後5年間の人口10万対自殺率平均値を算出し,前後2つの差を求めて「自殺率上昇度」の指標とした。自殺率の高低により分類した第1群「自殺希少地域」~4群「自殺多発地域」の,自殺率上昇度の傾向について,χ2検定を行って比較した。4群ごとに,箱ひげ図を描いて自殺率上昇度の分布を確認した。また,自殺率上昇度の平均値をプロットした。

結果 30年間を通じて,第1群「自殺希少地域」は一貫して,4群中最も低い自殺率で推移し,第4群「自殺多発地域」は最も高い自殺率で推移していた。2度の経済危機時ともに,「自殺希少地域」は上昇度が最も小さく,有意差があった。また,「自殺希少地域」の上昇度は他の群に比べ,ばらつきが小さかった。1980年代に比べ1990年代は,「自殺希少地域」と「自殺多発地域」の上昇度の差がより小さかった。

結論 経済の悪化は,自殺率を高める最大要因の一つとして考えられている。しかし,経済苦という危険因子そのものを減らすことの他に,危険因子に対する耐性を強めるという視点を加えることが,新たな自殺対策をひらく手掛かりになると考えられる。

キーワード 経済危機,自殺率上昇,自殺希少地域,自殺多発地域,自殺予防因子,自殺危険因子

論文

 

第61巻第8号 2014年8月

壮年期就労者の抑うつ状態に影響を与える
職場・家庭・地域要因の検討

寺内 千絵(テラウチ チエ) 田口(袴田) 理恵(タグチ(ハカマダ) リエ)  田髙 悦子(タダカ エツコ)
今松 友紀(イママツ ユキ) 有本 梓(アリモト アズサ)
臺 有桂(ダイ ユカ) 塩田 藍(シオタ アイ)

目的 近年,壮年期就労者の自殺・うつ病の増加が問題となっている。壮年期就労者は職場・家庭で多重責務を担い,そのメンタルヘルスは職場・家庭・地域のストレッサー,ストレス緩衝要因に影響されると考えられる。このため,本研究は壮年期就労者の抑うつ状態に影響を与える職場・家庭・地域要因を検討した。

方法 首都圏A市B区の住民基本台帳から30~65歳の男女1,190名を年齢層化無作為抽出し,郵送法による無記名自記式質問紙調査を実施した。抑うつ状態はK6で評価した。ストレッサーの職場要因として組織風土を,家庭要因として家事・育児の忙しさ等7項目を把握した。ストレス緩衝要因としては,職場・家庭・地域のソーシャルサポートに加え,趣味・習い事,ソーシャルキャピタル等を把握した。χ2検定,Mann-Whitney検定を用いて抑うつの有無における2群間比較を行った。

結果 調査票は412名から返送があり(回収率34.6%),就労者でK6に欠損のない215名を分析対象とした。対象者の平均年齢は48.0±10.0歳,男性105名(48.8%)であった。抑うつ群68名(31.6%),非抑うつ群147名(68.4%)であった。抑うつ状態との関連性がみられた基本属性は,世帯状況,暮らし向き,主観的健康感,生活満足度であった。ストレッサーの職場要因では,伝統性尺度,組織環境尺度が,家庭要因では,家事・育児の忙しさ,子の教育上の問題,家族や親戚との人間関係上の問題,家族の健康問題,金銭面の問題で抑うつ状態との関連性がみられた。ストレス緩衝要因に関して,職場要因では抑うつ群の上司・同僚のソーシャルサポートが低得点であった。地域要因では,趣味・習い事なし,ソーシャルキャピタルの助け・あいさつ等で抑うつ状態との関連性がみられた。

考察 壮年期就労者の抑うつ対策には,職場での上司・同僚からのソーシャルサポートの充実,地域での趣味・習い事の充実,ソーシャルキャピタルの醸成が有効であることが示唆された。また,これらの対策を効果的に実施するためには,職場,家庭,地域の連携体制の構築が必要と考えられた。

キーワード 抑うつ状態,壮年期就労者,職場,家庭,地域

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第61巻第11号 2014年9月

介護現場における外国人介護労働者の評価と意欲

-インドネシア第一陣介護福祉士候補者受け入れ施設のアンケート調査をもとに-
伊藤 鏡(イトウ キョウ)

目的 インドネシアからの第一陣の介護福祉士候補者が,受け入れ施設で行う介護実務研修を通じて,日本人職員と同等の介護技術等を身につけているか,さらに研修修了後も日本の介護福祉士として継続就労する意欲を持ち得ているかについて明らかにすることを目的とした。

方法 「インドネシア第一陣受入れ施設一覧」にある全53施設の施設長,指導責任者,候補者それぞれに異なる内容の無記名自記式調査票を用いた郵送調査を2013年2月中旬から3月下旬にかけて実施した。候補者が介護技術の習得にかかる期間を介護技術20項目で指導責任者に問い,候補者が研修修了時に日本人職員と同等の介護技術等を身につけているかを,介護技術を含む9項目および総合評価で施設長に問うた。また,同一施設における施設長および候補者の今後の就労に対する意向調査を行った。

結果 回答のあった19施設(回収率35.8%:施設長19名,指導責任者15名,候補者14名)を分析対象とした。「介護記録」を除く19項目で,候補者がその習得に最も時間を要したのは「認知症の方がいつもと違う行動を行った場合に対応ができる」の11.5カ月であったのに対し,最も短期で習得できたのは「食事前の準備を行うことができる」の6.3カ月であった。また「介護記録」については17.0カ月を要した。候補者の介護技術20項目の平均習得期間は約8.7カ月であり,日本人職員のそれは約4.8カ月であった。他方で,3年間の研修修了時の施設長による介護技術を含む総合的評価において,候補者は9項目中7項目で日本人職員を上回る評価を得ていた。また候補者の合格後の就労希望期間は,短期(2~3年:46%)と長期(5年以上:54%)に分かれたが,候補者全員が研修施設での就労継続を希望する一方で,1施設を除いてほとんどの施設長が長期の雇用(5年以上:94%)を希望していることがわかった。

結論 候補者は介護技術習得に最長17.0カ月を要し,最長7.2カ月で習得する日本人職員に後れをとるが,その後の研修の間に逆転が生じ,国家試験の合否に関わりなく,日本人職員を上回る高い評価を得ており,それゆえ受け入れ施設がおおむね外国人介護福祉士の長期の雇用継続を希望していることが明らかになった。また,候補者の半数以上が研修施設での長期就労を希望しており,さらには候補者全員が日本の介護業務に働きがいを感じていることも明らかになった。

キーワード 経済連携協定(EPA),インドネシア人介護福祉士候補者,介護実務研修,介護技術,介護記録

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第61巻第11号 2014年9月

独居高齢者と非独居高齢者の特徴に関する大規模調査

久保 温子(クボ アツコ) 村田 伸(ムラタ シン) 上城 憲司(カミジョウ ケンジ)

目的 わが国は超高齢社会へと進む中で,世帯形態も変化し,独居高齢者が急増している。地域で暮らす独居高齢者は,出来る限り自宅での生活を続けることを望んでいるが,独居高齢者は,非独居高齢者と比較して,日常生活での見守りや支援が得られにくいことが想定される。独居高齢者が住み慣れた地域で健康で自立した生活を継続することは,わが国の地域社会を中心としたヘルスプロモーションを進めるうえでも重要な問題となる。しかし,現在,独居高齢者を対象とした支援体制が十分に整備されているとはいえない。そこで本研究では,地域在住高齢者の独居世帯に焦点をあて,独居世帯高齢者の支援につなげるため,独居高齢者の特徴を総合的に検討することを目的とした。

方法 65歳以上の地域在住高齢者に質問紙にて、基本属性(年齢,性別,身長,体重),家族構成(独居・非独居),老研式活動能力指標,主観的健康感,経済状況,収入有無,転倒有無,地域参加有無,生きがい有無,運動機能,閉じこもり,物忘れについて回答を求めた。各項目値を「独居群」と「非独居群」の2群間について比較した。

結果 独居高齢者は350名で全体の19.4%であり,非独居高齢者は1,451名であった。これら2群間では男女差が認められ,女性高齢者で独居が多かった。年齢には有意差は認められなかった。独居高齢者は非独居高齢者と比較して有意に地域活動への参加が少なく,運動機能においては,有意に低い値を示した。また,独居高齢者は生きがいを得られず,閉じこもり傾向にあった。

結論 独居高齢者は非独居高齢者と比較して,地域活動に参加しておらず閉じこもり傾向があることが明らかであり,地域活動への参加や隣人との接触が独居高齢者と非独居高齢者の身体機能に有意差を認めた要因の一つかもしれない。独居高齢者に対して,地域活動参加促進,生きがいを持つことが出来るような場や機会の提供,友人や近隣人との交流を図る場の提供など,ソーシャルサポート,ソーシャルネットワークの充実を図ることが重要であることが示唆された。

キーワード 独居高齢者,非独居高齢者,地域在住高齢者,地域活動,生きがい,ソーシャルサポート

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第61巻第11号 2014年9月

がん検診の受診行動規定要因に関する検討

大原 賢了(オオハラ ケンリョウ) 佐伯 圭吾(サエキ ケイゴ) 根津 智子(ネヅ サトコ)
大林 賢史(オオバヤシ ケンジ) 冨岡 公子(トミオカ キミコ)
岡本 希(オカモト ノゾミ) 車谷 典男(クルマタニ ノリオ)

目的 がん検診の受診行動に影響する要因を明らかにし,受診率向上のための効果的な対策のあり方を検討することを目的とした。

方法 2012年9月に奈良県が実施した「平成24年度なら健康長寿基礎調査」の個票データを分析に用いた。胃,大腸,肺のがん検診の過去1年間の受診の有無について回答した3,226人,子宮がん検診については2,462人,乳がん検診については1,791人をそれぞれ対象とし,各がん検診受診の有無と,調査票で把握された各種説明変数との関連を,多重ロジスティック回帰分析により検討した。

結果 がん検診受診につながりにくい有意な要因は,がん検診の種類で調整オッズ比にばらつきがあったものの,ほぼ共通して,職業が会社員・公務員に対してそれ以外であること(特に自営業・農林水産業(調整オッズ比 大腸がん2.08~乳がん3.69)),がんに対する心配度が「たいへん心配である」に対して「全く心配していない」こと(肺がん3.30~乳がん6.74),健康づくりに取り組んで「いる」に対して「いない」こと(胃がん1.46~大腸がん1.62),非喫煙に対して現在喫煙していること(肺がん1.39~乳がん2.59),医科医療機関に通院「している」に対して「していない」こと(大腸がん1.19~胃がん1.46),地域や組織での活動に参加「している」に対して「していない」こと(肺がん1.25~胃がん1.40)であった。一方,現在の健康状態,健康上の問題での日常生活への影響,過去の大きな病気やケガの経験は,がん検診受診につながりにくい要因とはいえなかった。

結論 がん検診の受診率向上のためには,特に職業の違いによる受診格差が大きいことから,個人にがん検診受診を促す取り組みだけでは不十分であり,対象者が参加しやすいがん検診の実施が不可欠である。また,地域や組織活動への参加者を増やすための取り組みを一層工夫する必要があると考える。

キーワード がん検診,受診率,職業,健康づくり,ソーシャルキャピタル

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第61巻第11号 2014年9月

AGESプロジェクトのデータを用いたGDS5の
予測的妥当性に関する検討

-要介護認定,死亡,健康寿命の喪失のリスク評価を通して-
和田 有理(ワダ ユリ) 村田 千代栄(ムラタ チヨエ) 平井 寛(ヒライ ヒロシ)
近藤 尚己(コンドウ ナオキ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ)
植田 一博(ウエダ カズヒロ) 市田 行信(イチダ ユキノブ)

目的 本研究では,高齢者抑うつ尺度(Geriatric Depression Scale)の短縮版であるGDS5の日本語版について,高齢者を対象とした調査(AGESプロジェクト)の縦断データを用いて,要介護認定,死亡,要介護認定または死亡(健康寿命の喪失)のリスクを評価する際の予測的妥当性を検証した。

方法 2003年10月,東海地方の介護保険者6自治体の協力を得て,各市町に居住する65歳以上高齢者29,374名を対象とした自記式アンケート郵送調査を行った。調査回答者14,286名(回収率48.6%)のうち,年齢または性別のデータが無効な者(n=1,533),あるいは歩行,入浴,排泄のうち1つ以上が自立していない,または無回答の者(n=1,295)を除いた 11,753名を4年間追跡した。目的変数として,要介護認定,死亡,健康寿命の喪失を用いた。説明変数はGDS5とした。調整変数として,年齢,性別,教育年数,等価所得,治療中の疾病の有無,主観的健康感を用いた。Cox比例ハザード回帰分析を用いて,要介護認定,死亡,健康寿命の喪失についてのハザード比を求めた。

結果 年齢,性別,教育年数,等価所得,治療中の疾病の有無,主観的健康感について調整した上で,GDS5と要介護認定,死亡,健康寿命の喪失との関連をみたところ,いずれについても「うつなし」に対して「うつ傾向(要介護認定:HR=1.263,死亡:HR=1.331,健康寿命の喪失:HR=1.292)」が有意に高いハザード比を示した。

考察 GDS5の日本語版について,要介護認定,死亡,健康寿命の喪失のリスクを評価する際の予測的妥当性を示すことができた。

キーワード 高齢者,抑うつ,GDS,要介護認定,健康寿命

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第61巻第11号 2014年9月

大災害時における医療施設へのアクセシビリティ評価

讃岐 亮(サヌキ リョウ) 佐藤 栄治(サトウ エイジ)
熊川 寿郎(クマカワ トシロウ) 鈴木 達也(スズキ タツヤ) 吉川 徹(ヨシカワ トオル)

目的 災害発生時には様々な施設へのアクセシビリティが低下するとともに,施設のサービス供給量には上限があるため,需要者全員がサービスを受けられない事態が容易に起こり得る。特に医療は,災害発生時においてその需要が著しく高くなるサービスの一つである。本研究では,災害発生時における医療施設へのアクセシビリティについて検討し,災害時の傷病者の搬送の在り方を考究する。

方法 東日本大震災被災地の宮城県の2次救急医療施設を対象として,震災前後のアクセシビリティ変化を分析するとともに,それら医療施設の受容可能人数を想定し,傷病者が同時大量発生する際の受療可能施設へのアクセシビリティの分析を行う。分析に際しては,アクセシビリティを道路距離と読み替え,地理情報システム(GIS)を用いて道路距離を計測する。さらに,災害時の傷病者搬送は一般車によるものが多数を占めることを踏まえた上で,搬送行動のシナリオとして,傷病発生地点から最も近い医療施設に行き,そこで受け入れ拒否された場合はそこから最も近い他の医療施設に向かうという探索シナリオと,事前に決められた施設に向かう割当シナリオの2つを設定して,搬送行動パターンの違いによるアクセシビリティの差異を分析する。

結果 誘導型施策として想定した割当シナリオに従えば,探索シナリオと比べて平均距離について30%短縮すること,最大距離については42%短縮することを示した。また,10㎞以上の長距離移動となる人口が6%減少することを示した。

結論 災害時には需要が施設容量を超えて,平時よりも遠い施設の選択もあり得る。そうした中での搬送行動のシナリオとして,事前に行く先を割り当てておく誘導型施策に明確なアクセシビリティ改善効果があることを確認した。全体の平均距離を短縮しつつ,アクセシビリティの著しく低下する人口を減少させるという2つの側面で効果があることも確認した。

キ-ワ-ド 災害,救急搬送,宮城県,GIS,アクセシビリティ,道路距離

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第61巻第12号 2014年10月

若年性認知症電話相談の実態

-若年性認知症コールセンター2年間の相談解析から-
小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) 鈴木 亮子(スズキ リョウコ)

目的 全国唯一の若年性認知症電話相談窓口として,平成21年10月に開設された「若年性認知症コールセンター」に寄せられた相談内容を,記録票に基づき集計・解析し,実態を把握するとともに,若年性認知症の人や家族,介護者の支援に資するデータを抽出した。

方法 平成22年1月から平成23年12月までの2年間に寄せられた,延べ3,359件および重複を調整した2,205件の相談者,介護対象者の属性,さらに認知症と診断された865件について,その原因疾患や,社会制度・サービスの利用状況,相談内容などを解析した。

結果 相談は全都道府県からあり,大都会を擁する都道府県からが多かった。相談者は男性30.1%,女性69.9%,年代は50~59歳が最も多く,次いで39歳以下であった。内訳では介護者が最も多く,次いで本人であった。親族1,152人の内訳は,妻が最も多く,次いで娘であった。介護対象者は男性が50.2%,女性は42.2%であり,年代は50~59歳が最も多く,次いで60~64歳であった。認知症と診断されている865人では,男性63.8%,女性35.4%,年代は60~64歳が最も多く36.8%であった。原因疾患はアルツハイマー病が最も多く54.2%であり,次いで認知症25.3%であった。認知症の行動・心理症状(BPSD)がみられるのは36.5%であり,内容では暴言が最も多く,次いで徘徊,暴力であった。年金や手帳などの社会資源利用状況は,利用ありが26.4%,利用なしが43.4%であった。介護保険については,認定済み46.5%,申請中5.2%であり,未申請35.0%であった。認定済みの402人の要介護度は,要支援1:20人,要支援2:15人,要介護1:92人,要介護2:72人,要介護3:71人,要介護4:39人,要介護5:40人であった。59.5%が介護サービスを利用していた。

結論 若年性認知症の電話相談では,認知症高齢者の電話相談と比べ,本人からや男性からの相談が多く,介護対象者も男性が多かった。相談内容も介護の悩みや介護者の心身疲労だけでなく,症状,社会資源,施設に関する相談・問い合わせが多かった。これらの実態は今後の若年性認知症支援の方向性を示すデータとなりうる。

キーワード 若年性認知症,電話相談,記録票の解析,社会的支援

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第61巻第12号 2014年10月

介護予防評価における介護保険統計の有用性と限界

-草津町介護予防10年間の評価分析を通して-
野藤 悠(ノフジ ユウ) 新開 省二(シンカイ ショウジ) 吉田 裕人(ヨシダ ヒロト)
西 真理子(ニシ マリコ) 天野 秀紀(アマノ ヒデノリ) 村山 洋史(ムラヤマ ヒロシ)
谷口 優(タニグチ ユウ) 成田 美紀(ナリタ ミキ) 松尾 恵理(マツオ エリ)
深谷 太郎(フカヤ タロウ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)
干川 なつみ(ホシカワ ナツミ) 土屋 由美子(ツチヤ ユミコ)

目的 本研究は,群馬県草津町における10年間の介護予防共同研究事業の効果を要介護認定率(以下,認定率)の推移から評価するとともに,それを通して,介護保険統計を用いて事業評価を行う際の留意点を考察することを目的とした。

方法 全国,群馬県,草津町の2001年度から2009年度における認定率の推移を,年齢構成および介護保険カバー率(生活機能障害者のうち要介護認定を受けている者の割合)の変化を加味して評価した。年齢構成に関しては,全国,群馬県,草津町の国勢調査データを用いて把握した。介護保険カバー率に関しては,同町で2003年,2005年,2007年,2009年の各年度に実施した悉皆調査データ(「非自立」の有無)を,介護保険統計データ(認定の有無)とリンケージして算出した。

結果 草津町では全国や群馬県に比べ後期高齢者の増加割合が小さかったため,前期高齢者・後期高齢者別に認定率の推移を評価したところ,草津町の認定率は2004年度頃から全国や群馬県と異なる動きを示し,特に後期高齢者において減少傾向にあることが確認された。ここで,三者とも前期高齢人口における年齢構成に大きな変化は認められなかったのに対し,群馬県や草津町では後期高齢者の中でも80歳代以上の割合が年々増加傾向にあったことから,群馬県や草津町の後期高齢者における認定率の経年変化は,高齢者人口の高齢化による影響を受けていると考えられる。一方で,草津町における後期高齢人口の年齢構成の変化は群馬県と同様であったことから,草津町における後期高齢者の認定率の経年変化は,群馬県とは比較可能であることが確認された。介護保険カバー率に関しては,特に軽度の生活機能障害者において年度によるばらつきが認められたため,介護保険カバー率の変化が認定率に影響している可能性が否めなかった。しかし,中等度以上(要介護2以上)の認定に限定しても,草津町では後期高齢者の認定率が低い水準で推移していることが確認された。

結論 本研究を通して,認定率の経年変化を評価したり他市町村と比較したりする際には,65歳以上人口における年齢構成や介護保険カバー率の変化を考慮した分析が必要であることが確認された。草津町の認定率の推移は,これらの要因を加味しても全国や群馬県と異なることから,10年間にわたる介護予防共同研究事業の成果と考えられた。

キーワード 介護保険,介護予防,要介護認定率

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第61巻第12号 2014年10月

地域で生活している精神障害者の居場所感と
主観的Quality of Lifeとの関連

大場 禮子(オオバ レイコ) 米山 奈奈子(ヨネヤマ ナナコ)

目的 本研究は,地域で生活している精神障害者の居場所感と主観的QOLの関連を明らかにすることを目的とした。

方法 A県内の病院デイケアや作業所などの通所施設31カ所の利用者を対象に自記式質問紙調査を実施した。調査内容は対象者の属性,居場所感尺度,主観的QOL(WHO/QOL26),ソーシャルサポート,偏見・差別を感じたこと(認知)の有無とした。まず,QOL26全体の得点の四分位値から4群にカテゴリー化し,各群間で基本属性,居場所感尺度得点,心理・社会的要因に関連する項目の比較を行った。カテゴリー変数はχ 検定,数量変数は一元配置分散分析および多重比較を用いた。次に,居場所感の主観的QOLに対する効果を明らかにするために,QOL26の全体得点および下位尺度別の得点それぞれを従属変数,居場所感尺度得点を独立変数,主観的QOLとの間に有意な関連がみとめられたソーシャルサポート,偏見・差別の認知を統制変数とし,重回帰分析を行った。

結果 居場所感尺度得点とQOL26全体得点との間には有意な正の相関がみとめられた(r=0.38,p<0.01)。また,居場所感尺度得点とQOL26下位尺度との相関係数は,身体的領域(r=0.19,p<0.01),心理的領域(r=0.39,p<0.01),社会的関係(r=0.31,p<0.01),環境領域(r=0.31,p<0.01)と,いずれも有意な正の相関がみとめられた。重回帰分析を行った結果,QOL26の全体得点および下位尺度別の得点を従属変数としたモデルすべてにおいて,居場所感尺度得点は有意な正の関連を示したことから,ソーシャルサポートの有無や偏見の認知といった変数の影響を除去しても,居場所感が高いほど主観的QOLが高い正の相関関係が明らかとなった。「自分の病気について偏見を感じたことがある」は,QOL26の全体得点および下位尺度別のいずれにおいても有意な負の相関が示されたことから,障害者が偏見や差別を感じることは主観的QOLを低下させる要因である。

結論 精神障害があっても居場所感が高ければ,地域においてQOLが高く,いきいきとした生活を送ることができることが明らかとなった。また,精神障害者の地域生活移行の推進には,地域住民の理解を得るための普及啓発や偏見・差別のない社会・地域づくりが重要である。

キーワード 精神障害,居場所感,QOL,偏見,差別

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第61巻第12号 2014年10月

コンジョイント分析を用いた子宮頸がん検診
受診行動の決定に影響する要因分析

恒松 美輪子(ツネマツ ミワコ) 川﨑 裕美(カワサキ ヒロミ)
升岡 優子(マスオカ ユウコ) 梯 正之(カケハシ マサユキ)

目的 子宮頸がん検診の受診行動を決定する際に,相対的に重視している検診の実施条件とその効用を明らかにし,検診受診率向上を図るための受診環境づくりについて検討した。

方法 広島県A町在住の20~69歳の女性3,200人を対象に質問紙調査を行った。調査項目は,個人特性,子宮頸がん検診の受診状況,仮想的な子宮頸がん検診条件への受診希望とした。コンジョイント分析を使用し,検診を構成する4つの属性について,それぞれ2つの水準を設定した:①費用(安い:500円,高い:4,200円),②担当者(女性,男性),③場所(医療機関,検診バス),④時間(1時間,3時間)。これらを組み合わせた複数の仮想的な検診条件に対する受診希望について,5段階評価で回答を得て,各属性の平均相対重要度などを算出した。

結果 回答率は40.0%(=1,280/3,200)であった。子宮頸がん検診の受診者は651人(53.2%),未受診者は573人(46.8%)であった。受診率は20歳代(36.3%),パート・アルバイト(46.5%),学生(25.0%)で低かった。コンジョイント分析の結果,全サンプルでの各属性の平均相対重要度は,費用(31.6%),担当者(27.9%),場所(21.3%),時間(18.6%)であった。未受診群は最も担当者(31.8%)を重視し,受診群と比較すると7.6ポイント高かった。回答者は費用4,200円より500円,担当者が男性より女性,検診バスより医療機関,3時間より1時間を高く評価していた。

結論 「担当者が女性」「安価」「短時間で終了する」「医療機関での検診」は最も好まれ,担当者と費用は,子宮頸がん検診の受診行動の決定に影響する条件であった。検診受診率の向上を図るためには,検査への羞恥心に配慮した受診環境と様々な生活環境にある受診者が適切な自己負担費用で受診できる体制を優先的に検討することが必要である。

キーワード 子宮頸がん検診,コンジョイント分析,受診行動,検診受診環境

論文

 

第61巻第12号 2014年10月

がん患者数計測資料としてのレセプト情報等の利用可能性

柴田 亜希子(シバタ アキコ) 片野田 耕太(カタノダ コウタ) 松田 智大(マツダ トモヒロ)
松田 彩子(マツダ アヤコ) 西本 寛(ニシモト ヒロシ) 祖父江 友孝(ソブエ トモタカ)

目的 がん患者が何人いるかは社会の関心事であるが,実測値は存在しない。日本では,がん患者数として,患者調査に基づく推計値である総患者数や,罹患数と生存率や死亡率から推計する期間有病数が用いられているが,それぞれに特徴と限界がある。著者らは,厚生労働省が平成23年度から提供を開始したレセプト情報等を用いて,新たながん患者数の指標を得られる可能性を期待して分析を行った。

方法 レセプト情報に基づく月平均レセプト件数,患者調査に基づく総患者数,および推計罹患数と5年生存率から推計した5年有病数を,性,年齢,都道府県,がんの部位別に比較した。レセプト情報等については平成22年4月から23年3月の期間に,悪性新生物,上皮内新生物,良性または性状不詳の脳腫瘍及び性状不詳の血液腫瘍の傷病名でレセプトが請求されたレコードの提供を受けた。患者調査の総患者数については,平成20年調査結果を用いた。がん有病数については,推計罹患数と5年生存率を用いて推計された2010年から2014年における年平均の5年有病数を利用した。

結果 全部位の悪性新生物について,月平均レセプト件数は約240万件,総患者数は約150万人,5年有病数は約230万人であった。総患者数と比較した場合,レセプト件数は,性別,年齢別,都道府県別,部位別に,すべて総患者数を1~2.9倍上回った。年齢別には,高年齢層ほど総患者数とレセプト件数のかい離が大きい傾向がみられた。部位別には,罹患数の多い部位では,総患者数と比べて,レセプト件数は約2から2.4倍,5年有病数は約1.5から2倍であった。

結論 新たに利用できるようになった電子レセプト情報等について,日本のがん患者数計測資料としての可能性を,患者調査の総患者数と推計5年有病数との比較において記述した。総患者数は,調査対象が調査期間と調査施設に依存する標本調査であること,有病数は,限られた資料源を用いた推計値であることに加えて,他の指標と異なり,受療割合が反映されていない値であることを考慮する必要がある。毎月自動的に,一定の様式で,ほぼ全数調査に近いデータが蓄積されるレセプト情報は,既存資料を利用した日本のがん患者数計測資料として一定の利用可能性があると考えられた。

キーワード がん,患者数,有病数,レセプト

論文

 

第61巻第12号 2014年10月

戦後におけるがんの世代別影響

-コホート生命表による分析-
渡邉 智之(ワタナベ トモユキ)

目的 わが国の平均寿命は現在もなお高い水準を維持している一方で,死因構造の中心は第二次世界大戦を境に感染症から生活習慣病に転換した。このように,日本人の死因構造は大きく変化しており,特に日本人の死因第一位であるがんは戦後のわが国の平均寿命の変化に影響を与えていると考えられる。そこで,本研究は死因構造が転換した戦後に焦点を当て,戦後生まれのがんによる死亡を除去した場合の生命表生存数に与える影響を,コホート(世代)生命表を用いて世代別に比較し,検討した。

方法 本研究は,1950-1954年から2005-2009年までの12の出生コホート(5年間出生集団)を対象とした。2010年までの期間生命表データを用いてコホート生命表死亡率および生存数を算出し,がん死亡を除去した場合の期間生命表死亡率からコホート生命表死亡率および生存数を求めた。これらの生命表生存数を用いて,がん死亡を除去した場合の生命表生存数の変化を算出し,がん死亡を除去した場合に生命表生存数がどの程度変化するかを世代別に検討した。

結果 男女ともに年齢が高くなるにつれて,がん死亡除去による生命表生存数変化は大きくなり,世代が新しくなるにつれて小さくなっていたが,女性については男性よりも世代間の違いは小さかった。また,最も大きく生命表生存数が増加した世代は,30歳未満では男女ともに1955-1959年出生コホートであったが,30歳以上では1950-1954年出生コホートであった。世代間で生命表生存数の変化に違いが生じ始める年齢は30歳代後半から40歳代前半にかけてであり,どの出生コホートにおいても40歳未満では男性の方が生命表生存数の変化が大きいが,40~54歳では女性の方が大きく,年齢によって性別で特徴がみられた。

結論 戦後の出生コホートにおいて,がん死亡を除去した場合の生命表生存数の変化は,男女ともに世代が新しくなるにつれて漸減しており,がん死亡による世代影響は徐々に小さくなりつつある。また,年齢階級別にみると男女ともに30歳代後半から40歳代前半にかけて世代間に差が生じ始めており,40歳代から50歳代前半にかけては女性の方ががん死亡による影響が大きいことが明らかになった。

キーワード がん,生命表,平均余命,コホート,戦後

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第61巻第13号 2014年11月

通所型二次予防事業実施状況の地域格差に関連する要因の検討

-施設立地状況とマンパワーに着目して-
相馬 優樹(ソウマ ユウキ) 角田 憲治(ツノダ ケンジ)
立山 紀恵(タチヤマ キエ) 大藏 倫博(オオクラ トモヒロ)

目的 現在,全国の地方自治体において,要介護状態へ移行するリスクの高い高齢者に対し,運動器の機能向上,栄養改善,口腔機能の向上等を目指した二次予防事業が実施されており,一定の成果をあげている。しかしながら,その実施状況には地域差があることが考えられ,今後さらに二次予防事業を効果的に広めていくためには,地域の実情を把握し,地域差に関連する要因を検討する必要がある。そこで,各都道府県の二次予防事業の実施状況や,実施状況に影響すると考えられる施設と地域包括支援センターの保健師数に焦点を当て,それらの関連を検討することを目的として研究を行った。

方法 全国47都道府県を対象とし,人口統計,ジニ係数,病院・診療所数,公民館数,地域包括支援センターの保健師数,二次予防事業実施状況について,各省庁や政府統計の総合窓口においてWeb上で公開されているデータを用いて分析した。さらに,相関分析によって二次予防事業実施状況と病院数,診療所数,公民館数,地域包括支援センターの保健師数との関連を検討した。

結果 それぞれのプログラムの,高齢者人口10万人当たりの参加実人数の3年間の平均値は,運動器の機能向上プログラム(単独:128~870人,複合:198~1,059人),栄養改善プログラム(単独:2~51人,複合:28~531人),口腔機能の向上プログラム(単独:9~236人,複合:59~636人)のそれぞれで都道府県間に地域差がみられた。また,運動器の機能向上プログラム実施状況の地域差に関連する要因として,人口当たりの病院数(β=0.24~0.39,p<0.10)および公民館数(β=0.27~0.36,p<0.10)が抽出された。高齢者人口当たりの地域包括支援センターの保健師数は抽出されなかった。

結論 二次予防事業の実施状況には地域差がみられた。また,運動器の機能向上プログラムに関しては病院数と公民館数が多い自治体ほど実施状況が良く,今後これらの施設を活用した事業の展開が重要となってくることが考えられる。

キーワード 二次予防事業,地域差,公民館,病院,運動器の機能向上プログラム

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第61巻第13号 2014年11月

サポートベクターマシンを用いた
世界各国の平均寿命の決定要因の実証分析

田辺 和俊(タナベ カズトシ) 鈴木 孝弘(スズキ タカヒロ)

目的 平均寿命の決定要因を解明するために,世界各国の平均寿命のデータを目的変数,多種多様な指標を説明変数として用い,非線形回帰分析手法であるサポートベクターマシン(SVM)により解析する大規模実証分析を試みる。

方法 世界161カ国の平均寿命について健康,経済,政治・社会,教育・文化,地理・環境の5分野の42種の指標を用いてSVMモデルを学習し,感度分析法により指標を最適化した。

結果 13種の指標で世界161カ国の平均寿命を平均二乗誤差(RMSE)2.39,決定係数(R2)0.926という高い精度で再現するモデルを作成できた。

結論 13種の要因の中では乳児死亡率や医療費等の影響度が全体の過半を占め,長寿には健康要因が最も重要であることが明らかになった。

キーワード 平均寿命,決定要因分析,非線形重回帰分析,サポートベクターマシン

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第61巻第13号 2014年11月

都道府県の類型化からみる
医療費適正化計画についての一考察

佐藤 影美(サトウ エミ)

目的 本研究は,医療費に関連する医療供給量に関する指標,患者の動向,地域の経済活動等の指標を用いて各都道府県の医療資源を分析し,都道府県の類型化を試みることによって,医療費適正化計画についての現状を考察する。

方法 総務省や厚生労働省が公表している都道府県の指標から14変数を選定し,医療資源指標,患者指標,年齢指標,社会経済指標に4分類して用いた。初めに,各地域の傾向を主成分分析によって検討した。次に,得られた都道府県別の主成分得点を用いて,階層的クラスター分析を行い,都道府県の類型を可視化した。

結果 主成分分析の結果は,第3主成分までを採用し,第1主成分を「医療提供に関連する傾向」,第2主成分を「サービス業地域に関連する傾向」,第3主成分を「製造業地域に関連する傾向」とした。階層的クラスター分析を行った結果,47都道府県は第1階層で15クラスター,第2階層で8クラスター,第3階層で5クラスター,第4階層で3クラスター,第5階層で2クラスターを構成した。

結論 本研究において,平均寿命の格差以上に医療提供体制に格差が生じている傾向が明らかになった。医療提供体制が整い医療資源を多く備える都道府県が,必ずしも平均寿命が長いという傾向は認められなかった。医療費適正化計画を遂行する際には,他の都道府県の医療提供情報を参考にし,地域産業の特徴をもかんがみて検討することが望ましいと思料する。

キーワード 医療費適正化計画,都道府県,医療資源,平均寿命,主成分分析,階層的クラスター分析

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第61巻第13号 2014年11月

高齢者向け家事援助ボランティアに対する意識と潜在供給力

奥田 将己(オクダ マサキ) 星野 悠哉(ホシノ ユウヤ) 市田 行信(イチダ ユキノブ)

目的 インフォーマルサービス提供においてNPO法人が抱える主な課題として,財政上の問題(活動資金の工面が困難なこと)や,従事者(ボランティア)が確保できていないことがあげられる。本研究ではその課題を受け,従事に必要な経験と時間を持っている可能性が高い者の抱いている,家事援助を中心とする高齢者支援のボランティア活動へのイメージや参加意向についての調査を行った。

方法 家事援助に従事可能な経験と時間を持っている可能性が高い,配偶者等の扶養に入っている全国の40歳代から60歳代の女性に対してインターネットアンケートを行った。その結果のうち,年齢,労働日数,世帯所得,同居家族,高齢者向けボランティア(主に家事援助)への興味・イメージ・参加意向についての回答を利用して,各作業内容ごとに参加意向を持つ者の特徴を分析するためのロジスティック回帰を行った。

結果 ボランティア参加意向を持つ者の属性においては,無償であることが前提の場合「60歳代」の参加意向が強い一方で,有償になることでは「60歳代」の参加意向は高まらない傾向もみられた。有償であることで参加意向の高まる傾向は,作業内容では「清掃・洗濯」,属性では「等価所得200万円より多く300万円以下」の層に顕著であった。また,仕事を持つ者に参加意向の強さがみられる部分があり,特に「移送・送迎」で「労働日数週4日以上」の者が興味を示している傾向にあった。

結論 作業内容によっては半数以上が参加意向を示しているものもある一方で,現状のボランティア参加割合が低いこと踏まえると,かなりの数の潜在的な従事者が活用できていない可能性が示唆された。また先行研究の特徴と合わせても,60歳代の無償ボランティアにおいての参加意向は注目に値するものと考えられる。

キーワード インフォーマルサービス,家事援助,ボランティア,高齢者支援

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第61巻第13号 2014年11月

高齢者における「世代間のふれ合いにともなう感情尺度」作成の試み

-高齢者の心身の健康との関連-
村山 陽(ムラヤマ ヨウ) 高橋 知也(タカハシ トモヤ) 村山 幸子(ムラヤマ サチコ)
二宮 知康(ニノミヤ トモヤス) 竹内 瑠美(タケウチ ルミ) 鈴木 宏幸(スズキ ヒロユキ)
野中 久美子(ノナカ クミコ) 深谷 太郎(フカヤ タロウ) 谷口 優(タニグチ ユウ)
西 真理子(ニシ マリコ) 新開 省二(シンカイ ショウジ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)

目的 高齢化を背景に「世代間交流」に対する社会的関心が高まる中で,子どもとのふれ合いが高齢者の健康に及ぼす効果の機序の解明が求められており,そのためには行動の背後にある高齢者の心の動きを検討することが重要であると考えられる。そこで,本研究では子どもとのふれ合いにより生じる高齢者の感情状態を明らかにするとともに,それを測定する「世代間のふれ合いにともなう感情尺度」(以下,世代間ふれ合い感情尺度)を作成し,子どもとのふれ合いによる感情と高齢者の心身の健康との関連を検討することを目的とした。

方法 65歳以上の高齢者47名に行った半構造化インタビュー調査を元に15項目からなる「世代間ふれ合い感情尺度」案を作成し,群馬県A町在住の65歳以上の高齢者を対象に質問紙調査を実施した。調査協力者291名の中で,日常的に子どもとのふれ合いがある高齢者204名(男性84名,女性120名)を分析対象者とした。因子分析により「世代間ふれ合い感情尺度」の下位尺度を構成し,α係数を算出して信頼性を検討した。また,尺度の構造的検討を行うために確証的因子分析を行い,因子モデルの適合度の比較を行った。さらに,開発された尺度と個人属性および健康関連の変数間との得点差から妥当性を検討した。

結果 「世代間ふれ合い感情尺度」は,因子分析の結果から「被承認感」「高揚感」「自己充足感」の3つの下位尺度から構成された。各下位尺度のα係数は0.68~0.78であり,3因子構造が示された。各下位尺度得点において,子どもとのふれ合い志向が低い者よりも高い者の方が高いことが示された。また,子どもとふれ合う頻度が少ない者よりも多い者,心臓病の既往がある者より既往のない者の方が「被承認感」「高揚感」が高いことが認められた。さらに孫と同居していない者より同居している者は「高揚感」,外出頻度が少ない者より外出頻度が多い者の方が「被承認感」がそれぞれ高いことが示された。

結論 高齢者は子どもとのふれ合いを通して,ポジティブな感情を抱きやすく,それが高齢者の子どもとふれ合いたいという欲求や行動および心身の健康に影響する可能性が示唆された。今後,「世代間ふれ合い感情尺度」を用いて知見を蓄積していく中で,子どもとの交流が高齢者の心身の健康に及ぼす効果の機序を明らかにしていくことが期待される。

キーワード 世代間のふれ合いにともなう感情,世代間交流,高齢者,ポジティブ感情,心身の健康

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第61巻第15号 2014年12月

高齢者終末期ケアに携わる関係職種の
死生観と看取り観について

後藤 真澄(ゴトウ マスミ) 三上 章允(ミカミ アキチカ)
小林 きよみ(コバヤシ キヨミ) 間瀬 敬子(マセ ケイコ) 塚本 利幸(ツカモト トシユキ)

目的 病院以外の介護施設で死亡する高齢者が増加しつつある。そこで,各介護施設においては質の高い高齢者の終末期ケアが必要とされている。本研究では高齢者ケア関連施設や事業所に勤務する関係職種の「死生観」や「看取り観」の共通点や相違点を明らかにし,どのような要因が影響しているのかを探り,介護施設で終末期ケアを担当する職員の教育,チームケアのあり方の改善に役立つ基礎データを得ることを目的とした。

方法 研究対象者は,本研究者の所属する大学の介護実習関連施設・事業所で施設長の承諾が得られた15施設の看護職,介護職,相談職とした。無記名・自記式の質問票によるアンケート調査を行った。測定には,死生観では,臨老式死生観尺度を,看取り観には,FATCOD-Form B-Jを用いた。有効回答312票を分析対象とし,各因子,各尺度の職種間の相違,対象者の宗教,年齢,現在勤務する施設での経験年数と死生観,看取り観との相関関係を解析した。

結果 死生観では,介護職は看護職より「死からの回避」の得点が高い傾向がみられた。また介護職は「看取り観の前向きさ」の得点が低く,両職種に差がみられた。年齢,宗教,経験年数と死生観,看取り観の関係については,宗教と「死後の世界観」「人生における目的意識」および年齢との間に負の相関がみられた。年齢と正の相関がみられるのは,「寿命感」であり,年齢の高い人ほど,自分の寿命を受け入れている。宗教および年齢と看取り観の間には,大きな相関は確認できなかった。経験年数と死生観との間に大きな相関は確認できなかったが,看取り観との間には,「看取り観の前向きさ」で比較的大きな正の相関が認められた。経験年数の長い人ほど,死にゆく患者に前向きなることが明らかになった。

結論 今回の研究の対象者は,看護職では年齢が高くキャリアを積んでいる人が多く,介護職では比較的年齢が若い人が多く,経験年数にも幅がみられた。こうしたことから,看護職より介護職の方が「死からの回避」の得点が高い傾向がみられ,「看取り観の前向きさ」の得点が低い傾向がみられたと考えられる。死生観には,宗教の有無と年齢が影響していた。看取り観の前向きさには,経験年数の差が影響したと考えられる。看取り観の形成にあたっては,経験を重ねることが重要であり,終末期ケア教育にあたっては,よりよい経験の機会が必要であることが示唆された。

キーワード 終末期ケア,死生観,看取り観,介護,看護

論文

 

第61巻第15号 2014年12月

児童福祉施設入所児童への家庭復帰支援と
親のメンタルヘルス問題

松宮 透髙(マツミヤ ユキタカ) 井上 信次(イノウエ シンジ)

目的 児童福祉施設における,親にメンタルヘルス問題がみられる入所児童への家庭復帰支援の現況を明らかにし,その促進に向けた課題を提示することが本研究の目的である。

方法 中国地方5県に所在する児童福祉施設(児童養護施設,乳児院,情緒障害児短期治療施設,児童自立支援施設)に対し,所属する家庭支援専門相談員(FSW)への質問紙調査を行った。質問紙では入所する全児童の個々について,属性,被虐待経験の有無,親や世帯の状況などをたずね,家庭復帰の見込みおよび支援実施状況との関連性を統計的に分析した。

結果 入所児童の45.6%,とくに被虐待経験のある入所児童の68.8%の親にメンタルヘルス問題がみられた。家庭復帰支援自体活発ではないが,とくに親にメンタルヘルス問題がある場合,FSWは家庭復帰の見込みを困難と認識する傾向が明らかになった。一方で,入所期間は親のメンタルヘルス問題と必ずしも関連しておらず,その他の要因によって規定されている可能性が示唆された。また,精神科医療機関との連携も不十分な状況にあることが明らかになった。

結論 児童福祉施設に入所する児童,とりわけ被虐待児童の親にメンタルヘルス問題がみられる割合は高い。一方で,FSWからみたその家族復帰の見込みは厳しく,働きかけも積極的とはいえない。安定的な家庭復帰のためには,とりわけ親のメンタルヘルス問題に対応できる支援方策の開発や体制整備が必要である。これらを欠いたまま表面的な家庭復帰が促進されることのないよう,早急に対策を講じるべきである。

キーワード 児童福祉施設,家庭復帰支援,メンタルヘルス問題,家庭支援専門相談員(FSW)

論文

 

第61巻第15号 2014年12月

中核市における介護予防事業の評価について

-通所型介護予防プログラム参加の評価-
渡辺 美鈴(ワタナベ ミスズ) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ) 草開 俊之(クサビラキ トシユキ)
林田 一志(ハヤシダ イツシ) 河野 公一(コウノ コウイチ) 谷川 ルツ子(タニカワ ルツコ)
清水 有里子(シミズ ユリコ) 玉置 淳子(タマキ ジュンコ)

目的 本研究では,基本チェックリストを用いたスクリーニングのハイリスク者(二次予防事業対象者)のうち,通所型介護予防プログラムに3~6カ月間参加した者(教室参加者),参加しなかった者(教室不参加者)において,1年後の要介護認定に差異があるかどうかを検討した。

方法 平成23年3月1日~10月30日に二次予防事業対象者と認め,ハイリスク者として教室案内を郵送した8,586人を対象者とした。調査項目は基本チェックリスト項目と要介護認定の有無である。要介護認定は平成25年3月末日までの認定有無を使用した。教室終了後から要介護認定までの期間は10カ月から1年6カ月であった。

結果 対象者8,586人中,教室参加者は503人(5.9%),不参加者は8,083人(94.1%)であった。基本チェックリスト項目の特性は,教室参加群では運動器の機能低下が,不参加群では生活機能の低下,閉じこもり,全般的な機能低下が認められた。追跡後の要介護認定者は772人(9.0%)で,認定率は男性8.9%,女性9.0%であった。その内,要支援1,2が約60%を占めていた。教室参加の有無と要介護認定では,教室参加群の要介護認定率は6.2%,不参加群は9.2%で教室参加群が有意に低かった。女性および75~84歳において,教室参加群の要介護認定率が有意に低かった。年齢や基本チェックリスト項目を共変量としたロジスティック回帰分析から,女性では,教室不参加による要介護認定のオッズ比は1.71(1.02-2.85)であった。

結論 本研究では,短期間の追跡にもかかわらず,通所型介護予防プログラムの参加が女性において,要介護認定を減少させる効果があることを実証した。

キーワード 介護予防事業,二次予防事業,通所型介護予防プログラム,要介護認定

論文

 

第61巻第15号 2014年12月

分娩歴別,年齢別の出産体験満足度と母性意識について

-Web調査における3歳未満の児を持つ母親を対象に-
石橋 千佳(イシバシ チカ) 堀口 逸子(ホリグチ イツコ)
角倉 弘行(スミクラ ヒロユキ) 稲田 英一(イナダ エイイチ)

目的 出産体験自己評価尺度,母性意識尺度を用いて,分娩歴別,出産年齢別の特徴を明らかにすることを目的とした。

方法 対象は,100万都市のある11都道府県の3歳未満の児を持つ20〜40歳代の女性1,017人とした。方法はWebサイトを利用した質問紙調査である。質問内容は,対象者の属性,児の情報,出産状況の他,出産体験の満足度と母性意識として,出産体験の自己評価尺度(5件法)および母性意識尺度(4件法)を用いて実施した。

結果 初産婦585人,経産婦432人の計1,017人,平均出産年齢は,31.2±5.8歳であった。出産体験の自己評価の総得点の平均値は,初産婦3.56±0.68,経産婦3.81±0.58と経産婦の方が,有意に満足度が高かった(P<0.01)。出産年齢別(P<0.01)および初産婦の出産年齢別(P<0.01),経産婦の年齢別(P<0.05)では,20〜24歳で高く有意な差を認めた。母性意識の総得点の平均値は,肯定感が初産婦3.15±0.56,経産婦3.05±0.59で初産婦が有意に高かった(P<0.01)。否定感は初産婦2.22±0.52,経産婦2.31±0.52で経産婦が有意に高かった(P<0.01)。出産年齢別および初産婦の出産年齢別では,肯定感について20〜24歳で有意に高く(P<0.05),経産婦の出産年齢別では,否定感について40歳以上で有意に低かった(P<0.05)。

結論 本研究において,分娩歴別,年齢別で,出産体験の満足度と母性意識が異なることが明らかになった。出産や子育てに関する母親へのサポートは,分娩歴や年齢を考慮し,出産体験の満足度や母性意識に配慮することが効果的であると示唆された。

キーワード 出産体験,自己評価,母性意識,分娩歴,年齢,Web調査

論文

 

第61巻第15号 2014年12月

知的障害児の増加と出生時体重ならびに母年齢との関連

岡本 悦司(オカモト エツジ)

目的 知的障害児の増加の原因として出生時体重と母年齢との関連を経年推移から明らかにするとともに知的障害児の増加を説明する数理モデルを構築する。

方法 福祉行政報告例(療育手帳の新規交付件数,特別児童扶養手当の新規認定数)ならびに学校統計(学校基本調査)を経年的に分析して知的障害児の増加状況を明らかにする。また出生時体重ならびに母の平均年齢との経年的な関連を明らかにする数理モデルを構築し,今後,高齢出産がさらに進んだ場合の知的障害児の発生率を予測する。

結果 1973~2012年度の40年間で,知的障害児の出生千当たり発生率は重度では増加していなかったが中軽度障害で増加がみられ,1993年頃を境に最近の20年間の増加が著しかった。40年間の出生時体重と母年齢との関連をみると,母年齢が29歳を越えると出生時体重が急減するという逆ロジスティックカーブが観察され,1993年を境に知的障害児の発生率が急増した原因として,母年齢の上昇と出生時体重の減少による相乗効果が示唆された。母年齢と出生時体重の2要因と特別児童扶養手当の中程度知識障害の新規認定率との関連を数理モデルで検討したところ,きわめて高い適合(R2:0.995)が得られた。

結論 1973~2012年度の40年間で,母の平均年齢は4.2歳上昇し,出生時体重は200g減少した。その間,知的障害児の発生率は,中軽度を中心に確実に増加した。各年の中程度知的障害の発生率は,数理モデルを適用することにより母の平均年齢と出生時体重の2要因だけで,ほぼ完全に説明される。近年では出生時体重の減少は止まっているが,母年齢の高齢化はなおも進行しており,知的障害児の割合は今後も増加すると予想される。

キーワード 知的障害,高齢出産,低体重児,特別支援教育,数理モデル,不妊治療

 

論文

第62巻第1号 2015年1月

地域子育て支援拠点の利用状況による
幼児の生活リズム・習慣の違いの検討

及川 直樹(オイカワ ナオキ)

目的 地域子育て支援拠点(従来のひろば型)の利用状況により,幼児の生活リズム・習慣が異なるかどうか検討することを目的とした。

方法 長野県のA市内にある地域子育て支援拠点(以下,ひろば)のBひろばを利用する未就園の幼児と,その母親90組を対象とした。幼児は,0歳18名,1歳34名,2歳33名,3歳5名の計90名(男児38名,女児52名),月齢は5~41カ月(平均21.7±9.2カ月)であった。母親に対し,幼児の基本属性と平日の生活リズム・習慣に関する無記名の質問紙調査を実施した。ひろばの利用日数をもとに,週に1日以上利用するケースを定期利用群(53名,58.9%),それより少なく利用するケースを不定期利用群(37名,41.1%)とし,幼児の生活リズム・習慣の各項目における2群間の差を分析した。

結果 ひろばの定期利用群の方が不定期利用群よりも,ひろばを午前から利用することが多かった(p<0.05)。夜間の就寝・起床時刻と睡眠時間,昼寝の開始・終了時刻と睡眠時間,メディアの視聴時間といった幼児の生活リズムに関する項目において,起床時刻は定期利用群の方が不定期利用群よりも早い傾向が認められたが(p<0.10),その他の項目では有意な差が認められなかった。朝食摂取頻度,運動実施状況,主な遊び場所といった幼児の生活習慣に関する項目については,運動実施状況で定期利用群の方が不定期利用群よりも,積極的に体を動かすことが多かった(p<0.01)。主な遊び場所では,定期利用群の方が不定期利用群よりも,室内と戸外で同じくらい遊ぶことが多かった(p<0.01)。

結論 ひろばを定期的に午前から利用することは,ひろばの開所時刻に合わせた家庭生活を送ることにつながり,幼児の起床時刻に影響する可能性が示唆された。さらに,ひろばの豊かな物的・人的環境を定期的に利用することは,積極的に体を動かしたり,室内と戸外でバランスよく遊んだりするといった望ましい遊び方を幼児に定着させることが推察された。

キーワード 地域子育て支援拠点,利用頻度,未就園児,生活リズム,生活習慣

論文

 

第62巻第1号 2015年1月

男性勤労者における身体活動と環境要因との関連

河原 賢二(カワハラ ケンジ) 萩 裕美子(ハギ ユミコ) 久保田 晃生(クボタ アキオ)

目的 本研究は男性勤労者を対象に,健康づくりで推奨される身体活動の実施と環境要因との関連を検討し,勤労者における身体活動推進のための資料を得ることを目的とした。

方法 静岡県内のN社K製造所で,本研究に協力の得られた男性勤労者を対象者とした。質問紙調査で身体活動の状況,対象者の自宅周辺の環境,基本属性を調査した。身体活動の状況は国際標準化身体活動質問紙(International Physical Activity Questionnaire:IPAQ)短縮版を用いた。対象者の自宅周辺の環境は,国際標準化身体活動質問紙環境尺度(International Physical Activity Questionnaire Environmental Module:IPAQ-E)を用いた。また,基本属性は年齢,身長,体重,配偶者,同居,雇用形態,勤務形態,役職,教育年数,主観的健康観,生活満足度を調査した。統計解析は,ロジスティック回帰分析を用いて,個人の特性を調整し,推奨される23METs×時/週以上の身体活動量を満たすことに関連する環境要因のオッズ比および95%信頼区間を算出した。

結果 調査の協力を得られた810名のうち,調査項目に欠損値が1つでもあった294名を除いた516名を分析対象者とした。516名の分析対象者のうち,1週間の身体活動量が23METs×時以上の者は218名(42.2%)であった。23METs×時以上の身体活動量と関連が認められた環境要因は,自宅周辺の景観が好ましいことであった(オッズ比1.83,95%信頼区間1.21-2.77)。

考察 本研究の結果,自宅周辺の景観が好ましいことが,勤労者における健康づくりのための身体活動基準2013が推奨する身体活動の実施と関連した。これは,国内外の多くの先行研究と一致した。先行研究では,景観が余暇における歩行や総身体活動と関連した報告が多く,街の景観を良くすることが勤労者における身体活動の推進に貢献する可能性が示唆された。しかし,本研究は横断研究であること,調査項目が質問紙による主観的な評価であるなどの限界があり,縦断研究や客観的な指標による評価など,さらなる研究が必要である。

キーワード 勤労者,身体活動,環境要因,景観

論文

 

第62巻第1号 2015年1月

小児任意予防接種における未接種者の出生順位別の特性について

津田 侑子(ツダ ユウコ) 渡辺 美鈴(ワタナベ ミスズ) 谷本 芳美(タニモト ヨシミ)
藤田 愛子(フジタ アイコ) 中津留 有子(ナカツル ユウコ) 河野 公一(コウノ コウイチ)
小坂 美也子(コサカ ミヤコ) 髙栁 香里(タカヤナギ カオリ) 玉置 淳子(タマキ ジュンコ)

目的 任意予防接種行動に影響を与える因子を検討するために,児の出生順位に注目し,出生順位別にみた「受けない理由」などを明らかにすることを目的とした。

方法 2011年7~12月にかけて,大阪府高槻市に在住する1歳6カ月健診を受診する子ども1,477人の保護者を対象に,アンケート調査を実施した。質問項目は,基本属性,保護者の定期および任意予防接種に対する認知度,接種状況,ワクチン情報の入手経路,受けない理由等とした。

結果 回収した1,172部(回収率79.4%)のうち,回答者の続柄の記載がない5部を除いた1,167部を解析対象とした。対象者全体(n=1,167)における定期,任意の予防接種の認知度と接種率を明らかにした後,「未接種者」群(n=503)に対して児の出生順位別に集計した。任意予防接種を受けない理由は,出生順位に関わらず,「費用がかかる48.3%」「副反応が心配39.0%」が上位を占めていた。第1子では「副反応が心配」「予防接種の知識が少なく不安」など,予防接種そのものに対する不安感があった。第3子以上では「打っても病気にかかる」「自然感染によって抵抗力をつけていくものだと思う」など経験によるものが受けない理由となっていた。情報源として,家族や友人は出生順位に関わらず,情報源の第1位であった。より正確な情報源として母子健康手帳や予防接種手帳,保健師からの情報などが考えられるが,本研究では,母子健康手帳29.2%,予防接種手帳25.4%であり,乳幼児健診時に保健師,保健師等の家庭訪問はいずれも1.2%と著明に低かった。第1子では育児本,第2子ではテレビ,ポスター・ちらし,第3子以上では,かかりつけ小児科,ポスター・ちらしが多かった。

結論 本研究において,未接種理由の第一は費用であったが,それ以下の理由は,出生順位によって異なっていた。しかし,どの群においても,適正な情報が得られていないことが未接種行動の原因と考えられる。任意予防接種の接種率向上のためには,予防接種の費用補助と共に,母子健康手帳や予防接種手帳に任意予防接種の情報を記載すること,さらに,各種の保健活動において,専門職である保健師が積極的に介入することが必要と考える。

キーワード 任意予防接種,予防接種率,小児,出生順位,未接種理由

 

論文

第62巻第1号 2015年1月

女子看護学生の子宮頸がん予防に関する意識調査

-ワクチンの副反応報告を受けて-
村澤 秀樹(ムラサワ ヒデキ) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ)
今野 良(コンノ リョウ) 荒川 一郎(アラカワ イチロウ)

目的 2013年の改正予防接種法において,子宮頸がんワクチン(HPVワクチン)が新たに定期の予防接種の対象とされたが,同年6月,厚生労働省による積極的な接種勧奨を行わない旨の通知がなされた。本研究では,この積極的接種勧奨中止後の,女子看護学生の子宮頸がん予防に関する意識を調査することにより,今後の効果的な子宮頸がん予防対策の探索への活用を目的とした。

方法 子宮頸がん予防に関する意識を把握するため,がんの予防や治療に関する医学的知識の習得状況を踏まえ,女子看護学生に対する無記名自記式質問紙によるアンケート調査を行った。内容はヒトパピローマウイルス(HPV)の知識,予防可能性,検診受診,HPVワクチン接種に対する意識について,自由記述を含む計5問の調査を2013年10月に行った。

結果 対象女子看護学生174名中,回答者136名(回答率78.2%)。このうち,有効回答130名(有効回答率95.6%,3年生62名,4年生68名)を得た。χ2検定で各問の回答の学年間比較を行ったところ,HPVの知識に関する質問を除き,学年間の回答の有意差(p<0.05)は認められなかった。「子宮頸がんの発生にはHPVが関わっている」ことを「良く知っている」「聞いたことはある」と回答した者は97%を占め,子宮頸がんの原因としてのHPVの高い認知が認められた。「子宮頸がんが予防可能である」との回答は70%,子宮頸がん検診について「受診したことがある」または「受診したい」との回答は92%であり,検診の受診意思が高い傾向が認められた。一方で,HPVワクチンを接種したいと思うかの設問に対し,「接種したことがある」「接種したい」が68%,「接種したくない」「わからない」が32%であり,先行研究に比べて低率であった。HPVワクチンを「接種したくない」「わからない」理由として,「メディアで副作用の問題を知って」など,副反応に対する懸念の記述が7割を占めた。

結論 子宮頸がん検診については,引き続き,普及啓発,費用助成および受診しやすい機会を設けることが求められる。一方,HPVワクチンによる予防については副反応への懸念が示された。今後,副反応への検証結果に対応した説明を行うことが求められる。

キーワード 子宮頸がん,ワクチン,検診,女子看護学生,HPV

 

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第62巻第1号 2015年1月

特定高齢者が要介護1以上認定となるまでの期間

一島 志伸(イチシマ シノブ) 寺西 敬子(テラニシ ケイコ)
中林 美奈子(ナカバヤシ ミナコ) 成瀬 優知(ナルセ ユウチ)

目的 特定高齢者と判定された人の,要介護1以上と認定されるまでの期間を求めることとした。

方法 2008年4月から2011年3月の間に,生活機能評価によって特定高齢者と決定された3,539人を対象者とした。最初に決定された時の属性,運動器機能・栄養状態・口腔機能,さらに2012年1月末日現在の転帰(要介護認定状況,転出,死亡)を把握した。特定高齢者と決定されてから要介護1以上に初めて認定されるまでの期間については,男女別に対象者の25%が認定された月数として25パーセンタイル値を算出し,累積認定率をKaplan-Meier法で求めたのちに男女別に年齢階級による違いをlog-rank検定で比較した。加えて,要介護1以上の認定に対する年齢階級のハザード比を,男女別に機能低下の有無(運動器機能,栄養状態,口腔機能)を共変量としたCox比例ハザードモデルを用いて算出した。

結果 男性の25パーセンタイル値は41カ月であり,累積認定率は女性に比べて有意に高かった(p<0.05)。85歳以上では男性31カ月,女性26カ月であった。男性の65~74歳,女性の65~74歳,75~84歳では36カ月時点での累積認定率が0.20以下と認定者が少なく,25パーセンタイル値は算出できなかった。要介護1以上認定に対する年齢階級のハザード比は,年齢階級が高くなるほどハザード比は大きく,65~74歳を基準とした時に85歳以上のハザード比は男性で2.55(95%信頼区間:1.57-4.12),女性で12.20(95%信頼区間:7.68-19.37)と有意なハザード比を示した。

結論 最初に特定高齢者と決定された時から,要介護1以上認定となるまでの期間として25パーセンタイル値を求めた。その結果,85歳以上では男女別に算出でき,男性は31カ月,女性は26カ月であった。認定発生率の低さから,今回の期間ではすべての年齢階級での算出はできなかった。

キーワード 特定高齢者,要介護認定,期間,機能低下

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第62巻第1号 2015年1月

医療の地域差基礎データを用いた都道府県別平均余命の検討

中島 尚登(ナカジマ ヒサト) 矢野 耕也(ヤノ コウヤ) 長澤 薫子(ナガサワ カオコ)
小林 英史(コバヤシ エイジ) 横田 邦信(ヨコタ クニノブ)

目的 医療の地域差基礎データと都道府県別平均余命を用い,平均余命に都道府県の医療状況がどの程度影響しているかを検討した。

方法 平成22年都道府県別生命表を用い,男女別平均余命の相関を検討した。平成22年度市町村国民健康保険(国保)および後期高齢者医療制度(後期高齢者)の地域差基礎データより,都道府県別の1人当たり医療費,受診率,1件当たり日数,1日当たり医療費を抽出し,都道府県別男女別平均余命との相関を検討した。Mahalanobis-Taguchi(MT)法を用い,男女別平均余命上位10府県の医療制度別1人当たり医療費,受診率,1件当たり日数,1日当たり医療費のデータで4種類の単位空間を作成し,それぞれに対し残り37都道府県のMahalabinosの距離(D2)を求め単位空間からの乖離を検討した。単位空間と距離が乖離する都道府県間データの有意差を検討した。MT法の項目選択で寄与する項目を検討した。

結果 男女別平均余命はr=0.682と有意な正の相関を示した。都道府県別女性平均余命と国保の1人当たり医療費と1日当たり医療費,および後期高齢者の1人当たり医療費は有意な正の相関を示した。男性単位空間の国保で12都道県,後期高齢者で7道県,女性単位空間の国保で9都道県,後期高齢者で5都道県が乖離した。男性単位空間の後期高齢者では1人当たり医療費が有意に高く,女性単位空間の国保では1人当たり医療費が有意に低く,後期高齢者では受診率が有意に高かった。項目選択では1人当たり医療費および1日当たり医療費が最も有効であった。

結論 平均余命が長くなる要因として1人当たり医療費と1日当たり医療費が高額であることが明らかになった。D2が単位空間と変わらない都道府県は平均余命に今回の項目以外の要因が関与していると思われるが,D2が乖離している都道府県では平均余命上位10都道府県に比べ1人当たり医療費が過剰か不足,受診率が過剰である医療状況が見いだせた。項目選択でも1人当たり医療費および1日当たり医療費が最も寄与する項目であり,長寿には後期高齢者の医療費の関与が大きいと思われた。

キーワード 医療の地域差,平均余命,Mahalanobis-Taguchi(MT)法,Mahalabinosの距離(D2

 

論文

第62巻第2号 2015年2月

統計調査における費用対効果の検証方法に関する調査研究

阿部 正浩(アベ マサヒロ) 高畑 純一郎(タカハタ ジュンイチロウ) 坂爪 洋美(サカヅメ ヒロミ)

目的 近年,厳しい行財政改革の下で的確な統計調査の実施には限界が生じつつあり,加えて政策評価の観点から,統計調査についてその有効性や効率性について評価すべきとの指摘がなされている。しかしながら,公的統計の分野においてはこれまで政策評価の観点から有効性や効率性が検討されたことはなく,そのための明確な概念や評価指標はこれまでのところ存在していない。そこで本研究では,統計調査に関する費用対効果など一定の効果測定の考え方と手法の具体化を目的に調査研究を行った。

方法 統計調査の場合,費用が調査手法や調査対象者数でおおむね自動的に決まってしまうため,これを検討する意味はあまりない。一方,統計調査の効果については,金銭的な効果を測定ないし推計することは一般には困難であり,金銭的効果以外の国民の便益を評価できる指標を作成する必要がある。そこで,従来から用いられている政策評価手法を整理し,統計調査にも有用な評価手法を研究し,国民の便益を評価する指標についての開発を試みた。

結果・結論 まず公的統計が広く公共財と指摘されている記述を紹介し,公共財の持つ性質を説明する。経済理論的には,社会的に望ましい政府によって供給されるべき公共財の水準と,実際に各家計の意思決定に任せた場合の社会全体で供給される公共財の水準とでは,後者の方が小さくなることを理論的に示した。また,公的統計の公共財としての性質を考慮しつつ,既存の政策評価手法に関してレビューについても行った。公共投資や環境評価で主に利用されてきた手法について紹介し,公的統計の評価への適用可能性について検討した。その結果,公的統計を評価するには従来の評価方法を適用することは難しく,アンケートによる評価,すなわち仮想評価法が有力な手法としてあげられそうだとの結論に達した。さらに,公的統計の政策評価に仮想評価法が適用可能かどうかを検証するため,アンケートを試行的に実施し,調査内容と調査結果の解釈の方法について検討した。具体的には,厚生労働省が調査している代表的な公的統計の結果の一部を回答者に見せた後で,それぞれの統計の必要性や有用性などを尋ね,その結果から仮想評価法の有用性について検討した。

キーワード 公共財としての公的統計,公的統計の政策評価,政策評価手法,仮想評価法,フリーライダー問題

論文

 

第62巻第2号 2015年2月

内視鏡胃がん検診プログラムへの参加要因

新井 康平(アライ コウヘイ) 後藤 励(ゴトウ レイ)
謝花 典子(シャバナ ミチコ) 濱島 ちさと(ハマシマ チサト)

目的 がん検診受診者が近くのかかりつけ医で検診を受けられることは,利便性が高いといえるだろう。そこで,診療所での検診プログラムの普及についての探索的な研究を行う。具体的には,診療所が,内視鏡胃がん検診プログラムへの参加を決定する要因を明らかにした。

方法 内視鏡胃がん検診を診療所で実施している米子市において,内科か外科を標ぼうしているすべての診療所を対象とした郵送自記式の質問票調査を実施した。この質問票では,医師のプロファイル情報や診療所の状況についての変数が含まれている。全体で90施設に質問票を送付した。

結果 56施設から質問票の返信を得た(回答率62.2%)。検診参加・不参加別の無回答バイアスは存在しなかった。過去に内視鏡の経験があること,院長の年齢が若いこと,鳥取大学消化器内科(第二内科)医局出身であること,診療所の継承予定があることの4点が,プログラムへの参加に影響していた。

結論 内視鏡経験以外にも,人的ネットワークや診療所の存続可能性が検診プログラムの普及と関連することが示唆された。

キーワード 内視鏡,胃がん検診,質問票調査

 

論文

第62巻第2号 2015年2月

静岡県健康長寿プログラム(ふじ33プログラム)が
社会参加にもたらす効果

尾関 佳代子(オゼキ カヨコ) 筒井 秀代(ツツイ ヒデヨ) 野田 龍也(ノダ タツヤ)
中村 美詠子(ナカムラ ミエコ) 佐藤 圭子(サトウ ケイコ) 稲葉 やす子(イナバ ヤスコ)
平山 朋(ヒラヤマ トモ) 宇津木 志のぶ(ウツギ シノブ)
赤堀 摩弥(アカホリ マヤ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ)

目的 静岡県では県民の健康寿命の延伸を目指し,働き盛り世代からの生活習慣改善を図る「ふじ33プログラム」を開発した。このプログラムの柱である運動・食生活・社会参加の3項目から社会参加に焦点を当て,プログラムの効果を検討した。

方法 ふじ33プログラムは3人1組で3カ月間行う健康増進プログラムであり,2012年に実施され,延べ109人の参加者があった。プログラム参加前後に記入を行った自己チェック票から,社会参加に関する項目の実行割合を求め,前後値の比較のためにマクネマー検定を行った。また,プログラム参加前後のMedical Outcomes Study Short Form 36-Item Health Survey (SF-36)の下位尺度[身体機能,日常役割機能(身体),体の痛み,全体的健康感,活力,社会的機能,日常役割機能(精神),心の健康]の平均値を用いて,役割/社会的健康をあらわすコンポーネント・サマリースコア(Role-social component score:RCS)の平均値を求め,それの前後値の比較のために対応のあるt検定を行った。

結果 プログラム参加前後における社会参加の割合は「この3カ月間に家族以外の人と運動(スポーツ)をした」(プログラム参加前64.9%→プログラム参加後74.2%),「この3カ月間に家族以外の人とレクリエーションをした」(64.9%→78.4%),「この3カ月間に家族以外の人と奉仕活動を行った」(46.4%→57.7%),「職場や地域の趣味・文化・教育サークルに参加している」(44.9%→53.1%),「防災活動(地域防災訓練,防災組織,消防団等)に参加している」(51.5%→63.9%)が有意に増加していた。また,参加者全体のRCSの平均値の変化(53.65→55.44)は境界域有意であり,増加の傾向を示した。女性(52.53→55.30),60歳以下(54.65→56.65)においては有意に増加していた。実施後アンケートにおいても1人でプログラムを行うよりも3人1組のグループで行ったことが良かったという回答が多くみられた。

結論 プログラム修了後に社会参加に関して有意に増加した項目が複数あったことから,グループで励ましあいながら実施する「ふじ33プログラム」は,参加者の社会参加意欲を向上させる効果があったと考えられる。

キーワード 健康寿命,社会参加,健康長寿プログラム,グループ参加,SF-36,Role-social component score(RCS)

論文

第62巻第2号 2015年2月

児童養護施設における支援類型の作成

-子どもと保護者のニーズに着目して-
大原 天青(オオハラ タカハル)

目的 本研究の目的は,児童養護施設に入所する子どもの情緒と行動のニーズと入所の背景となる保護者の状態像という2つの軸から,ニーズ類型を作成することである。それによって必要とされるサービス・モデルの設定を試みた。

方法 関東圏内の児童養護施設を対象に,本研究の趣旨・目的・方法・倫理的配慮等を記載した調査票への記入を依頼した。各施設の直接支援職員を対象として,担当する小中学生の中から名前順で1名を選択してもらい,その子どもについて回答を求めた。調査票には,虐待の有無および種類,Child Behavior Checklist(以下,CBCL),入所の背景となる保護者の状態像,子どもの生活の安定度に関する項目を設けた。

結果 対象となった子ども815名(男子439名,女子376名)の平均年齢は10.5歳(標準偏差=2.6),平均入所期間は4.7年(標準偏差=3.1)であった。被虐待体験のある子どもの割合は517名(64.1%)であった。入所理由となる保護者の状態像は,Ward法によるクラスター分析によって,「家庭内の不和と未熟群(CL1)」152名(18.7%),「経済的困窮群(CL2)」138名(16.9%),「依存・知的障がい群(CL3)」270名(33.1%),「精神疾患群(CL4)」138名(16.9%),「虐待行為群(CL5)」117名(14.4%)の5類型となった。子どもの情緒と行動のニーズは,CBCLの内向尺度と外向尺度のカットオフ値から,「内向・外向正常域」209名(25.7%),「内向臨床域」123名(15.1%),「外向臨床域」158名(19.5%),「内向・外向臨床域」322名(39.7%)の4類型に分類した。以上の結果から,保護者の状態像の5分類と子どものニーズの4分類によって20類型を作成した。

結論 本研究の結果,児童養護施設に入所する子ども,およびその保護者の状態像の類型から,必要なサービス内容を策定できる可能性が示された。今後は児童養護施設におけるサービス内容を標準化するためのニーズ調査やそれに対応するサービス内容とそれを提供するための制度が担保される必要がある。

キーワード 児童養護施設,子どもと保護者の状態像,類型化,サービス内容

 

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第62巻第2号 2015年2月

運動中心の介護予防教室を修了した
高齢者のための受け皿事業

-自治体が実施している事業の形態および内容-
重松 良祐(シゲマツ リョウスケ) 大久保 善郎(オオクボ ヨシロウ) 大須賀 洋祐(オオスカ ヨウスケ)
 中田 由夫(ナカタ ヨシオ) 根本 みゆき(ネモト ミユキ)
沖 直哉(オキ ナオヤ) 田中 喜代次(タナカ キヨジ)

目的 二次予防事業は,要支援・要介護に陥るリスクの高い高齢者を早期に発見し,早期に身体活動・運動を実施させるなどの対応により状態を改善し,要支援状態となるのを遅らせることを目的としている。この事業が修了した後も,運動継続を支援することは重要である。しかし,どのような要因が継続に重要であるかについては,事業者である自治体の視点からは十分に検討されていない。本研究では,運動継続を支援している自治体の取り組み事業(以下,受け皿事業)の形態や内容を把握することとした。

方法 受け皿事業を「二次予防事業の修了後も身体活動・運動を継続していけるような場の設定やボランティアの育成など,修了生の受け皿となる環境整備事業」と定義した。全国から500自治体を抽出し,受け皿事業の実施の有無および形態・内容を尋ねる質問紙を郵送した。実施している場合は,目的と目標,概要,成果と課題を尋ねた。

結果 全体の42.2%に相当する211自治体より回答を得た。受け皿事業の実施自治体は121(211自治体の57.3%),非実施自治体は86(同40.8%),中断自治体は4(同1.9%)であった。受け皿事業の主な形態と内容は次のとおりである。①自治体は運動機会確保を目的にしつつ,交流・外出の増加や,介護・疾病の予防を目標に掲げている。②年間予算額は50万円未満か200万円以上に分散していた。③指導者や自治体職員が修了生対象の教室(直接支援型事業)への参加を呼びかけている。④教室は月1回以上の頻度で,公共施設で開かれる。⑤健康運動指導士や医療従事者が運動を30~90分間,指導する。⑥運動内容は筋力トレーニングや,ストレッチ,軽体操である。⑦参加者の主な移動手段は車やバイク,徒歩である。⑧参加者に対して様々に配慮している。このような受け皿事業を実施することで,交流・外出に効果が得られていた。多くの自治体では参加延べ人数が500人未満と限られていたが,5年以上も受け皿事業を継続できていた。一方,参加者の移動手段の確保や,スタッフ数の確保が課題に挙げられた。

結論 これら受け皿事業の形態や内容は多様であるが,自治体が高齢者の運動継続を支援する施策を講じる際の参考になると思われる。

キーワード 二次予防事業,身体活動,質問紙調査

論文

 

第62巻第2号 2015年2月

全国医科電子レセプトを用いた薬局サーベイランスの
都道府県別インフルエンザ推定患者数の評価

中村 裕樹(ナカムラ ユウキ) 川野原 弘和(カワノハラ ヒロカズ) 亀井 美和子(カメイ ミワコ)

目的 都道府県ごとのインフルエンザ患者数の推定は,感染症発生動向調査では行われておらず,薬局サーベイランスによってのみ行われているため,外的な評価を行うことができなかった。本稿では全国の医科電子レセプトの情報(NDB)を用いて薬局サーベイランスによる推定患者数の評価を行い,その推定の調整を検討した。

方法 期間は2010年9月から3シーズン分のデータを都道府県ごとに集計して用いた。NDBでの患者数と薬局サーベイランスの推定患者数から乖離率を計算した。また,両者の期間全体を通しての比較から薬局サーベイランスの推定患者数の調整を行った。さらに,薬局サーベイランスの推定患者数を用いて,薬局サーベイランスの内的妥当性の検定を行った。

結果 NDBでの患者数と薬局サーベイランスの推定患者数とのシーズンごと・都道府県ごとの乖離率の平均値および中央値はそれぞれ24.92%,18.68%であった。調整によってこの乖離率の平均値および中央値はそれぞれ9.73%,10.19%となり,大幅に改善した。また,調整後の薬局サーベイランスの推定患者数は,内的妥当性を満たしていないという仮説は確認されなかった。

結論 NDBでの患者数に対する薬局サーベイランスの都道府県ごとの患者数の過大推定および過小推定は,調整によって多くの都道府県で改善された。しかし,3シーズンの間で他のシーズンに比べて大きな過大推定もしくは過小推定が起きていたり,過大推定および過小推定の両方が起きていた場合は,この調整法では調整しきれないことが示唆された。今後は,NDBの公表時期に合わせて,1シーズンごとに取得したNDBのデータから調整率を求め,次のシーズンの推定患者数の調整を行うべきであると考えられる。

キーワード 薬局サーベイランス,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB),インフルエンザ,都道府県分析,乖離率

 

論文

第62巻第3号 2015年3月

医療施設調査に基づく東日本大震災前後の
医療施設の廃止・休止状況

川戸 美由紀(カワド ミユキ) 三重野 牧子(ミエノ マキコ) 村上 義孝(ムラカミ ヨシタカ)
山田 宏哉(ヤマダ ヒロヤ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 岩手県,宮城県,福島県の3県における東日本大震災前後の医療施設の廃止・休止状況について,医療施設調査に基づいて検討した。

方法 平成20~23年医療施設調査を統計法33条による調査票情報の提供を受けて利用した。東日本大震災前の2008年10月~2011年2月と震災後の2011年3~9月において,各月の開設・再開と廃止・休止の医療施設数を観察するとともに,震災後の超過の廃止・休止の医療施設数およびその在院患者数と外来患者数を推計した。

結果 3県において,各月の廃止・休止の医療施設数は,震災前では震災直前の施設数の0.0~0.5%であったが,震災後に沿岸部の市町村で著しく増加した。沿岸部の市町村では,震災後の超過の廃止・休止医療施設数は約250施設(震災直前の医療施設の12.3%),その在院患者数は約2,140人/日(同11.2%)と外来患者数は約8,840人/日(同11.3%)と推計された。沿岸部以外の市町村では,震災後の超過の廃止・休止医療施設数,在院患者数と外来患者数はそれぞれ震災直前の医療施設の1.2%,0.1%,0.8%と見積もられた。

結論 3県の沿岸部の市町村では,東日本大震災後に医療施設の廃止・休止が著しく増加し,その超過分は震災直前の医療施設の10%を超えると推計された。

キーワード 医療施設調査,東日本大震災,医療施設,保健統計

 

論文

第62巻第3号 2015年3月

災害後に高齢者が社会活動を再開する時期と
その促進要因に関する検討

松田 美祥(マツタ ミサキ) 呉 珠響(オウ チュヒャン) 斉藤 恵美子(サイトウ エミコ)

目的 本研究は,災害発生前から高齢者が参加していた社会活動について,災害発生後に再開して継続できる要因を再開時期別に検討することを目的とした。

方法 東北地方のA県B市内在住の高齢者を対象としたサークル参加者140名を対象に,自記式質問紙による調査を実施した。調査項目は,基本属性に関する10項目,震災後のサークル活動の参加再開に関する6項目,日頃のサークル活動に関する11項目,外出状況に関する3項目,日頃の社会活動に関する6項目を設定した。分析では,参加再開時期で2群に区分し,2群間で各変数の関連を検討するため,名義尺度についてはχ2検定,Fisherの正確確率検定を,順序尺度についてはMann-Whitney検定を行った。

結果 2012年9月時点の会員140名のうち,49名(回収率35.0%)から回答が得られ,有効回答は45名(有効回答率91.8%)であった。年齢は70歳代(40.0%)が最も多く,次いで60歳代(35.6%),80歳代(6.7%)であった。家族構成については,配偶者と二人暮らし(37.8%)が最も多く,同居者ありが独居を大幅に上回った。主観的健康については,健康と思っている人の割合(62.2%)が,健康と思っていない人の割合(13.3%)を大幅に上回った。参加再開時期について回答があった41名を分析対象とし,災害後に活動を初回より参加を再開していた人(以下,初回再開群)と,それ以降に順次参加を再開した人(以下,順次再開群)の2群に区分し,再開時の状況について比較した。その結果,初回再開群は順次再開群と比較し,再開した理由として会への責任があると回答した人,来会手段が自転車,自動車を自分で運転,徒歩と回答した人の割合が統計的に有意に高かった。また,順次再開群は初回再開群と比較し,友人に誘われたと回答した人の割合が有意に高かった。

結論 初回再開群では,会への責任感などによる主体的な参加や会場までの移動手段が再開に関連していることが示唆された。本研究の結果より,災害後早期に社会活動を再開することが困難な人に対しては,周囲からの勧誘や移動への支援があることが,活動参加の再開に有効であると考えられた。

キーワード 社会活動,参加再開,災害,高齢者

論文

 

第62巻第3号 2015年3月

東日本大震災が市町村の要介護認定率に与えた影響

大澤 理沙(オオサワ リサ)

目的 本稿の目的は,東日本大震災が高齢者の健康状態に与えた影響を,要介護認定率の変化に着目して明らかにすることである。要介護認定率には地域差があることが知られているため,要介護認定率に影響を与える要因をコントロールしたうえで,震災による影響があるのか,あるとしたらどの程度であるのかを定量的に分析した。

方法 東日本大震災が要介護認定率に与えた影響を測定するために,DID推定量を用いて分析を行った。震災によるショックを処置と考え,被災地域を処置群,非被災地域を対照群として,震災が要介護認定率に与えた影響を明らかにするため重回帰分析を行った。使用したデータは,市町村単位で集計された2009年度と2011年度の要介護認定率,介護施設定員数,病床数,高齢化率,人口密度,所得である。

結果 65歳以上要介護認定率を被説明変数,説明変数に震災ダミー,被災地ダミーのほかコントロール変数を用いた推計を行った。その結果,DID推定量は0.61となり(p<0.05),65歳以上の要介護認定率の震災前後の変化が,非被災地に比べて被災地で平均0.61ポイント高いことがわかった。また,年齢階級別では,65~74歳要介護認定率では統計的に有意な値は得られなかったが,75歳以上要介護認定率では有意に正の値が得られている。そして要介護度別の推定では,中度要介護度では統計的に有意な正の値が得られている一方で,軽度要介護度,重度要介護度では正の値が得られているものの統計的に有意な値ではなかった。

結論 本稿では,東日本大震災が市町村の要介護認定率に与えた影響を明らかにするため,DID推定量を用いた分析を行った。分析の結果,震災以外の地域的な要因をコントロールしたうえでも,震災後被災地では要介護認定率が高くなっていることが明らかになった。特に年齢階級別では,震災によって75歳以上要介護認定率が平均1.1ポイント高くなっていること,また,要介護度別では,震災によって中度要介護認定率が上昇していることが示された。

キーワード 東日本大震災,高齢者,要介護認定率,市町村,DID推定量

論文

 

第62巻第3号 2015年3月

疾病や障害をもつ被災地住民の震災後の症状と
医療資源利用の実態

横山 由香里(ヨコヤマ ユカリ) 坂田 清美(サカタ キヨミ) 鈴木 るり子(スズキ ルリコ)
小野田 敏行(オノダ トシユキ) 小川 彰(オガワ アキラ) 小林 誠一郎(コバヤシ セイイチロウ)

目的 東日本大震災で被災した地域住民のうち,難病,アレルギー,がん,身体障害者手帳,療育手帳を有する者を対象に,震災後の症状や障害の変化と医療資源の利用実態を把握する。

方法 被害が甚大であった岩手県山田町,大槌町,陸前高田市,釜石市下平田地区の住民を対象とした。2011年に18歳以上の全住民に対し,健康診査の案内に調査への協力依頼文書を添えて郵送配布した。

結果 健診を受診した11,123人中10,469人が調査に同意した(同意率94.1%)。同意者のうち,疾病や障害のある者には追加調査を実施した。難病患者56人中8人が震災後に症状が悪化したと回答した。難病患者とアレルギー患者において,震災1カ月以内に受診に影響が出た主な要因は,かかりつけ医の被災であった。本研究に参加したがん患者301人中,治療計画の変更が生じたのは18人であった。震災前より障害が悪化したと回答した身体障害者手帳所持者は182人中27人(14.8%)であった。療育手帳所持者では,大きな変化は報告されなかったが,パニックの回数や状態が増悪したとの回答が約1割を占めた。

結論 地域で生活している難病患者,アレルギー患者,がん患者,身体障害者手帳所持者,療育手帳所持者の一部で,東日本大震災後に症状や障害が悪化したことが示された。難病患者,アレルギー患者の受診に最も影響を与えていたのは,かかりつけ医の被災であった。

キーワード 東日本大震災,患者,障害者,症状や障害の変化,受診中断,かかりつけ医の被災

 

論文

第62巻第3号 2015年3月

東日本大震災被災地岩手県大槌町における精神的健康

-居住形態ごとのQOLの比較-
白神 敬介(シラガ ケイスケ) 川野 健治(カワノ ケンジ)
立森 久照(タチモリ ヒサテル) 竹島 正(タケシマ タダシ)

目的 東日本大震災の被災地域において,QOLを中心とした住民の精神的健康状態を把握し,地域でのこころの健康づくりを推進するための基礎資料の解析を行うことを目的とした。特に仮設住宅やみなし仮設といった居住形態と住民の精神的健康との関連に焦点を当てた。

方法 東日本大震災によって大きな被害を受けた,岩手県大槌町で実施された住民健康調査で得られたデータを分析した。住民健康調査は,大槌町に居住する18歳以上の者を対象とし,2012年8月から同年10月に行われた。精神的健康状態の把握のため,SF-36とK6が用いられた。

結果 調査票の回収率は33.2%であった。全体の傾向として,調査対象者の精神的健康が低い状態にあることが示された。SF-36に基づくQOLの指標では,特に身体的側面が低い傾向が示された。居住形態別の分析から,仮設住宅居住者は一般住宅居住者と比べた場合,精神的側面のQOLが低い,平均睡眠時間が短い,相談できる人物がいない,居住地の利便性において不便を感じるといった回答の割合が高い傾向がみられた。

結論 震災発生から1年半後の状況での,被災地の全般的な精神的健康状態の低さが確認された。また,居住環境によってQOLの程度が異なり,特に女性,高齢者のリスクの高さが示された。こうしたハイリスク者への継続的な支援が可能となるよう,被災地の個別の状況に応じた援助のあり方を検討していく必要がある。

キーワード 東日本大震災,QOL,居住形態,住民健康調査,精神的健康

論文

 

第62巻第3号 2015年3月

東日本大震災における避難場所の違いによる
生活習慣の実態と電話支援の取り組みについて

-福島県「県民健康管理調査」-
堀越 直子(ホリコシ ナオコ) 大平 哲也(オオヒラ テツヤ) 結城 美智子(ユウキ ミチコ)
矢部 博興(ヤベ ヒロオキ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ)
県民健康管理調査 平成23年度「こころの健康度・生活習慣に関する調査」グループ

目的 福島県立医科大学では,県からの委託を受け,東日本大震災後の原子力発電所事故に伴う放射線の健康影響を踏まえ,将来にわたる県民の健康管理を目的として平成23年度から「県民健康管理調査」を実施している。そのうち,同年の「こころの健康度・生活習慣に関する調査」回答者で,生活習慣関連の支援の必要があると判断された者に,状況確認,助言および医療機関につなぐことを目的に,保健師・看護師等による電話支援を行った。

方法 国が指定した避難区域等の13市町村の住民(区分:一般)180,604人を対象とした。電話支援の選定基準は,睡眠障害,高血圧,または糖尿病の診断を受けたが通院していない者,自覚症状が災害後悪化した者,多量飲酒が認められる者とした。

結果 有効回答数73,433人(女性56.0%,県外避難者19.1%)のうち,生活習慣支援候補者は68,785人であった。そのうち,電話支援対象者は2,882人(4.2%)で,女性は54.0%であった。また,県外避難者は,県内避難者に比べ,電話支援の選定基準に該当する項目数が有意に多く(オッズ比(OR)=1.36,p<0.001),また,「睡眠障害」(OR=1.75,p<0.001)および「自覚症状」(OR=1.44,p<0.001)のある者が有意に多かった。電話支援対象者のうち,電話番号の未記載や留守等910人(31.6%)を除く,1,972人(68.4%)に電話支援を実施した。支援の結果,受診勧奨または,健康相談等をした者の割合は,県外避難者が41.3%で,県内避難者31.5%に比べて有意に多かった(p<0.001)。

結論 県外避難者は,県内避難者と比べ電話支援対象者に該当する割合が多く,避難生活が生活習慣に影響している可能性が考えられる。また,県外避難者は,「睡眠障害」に該当する者の割合が多く,震災後早期より睡眠状況を把握し,良好な睡眠を確保できるよう助言をし,適切な支援につなげることの意義は大きい。アクセスしやすい電話支援は,避難場所を問わずに状況確認や健康相談を実施することができ,広域にまたがる避難の場合,有用な支援方法の一つと考えられた。ただし,本調査で実施した電話支援は,調査票の回答があった者のみに限定している。そのため,今後,健康づくり等に資する活動を推進していくうえで,市町村との連携を強化していくことが必要であると考える。

キーワード 東日本大震災,避難,生活習慣,支援,睡眠,危険因子

 

論文

第62巻第4号 2015年4月

OECDヘルスデータ担当者会合(2014)の報告

中山 香保里(ナカヤマ カオリ)

Ⅰ は じ め に

OECD(経済協力開発機構)では,34の加盟国から保健医療および保健医療制度に関するデータを収集し,「OECD医療統計」としてオンライン・データベースを毎年公表している1)。データベースの改善のため,加盟国(保健担当省,統計担当機関等)および関係機関(WHO,Eurostat等)が出席するOECDヘルスデータ担当官会合(以下,会合)が,年1回開催されており,データ範囲の拡大や比較可能性の向上について議論している。本稿では,2014年10月23,24日に開催された会合(於パリ,参加者数約110名)の議論について報告する。
Ⅱ 2014年OECDヘルスデータ担当者会合について

OECDの会合では,一般的に議題ごとに事務局担当者からプレゼンがあり,参加国が提示された議論のポイントについて発言する形式をとる。議長は,米国のFrancis Notzon氏が務めた。会合では,何かの議決を行うということはなく,出席者の発言を踏まえて,事務局がその場で今後の対応等について回答するか,テーク・ノートして今後の研究活動に反映されることになる(表1)。

今回は,多岐にわたる議論の中から,医療の購買力平価,乳児死亡および医療の効率性に関するOECDの取り組みについて紹介させていただきたい。なお,会合で使用されたプレゼン資料は,OECDウェブサイト2)から参照可能である。

 

論文

第62巻第4号 2015年4月

障害者雇用推進に向けた支援の条件に関する研究

-支援専門職のフォーカス・グループインタビューを用いて-
有岡 栞(アリオカ シオリ) 徳竹 健太郎(トクタケ ケンタロウ) 酒寄 学(サカヨリ マナブ)
宇留野 功一(ウルノ コウイチ) 宇留野 光子(ウルノ ミツコ) 高山 忠雄(タカヤマ タダオ)
安梅 勅江(アンメ トキエ)

目的 本研究は,障害者の就労支援に携わる専門職を対象としたフォーカス・グループインタビューを実施し,障害者雇用推進に向けた支援の条件を明らかにすることを目的とした。

方法 対象は,障害者雇用に携わる福祉施設の相談員5名および介助員6名であり,フォーカス・グループインタビュー法を実施した。内容は,相談員および介助員としての活動と経験,障害者の楽しみやニーズ,障害者雇用の可能性について,であった。ICレコーダーに録音された記録から正確な逐語録を作成した。観察記録による参加者の反応を加味し,複数の研究者および専門職で確認しながらテーマに照合して重要な言葉(重要アイテム)を抽出した。抽出した重要アイテムからサブカテゴリーを抽出し,コミュニティ・エンパワメントの7原則を用いて演繹的アプローチにより整理した。

結果 障害者雇用推進に向けた支援の条件について語られた内容から,相談員グループでは24個,介助員グループでは23個の重要アイテムを抽出した。コミュニティ・エンパワメント実現の7つの要素に基づき[目標の明確化][関係性を楽しむ][共感のネットワーク化][変化を加える][柔軟な参加様式][先を見据える][活動の意味づけ]の7つの重要カテゴリーに整理した。さらにその中でサブカテゴリーを抽出した。

結論 障害者の就労支援に携わる専門職を対象としたフォーカス・グループインタビューにより,障害者雇用の推進に向け,強みを引き出す支援,社会性を育む支援,対象者を総合的に捉えた継続的な支援の重要性が示唆された。

キーワード 障害者雇用,コミュニティ・エンパワメント,フォーカス・グループインタビュー,支援

 

論文

第62巻第4号 2015年4月

国民生活基礎調査の匿名データによる
女性と家族の喫煙状況の解析

世古 留美(セコ ルミ) 川戸 美由紀(カワド ミユキ)
永松 千華(ナガマツ チカ) 橋本 修二(ハシモト シュウジ)

目的 女性の喫煙状況について,世帯の種類および配偶者・父親・母親の喫煙状況との関連性を,平成16年国民生活基礎調査の匿名データに基づいて解析した。

方法 統計法36条に基づく匿名データを利用した。20歳以上の女性から,喫煙状況が不詳の3,510人と過去喫煙の415人を除く37,772人を解析対象者とした。女性の現在喫煙割合について,世帯の種類,配偶者・父親・母親の喫煙状況別に算定・比較した。年齢構成の影響を調整して比較するために,女性の現在喫煙者数の観察値を分子,その期待値を分母とする比(女性の現在喫煙割合の年齢調整比)を算定した。

結果 女性の現在喫煙割合は20~44歳で18.3~22.9%で,その後,年齢とともに低下した。女性の現在喫煙割合の年齢調整比は女性全体で1に対して,三世代世帯と夫婦と未婚の子のみの世帯で有意に小さく,ひとり親と未婚の子のみの世帯と単独世帯で有意に大きく,夫婦のみの世帯で有意でなかった。配偶者が非喫煙での女性の現在喫煙割合の年齢調整比は三世代世帯,夫婦と未婚の子のみの世帯,夫婦のみの世帯で0.27~0.49と有意に小さかった。母親が現在喫煙での年齢調整比は三世代世帯,夫婦と未婚の子のみの世帯,ひとり親と未婚の子のみの世帯で1.57~2.15と有意に大きく,父親が現在喫煙での年齢調整比はひとり親と未婚の子のみの世帯のみで有意に大きかった。

結論 女性の喫煙状況について,世帯の種類で異なること,配偶者と母親の喫煙状況と強く関連することが示唆され,匿名データ利用に有用性があると考えられた。

キーワード 国民生活基礎調査,匿名データ,喫煙,世帯の種類

論文

 

第62巻第4号 2015年4月

認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護事業所の
地域密着型外部評価結果における問題点・課題と改善の考察

渡辺 康文(ワタナベ ヤスフミ)

目的 地域密着型サービスの認知症対応型共同生活介護・小規模多機能型居宅介護事業所は住み慣れた地域での暮らしを支える介護サービスであり,サービス改善のための地域密着型外部評価が課されている。本調査は外部評価で事業所がたてた目標達成計画を調査して全国,地方,都道府県の実態を明らかにし,事業所のサービス向上に資することを目的とした。

方法 平成24年度に外部評価を実施した45道府県の事業所を対象に,ワムネットと2県の評価情報提供からサービス改善の目標達成計画を参照して,問題点・課題のあった評価項目の割合を算出し,上位3項目については具体的な計画内容を分類,区分した。参照時期は2013年10月6日から2014年2月23日であった。

結果 外部評価を実施した事業所は10,530カ所,目標達成計画は22,818件で特定項目に集中し,上位3項目「災害対策」「運営推進会議を活かした取り組み」「重度化や終末期に向けた方針の共有と支援」が3分の1を占めた。災害対策の割合は北日本ほど大きく,割合の大きい計画内容「地域へのはたらきかけ」では地域住民に働きかけようとする姿勢が示された。運営推進会議の割合は目立った片寄りはなく,割合の大きい計画内容「多様な参加者」では災害対策同様に地域からの協力が課題であった。重度化や終末期の割合は最小と最大の差は小さいものの,道府県では北日本ほど割合が増していて,割合の大きい計画内容は「利用者・家族との対話」であった。

結論 評価項目は68だが,問題点・課題は上位3項目の「災害対策」「運営推進会議」「重度化や終末期」等,特定の項目に集中している。災害時の協力を得たり運営推進会議の協力者を確保するため,地域住民への積極的なアプローチが求められる。重度化や終末期については,明確な方針・手順が用意され職員が理解して利用者・家族の気持ちを聞く機会が設けられ,事業所の対応を説明できる体制が望まれる。 第三者評価が義務化された施設もあり,外部評価への関心が高まると思うが評価手法の検証・見直しは欠かせず,利用者・家族のホスピタリティ向上や評価調査員の質の担保が求められる。また,情報公開は日常的な言葉と表現で閲覧者が読みやすいことが肝要で,目標達成計画の表記に配慮が必要である。

キーワード 地域密着型外部評価,認知症対応型共同生活介護(GH),小規模多機能型居宅介護(小規模),災害対策,運営推進会議,重度化や終末期

論文

 

第62巻第4号 2015年4月

一人暮らし高齢者における
他者への信頼と互酬性に関する個人の認識と健康との関連

-世間一般と居住地域に対する認識のかい離に着目して-
長谷部 雅美(ハセベ マサミ) 小池 高史(コイケ タカシ) 深谷 太郎(フカヤ タロウ)
野中 久美子(ノナカ クミコ) 小林 江里香(コバヤシ エリカ) 西 真理子(ニシ マリコ)
村山 陽(ムラヤマ ヨウ) 鈴木 宏幸(スズキ ヒロユキ) 藤原 佳典(フジワラ ヨシノリ)

目的 他者への信頼や互酬性に関する個人の認識を高め,地域の認知的ソーシャルキャピタルを醸成するには,個人の認識の特徴を詳細に把握することが重要である。そこで本研究では,一人暮らし高齢者を対象に「一般他者への信頼と互酬性」および「居住地域への信頼と互酬性」に関する認識の度合いにおいてかい離があるのか,かい離がある群(ない群)は諸特性や健康との関連においてどのような特徴があるのかを明らかにした。

方法 2011年9月に,東京都大田区A地区の一人暮らし高齢者2,569名を対象に,郵送による質問紙調査を実施した。分析対象者は,実質独居で信頼と互酬性の設問にすべて回答した980名(38.1%)とした。分析では,一般他者と居住地域への信頼(互酬性)が両方高いA群,一般他者の方が高いB群,居住地域の方が高いC群,両方が低いD群を設定した。分析手順は,4群の構成比率を算出し,各群と諸特性との関連をχ2検定(性別,暮らし向き,教育歴,居住形態,孤立状況),多重比較(年齢,居住年数),Kruskal-Wallis検定(老研式活動能力指標)を用いて検討した。個人の認識と健康指標との関連は,4群を独立変数,主観的健康感と日本語版WHO-5を従属変数とするロジスティック回帰分析を行った。

結果 個人の認識にかい離があった人は,信頼で16.7%,互酬性で16.6%であった。A群は,D群に比べて高次生活機能が自立,社会経済的地位が高く,孤立の割合が低いという特徴が示された。B群はD群に比べて高次生活機能が自立,C群は他の3群に比べて居住年数が長く,高次生活機能がA群・B群よりも低下していた。D群を基準カテゴリとしたロジスティック回帰分析(すべての諸特性を調整)の結果,主観的健康感の良好さに対する各群のオッズ比はすべて統計的に有意ではなかった。一方,WHO-5の良好さに対しては,A群のオッズ比が信頼で2.03(95%信頼区間1.33-3.10,p=0.001),互酬性で1.79(95%信頼区間1.18-2.72,p=0.007)であった。

結論 個人の認識にかいり離があった人の割合が少ないという結果は,加齢と共に生活圏が縮小するため,一般他者と居住地域への認識が一致する傾向にあることを示唆する。また,一般他者と居住地域への信頼と互酬性が両方高いことが生活状況や精神的健康の良好さと関連する一方で,居住地域への互酬性の高さが主観的健康感の良好さと関連する可能性も示唆された。そこで,一人暮らし高齢者においては,健康維持や孤立予防のために,社会参加等を通じた地域互酬性の醸成が求められる。

キーワード 認知的ソーシャル・キャピタル,信頼,互酬性,一人暮らし高齢者,主観的健康感,日本語版WHO-5

 

論文

第62巻第4号 2015年4月

要介護認定における主治医意見書の医療機関別の分布

森山 葉子(モリヤマ ヨウコ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) 宮下 裕美子(ミヤシタ ユミコ)
中野 寛也(ナカノ ヒロヤ) 松田 智行(マツダ トモユキ)

目的 要介護認定における主治医意見書の医療機関区分別の実態およびその特徴を明らかにすることを目的とした。

方法 東京都文京区で2012年3月の介護認定審査会において審査された,申請者が65歳以上であり,主治医意見書が医療機関所属の医師により記載されており,かつ現在の状況が居宅である598件の主治医意見書および介護認定審査会資料を対象とした。これらの個人情報(氏名,住所等)がマスクされた資料をもとに,主治医意見書が記載された医療機関区分別の分布および申請者の属性,さらに医療機関区分別主治医意見書の記載の有無やチェック項目の数等の特徴を分析した。

結果 医療機関区分別の分布は,診療所が53.7%,特定機能病院が13.7%,200床以上の一般病院が13.4%,200床未満の一般病院は10.7%,療養病床のある病院は6.4%であった。記載内容では,診療所および療養病床のある病院に比べ,200床未満の一般病院では自由記述の欄における未記載が多かった。また,特定機能病院および一般病院では,投薬の有無,身長・体重,特記事項等の自由記述の記載のみならず,チェックをする項目数も,少ない傾向にあった。

結論 本研究より,当該対象地域において主治医意見書の記載が最も多かった医師の所属は診療所であったが,2番目に多いのは特定機能病院であり,高度な医療を求められる特定機能病院や大規模な一般病院においても一定割合で主治医意見書が記載されていることが明らかとなった。診療所および療養病床のある病院の医師により記載された主治医意見書は,他医療機関の医師に比べ記載が充実していた。また,これらの医療機関では,作成回数が1回目より2回目以降が多く,継続した診療を通じて申請者の日常の生活状態を把握した上で主治医意見書に記入をしていることがうかがえた。200床未満の一般病院は地域医療の中心的役割を果たす病院も存在すると考えられるが,自由記述欄の未記載が多かった。特定機能病院と200床以上の一般病院では未記載項目が多く,その理由の1つとして,高齢者の日常生活を含めた状態の把握ができていない可能性が示唆された。介護保険における主治医の役割分担および住民の大病院志向に対して,医療機関選択に関する教育の検討が必要であると考える。

キーワード 主治医意見書,要介護認定,介護保険,医療と介護の連携,主治医

論文

 

第62巻第5号 2015年5月

第16回OECDヘルスアカウント専門家会合

満武 巨裕(ミツタケ ナオヒロ)

本誌においては,OECD(経済協力開発機構)の第10回ヘルスアカウント専門家会合からの議題・検討内容を報告してきた。今回は,2014年10月22日~23日に開催された第16回OECDヘルスアカウント専門家会議について報告する。
Ⅰ は じ め に

毎年,OECD本部(フランス・パリ)で行われるヘルスアカウント専門家会合では,様々な議題が検討されるが,この数年は2016年から切り替わる国民保健計算(National Health Ac­c­ounts)のガイドラインであるSHA(A System of Health Accounts)の改訂版(SHA2011)の議論が主である。

国民の保健医療支出は,傷病の治療に要する医療費に加えて,健康増進・疾病予防,健康管理,あるいは医療保障の運営費,設備整備費なども含めて捉える必要がある。こうした保健医療に関する支出は国民保健計算とよばれ,医療政策を評価するための指標の一つとなっている。

OECDは,1980年代に加盟国の国民保健計算の推計値の収集を行い,OECD Health Dataとして公表をはじめた。しかし,この時に収集したデータは,加盟国が自国の政府統計資料や国民経済計算(SNA)を活用して独自推計したものであった。そのため,各国の保健計算を,医療政策の立案・分析に利用できるように国際比較が可能なガイドラインとして,OECDが2000年に公表したものがSHA1.0であった1)。その後,多くの国で複雑化した保健医療システムをより正確にモニタリングするため,2011年にSHA1.0の改訂版がSHA2011として公表された2)。将来は,WHO加盟国の利用も想定されており,SHA2011はさらに幅広い国々に活用されていくことなる。

論文

 

第62巻第5号 2015年5月

介護老人福祉施設職員の「介護実習指導を通じての学び」の
内容に関する研究

山本 綾美(ヤマモト アヤミ)

目的 介護老人福祉施設の職員の「介護実習指導を通じての学び」の内容を明らかにし,実習に対する関心や,職員の自己成長を促す実習の体制を構築するための資料を得ようとした。

方法 首都圏の介護老人福祉施設250施設の職員(「窓口者」「フロア長」「一般職員」各施設1人ずつ)を対象に,郵送法による自記式質問紙調査を実施した。本研究では,「フロア長」を“学生が実習を行うフロアの長”,「一般職員」を“フロア長以外の実習を担当する介護職員”とした。

結果 有効回答は82施設の164人であった(有効回答率32.8%)。因子分析の結果,「介護実習指導を通じての学び」の内容として,“実践の振り返り”“施設の評価と職員教育”“利用者支援の新たな視点”“指導方法”“養成校とのパイプ”“仕事への愛着”の6因子が抽出された。相関分析の結果,実習指導継続希望は6因子すべてと正の相関がみられ,“仕事への愛着”とは中程度の相関がみられた。また,「フロア長」「一般職員」を独立変数にt検定を行った結果,6因子のいずれにおいても有意な差はみられなかった。

結論 施設職員の「介護実習指導を通じての学び」を促していくことで,実習指導継続の希望,実習に対する関心を高められる可能性があることが示唆された。実習指導に携わる職員の学びを促す実習体制の構築が今後の課題である。

キーワード 介護実習指導を通じての学び,実習指導者,介護職員,介護老人福祉施設

 

論文

第62巻第5号 2015年5月

介護老人福祉施設における褥瘡対策に関する
職員教育の実態とその関連要因

三谷 佳子(ミタニ ヨシコ) 永野 みどり(ナガノ ミドリ)
緒方 泰子(オガタ ヤスコ) 岡本 有子(オカモト ユウコ) 五十嵐 歩(イガラシ アユミ)

目的 介護老人福祉施設での褥瘡推定発生率は1.21%だが,半数は重度の褥瘡だと指摘されている。介護老人福祉施設は他の介護保険施設と比べ,介護に最も重点をおいた施設だが,介護職の褥瘡ケアに関する知識不足や,褥瘡処置技術に対する不安が報告されている。介護老人福祉施設における褥瘡対策状況を見直し,そこに勤める職員への教育について検討することは,介護老人福祉施設のケアの質や入所者のQOLの観点からも重要である。そこで本研究では,介護老人福祉施設における褥瘡ケアに関する職員教育の実態とその関連要因を検討することを目的とした。

方法 全国の特別養護老人ホーム5,800施設を対象に,郵送法にて質問紙調査を行った。回収数は2,731件で,そのうち褥瘡対策状況に関して回答のあった2,723件を有効回答とし分析を行った。

結果 回答者は看護職員が1,920人(70.5%),開設主体は社会福祉法人が2,309施設(90.3%)であり,褥瘡有病割合は3.0%であった。褥瘡対策チームのある施設は1,275施設(51.0%),褥瘡対策のための職員教育を実施している施設は1,283施設(49.1%)であった。職員教育で取り上げられているテーマは「褥瘡発生予防の勉強会」「褥瘡予防の用具等に関する事」「褥瘡処置・ケアの手順の実技」が多かった。職員教育の手法で最も多かったのは「講義」(31.3%)であった。職員教育の有無と,施設状況,加算算定状況,褥瘡対策状況,入所者の状況,職員状況との関連を検討した結果,職員教育あり群では「同一法人または関連法人が開設・運営する医療機関」を有する割合が有意に多かった(p=0.002)。職員教育の有無は,褥瘡対策チーム・褥瘡対策指針の有無と有意に関連していた(p<0.001)。また,職員教育あり群の方が円座の使用割合は有意に少なかった(p=0.01)。しかし,一方で職員教育あり群でも554施設(54.8%)では円座を使用していた。

結論 職員教育の実施には医療機関との連携体制が関わっており,他の医療機関のサポートが重要であると考えられる。また,褥瘡対策への取り組み状況に施設間で差があることが確認された。一方で,職員教育は褥瘡ケアの新しい知識の普及に有用だが,実際の褥瘡ケアに有用かつ新しく正しい情報が教育されていない,もしくは職員教育を実施しているにも関わらず実際の褥瘡ケアに教育内容が反映されていない施設が少なくないことも示唆された。

キーワード 褥瘡,職員教育,介護老人福祉施設,ケアの質

論文

 

第62巻第5号 2015年5月

グループホーム入居者の退去先の決定要因

岸田 研作(キシダ ケンサク) 谷垣 靜子(タニガキ シズコ)

目的 グループホーム(以下,GH)入居者の退去先の決定要因を明らかにすることとした。

方法 全国のGHから無作為に抽出された6,064の事業所を対象に調査を行った。最終的に分析対象となったのは,1,415のGHの入居者および過去1年間の退去者(計11,787人)である。退去先の決定要因を多項ロジットモデルで分析した。

結果 看護師を配置しているGHでは,老人保健施設への退去が少なかった。看取りに取り組む意向があるGHでは,一般病院への退去が少なかった。母体法人が医療機関や介護施設を持つGHでは,医療機関や介護施設への退去が多かった。

結論 看護師の配置は,老人保健施設への退去確率を低下させるものの,療養病床や一般病院への退去確率に影響しなかったことから,医療依存度が高い者の入居継続を促進する効果は限定的であると考えられる。看取りに取り組む意向があるGHでは,医療依存度が高い入居者でも受け入れることにより,一般病院への退去が少ない。母体法人が医療機関や介護施設を持つGHでは,重度化した入居者を母体法人が有する医療機関や介護施設に入院・入所させている可能性がある。

キーワード グループホーム,退去者,看取り

 

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第62巻第5号 2015年5月

小児科定点医療機関における内科標ぼうの有無による
報告患者年齢構成の違いについて

船山 和志(フナヤマ カズシ) 田代 好子(タシロ ヨシコ)飛田 ゆう子(トビタ ユウコ)
段木 登美江(ダンギ トミエ) 高井 麻実(タカイ アサミ) 上原 早苗(ウエハラ サナエ)
畔上 栄治(アゼガミ エイジ) 水野 哲宏(ミズノ テツヒロ)

目的 感染症発生動向調査事業における小児科定点医療機関(以下,小児科定点)からの報告において,内科標ぼうの有無による患者の年齢構成の違いを検証した。

方法 横浜市における小児科定点から報告された感染性胃腸炎患者の年齢構成を,全小児科定点および小児科定点のうち,小児科を有する一般診療所(主たる診療科が小児科)において,内科標ぼうの有無でそれぞれ比較した。

結果 全小児科定点と小児科定点のうち,小児科を有する一般診療所(主たる診療科が小児科)のどちらにおいても,内科標ぼうの有無で年齢構成に有意な違いがみられた。

結論 地域によって内科標ぼうのある小児科定点の割合が異なる可能性が考えられることから,全国や地域間における患者の年齢構成の比較や,年齢ごとの罹患数を推計する際には,定点の内科標ぼうの有無についても考慮する必要があると考えられた。

キーワード 感染症発生動向調査,小児科定点医療機関,内科標ぼう,年齢構成

 

論文

第62巻第5号 2015年5月

インフォームド・コンセントと
インフォームド・チョイスの理想と現実

-患者の性差による分析-
塚原 康博(ツカハラ ヤスヒロ)

目的 患者調査から得られたデータを使用して,治療方法と薬の選択に関するインフォームド・コンセントとインフォームド・チョイスの理想と現実において,患者の属性が影響しているかを検証した。患者の属性として,性別,年齢,学歴を取り上げたが,性別のみに一貫した傾向がみられたので,患者の属性のうち,性別に限定した分析結果を報告する。

方法 2004年に関東,中部,近畿の各地方の患者を対象に実施された『患者さんの「医療への参加」に関する意識調査』のうち,治療方法と薬の選択に関するインフォームド・コンセントとインフォームド・チョイスの理想と現実に関する質問と患者の属性に関する質問から得られたデータを使用し,クロス集計表による分析およびMann-Whitney検定による分析を行った。

結果 治療方法と薬の選択に関するインフォームド・コンセントとインフォームド・チョイスにおいて,女性のほうが男性よりも患者の意向を重視した決定を望んでおり,現実においても女性のほうが男性より患者の意向を重視した決定がなされていると感じていることが示された。

結論 上記の結果が得られた理由として,女性は,防衛的で損失回避的な性質があることが考えられた。医師と対面する場合でも,損をしないように,危害を加えられないようにしたいため,より自分の意思を尊重してもらいたいという希望が強く,医師と対面する場面でも,男性は余計なコミュニケーションをしないが,女性は安心を得られるような丁寧なコミュニケーションを求めていると考えられる。そして,現実の場面でも,女性のほうが不安解消のために積極的にコミュニケーションをとるため,より患者の意思を尊重してもらう機会が増え,実際にもそうなっていると考えられる。

キーワード インフォームド・コンセント,インフォームド・チョイス,性差,治療方法,薬の選択

 

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第62巻第5号 2015年5月

北海道における脳梗塞アルテプラーゼ静注療法拠点病院への
自動車アクセス時間と地域格差改善

西條 泰明(サイジョウ ヤスアキ) 中木 良彦(ナカギ ヨシヒコ) 川西 康之(カワニシ ヤスユキ)
吉岡 英治(ヨシオカ エイジ) 伊藤 俊弘(イトウ トシヒロ) 吉田 貴彦(ヨシダ タカヒコ)

目的 北海道内の居住地域から,脳梗塞アルテプラーゼ静注療法の実施できる脳卒中急性期医療拠点病院への自動車アクセス時間について地理情報システム(GIS)ソフトウエアを用いて推定し,またアクセス時間を短縮することで改善するための拠点病院配置案を示すことを目的とした。

方法 北海道医療計画に掲載されている61医療機関を脳卒中急性期医療拠点病院とし,平成22年国勢調査における町丁字別人口に1人以上の居住者が存在する地区ごとに,直近の拠点病院への自動車アクセス時間を推定した。二次医療圏・市町村ごとのアクセス時間は町丁字別人口居住者数の重み付けをした平均値として算出した。またアクセス時間を改善するための拠点病院配置案については,二次医療圏ごとにアクセス時間上位の二次医療圏へ,7医療機関を新たに割り当てたアクセス時間改善案の検討も行った。

結果 61拠点病院へのアクセス時間について,平均60分以上となる二次医療圏が6医療圏存在し,うち90分以上は5医療圏であった。アクセス時間を改善するための拠点病院追加案については,①二次医療圏でアクセス時間が平均60分以上であり,医療圏内に拠点病院が設定されていない6医療圏,②アクセス時間60分以上に該当する人数が,約7万4千人と医療圏では2番目に多い1医療圏に1拠点病院を追加したと仮定した。以上,計68拠点病院とした場合の二次医療圏ごとのアクセス時間を計算すると,平均60分以上は1医療圏のみとなった。

結論 本研究では,GISソフトウエアを用いて,特に二次医療圏ごとの拠点病院への平均アクセス時間を示した上で,北海道の現状を考えた脳卒中急性期医療拠点病院の例を示した。脳梗塞急性期治療については,二次医療圏や自治体ごとのアクセス状況を検討し,地域の現状を考えて改善案を考えていく必要があると考える。

キーワード 脳梗塞,遺伝子組み換え組織プラスミノゲンアクチベーター(rt-PA,アルテプラーゼ),拠点病院,地理情報システム(Geographic Information System:GIS),アクセス時間

 

論文

第62巻第6号 2015年6月

施設入居後の高齢女性の主観的幸福感について

-友人関係と高齢期の生き方を中心に-
鈴木 依子(スズキ ヨリコ)

目的 施設入居後の環境適応について,高齢期の望ましい生き方に対する志向の違いによって,友人関係の形成に差があるかどうかを検討した。また,主観的幸福感が,高齢期の望ましい生き方の認識や施設入居後の友人関係形成に関連があるかどうかを検討することを目的とし,今後,高齢期に住み替えを行う場合の基礎資料を得ることとした。

方法 対象者は東京都のケアハウスの居住者で,都内のケアハウスに調査協力を依頼し,生活相談員を通して調査趣旨に賛同の得られた居住者に対して,調査票を配布し無記名での回答を求め,郵送により回収した。有効回収数は428,有効回収割合は71%であった。施設職員による代理回答は求めなかった。このうち配偶者のいない女性278名のデータのみを用いた。調査内容は,基本属性,高齢期の生き方,友人関係,主観的幸福感とした。

結果 「変化・挑戦志向」的生き方をしている者は,主観的幸福感が高かった。提供サポートと受領サポートには主観的幸福感との関連が見られなかった。ただ,生き方が消極的な群で提供サポートに満足している場合に主観的幸福感が高かった。

結論 消極的な生き方の者が主観的幸福感を得ることができるように,彼らが施設内の友人に対して,サポートを提供できるような環境を整えることの重要性が示唆された。

キーワード ケアハウス入居者,高齢期の生き方,友人関係,主観的幸福感

論文

 

第62巻第6号 2015年6月

柔道整復師が介入する被災地における訪問機能訓練事業の効果

若井 晃(ワカイ アキラ) 豊嶋 良一(トヨシマ リョウイチ) 櫻田 裕(サクラダ ユタカ)
松本 浩二(マツモト コウジ) 早坂 健(ハヤサカ タケシ) 中川 裕章(ナカガワ ヒロアキ)
三谷 誉(ミタニ ホマレ) 藤田 章一(フジタ ショウイチ) 星山 佳治(ホシヤマ ヨシハル)

目的 東日本大震災後,被災地では環境の大きな変化から閉じこもり状態となる傾向にあるという。閉じこもりから生活不活発病につながり要介護状態へと移行するといわれ,最終的には死亡のリスクとなり得る。こうしたリスクを表面化する以前に食い止める方法が求められている。宮城県柔道整復師会では,柔道整復師が閉じこもり予防,支援の一つとしての訪問機能訓練を実施して,身体機能の向上,心理・社会的機能の向上を図り,活動意欲向上の実現を試みている。この試みが被災者の要介護・要支援への移行防止に役立つかどうかを検討することを目的とした。

方法 仙台市,石巻市,塩竈市,気仙沼市,および東松島市にて各地域包括支援センターから紹介された,もしくは接骨院に通院している者のうち,①被災した者,または被災した家族,②二次予防事業対象者に該当された者,または候補の者(自立判定を含む),③65歳以上で膝痛,腰痛の既往があり,生活不活発病に該当した者のいずれか1つに該当する者28名とした。柔道整復師による訪問機能訓練を実施して,心身機能および構造分野,健康に関する体力要素分野,ADL,IADL分野,QOL分野の4項目分野に改善がみられるかどうかを訓練前後で比較した。調査期間は,平成25年1月10日~3月17日とした。

結果 心身機能分野では,筋力,持久力,痛みについて有意に改善を認めた(p<0.05)。また健康に関する体力要素分野では,握力,開眼片脚起立時間,Timed Up&Go,5回椅子立ち上がりテスト,すべての項目において有意に改善を認めた(p<0.05)。ADL,IADL分野では,ADLに対する自己効力感の改善を認めた(p<0.05)。QOL分野では,一つずつの項目では有意差はみられなかったものの,QOLの項目合計を表す自己効力感に有意な改善を認めた(p<0.05)。

結論 柔道整復師が介入した訪問機能訓練によって,身体機能,健康に関する体力要素,日常生活や外出・参加に対する自信などの向上が図られたことから,これにより閉じこもりが解消され,対象者の望む生活を取り戻せる可能性が示唆された。

キーワード 被災地,柔道整復師,訪問機能訓練,閉じこもり状態,生活機能

論文

 

第62巻第6号 2015年6月

孤独感による自殺死亡と同居人の有無の関連

平光 良充(ヒラミツ ヨシミチ)

目的 孤独感を原因・動機とする自殺死亡と同居人の有無の関連について,性・年齢別に明らかにすることを目的とした。

方法 自殺統計原票データを内閣府において特別集計した結果を分析に使用した。分析対象は,2009~2011年における自殺死亡者とし,自殺の原因・動機として「孤独感」が選択された者を孤独感による自殺死亡と定義した。自殺死亡率は,2009~2011年における自殺死亡数を2010年国勢調査人口の3倍で除して算出した。自殺死亡率比は,同居人の状況が「なし」の者(以下,独居群)の自殺死亡率を,「あり」の者(以下,同居群)の自殺死亡率で除した比として算出した。

結果 2009~2011年における自殺死亡数は男性65,879人,女性28,310人であり,そのうち孤独感による自殺死亡数は男性1,186人,女性627人であった。独居群では,男女とも,年齢が高くなるにつれて孤独感による自殺死亡率が上昇していた。一方,同居群では,孤独感による自殺死亡率は80歳未満では年齢による明らかな変化はみられなかったが,80歳以上では上昇していた。独居群,同居群ともすべての年齢において,男性の方が女性より孤独感による自殺死亡率が高かった。孤独感による自殺死亡率比は,男性では70~79歳,女性では60~69歳で最大であり,70歳以上では男性の方が女性より大きかった。

結論 独居は,性・年齢に関わらず孤独感による自殺死亡の危険因子であり,その影響は70歳以上では男性の方が女性より大きい可能性が示唆された。また,独居群,同居群ともに高齢者では孤独感による自殺死亡率が上昇していることから,同居人の有無に関わらず高齢者の孤独感の解消を行うことが自殺対策として必要になると考えられた。

キーワード 自殺死亡,孤独感,同居人,自殺統計原票

論文

 

第62巻第6号 2015年6月

妊婦健康診査における公費負担と母子保健衛生に関する地域相関研究

中野 玲羅(ナカノ レイラ) 佐藤 拓代(サトウ タクヨ) 磯 博泰(イソ ヒロヤス)

目的 妊婦の経済的負担の軽減を図り,安心して妊娠・出産ができる体制を確保することを目的として,平成21年より受診が望ましいとされる妊婦健康診査14回分の公費負担が行われている。しかしながら,都道府県ごとの公費負担額にはばらつきがあり,最大で3倍もの格差が生じている。また,近年,分娩が開始して初めて医療機関を受診する,あるいは救急隊要請を行う未受診妊婦あるいは飛び込み出産と呼ばれる事例が顕在している。未受診妊娠は流早産,低出生体重児,NICU入院も多く,母子ともに医学的にリスクの高い事例であるが、未受診の理由としては経済的問題が最も多く,約3割を占めている。このことから,妊婦健康診査における公費負担は,健診受診の促進につながり,ハイリスクな未受診妊娠を減少させる可能性があると考え,平成21年から23年までの都道府県ごとの公費負担額と母子保健衛生指標との関連を分析した。

方法 妊婦1人当たりの健診受診回数,満11週以内の妊娠届出割合,出生率,合計特殊出生率,低出生体重児割合,死産率,周産期死亡率,人工妊娠中絶実施率について,それぞれ全14回分の公費負担が開始された平成21~23年前後の値を用い,妊婦健診1人当たりの公費負担額との相関関係を調べた。さらに,妊娠届出週数に対する母の年齢の影響についても検討した。

結果 都道府県ごとの妊婦健診1人当たりの公費負担額は,満11週以内の妊娠届出割合との間に正の相関(r=0.15~0.31)を,人工妊娠中絶実施率とは負の相関(r=-0.19~-0.31)を示した。妊婦1人当たりの健診受診回数,出生率,合計特殊出生率,低出生体重児割合,死産率,周産期死亡率は公費負担額との間に明らかな相関はみられなかった。満11週以内の妊娠届出割合は出生時の母の平均年齢との間に正の相関(r=0.27~0.36)がみられた。

結論 妊婦健康診査における公費負担額の拡充は,妊娠早期の妊娠届出を促進し,人工妊娠中絶を抑制する可能性が示された。また,低年齢の妊婦に対する妊娠届出の重要性に関する啓発が必要と考えられた。

キーワード 母子保健,妊婦健康診査,公費負担,妊娠届出,人工妊娠中絶

論文

 

第62巻第6号 2015年6月

在宅ケアにおける医療・介護職の多職種連携行動尺度の開発

藤田 淳子(フジタ ジュンコ) 福井 小紀子(フクイ サキコ) 池崎 澄江(イケザキ スミエ)

目的 本研究では,在宅ケアにおける医療職と介護職を含めた多職種による連携行動を評価できる尺度を開発し,その関連要因を検討することを目的とした。

方法 先行研究をレビューし,医療職や介護職との討議,さらにプレテストを経て作成した,多職種連携行動尺度について,3地域で在宅ケアを提供している医師,看護職,薬剤師,介護支援専門員,訪問介護従事者を対象とした質問紙調査を実施した。

結果 配布した1,526票中,665票の回収が得られ362票を分析に用いた。項目分析と因子分析(主因子法,プロマックス回転)の結果より項目の取捨選択を行い,最終的に“意思決定支援”,“予測的判断の共有”,“ケア方針の調整”,“チームの関係構築”,“24時間支援体制”の5因子構造の17項目からなる尺度を作成した。信頼性として,Cronbachのα係数は0.94,再テスト法による相関係数は0.91であり,内的一貫性および再現性が確認された。併存的妥当性として,地域の連携基盤やチームの連携達成度に関する自己評価とは,いずれも0.40以上の有意な相関を示した。また,関連要因として,多職種連携研修会や在宅終末期ケア研修受講がある場合,または過去1年間に終末期ケアを経験していた場合は,多職種連携行動の得点が有意に高かった。

結論 開発した尺度は,多職種連携行動を測定する尺度としての信頼性,妥当性を有すると考えられた。また,連携を高めるためには,実践的な知識や経験が必要であり,こうした機会を積極的に地域でつくりだす必要がある。今後は,本尺度を在宅ケアに従事する医療職と介護職の連携の評価とし,地域内での改善策を検討する際に活用することも可能と考える。

キーワード 多職種連携,在宅ケア,行動尺度,連携評価

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第62巻第7号 2015年7月

市区町村単位の既存統計資料を活用した地域特性の把握

-地域診断に備えて-
安藤 実里(アンドウ ミノリ) 嶋田 雅子(シマダ マサコ) 若林 チヒロ(ワカバヤシ チヒロ)
 新村 洋未(シンムラ ヒロミ) 笹尾 久美子(ササオ クミコ) 加藤 朋子(カトウ トモコ)
島田 美喜(シマダ ミキ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 柳川 洋(ヤナガワ ヒロシ)

目的 政府が公表している市町村単位の統計資料を用いて,「健康日本21(第二次)」などの健康づくり計画の策定と実績を評価するための簡便なツールを作成し,地方自治体が実施する健康づくり政策策定のための基礎資料を効率的に収集し,活用することを目的とした。

方法 総務省統計局のe-Statや各府省のホームベージに掲載されている統計資料と一般財団法人厚生労働統計協会などの団体が刊行している統計資料のうち,市町村単位の集計成績が利用できるもののリストを作成する。さらに,このリストを用いて簡便に市町村の地域特性を把握するための評価シートを作成した。

結果 利用可能な市町村単位の統計資料のうち,健康づくり政策の策定に役立つものを選定し,①基礎データ項目(e-Statを含む),②人口動態・寿命に関するもの,③保健・医療・福祉に関するものの3つのカテゴリーに分けて,それらの名称,所在先(リンク先アドレス),収録資料の内容の総覧を作成した。その上で,選定した統計資料を用いて,対象とする自治体の値と全国,都道府県の平均値(標準値)とを比較するための簡便な評価シートを作成した。時系列データが利用できる資料については,標準値との比較の際に偶然のばらつきによる判断の誤りや年齢構成の影響を避けるために,可能な範囲で単年ではなく5年間の発生数の合計や標準化死亡比などを利用することとした。具体例として,1つの自治体(市レベル)を取り上げて,人口高齢化に関する項目を中心にして,評価シートにデータを入力し,作成した指標の妥当性を検証した。

結論 今回作成した市町村別統計資料リストと評価シートを用いることにより,基本的な地域特性を把握するための地域診断を,より効率的かつ簡便に行うことができると考える。しかし,政府が公表している市町村単位の統計資料には限りがあり,ここに示したリストとシートだけでは十分ではない。対象とする自治体および都道府県がもっている統計資料も有効活用することにより,地域診断の内容と精度を充実させたい。

キ-ワ-ド 既存統計資料,地域診断,健康日本21,e-Stat,地域特性評価シート,市町村別指標

 

論文

第62巻第7号 2015年7月

介護サービス情報公表システムを用いた
岐阜県の高齢者入所施設のケアの質に関する研究

小島 愛(コジマ メグミ) 大久保 豪(オオクボ スグル)

目的 本研究の目的は介護サービス情報公表システムの運営状況チェック項目のうち,実施割合の低いものを明らかにすること,そして他者視点での評価(利用者アンケートや第三者評価)の実施状況を明らかにした上で,実施割合の低い項目との関連を明らかにすることとした。

方法 2014年4月から5月にかけて,介護サービス情報公表システムから岐阜県の高齢者入所施設の情報を収集した。調査対象の施設は介護老人福祉施設(以下,特養)114施設,介護老人保健施設(以下,老健)67施設の計181施設とした。調査対象の項目は,事業所の詳細および運営状況に掲載されているチェック項目とした。運営状況チェック項目について項目ごとの実施割合を計算し,50%未満であった項目を抽出した。ここで抽出した項目について,入所者アンケート実施の有無および第三者評価実施の有無とのクロス集計を行い,Fisherの直接確率検定を行った。

結果 入所者アンケートを行っていたのは84.5%,第三者評価を行っていたのは12.2%であった。運営状況チェック項目149項目のうち,102項目は実施割合が80%以上であった。実施割合が50%未満の項目は「成年後見制度又は日常生活自立支援事業を活用した記録がある」(入所者アンケートの有無による違いp=0.098;第三者評価の有無による違いp=0.005),「食事の開始時間を選択できることが確認できる」(0.665;0.096),「食事の場所を選択できることが確認できる文書がある」(1.000;0.008),「地域の研修会に対する講師派遣の記録がある」(0.071;0.133),「介護相談員又はオンブズマンとの相談,苦情等対応の記録がある」(0.013;0.171),「第三者委員との会議記録がある」(0.628;0.002),「地域の消防団,自治体等との防災協定書がある」(0.837;0.256),「自ら提供するサービスの質について,自己評価を行った記録がある」(0.536;0.037),「介護及び看護の記録について,利用者又はその家族等に対する報告又は開示を行った記録がある」(0.319;0.298),「精神的ケアに関する従業者研修の実施記録がある」(0.047;0.075),「在宅で療養している要介護者が緊急時に入所することについて記載があるマニュアル等がある」(0.259;0.356),「在宅で療養している要介護者が緊急時にショートステイを利用することを定めている文書がある」(0.281;0.318)であった。

結論 運営状況チェック項目のうち,実施割合が50%未満のものは12項目あり,一部の項目では入所者アンケートや第三者評価といった他者視点での評価を行っている施設で実施割合が高くなっていることも示唆された。

キーワード 介護の質,高齢者入所施設,質の向上,介護保険

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第62巻第7号 2015年7月

低出生体重児出生率の地域差に関する検討

芹澤 加奈(セリザワ カナ) 扇原 淳(オオギハラ アツシ)

目的 低出生体重児は,生活習慣病等の発症リスクが高いことが知られているが,2000年代以降,わが国では,低出生体重児出生率が増加している。低出生体重児の出生に関連する要因の中でも,時間的空間的な特徴は明らかになっていない。そこで本研究では,都道府県レベルでみた低出生体重児出生率の年次推移について検討し,低出生体重児出生の時間的空間的な偏在とその特徴について明らかにすることを目的とした。

方法 厚生労働省,総務省統計局公表の都道府県別指標データから,1975年,1992年,2009年の2,500g未満出生率を抽出した。3つの年次の低出生体重児出生率を白地図上に色分けし,視覚化した。次に,抽出した年次データを用いて,都道府県別に低出生体重児出生率の増加率を算出した。

結果 1975年では,低出生体重児出生率の高かった上位5県は沖縄県,佐賀県,宮崎県,熊本県,高知県で,九州沖縄地方に集中していた。低い県上位5県は,青森県,宮城県,山形県,長野県,埼玉県で東北地方に多かった。1992年では,沖縄県,福岡県,静岡県,栃木県,佐賀県の順で高かった。2009年では,山梨県,沖縄県,島根県,鹿児島県,宮崎県の順で高かった。1975年を基準年とした2009年の低出生体重児の増加率は,山梨県(206.6%),長野県(193.9%),島根県(188.8%),青森県(187.2%),栃木県(183.1%)の順で高かった。

結論 わが国の低出生体重児出生率は周産期医療体制の整備とともに増加していった。都道府県別の低出生体重児出生率は,1975年には九州沖縄地方に多く,1992年には九州沖縄地方に加えて静岡,栃木といった本州の県で高い傾向がみられた。2009年には,再び九州沖縄地方で高い傾向がみられた。低出生体重児出生率の増加率(2009年/1975年)が高かった県は,周産期医療に関わる資源が高い可能性が考えられた。今後,低出生体重児出生率のリスク要因の分析に際しては,正・負双方の要因に注意した分析が求められる。

キーワード 低出生体重児,出生率,都道府県,年次推移

 

論文