論文記事
第70巻第2号 2023年2月 ヘルスキーパー雇用企業に対する
近藤 宏(コンドウ ヒロシ) 石崎 直人(イシザキ ナオト) 福島 正也(フクシマ マサヤ) |
目的 近年,事業所内に設置された施術所(治療室)において産業医等と連携して社員の健康維持,増進を図るため,あん摩マッサージ指圧および鍼灸の施術を行う視覚障害者がヘルスキーパーとして企業に雇用される機会が増加している。そこで,ヘルスキーパーの雇用状況や雇用に対する意識について明らかにするために調査を行った。
方法 調査対象は,関東甲信越地区においてヘルスキーパーを雇用している企業206社とした。調査は,無記名による自記式のアンケート調査により実施した。調査項目は,調査対象企業の基本属性,ヘルスキーパーの雇用と意識,新型コロナウイルス感染症による業務への影響に関する項目とした。
結果 54件の回答があった(回収率26.2%)。企業の主な業種は,サービス業11件(20.4%)が最も多く,次いで情報通信業9件(16.7%)であった。ヘルスキーパーの雇用人数の中央値は2.5人であった。雇用形態は,正社員と契約社員ではそれぞれ30件(55.6%)であった。ヘルスキーパールームの設置のきっかけは,従業員の健康の保持と増進のため49件(90.7%)が最も多く,次いで障害者の法定雇用率を達成させるため37件(68.5%),企業の社会的責任を果たすため22件(40.7%)と続いた。「ヘルスキーパーは貢献できていると思うか」は,肯定的意見(そう思う,どちらかといえばそう思う)51件(94.4%)であった。「ヘルスキーパーは従業員の健康保持増進に役立っていると思うか」は,肯定的意見(そう思う,どちらかといえばそう思う)51件(94.4%)であった。新型コロナウイルス感染症による業務への影響については,ヘルスキーパーの勤務状況が従来通りで変わりがなかったのは7件(13.0%)にとどまり,多くは在宅勤務(一部または全部)や時短勤務となり,通常の業務が行うことができていなかった。
結語 関東甲信越地区におけるヘルスキーパーを雇用している企業を対象にヘルスキーパーの雇用状況や雇用に対する意識について調査し,ヘルスキーパーの雇用や今後の視覚障害を有する鍼灸マッサージ師の雇用を推進する上で貴重な基礎資料を得ることができた。
キーワード 視覚障害者,ヘルスキーパー,雇用実態,鍼灸,マッサージ,調査
第70巻第2号 2023年2月 マタニティハラスメントと関連する職場環境要因-COVID-19流行下における横断調査-堀口 涼子(ホリグチ リョウコ) 可知 悠子(カチ ユウコ) 堤 明純(ツツミ アキズミ) |
目的 日本において,マタニティハラスメント(以下,マタハラ)と職場環境要因について調べた研究はほとんどない。本研究では,妊娠中の従業員を対象にインターネットによる横断調査を実施し,マタハラと関連する職場環境要因について,探索的に検討することを目的とした。
方法 COVID-19による日本における最初の緊急事態宣言中であった2020年5月22日~31日の期間に,就労妊婦(妊娠判明時に就労していた女性を含む)379名を対象とし,インターネットによる横断調査を実施した。マタハラは,国のガイドラインで禁止されている16の不利益取扱いを1つ以上受けているかどうかで定義した。分析は,ロジスティック回帰分析を用いた。
結果 対象者379名中,マタハラの経験がある者は97名(25.6%)であった。年齢や妊娠週数を調整した全変数調整モデルにおいて,企業規模が1,000人以上と比較して,1-29人(オッズ比(OR):3.55,95%信頼区間(95%CI):1.49-8.45),30-299人(OR:2.66,95%CI:1.29-5.51)の環境でマタハラの経験が多かった。一方,上司からのサポート(OR:0.80,95%CI:0.69-0.92)の得点が高いほど,マタハラの経験は少なくなる傾向がみられた。全変数調整モデルでは有意ではなかったが,無調整モデルにおいて,雇用形態では正社員と比べてパート社員で,職種では管理職・専門・技術職と比べて営業・販売職・サービス業で,マタハラに対応する相談窓口の設置に関しては「ある」と比べて「ない」環境で,有意にマタハラの経験が多かった。一方,勤続年数が長いほど,同僚のサポートの得点が高いほど,マタハラの経験は少なくなる傾向がみられた。
結論 職場環境要因として企業規模が小さいことはマタハラの経験が多いことと関連していた。一方,上司からのサポート得点が高いことは,マタハラの経験が少ないことと関連していた。また,パート社員,営業・販売職・サービス業,マタハラ対応相談窓口の設置がないこともマタハラの経験が多い傾向がみられた。同僚からのサポート得点が高い,または勤続年数が長いとマタハラの経験が少ない傾向がみられた。特に規模の小さい企業側は,マタハラを予防するために,法律に沿ったマタハラ防止対策を講じるとともに,上司や同僚からのサポートの高い職場環境を作る必要がある。
キーワード マタニティハラスメント,職場環境要因,就労妊婦,緊急事態宣言
第70巻第2号 2023年2月 看護系女子大学生および母親における
佐藤 那海(サトウ ナミ) 髙橋 愛弥香(タカハシ アヤカ) 小島 結衣(コジマ ユイ) |
目的 日本は諸外国と比較すると子宮頸がん予防行動が低く,ヒトパピローマウイルス(以下,HPV)ワクチン接種率および子宮頸がん検診受診率が低い。HPVワクチン接種にはヘルスリテラシーが重要であると考えられている。研究目的は,看護系女子大学生および母親に対して,HPVワクチン接種の有無とヘルスリテラシーの関連を明らかにすることである。
方法 量的横断的研究デザインであり,2021年5月~6月に自記式質問紙法またはオンライン調査を実施した。調査内容は,属性,子宮頸がん予防行動の現状,ヘルスリテラシーであった。因子分析,信頼性分析を実施の上,ヘルスリテラシーが属性または子宮頸がん予防行動の現状と関連しているかをt検定,χ2検定を用いて分析した。
結果 対象者のうち学生414名,母親398名,合計812名に調査依頼を行い,有効回答329部(学生248部,母親81部)を分析データとした。有効回答率は学生59.9%,母親20.4%であった。HPVワクチン接種者は86名(26.1%)であり,接種理由は「母親の意向」「自治体の接種案内」,未接種理由は「副反応の不安」「存在を知らない」であった。子宮頸がん検診対象者である20歳以上の対象者人数は245名であり,子宮頸がん検診受診者は104名(42.4%)であった。検診理由は「自治体の案内」「罹患の怖さ」,未検診理由は「内診に抵抗」であった。ヘルスリテラシーはHPVワクチン接種の有無および子宮頸がん検診の有無において群間の有意差はなかった。意思決定の記憶がある人はない人より有意にヘルスリテラシー得点が高かった(p<0.05)。学生群において生殖器疾患のある人はない人よりヘルスリテラシー得点が有意に高かった(p<0.05)。HPVワクチン接種は意思決定が母親以外より母親の方が有意に多く(p<0.001),情報入手先のある人はない人より有意に多かった(p<0.001)。
結論 ヘルスリテラシーとHPVワクチン接種は関連がなかった。学生群で生殖器疾患のある人はヘルスリテラシーが高かった。HPVワクチン接種の意思決定者は母親が多かった。
キーワード 子宮頸がん,検診,パピローマウイルスワクチン,ヘルスリテラシー
第70巻第2号 2023年2月 基本チェックリストを用いた
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目的 高齢者が早期の介護予防の一環として将来の要介護化リスクを自己評価する際には,長期にわたって簡便かつ正確に要介護化リスクを予測できる尺度が求められる。そこで,本予備的研究では現存する要介護化リスク評価尺度の一つである基本チェックリスト(以下,KCL)を用いて追跡8年間における要介護化リスクを簡便に予測するリスクスコア(以下,RS)を試作し,その予測能(予測モデルのイベント発生リスクに対する予測能力)を検証した。
方法 2011年のベースライン調査に参加した福岡県糟屋郡篠栗町在住の要支援・要介護認定を受けていない高齢者2,629名のうち,データが得られた2,209名を解析対象とした。KCL25項目,年齢階級(65-69歳,70-74歳,75-79歳,80-84歳,85歳以上),性のうち,要支援・要介護認定と関連する因子を多変量Cox比例ハザード分析に同時投入し,変数減少法(p<0.1)で因子を抽出した。非標準化偏回帰係数(以下,B)の最小値を1.0に補正した際の補正率を全項目のBに乗じ,四捨五入した整数値を各項目の点数,その合計をRSとした。要支援・要介護認定の危険因子を調整した多変量Cox比例ハザード分析により,RSの1点上昇ごとの要支援・要介護認定ハザード比(以下,HR)とその95%信頼区間(95%CI)を算出した。また,RSの要介護化リスクに対する予測能を検証する目的でC統計量とその95%CIを算出した。
結果 RSは年齢階級とKCL9項目(運動機能3項目,栄養状態1項目,認知機能3項目,抑うつ2項目)の10因子で構成され,合計得点の範囲は0-26点であった。また,RSは危険因子とは独立して要介護化リスクと関連し(HR:1.21,95%CI:1.19-1.23),要介護化リスクに対するC統計量は0.78(95%CI:0.76-0.80)であった。
結論 8年間の要介護化リスクを簡便に予測するRSを試作した結果,要介護化リスクの有意な予測因子であるKCL9項目と年齢階級の10項目で構成される簡便なRSが作成された。今後,将来の要介護化リスクを長期的に予測する最適な尺度を確立するには,既に短期間で外的妥当性が確認されている他の要介護化リスク評価尺度において長期の追跡期間で妥当性を検証することとあわせて,本研究で作成されたRSでも長期の追跡期間で外的妥当性を検証する必要がある。
キーワード 基本チェックリスト,要介護認定,リスクスコア,前向き追跡研究,要介護化リスク評価尺度
第70巻第2号 2023年2月 認知症高齢者の日常生活自立度を用いた
後藤 悦(ゴトウ エツ) 愼 重虎(シン ジュンホ) |
目的 認知症施策推進大綱では共生とともに認知症の予防の推進が重視されている。予防の取り組みの進捗評価のために,地域ごとにその実態を把握する指標が必要である。そのための指標の開発を目指し,要介護認定に用いられる認知症高齢者の日常生活自立度を基準とした健康寿命(以下,認知症自立余命)を算出し,地域差の図示を行うことを目的とした。
方法 人口は住民基本台帳,死亡数は人口動態調査,認知症高齢者の日常生活自立度別人数は厚生労働省より提供された「要介護認定情報・介護レセプト等情報」の特別抽出による2015~2017年のデータを用い,厚生労働科学研究健康寿命サイト掲載の計算方法を使用し認知症自立余命を算出した。2018年時の全国の二次医療圏(一部,介護保険者)ごとに,男女別0歳時から85歳時まで5歳ごとに日常生活自立度1以上,2以上,3以上の期間を健康でない期間としてそれぞれの認知症自立余命を算出した。本研究はその中から0,40,65歳時に注目した。
結果 認知症高齢者の日常生活自立度が2以上の期間を健康でない期間とした0,40,65歳時の2017年における認知症自立余命の平均値(標準偏差)はそれぞれ,男性で78.97(0.92)年,39.94(0.79)年,17.33(0.55)年,女性で83.14(0.71)年,43.72(0.65)年,20.05(0.60)年であった。
結論 本研究の認知症自立余命は,毎年一年を通じて大規模に得られるデータに基づき,より客観的な判定基準である認知症高齢者の日常生活自立度を基準としており,全国各地域での認知症の状況や,自立的に生活できる余命の把握に役立つであろう。認知症高齢者の日常生活自立度は,1はほぼ自立であり3以上は該当者が少なく計算結果が安定しないため,2以上の期間を健康でない期間として健康余命(認知症自立余命)を計算することが望ましいと考える。また,40歳時~50歳時の健康余命(認知症自立余命)は,生活習慣病の予防に早期対応できる年齢層であるため,有力な指標として提案する。そして認知症自立余命は,各地域の認知症関連施策の成果の進捗評価に有用であると考える。
キーワード 認知症,健康寿命,認知症高齢者の日常生活自立度,地域差,介護DB
第70巻第1号 2023年1月 認知症対応型共同生活介護事業所における
渡辺 康文(ワタナベ ヤスフミ) |
目的 公共的な事業はより高い運営の透明性が求められるが,認知症対応型共同生活介護事業所(GH)は地域密着型外部評価の結果を公表している。厚生労働省通知の参考例の68の自己評価項目において問題点・課題が多かった項目は,平成23~26年度の過去4年間すべてで「災害対策」が一番高い割合だったが,令和元年度は「災害対策」はどうだったかを明らかにするとともに,「災害対策」の改善計画の内容を検証して,関係者の参考とすることを目的とした。
方法 令和元年度に外部評価結果を,ワムネットと2県のリンクページで公表した,東京都と愛媛県を除く45道府県のGHの目標達成計画を参照して,68項目での問題点・課題があった項目を調べ,「災害対策」の割合を過去4年間の割合と比較した。また,「災害対策」の改善計画を分類・区分して具体的な内容を検証した。調査期間は2020年4月3日から2021年5月30日までである。
結果 問題点・課題があった項目は特定の項目に集中していた。「災害対策」は令和元年度も一番高い割合で,過去4年間のいずれよりも高かった。改善計画の区分「地域へのはたらきかけ」からはGHの地域住民・機関へのアプローチの姿勢がうかがわれ,区分「防災訓練の充実」ではハイリスクな想定で訓練を行おうとしている。区分「設備・機器等の整備」ではインフラ復旧に時間がかかる場合を考慮して備蓄品の整備を進めようとしている。
結論 今後も「誰もが読みやすい」外部評価結果の公表が期待される。また,社会福祉施設,介護サービス事業所は相談窓口はあるが,一般に利用者・家族は意見を出しにくいと考えられ,外部評価の機会は重要である。外部評価は,第三者の視点が入るサービス改善の一方法であり,信頼につながると考えられ,経費や職員の負担に配慮しながら活用していくことが望まれる。また,今後の課題として,年月の経過とともに「災害対策」の改善の取り組みは変化することから,令和2年度以降は分類・区分の項目の見直しが必要である。
キーワード 地域密着型外部評価,認知症対応型共同生活介護事業所(GH),問題点・課題,目標達成計画,災害対策,改善計画
第70巻第1号 2023年1月 「特定行為に係る看護師の研修制度」
長谷川 直人(ハセガワ ナオト) 村上 礼子(ムラカミ レイコ) 八木 街子(ヤギ マチコ) |
目的 「特定行為に係る看護師の研修制度(以下,特定行為研修)」の指定研修機関の研修体制の実態を明らかにし,効率的に研修修了者を輩出する研修提供体制を検討する。
方法 2020年2月時点で特定行為研修を行うすべての指定研修機関,191施設に対してインターネット上での無記名のアンケート調査を実施した。調査項目は,指定研修機関の概要,研修の受講期間と受け入れ方法,研修の受講状況,指定研修機関の構成員と業務内容,研修を円滑に運営するための工夫,運営上の財源や会計とし,理由や内容を問う項目は選択肢を準備して複数回答可とした。
結果 66施設(34.6%)から回答が得られ,すべてを有効回答とした。研修開始から修了までの受講期間は60施設(90.9%)が6カ月以上1年半未満で,おおよそ1年に渡って受講生を教育していた。研修開始時から調査時までの受講者の総数の平均は25.6±46.6名(最大273名,最小2名)で33施設(50.0%)が10名以下であった。研修修了者の総数は,平均13.6±28.9名(最大205名,最小0名)で,47施設(71.2%)が10名以下であった。2019年度の総修了者数を総応募数で除した修了率について,最も高値であったのは栄養及び水分管理に係る薬剤投与関連70.8%,最も低値であったのは皮膚損傷に係る薬剤投与関連21.1%で,21区分中15区分が50%未満であった。総修了者数を総定員数で除した輩出率も同様の傾向で,12区分が50%未満であった。研修指導者について専従のスタッフ数は0.7±1.0名(最大4名)で,配置しているのは28施設(42.4%)であった。また,専任として正規雇用している研修指導者がいる施設は43施設(65.2%)で平均3.4±6.4名(最大36名),専任として定期雇用している研修指導者がいる施設は5施設(7.6%)で平均0.2±0.8名(最大6名)であった。収支差額の平均は-188.8±582.8万円で,収支に回答が得られた64施設中33施設(51.6%)が赤字での運営であった。
結論 2015年の研修制度開始から5年間の研修体制の全体概要を把握した結果,研修修了率と輩出率の向上,多様な研修提供体制に応じたテーラーメイド支援の充足の2つの課題が挙げられた。今後は,教育の質保証や効率的な研修体制について検討する機会の増加,指定研修機関の教育・運営状況の知見の蓄積,研修修了率と輩出率向上のための具体的な課題とその要因の明確化,専従や専任の構成員の人件費を増加させる柔軟な補助金等の支援が必要であると考える。
キーワード 特定行為に係る看護師の研修制度,指定研修機関,研修体制,実態調査
第70巻第1号 2023年1月 都道府県レベルにおける
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目的 高齢者の自殺対策を進めるうえでソーシャル・キャピタルが注目されているが,都道府県レベルのソーシャル・キャピタルと自殺死亡率の関係については,報告が少ない。そこで,都道府県レベルのソーシャル・キャピタル指標と自殺死亡率との関係を明らかにすることを目的とした。
方法 都道府県を分析単位とした地域相関分析と重回帰分析を行った。目的変数は各都道府県の2010-12年の男女別60歳以上自殺SMRとし,説明変数のソーシャル・キャピタル指標は,平成23(2011)年社会生活基本調査の65歳以上男女別行動者率を用いた。社会参加の行動者率は①スポーツ,②学習・自己啓発・訓練,③ボランティア,④趣味・娯楽,⑤これらを合計した4種総計行動者率とした。調整変数は,自殺との関連性が報告され公的データで入手可能なものとして,1人当たり県民所得,高齢単身世帯割合,完全失業率,可住地人口密度,日照時間,降水日数,最低気温を用いた。分析方法は,①相関分析では,用いた変数間の相関係数Spearmanのρを算出し,相関関係を検討した。②重回帰分析では,男女別60歳以上自殺SMRを目的変数とし,12変数を用いて重回帰分析(強制投入法)を行った。
結果 2変数間の関係では,男性自殺SMRは,スポーツ,学習・自己啓発・訓練,趣味・娯楽,4種総計行動者率の4指標と負の相関(p<0.05)がみられた。女性自殺SMRは,学習・自己啓発・訓練のみと負の相関(p<0.05)がみられた。重回帰分析では,男性自殺SMRは,学習・自己啓発・訓練,趣味・娯楽,4種総計行動者率の3指標と負の関連(p<0.05)がみられた。女性自殺SMRは,学習・自己啓発・訓練,ボランティアの2指標と負の関連(p<0.05)がみられた。
結論 都道府県レベルの社会参加の行動者率と自殺SMRとの関係を調べた結果,男性では,学習・自己啓発・訓練,趣味・娯楽,4種総計行動者率,女性では学習・自己啓発・訓練,ボランティアへの参加割合が多いと自殺SMRが低いという負の関連がみられた。これらから地域において学習・自己啓発・訓練などの参加促進を通じ,ソーシャル・キャピタルを醸成することが自殺対策につながる可能性が示唆された。
キーワード 自殺,SMR,ソーシャル・キャピタル,社会生活基本調査,都道府県,行動者率
第70巻第1号 2023年1月 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下における国民の生活習慣の変化-NIPPON DATA2010追跡調査結果-古澤 朗子(フルサワ アキコ) 門田 文(カドタ アヤ) 大久保 孝義(オオクボ タカヨシ)岡村 智教(オカムラ トモノリ) 奥田 奈賀子(オクダ ナガコ) 西 信雄(ニシ ノブオ) 宮本 恵宏(ミヤモト ヨシヒロ) 由田 克士(ヨシタ カツシ) 尾島 俊之(オジマ トシユキ) 近藤 慶子(コンドウ ケイコ) 岡見 雪子(オカミ ユキコ) 北岡 かおり(キタオカ カオリ) 早川 岳人(ハヤカワ タケヒト) 喜多 義邦(キタ ヨシクニ) 上島 弘嗣(ウエシマ ヒロツグ) 岡山 明(オカヤマ アキラ) 三浦 克之(ミウラ カツユキ) NIPPON DATA2010研究グループ |
目的 NIPPON DATA2010におけるわが国を代表する一般成人集団を対象に,2020年の新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言下における生活習慣の変化を調査し,性,年齢,地域別に分析した。
方法 研究対象者は,2010年国民健康・栄養調査に全国300地区から参加し,2020年時点でNI‑
PPON DATA2010追跡調査に参加している30歳から99歳の男女2,244人とした。2020年4~5月の新型コロナウイルス感染症第1波流行中における,それ以前との体重・食生活・身体活動量や受診行動の変化について問う自記式質問調査を2020年10月に実施した。完全な回答が得られた1,926人(男性788人,女性1,138人) について,性別,年齢階級別,居住地域ブロック別に回答を集計し比較した。割合の差の検定はχ2検定およびFisherの正確確率検定を用いた。
結果 1㎏以上の体重増加者は,男性(17.3%)より女性(27.1%)に多く(p<0.001),身体活動量が減少した者も,男性(23.2%)より女性(31.0%)の方が多かった(p=0.001)。飲酒の頻度や量の増加者,減少者ともに男性において女性より高い割合を示した(p<0.001)。一方,男女ともに,野菜を食べる頻度や量が増えた者は減った者の2倍以上多く,自宅で料理したものを食べる頻度が増えた者は減った者の約6倍であった。年齢階級別にみると,1㎏以上の体重増加者は65歳未満(30.8%)で特に多く(p<0.001),「自宅で調理したものを食べる頻度」「スーパーやコンビニの弁当や総菜,テイクアウト,デリバリーの利用頻度」「間食する頻度や量」が増加した者が65歳未満に多かった(いずれもp<0.001)。地域ブロック別では,1㎏以上の体重増加者,身体活動量が減った者が,都市部で高い傾向を示した(いずれもp<0.001)。
結論 2020年の新型コロナウイルス緊急事態宣言下において,生活習慣や体重は男性よりも女性,高齢者よりも若い世代で大きく変化し,居住地域別では,都市部での変化が大きかった。これらの特徴を踏まえ,自粛生活の長期化による健康影響に注意する必要がある。
キーワード 新型コロナウイルス感染症,体重,食習慣,身体活動量,飲酒,NIPPON DATA2010
第70巻第1号 2023年1月 高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動と
小澤 多賀子(コザワ タカコ) 栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 黒江 悦子(クロエ エツコ) |
目的 地域在住高齢者によるボランティア活動への従事は,介護予防の取組促進と社会保障の持続可能性への期待が大きい。しかし,高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動と,活動効果指標としての介護保険料,介護給付費,要介護認定率との関連について検討した報告は見当たらない。そこで,本研究では高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動とその活動効果指標としての介護保険料,介護給付費,要介護認定率との関連を検討し,高齢者によるボランティア活動の有効性を明らかにすることを目的とした。
方法 茨城県では平成17年からシルバーリハビリ体操指導士養成事業を開始し,地域在住高齢者へ介護予防体操を普及する高齢のボランティアを養成している。本研究の対象は,本事業を展開する茨城県全市町村(n=44)とした。体操普及活動指標は平成17~29年度における65歳以上人口千人あたりの指導士養成人数,教室延べ開催数,教室参加指導士延べ人数,住民参加延べ人数とした。活動効果指標は,介護保険料(第7期第1号保険料),11年間(平成19~29年度)の65歳以上人口あたりの介護給付費(合計,要支援1・2,要介護1~5)の増減,12年間(平成18~29年度)の要介護認定率(合計,要支援1・2,要介護1~5)の増減とした。分析は市町村ごとの体操普及活動指標と活動効果指標との関連について,Spearmanの順位相関係数から検討した。
結果 44市町村において,住民参加延べ人数と介護保険料,指導士養成人数と介護給付費(要支援1・2)の増減,教室延べ開催数および住民参加延べ人数と要介護認定率(要支援1・2)の増減とに有意な負の相関が認められた(P<0.05)。また,44市町村において,指導士養成人数と要介護認定率(要介護1~5)の増減とに有意な正の相関が認められた(P<0.05)。
結論 本研究の結果,高齢のボランティアによる介護予防体操普及活動は,市町村において介護保険料や要支援者における介護給付費および要介護認定率の増加を抑制する可能性が示唆された。
キーワード 高齢のボランティア,介護予防,体操普及活動,介護保険料,介護給付費,要介護認定率
第69巻第15号 2022年12月 精神障害者保健福祉手帳の等級と
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目的 精神障害者保健福祉手帳所持者が,国際連合の国際障害統計ワシントン・グループ(以下,WG)の指標にどのように回答するかを明らかにすることを目的とした。
方法 長野県飯山市(人口約2万人)において,全障害者手帳所持者1,221名(身体867名,療育154名,精神200名)を対象に令和2年11月,質問紙法調査を郵送法により実施した。短い質問群全6項目(WG-SS:「見ること」「聞くこと」「移動」「コミュニケーション」「記憶・集中」「セルフケア」)に加えて,短い質問群拡張版(WG-SS Enhanced)から4項目(「不安」「憂うつ」の頻度と程度)の結果を分析した。
結果 589名(48.2%)(身体407名,療育75名,精神80名,重複19名,不明8名)から回答を得て,精神障害者保健福祉手帳所持者80名のうち等級を回答した75名を解析対象とした。①WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」であった者は21.4%であった。6項目のうち最も多く「障害あり」と判定されたのは「思い出したり集中すること」で,「全くできない」0%,「とても苦労する」17.3%であった。②WG-SS Enhancedの「不安」の頻度への回答では,「毎日」45.3%,「週に1回程度」20.0%であり,「憂うつ」の頻度は,「毎日」37.3%,「週に1回程度」20.0%であった。精神障害者保健福祉手帳1級所持者は2級所持者に比べて,WGの「不安」および「憂うつ」の頻度を「毎日」と回答した者は少なかった。③WG-SS6項目のどれかで「全くできない」または「とても苦労する」を選択した者,または,「不安」の頻度または「憂うつ」の頻度で「毎日」または「週に1回程度」を選択した者の合計は70.7%であった。
結論 本研究では,WG-SS6項目だけでは精神障害者保健福祉手帳所持者の約2割しか「障害あり」と判定しなかったが,WG-SS6項目に「不安」の頻度と「憂うつ」の頻度を加えた合計8項目では精神障害者保健福祉手帳所持者の約7割を「障害あり」と判定した。WGの指標をわが国で使用する場合には,WG-SS6項目に「上肢」2項目,「不安」2項目,「憂うつ」2項目を加えたWG-SS Enhanced(合計12項目)を使用することを提案し,令和4年生活のしづらさなどに関する調査(厚生労働省)では採用された。また,WGの指標では「障害あり」と判定されることもある障害者手帳非所持の高齢者がどの程度いるかを,高齢者を対象とする調査で確認しておくことが望ましいと考えられた。
キーワード 国際障害者統計,ワシントン・グループ,生活のしづらさなどに関する調査,国民生活基礎調査,精神障害
第69巻第15号 2022年12月 小学校高学年児童における睡眠の質と心の健康の関連要因-関東圏内の私立小学校を対象に-三森 寧子(ミツモリ ヤスコ) 髙橋 恵子(タカハシ ケイコ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ)有森 直子(アリモリ ナオコ) 亀井 智子(カメイ トモコ) 新福 洋子(シンプク ヨウコ) 武内 紗千(タケウチ サチ) 谷田 恵子(タニダ ケイコ) 池田 雅則(イケダ マサノリ) |
目的 日本人の平均睡眠時間は,諸外国と比較すると最も短く,子どもも同様の傾向がある。子どもの睡眠と心の健康は互いに影響し合うものであり,早期に介入すべき健康課題の1つといえる。本研究の目的は,小学生の睡眠に関する支援の示唆を得るために,小学校高学年児童を対象に心の健康の観点から,睡眠の質の関連要因を探索することである。
方法 研究デザインは量的横断的研究であり,2014年10月に関東圏内の小学4~6年生540名を対象に自己記入式質問紙調査を行った。データ収集方法は,小学校の学校長の研究協力同意が得られた後に,児童および保護者に研究協力依頼を実施し,調査票を配布した。回収は留め置き法を用いた。調査内容は属性,睡眠の質,QOL,自尊感情,自己効力感,ソーシャルサポートであった。因子分析,信頼性分析,t検定,一元配置分散分析,重回帰分析を行った。
結果 小学校高学年の児童540名に調査票を配布し,502部の有効回答を得た(有効回答率93.0%)。対象者は男子332名(66.1%),女子170名(33.9%)であり,4年生154名(30.7%),5年生170名(33.9%),6年生178名(35.5%)であった。睡眠の質,QOL,自尊感情,自己効力感,ソーシャルサポートの5尺度はすべて,信頼性と妥当性が再確認された。睡眠の質の悪さに対して,QOLの低さ(p<0.001),ソーシャルサポートの低さ(p<0.001),自尊感情の低さが有意に影響を与えていた(p<0.01)。インターネット利用時間が睡眠の質の悪さに有意に影響を与えていた(p<0.01)。
結論 回答者の17.5%を示した睡眠障害のある児童はQOLが低く,ソーシャルサポートが得られず,自尊感情が低いことが明らかとなった。子どもの発達課題を考慮しながら睡眠に関する支援を学校と家庭が連携して取り組む必要性が示唆された。
キーワード 子ども,睡眠,心理社会的,QOL,横断調査,睡眠障害
第69巻第15号 2022年12月 2000年以降の医師偏在指標の試算について小池 創一(コイケ ソウイチ) 寺裏 寛之(テラウラ ヒロユキ)小谷 和彦(コタニ カズヒコ) 松本 正俊(マツモト マサトシ) |
目的 国が新たに開発した医師偏在指標を,過去の人口・医師数・受療率等に適用,一定の仮定を置いた上で算出し,その推移や人口10万対医師数との比較を行うことで,医師偏在指標を用いる際の留意点や,今後の医師確保策のための課題について検討することを目的とした。
方法 2000~2018年の期間について2年間隔で三次医療圏(都道府県),二次医療圏別の医師偏在指標を算出した。過去のデータが利用可能なものについては過去のデータを用いるが,過去のデータが得られないものについては条件が変わらないものと仮定した。その上で,医師偏在指標と人口10万対医師数を比較するとともに2000年時点の偏在指標の上位・中位・下位1/3の地域が2018年までの間に,2000年時点の各区分の水準にあてはめた場合,どの区分に該当するかを試算した。
結果 2000年~2018年の医師偏在指標の推移をみると,三次医療圏・二次医療圏のいずれも最小値,平均値ともに増加が認められているが,最大値も増加しており,標準偏差,最大値-最小値とも拡大している。2018年の人口10万対医師数と医師偏在指標はいずれも強い相関を示していた。2018年の時点では2000年基準による下位1/3に該当する都道府県のうち約8割(16-3/16=0.81),二次医療圏では6割(112-42/112=0.61)がその水準を上回っているという試算結果となった。
結論 医師偏在指標を一定の仮定の下で過去にさかのぼって試算した。医師偏在指標全体の水準は改善しており,2000年基準で医師少数県・医師少数区域とされた地域は,2018年までにそれぞれ8割,6割がその水準を上回る等,医師確保策には一定の成果がみられている。しかしながら,もともと医師偏在指標が大きかった地域も偏在指標をさらに改善させていることから,依然として地域間格差は存在している。現在は,医師確保計画が医療計画の中に定められ,これまで以上に強力な医師偏在対策がとられているものの,医師の偏在是正は容易ではない。国,地方自治体の一層の取り組みの強化が求められるとともに,幅広い関係者間の理解と合意をいかに得るかが今後の課題となると考えられる。
キーワード 医師需給,医師偏在対策,医療計画,医師確保計画,医師偏在指標
第69巻第15号 2022年12月 特別養護老人ホームにおける機能訓練体制構築のための取り組み-機能訓練指導員の他職種連携を基盤に「できている部分」に着目して-植田 大雅(ウエダ ヒロマサ) |
目的 特別養護老人ホーム(以下,特養)は機能訓練指導員を配置し,「協働・連携」の下で機能訓練に取り組むことを必須要件としている。しかし,機能回復訓練にとどまり他職種で協働する取り組みが浸透していない危険性がある。本研究では,特養における他職種連携において,機能訓練指導員の「できている」部分に着目し,利用者の重度化が進む中で機能訓練指導員が他職種とどのように関わり,連携体制を構築しているかを明らかにする。
方法 2020年8月上旬に東京都内特養558施設の施設長宛に調査用紙を郵送・依頼し,合計252施設の機能訓練指導員から回答を得た(回収率45.2%)。調査内容は,基本属性と業務内容,他職種連携などである。その中の他職種との連携に着目し,「できている」部分に関する15項目について5件法で回答を得た。主因子法による因子分析を行い,その結果を元に「他職種連携」に関する意識への影響について重回帰分析を行った(有効分析数217名)。また,連携していると思う職種について挙げてもらった。
結果 因子分析の結果,第Ⅰ因子「重度化対策・予防」(α=0.862),第Ⅱ因子「介助方法の指導」(α=0.820),第Ⅲ因子「周辺環境調整協力」(α=0.628),第Ⅳ因子「福祉機器の活用と指導」(α=0.599)の4因子が得られた。重回帰分析結果より,「できている」部分の下位尺度の中で,第Ⅱ因子「介助方法の指導」,第Ⅳ因子「福祉機器の活用と指導」,第Ⅲ因子「周辺環境調整協力」が他職種連携に影響を及ぼしていた。連携していると思う職種の1番目は介護職員であった。
結論 機能訓練の連携体制の構築化は,利用者を終日ケアしている介護職員を重要な連携先として考え,機能訓練指導員は指導者的立場として介護職員を支援しながら進めていくことが,より良いサービス提供になると考える。
キーワード 機能訓練指導員,他職種連携構築,「できている」部分の因子構造,指導者的立場,利用者の重度化
第69巻第15号 2022年12月 地域の事例検討会記録による在宅困難事例の問題点-類型化の試みと解決可否の検討-中野 寛也(ナカノ ヒロヤ) 松井 邦彦(マツイ クニヒコ) 室生 勝(ムロウ マサル)松田 智行(マツダ トモユキ) 成島 淨(ナルシマ キヨシ) 日比野 敏子(ヒビノ トシコ) 田宮 菜奈子(タミヤ ナナコ) |
目的 専門職が抱える現場の困難事例の問題点に対して解決策を提供するための多職種による地域の医療福祉事例検討会で,多職種が提示した困難事例の問題点に着目し包括的な類型化を試みた。また問題点の一部について,類型ごとにそれらの問題点が解決されたか否かを検討した。
方法 8年間の事例検討会で討議された89事例から,分析対象は76事例であった。事例から抽出された問題点について,先行研究を参考に問題点の類型化を行った。本人と周辺の関係性において生じる問題点については独立させる形で「問題点の所在」を分類し,その下位分類として「問題点の内容」を類型化した。さらに,問題点の一部について,問題が解決したか否かを検討するため,判定を2名の評価者が独立して行い,判定が2名の間で不一致だった問題点は評価者間で互いの判定の根拠を共有しながら協議し,すべての問題点の最終的な判定を決定した(初回判定一致率56.3%,Cohenのkappa係数0.48)。
結果 76事例で挙げられた問題点は194個あった。「問題点の所在」としては,本人(52個),サービス提供者(48個),介護者(36個),世帯全体(経済的問題を除く)(14個),環境(制度・システム的)(13個),介護者とサービス提供者の関係性(11個),世帯全体(経済的問題)(10個),サービス提供者間の関係性(6個),環境(物理的)(6個)の9項目を設定した。「問題点の内容」については40項目の分類を設定した。194個の問題点のうち判定対象の問題点は,96個となった。解決したと判定された問題点の割合は「問題点の所在」が「介護者」だった問題で69%と最も高く,次いで「世帯全体の問題(経済的問題)」「サービス提供者」等の順だった。「問題点の内容」別に解決された問題点が多かったのは「経済的問題によるサービス利用困難」「病状・不穏状態によるサービス利用困難」等の順だった。解決しやすい問題は多職種で知識を共有することで解決しやすくなったと考えられたが,解決しにくい問題は制度自体の問題,物理的環境の問題等,個別に介入することが難しい問題点が多く,地域ケア会議での検討や解決に向けた制度設計,政策策定が図られるべき問題点だと考えられた。
結論 今後は事例の集積により,類型の標準化が進み,困難事例に関する多職種間の共通理解が構築されること,また問題点ごとの解決策が政策に反映され,地域でその人らしく暮らせる支援の仕組みが必要である。
キーワード 在宅医療,居宅療養,困難事例,事例検討会,問題点の類型化,問題点解決の可否
第69巻第13号 2022年11月 社会福祉協議会における法人後見の現状と課題-意義,意思決定支援,公的支援のあり方を中心に-関根 薫(セキネ カオル) 鵜沼 憲晴(ウヌマ ノリハル) |
目的 認知症高齢者の増加等により今後成年後見の需要が高まる一方,専門職後見人ならびに市民後見人の大幅増加が見込めない現状を踏まえ,本研究では,すべての基礎自治体に設置されている市区町村社会福祉協議会(以下,社協)による法人後見の可能性に焦点をあて,その意義を検証するとともに,意思決定支援や公的支援のあり方等,社協による法人後見を促進するための具体的な課題について考察することを目的とした。
方法 全国の社協1,741件を対象に,郵送法による自計式調査票を用いた悉皆調査を実施した。調査期間は,2020年2月から4月である。調査票の有効回答数は953件,有効回答率は54.7%であった。本研究では,調査の項目のうち社協による法人後見の受任状況・体制,社協が法人後見を実施する意義,意思決定支援の実態,社協の法人後見を推進していくための課題等に焦点を絞って考察を行った。
結果 社協が受任しているケースのうち約5割が「市区町村長申立」,約7割が「経済的困窮世帯」であった。後見業務では約7割が兼任職員のみで担っており,財源が不十分な割合も約7割に上ることが明らかとなった。社協による法人後見の意義については,日常生活自立支援事業からのスムーズな移行,複合的な生活問題を抱えているケースや経済的困窮ケースへの長期継続的な対応,問題解決に向けた他機関・事業所との連携,専門職後見人等の第三者後見人が乏しい地域での対応可能性などが認められた。意思決定支援については,意思の表明に関わる支援の実施率が相対的に高かった。社協の法人後見推進に向けた課題については,専任担当職員の確保・増員,担当職員の知識・技術の向上,他機関・事業者との連携などが認められるとともに,求められる公的支援として,安定的かつ十分な財源の確保,経済的困窮ケースに対する支援などが示された。
結論 受任状況ならびに実施の意義より,社協の法人後見は成年後見におけるセーフティネットとしての役割を担っていることが明らかとなった。また,社協では意思決定支援を中心に社会福祉に関する理念やスキルが成年後見業務に反映されていることからも,社協による法人後見が共生社会における地域包括支援体制の構築に寄与することが確認できた。今後の課題として,人員や財源の確保が問題として析出されており,これらの解決策として,成年後見制度法人後見支援事業の充実化等を提起した。
キーワード 成年後見,法人後見,社会福祉協議会,意思決定支援,地域包括支援
第69巻第13号 2022年11月 国保保険料と被保険者の受診行動について-HLMによる分析-佐川 和彦(サガワ カズヒコ) |
目的 国保被保険者の受診行動について,サンク・コスト効果の存在を検証するだけではなく,その大きさが地域によって異なることも検証する。さらに,サンク・コスト効果の大きさを決定づける要因についても検証を行った。
方法 平成30年度の保険者別データを用いて,国保被保険者の受診行動について分析を行った。受診率関数の推定にあたっては,HLM(階層線型モデル)を応用した。レベル1において,被保険者1人当たり保険料に対応する係数の符号がプラス,かつ有意ならば,サンク・コスト効果が存在することになる。次に,被保険者1人当たり保険料に対応する係数の経験的ベイズ推定値を求め,地域間でサンク・コスト効果の大きさに統計的に有意な差異が存在することを確認した。レベル2において,人口当たりの医師数(歯科医師数)がサンク・コスト効果の大きさを左右するかどうかを検証した。
結果 国保被保険者については,総じてサンク・コスト効果が存在することが確認された。また,地域間で,サンク・コスト効果の大きさに統計的に有意な差異が存在することが確認できた。被保険者がサンク・コスト効果に基づく受診行動を取る地域が多数であったが,少数であっても,経験的ベイズ推定値がマイナスであり,被保険者のコスト意識に基づく行動が優勢である地域があることも確認された。人口当たりの医師数(歯科医師数)が増加すれば,サンク・コスト効果が大きくなる(コスト意識に基づく行動が優勢である地域においては,少なくともそれを抑制する)傾向があることが確認された。
結論 人口当たりの医師数や歯科医師数が増加することによる被保険者の利便性の向上が,サンク・コスト効果を大きくしている。保険料引き上げを検討する際に,サンク・コスト効果による受診率上昇も考慮に入れなければ,サンク・コスト効果の分だけ,将来の医療費に想定外の上乗せが生じることになるであろう。
キーワード 国保保険料,受診率,サンク・コスト効果,医療資源量,HLM(階層線型モデル)
第69巻第13号 2022年11月 高校生における親への援助希求行動の関連要因立瀬 剛志(タツセ タカシ) 赤﨑 有紀子(アカサキ ユキコ)関根 道和(セキネ ミチカズ) 山田 正明(ヤマダ マサアキ) 鈴木 道雄(スズキ ミチオ) |
目的 若者の自殺対策として援助希求行動が重要であるといわれており,若者のSOS教育が推進されている。一方,教育現場では,若者の成長課題として自己肯定要素の欠如が問題とされているが,自己肯定感情に伴う自己解決能力の高さは援助要請行動の阻害因子としても位置づけられる。そこで今回,高校生における親への相談行動を説明する因子を自己肯定感情との関連を踏まえ分析し,援助希求行動の促進の因子とその経路を検証した。
方法 2005年富山県の高校1年生に実施した第5回富山スタディのデータ5,874名を分析に用いた(男性2,846名,女性3,028名)。パス解析を用い,4つの健康指標と5つの社会指標の説明変数から親への相談因子と自己肯定感情因子へパスを想定し,関連を認めた因子を抽出した。また親への相談へのパス経路を直接的,かつ自己肯定感情を経由した効果を算出した。分析はパス解析を行い,パス図の適合度を検証した後,男女別に多母集団分析を実施し違いを比較した。
結果 親に相談しない者は1,050名(17.9%)であり,自分を嫌いと回答した者は2,346名(39.9%)であった。パス解析による適合度は十分な値を示し,関連パスは各因子から直接親への相談に関連したものと自己肯定感情を経由して寄与したものに分かれた。親への相談との直接的関連では,良いところを認めてくれる人がいるほど(標準化推定値β=0.154),自己肯定感情が高いほど(β=0.151)親へ相談していた。,またイライラの頻度が高いほど(β=0.074),一方かんしゃくの頻度が少ないほど(β=-0.062)親へ相談していた。自己肯定感情を経由しして関連したものは,得意なことや楽しいことが関連し,良いところを認めてくれる人の存在も自己肯定感情を通して親への相談に関連した。男女別の分析でも全体での分析と同様の関連パスが有意差を示した。
結論 今回の結果は,自己肯定感情は援助希求行動を促進する重要な役割を示すことに加え,信頼できる友人や大人の存在が親への援助希求の促進に重要な役割を果たすことが示唆された。悩みを抱える若者がSOSを発するためには,自分を受け入れ肯定することに加え,認めてくれる他者の存在が重要となる。
キーワード 援助希求行動,自己肯定感情,相談相手,認めてくれる人,パス解析
第69巻第13号 2022年11月 保健活動の評価指標の検討-市町村保健師による保健活動(母子保健・健康づくり・高齢者保健福祉)の評価指標を統計項目とすることに焦点をあて-平野 かよ子(ヒラノ カヨコ) 河野 朋美(カワノ トモミ) 森本 典子(モリモト ノリコ)藤井 広美(フジイ ヒロミ) 石川 貴美子(イシカワ キミコ) |
目的 これまでに筆者らが開発してきた市町村保健師による保健活動の評価指標を統計学的に解析し,評価指標を統計項目として活用することの検討を行った。
方法 開発してきた3領域の保健活動(母子保健,健康づくり,高齢者保健福祉)の評価指標を用いて5段階尺度の自記式調査票を作成し,調査期間は平成31年1~3月に全国から無作為抽出した市町村(各領域270)の母子保健,健康づくり,高齢者保健福祉の各事業の主担当保健師に,現状の保健活動を評価することを依頼した。当初の各領域の評価指標項目数は母子保健28,健康づくり29,高齢者保健福祉25であった。項目分析と項目間相関係数の分析で評価指標の信頼性の検討を行った。また,因子分析により各領域の評価指標の構造を把握し,3領域の全体と因子ごとの評価指標項目のCronbachのα係数を用いて内的整合性を確認した。
結果 調査票の回収状況(回収率)は母子保健90(33.3%),健康づくり80(29.6%),高齢者保健福祉77(28.5%)であった。各項目の回答状況はほぼ5段階に分散し,未回答の項目は少なかった。項目分析は記述統計の平均値と標準偏差と項目間相関係数で行い,全項目間のSpearmanの相関係数に0.60以上は認められなかった。因子分析では母子保健に3因子,健康づくりに4因子,高齢者保健福祉に3因子が抽出された。健康づくりでは因子負荷量の小さい2項目は削除した。3領域の全体と因子ごとのCronbachのα係数はすべて0.72以上であった。
結論 今回の分析で母子保健の評価項目の28項目,健康づくり27項目,高齢者保健福祉の25項目に一定の信頼性およびそれぞれの領域の構成要素を明らかにすることができた。因子分析により母子保健3因子,健康づくり4因子,高齢者保健福祉3因子が抽出され,これらの因子ごとの項目群を統計項目群とすることの可能性が示唆された。市町村は評価指標項目の全体を,あるいは目的に応じて因子群を統計項目として保健活動を評価することが可能と考えられた。この統計から市町村の保健活動の取り組みの特徴と変化を可視化させる研究の必要性が示唆された。
キーワード 市町村保健活動,保健師,評価指標,質評価,統計項目
第69巻第13号 2022年11月 沖縄長寿の神話-戦前・戦後を通じた沖縄県民死亡率のコホート分析-岡本 悦司(オカモト エツジ) |
目的 沖縄県男性の平均寿命は1980~85年に全国一となり「健康長寿県」のイメージが定着したが,その後は急落し,最新の2015年生命表では36位である。戦前においても沖縄県は決して長寿県ではなく,沖縄県男性の長寿化は戦後35~40年の一時的な現象であった。その原因として,1945年の沖縄戦による選択的生存仮説すなわち「戦争による犠牲の大きかった世代ほど,戦後の生存率がよかったのではないか」という仮説をたて,戦前戦後の人口統計や生命表を用いて検証した。
方法 戦前と戦後に琉球政府によって実施された国勢調査ならびに生命表より沖縄戦前後の相対生存率を出生コホート別に推計し,コホート別の戦後の標準化死亡比(SMR)との相関を評価する。
結果 沖縄県男性について沖縄戦前後の相対生存率と戦後の標準化死亡比とを出生コホートごとに比較したところ,正相関(R2=0.34)がみられた。すなわち,沖縄戦前後で相対生存率の低い(=戦争による犠牲が大きい)世代ほど,戦後の標準化死亡比が低い(=死亡率が低い)傾向がみられた。女性についてはそのような正相関はみられなかった。
結論 戦争による犠牲の多い世代ほど,生き残った者の戦後の死亡率は低い傾向がみられた。沖縄戦は3カ月以上に及ぶ過酷な戦闘であり,強い生命力を有する者だけしか生存できない,いわゆる「選択的淘汰」が働いたと考えられる。戦後35~40年に沖縄県男性の平均寿命が一時的に全国1になったのは,食生活やライフスタイルの影響ではなく,沖縄戦による一時的な効果であったと考えられる。
キーワード 沖縄県,コホート効果,選択的生存,標準化死亡比,生命表
第69巻第13号 2022年11月 不慮の窒息死の都道府県間差と関連する要因奥井 佑(オクイ タスク) 朴 珍相(パク ジンサン) |
目的 本研究では都道府県ごとの不慮の窒息の年齢調整死亡率の動向を明らかにするとともに,都道府県間差と関連する要因を特定した。
方法 人口動態統計より,2000-2020年における不慮の窒息による死亡データを入手した。また,不慮の窒息死との関連を調べるため,各都道府県の人口学,経済,医療,および医学関連データを政府統計より入手した。都道府県,性別,年ごとに不慮の窒息死の年齢調整死亡率を算出し,2000年から2020年における年齢調整死亡率の年平均変化率を算出した。また都道府県を対象とした生態学的研究により,年齢調整死亡率と都道府県の特性との関連を,線形混合効果モデルを用いたパネルデータ解析により探索した。
結果 2000年から2020年にかけて,男性ではすべての都道府県で年齢調整死亡率が減少傾向を示した一方で,女性では年齢調整死亡率が上昇している県が存在した。47都道府県中,39県において男性の方が女性よりも年平均変化率の絶対値が大きく,年齢調整死亡率の減少度合いが大きかった。回帰分析の結果,人口当たり課税所得は男女とも年齢調整死亡率と統計学的に有意に負の関連を示した。また,男性においては,人口当たりの精神科を有する病院または精神科病院の数が年齢調整死亡率と統計学的に有意な正の関連を示した。一方で,女性においては要支援または要介護である高齢者の割合が年齢調整死亡率と統計学的に有意な正の関連を示した。
結論 都道府県の個人所得レベルと不慮の窒息死が関連する可能性が示唆され,今後個人データを用いた社会経済状況と不慮の窒息死との関連に関する研究がまたれる。
キーワード 人口動態,都道府県,窒息,不慮の事故,死亡,年齢調整死亡率
第69巻第12号 2022年10月 COVID-19感染拡大下の育児環境の特徴-パネルコホート研究を用いた2019年度と2020年度の比較-松本 宗賢(マツモト ムネノリ) 李 响(リ ショウ) 焦 丹丹(ジャオ ダンダン)張 瑾睿(チャン ジンルイ) 王 妍霖(オウ エンリン) 乾 美玲(ガン メイリン) 朱 珠(シュ シュ) 朱 言同(シュ ヤントン) 劉 洋(リュウ ヤン) 崔 明宇(サイ ミンウ) Ammara Ajmal(アマラ アジュマル) Yolanda Graça(ヨランダ グラサ) Alpona Afsari Banu(アルポナ アフサリ バヌー) 澤田 優子(サワダ ユウコ) 田中 笑子(タナカ エミコ) 冨崎 悦子(トミサキ エツコ) 渡邉 多恵子(ワタナベ タエコ) 安梅 勅江(アンメ トキエ) |
目的 本研究は筆者らが1998年より継続している,北海道から沖縄まで全国の延べ667カ所の保育園,こども園,幼稚園に在籍する0歳から6歳までの園児の保護者と保育専門職によるパネルコホート調査の2019年度調査と2020年度調査データの比較を行い,2020年度のCOVID-19感染拡大下の育児環境の特徴を明らかにすることを目的とした。
方法 対象は,全国の保育園,こども園,幼稚園(9カ所)に在籍する,0歳から6歳までの園児の保護者とし,2019年11月13日~12月31日と2020年11月16日~12月31日に調査を行った。調査は,各園より保護者に依頼し,紙面またはオンラインで回答を得た。保護者には育児環境に関する10項目,育児サポートとして育児の相談者や支援者の有無等3項目,保護者の特性として育児に対する自信,ストレスの程度,子どもの特性として年齢,性別,きょうだいの有無,子どもの社会適応として園生活への適応について調査した。分析は,COVID-19感染拡大による影響を検討するため,各項目について,感染拡大前の基準年(2019年度)調査データと感染拡大後の2020年度調査データの変化を検討した。次に,保護者の不適切な行為と関連する要因を他の項目の影響を互いに調整した上で検討するため,性別と年齢,きょうだいの有無を調整した,子どもをたたく頻度を従属変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。独立変数としては,子どもをたたく頻度と基準年のそれ以外の項目とのχ2検定を行った。
結果 2019年度に比べて2020年度では,育児環境に関する人的かかわり領域の「家族で食事をする機会が乏しい」の割合が有意に減少し,「本を読み聞かせる機会が乏しい」「一緒に歌を歌う機会が乏しい」「配偶者の育児協力の機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。制限や罰の回避領域の「子どもをたたく頻度」の割合は,2019年度21.0%,2020年度18.6%と有意に減少していた。また,2019年度に比べて2020年度では,社会的かかわり領域の「公園に連れていく機会が乏しい」「知人との交流の機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。育児サポートでは,2019年度に比べて2020年度は,「育児支援者がいない」「配偶者と子どもの話をする機会が乏しい」の割合は有意に増加していた。さらに,子どもをたたく頻度の関連要因として,保護者の「子どもの誤りへの不適切な対応」と「育児に対する自信がない」ことの2項目が明らかとなった。
結論 COVID-19感染拡大下の育児環境の特徴として,2019年度に比べて2020年度では「家族で食事をする機会」が示す子どもの保護者と過ごす機会が増加し,「公園に連れていく機会」「知人との交流の機会」が示す社会的かかわり,および「育児支援者」が減少した。また,先行研究で保護者のストレスとの関連が確認されている「保護者が子どもをたたく頻度」が,COVID-19感染拡大下では減少し,保護者のストレスとの関連は確認されなかった。
キーワード COVID-19,生活の変化,育児環境,育児サポート,育児意識,パネルコホート調査
第69巻第12号 2022年10月 離島市町村における自殺死亡の現状と
波名城 翔(ハナシロ ショウ) |
目的 日本の自殺者数は平成10年代のピーク時から,近年右肩下がりで減少傾向にある。離島市町村においては自殺死亡率の低さが報告される一方で,自殺死亡率の高い離島市町村も存在することが報告されている。本研究では,離島市町村の自殺死亡の現状と社会生活指標との関連を明らかにし,今後の自殺予防対策としての基礎資料を得ることを目的とした。
方法 研究対象地域は,橋などで本土とつながっていない離島63市町村(8市31町24村)を対象とした。平成20年から同30年までの人口動態調査死亡票のデータから,離島市町村の自殺EBSMRを作成した。市町村別の自殺EBSMRの分布を確認するとともに,人口規模4区分別,男女別の自殺EBSMRの違いを検討した。また,自殺死亡率と社会生活指標についてSpearmanの順位相関分析を行った。
結果 離島63市町村の対象期間11年間の自殺者の総数は,1,587人であった。人口10万対自殺死亡率の推移では,段階的に自殺死亡率は低下傾向にあるが,全国との比較では男性が高く,女性は低く推移していた。人口規模別にみた自殺EBSMRの中央値は,男女とも「5,001人以上10,000人以下」で有意に高かった。都道府県単位では,すべての市町村で自殺EBSMRが100以下の都道府県がある一方で,低率市町村と高率市町村が混在する都道府県もみられ,①人口規模の大きい「市」,②小規模離島が周辺にある中規模以上の市町村,③複数の市町村で構成される島では自殺EBSMRが高くなることが考えられた。また,社会生活指標との関連では男性は離婚率と年少人口割合,病院病床数が正の相関を示し,女性は病院数,病院病床数が正の相関を,診療所数,医師数で負の相関を示した。
結論 離島市町村における自殺死亡率は,市町村の規模や人口の移動,複数市町村で構成されるなどの影響や男性の自殺死亡率の高さが強く影響されると考えられた。男性はコミュニティのつながりと都市化,女性は診療所,医師数などの身近な医療関連指標が関係することが推察された。
キーワード 離島市町村,自殺EBSMR,人口動態統計,社会生活指標
第69巻第12号 2022年10月 児童養護施設を経験した若者の
石田 賀奈子(イシダ カナコ) |
目的 幼少期逆境体験(Adverse Childhood Experiences,以下,ACEs)は成人後の健康や貧困に関連する。本研究では,児童養護施設を退所した若者のACEsの実際を把握し,彼らのACEsにどのような要因が作用しているのかを明らかにする。ACEsがどのような要因によって高く示されるのかを明らかにすることによって,児童養護施設を退所した若者のケアについての提言を試みることを目的として実施した。
方法 全国605カ所の児童養護施設に,①2019年3月31日または②2020年3月31日の時点で,高校3年生だった者について回答してもらう調査票を郵送した。質問項目は基本的属性,ACEs,およびポジティブな子ども時代の体験(Positive Childhood Experiences,以下,PCEs)に関連するものであった。調査時期は,2020年11月から2021年1月末とした。605施設のうち,187施設から回答を得た。分析方法は,ACEs得点と2変数間のクロス集計と決定木分析を行った。
結果 844名の若者に関する回答が得られた。性別は,男性427人(51.2%),女性407人(48.8%)であった。何らかの障害があるのは254人(30.2%)で,そのうち,知的障害が最も多く,161人(63.4%)であった。退所から現在までに経験したことを尋ねた項目では,卒業時と同じ事業所で働いている者が最も多かったが,退職や転職のほか,無職の状態や生活保護受給の経験といったネガティブな出来事を経験している者もいた。また,ACEs得点を2群に分けたとき,ハイリスク群が55.3%と非常に高い割合を示した。クロス集計の結果,ACEs得点が高い若者ほど家庭復帰は困難であること,無職を経験していること,入所前に他の社会的養護を経験しておらず,年齢が高くなってからの入所であることが明らかとなった。決定木分析では,「自宅や学校の近隣で,暴力を見たり,聞いたりしたことがあるか」「施設入所時の虐待加算の有無」「母の精神疾患の有無」「児童の性別」がACEsの高い群の特徴であると示された。
結論 本研究の結果,退所後2年以内に状況が大きく変わることへの対応が必要であること,女児のほうが強い逆境体験を有していることが示唆された。児童福祉法改正により,今後は18歳の誕生日で支援を途絶えさせることのないよう切れ目のない支援が求められる。どのような経験を持つ若者が18歳以降にハイリスクな状態につながりやすいのかを把握し,児童養護施設だけではなく,他の様々な社会資源とともに,成人後の支援を充実させることが求められる。
キーワード 社会的養護,児童養護施設,アフターケア,幼少期逆境体験(ACEs),決定木分析
第69巻第12号 2022年10月 医師の負担軽減に伴う病院機能の集約化・重点化と
江原 朗(エハラ アキラ) |
目的 医師の働き方改革に伴って特定の病院機能が集約化・重点化される可能性が高く,住民の病院へのアクセスの変化を概観するモデルを作成する。
方法 特定の病院機能に関する診療圏を,「国土面積を特定の病院機能がある市町村数で割った面積を有する円である」と仮定した単純化モデルを作成し,病院の集約化・重点化によりその半径がどう変化かするかを計算した。なお,計算の仮定は,a)住民の医療需要が集約化・重点化の前後で変わらない,b)病院の規模やその分布に大きな差がない,c)診療圏の人口とその分布も大差はないとした。そして,全国の小児科病棟のある市町村が531から288に集約化・重点化された場合に円形の診療圏の半径(モデル値)と居住する市町村から最寄りの小児科病棟がある市町村までの距離(実測値)がどう変化するかを比較して近似の精度を評価した。
結果 小児科病棟が所在する市町村が531から288に減少した場合,円形と仮定した診療圏の半径(モデル値)は1.35倍(20.4㎞/15.1㎞),居住する市町村から最寄りの小児科病棟がある市町村までの距離(実測値)は1.63倍(22.7㎞/13.9㎞)となった。このモデルと実測値との間の相対誤差は|1.63倍-1.35倍|/1.63倍=0.17であり,その差は2割弱に過ぎなかった。
結論 特定の病院機能が集約化・重点化される際の地理的なアクセスの変化を市町村単位で概算する際に,診療圏を「国土面積を特定の病院機能がある市町村数で割った面積を有する円である」と仮定したこの粗い近似のモデルを用いても実測値と大きな差異は生じなかった。モデルが簡単であるため,集約化・重点化の際のアクセスの変化を示す簡便なツールとして有用であると考えられる。
キーワード 集約化,重点化,医師の働き方改革,診療圏,アクセス,小児科病棟
第69巻第12号 2022年10月 対面・非対面交流のタイプ別にみた高齢者の主観的健康:
福定 正城(フクサダ マサキ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ) |
目的 本研究は,高齢者の交流タイプを対面交流の頻度と非対面交流の頻度から4群に分け,それぞれの交流タイプと主観的健康との関連を検証することを目的とした。
方法 日本老年学的評価研究(JAGES)によって2019年に実施された要介護認定を受けていない高齢者を対象にした質問紙調査(回収率69.4%)のうち,使用変数が含まれる22,809人を分析した。従属変数には,主観的健康指標として健康度自己評価と抑うつ(GDS-15)を用いた。独立変数には,対面・非対面交流頻度として4つの指標を使用し,対面・非対面交流がそれぞれ週1回以上か否かで「孤立型」「非対面中心型」「対面中心型」「交流豊富型」に分類した。各交流タイプの該当割合を算出し,健康度自己評価不良および抑うつ状態の割合について,同居者の有無で層別化し記述統計を確認した後,各交流タイプの間でFisherの正確確率検定による多重比較(Bonferroni法)を行った。その後,多重代入法により欠損値を補完し,同居者の有無で層別化してポアソン回帰分析を行った。
結果 解析の結果,交流タイプの割合は,交流豊富型群がほぼ半数,孤立型群が約25%,対面中心型群および非対面中心型群が約15%であった。多重比較によれば,健康度自己評価は同居者ありで,抑うつは同居者の有無にかかわらず,対面中心型群と非対面中心型群との間以外に有意差が認められ,健康度自己評価は同居者なしで孤立型群と各交流タイプとの間に有意差が認められた。ポアソン回帰分析の結果,孤立型群と比べて,交流豊富型群の健康度自己評価不良への該当しやすさは,同居者なしで0.71(95%信頼区間,以下,95%CI:0.58-0.88)倍,同居者ありで0.76(95%CI:0.68-0.85)倍であった。抑うつ状態への該当しやすさは,同居者なしで0.37(95%CI:0.27-0.51)倍,同居者ありで0.39(95%CI:0.32-0.47)倍であった。一方で,孤立型群と比べて,非対面中心型群の健康度自己評価不良への該当しやすさは,同居者なしで0.70(95%CI:0.51-0.96)倍,同居者ありで0.89(95%CI:0.78-1.02)倍であった。抑うつ状態への該当しやすさは,同居者なしで0.62(95%CI:0.41-0.93)倍,同居者ありで0.71(95%CI:0.55-0.91)倍であった。
結論 高齢者の交流タイプ別にみると,交流豊富型群が最も主観的健康と関連し,対面中心型群および非対面中心型群であっても,主観的健康に寄与し得ることが示唆された。非対面交流は,身体機能低下の影響を受けにくい交流媒体であるため,加齢による社会的ネットワークの縮小を防ぐ可能性をもつと考えられる。
キーワード 対面交流,非対面交流,交流タイプ,健康度自己評価,抑うつ,社会的孤立
第69巻第11号 2022年9月 フレイルティモデルを用いた
都築 英莉(ツヅキ エリ) 石井 太(イシイ フトシ) |
目的 本研究は,わが国男性の悪性新生物コーホート死亡率に,フレイルティモデルを当てはめ,その動向を定量的に分析することを目的とした。
方法 1900〜1940年に生まれた41コーホートの男性を対象とし,日本版死亡データベースと人口動態統計を用いて,45〜89歳の年齢別悪性新生物死亡率を推計した。さらに,フレイルティの分布を表す関数としてガンマ分布を用い,標準的な死力にゴンパーツモデル,ワイブルモデルを用いてモデリングを行った。
結果 推計結果から,悪性新生物死亡率は中年から老年にかけて上昇スピードが減速する中年上昇型であることが明らかとなったが,1910〜1920年生まれコーホートではその減速は緩やかになっていた。フレイルティモデルへの当てはめからは,すべてのコーホートにおいて,ガンマワイブルモデルの方が当てはまりがよいことが確認された。モデルのパラメータを観察すると,1900~1910年半ば生まれコーホートまではフレイルティのばらつきが小さくなったが,それ以降のコーホートでは再び上昇する傾向が観察された。さらに,標準的な死力であるワイブルモデルの切片の観察からは,1930年生まれコーホートから急速に悪性新生物死亡率が改善していることが明らかとなった。
結論 わが国男性の悪性新生物死亡率は,脳血管疾患死亡率の低下などの他の死因の影響から,一時的に中年で死亡率が急上昇する年齢パターンから離れたものの,その後,他の死因の影響が小さくなるとともに悪性新生物死亡率自体も改善し,本来の年齢パターンに戻るという変遷を遂げてきたものと理解できる。
キーワード 悪性新生物,コーホート死亡率,ガンマモデル,ワイブルモデル,ゴンパーツモデル
第69巻第11号 2022年9月 国民健康保険制度改革が医療費適正化と
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目的 本稿の目的は,国保における都道府県単位化と保険者努力支援制度の導入が市町村の医療費適正化と予防・健康づくりにどのような影響をもたらすのかについて,都道府県と市町村の階層構造を考慮しながら実証分析を行い,明らかにすることである。
方法 分析対象は,医療費が高額とされる中国地方,四国地方と九州地方の都道府県および市町村である。分析に使用する主要なデータは,国民健康保険の実態から医療費の3要素,人口動態統計特殊報告平成25年~平成29年人口動態保健所・市区町村別統計から死亡率,保険者努力支援制度交付基準から設定された各指標である。被説明変数には,医療費の3要素である受診率,1件当たり日数および1日当たり費用額又は死亡率を採用した。説明変数は,保険者努力支援制度における市町村の12の指標と都道府県の3つの指標に加え,被説明変数に影響を及ぼす社会的要因と地域的要因をコントロールするために,人口密度,15歳未満人口割合や課税対象所得等を投入した。また,推定には,都道府県と市町村の階層構造を考慮するため階層線形モデルによる分析を行った。
結果 被説明変数を受診率とした場合の推計結果は,市町村指標のうち2つの指標と都道府県指標のうち1つの指標で有意にマイナスであった。1件当たり日数では,市町村指標のうち3つの指標で有意にマイナスであった。次に,1日当たり費用額では,2つの市町村指標の推定係数の符号が有意にマイナスであった。最後に,死亡率については,市町村指標のうち2つの指標と都道府県指標のうち1つの指標の推定係数の符号が有意にマイナスであった。
結論 推定結果を総合的に解釈すると,保険者努力支援制度交付金の交付基準として設定されている市町村指標は医療費適正化に対して一定の効果を発揮し,都道府県指標は死亡率との関連性が観察された。また,死亡率と関連のあった指標は,都道府県から市町村への積極的関与を含み,指導・助言を行うこと等であった。一方で,すべての指標が効果を発揮しておらず,指標として適正であるのかについて証拠に基づく政策立案という観点から検討する必要性が示唆された。
キーワード 国民健康保険,都道府県単位化,保険者努力支援制度,階層構造
第69巻第11号 2022年9月 介護保険初申請後5年間の
國分 恵子(コクブ ケイコ) 堀口 美奈子(ホリグチ ミナコ) 森 亨(モリ トオル) |
目的 介護保険初申請後5年間の認知症・障害者自立度の変化とその関連要因を探る。
方法 介護保険初申請後5年間に死亡や転居等で除外した者を除いたA市の65歳以上の者250名について認知・身体機能の変化とその関連要因を分析した。
結果 自立度の変化を悪化した者の割合でみると,認知症自立度は66.4%,障害者自立度は60.8%で,認知症,障害いずれにおいても初申請時の区分の低い(状態の良い)者ほど悪化する傾向が有意に認められた。さらに障害者自立度においては,初申請時の認知症自立度区分の高い(状態の悪い)者で悪化率が高いことが示された。
結論 認知症・障害者自立度において,いずれも初申請時自立度が低い(状態の良い)人でその後の悪化率が高いことについては,区分の設定体系の妥当性,初・再申請時の認定のバイアス等を含めて今後さらに慎重に検討すべきである。悪化と生活の場の関連に関しては,それぞれの生活の場における介護・看護の影響とともに,生活の場の決定に自立度以外の要因が作用している可能性について考慮が必要と考えられる。
キーワード 介護保険,認知機能,自立度の変化,生活の場
第69巻第11号 2022年9月 訪問看護師の属性が地域連携促進に与える要因分析大木 正隆(オオキ マサタカ) 浅海 くるみ(アサウミ クルミ) |
目的 訪問看護師の属性が地域連携促進に与える関連要因を,統計的手法を用いて明らかにすることである。
方法 東京都の訪問看護ステーションに所属する訪問看護師875名に,郵送法無記名自記式質問紙調査を実施した。調査期間は,2017年10月~同年12月,分析対象は,711名(有効回答率81.2%)である。
結果 訪問看護師の属性で医療介護福祉の地域連携尺度の得点差を分析した結果(Mann-WhitneyのU検定),訪問看護師の年齢(50~70代),臨床経験年数(18年以上),訪問看護経験年数(5年以上),役職(主任+管理者),夜間・休日オンコール経験(あり),勤務形態(常勤),ケアマネジャー資格(あり)の群が医療介護福祉の地域連携尺度の得点が有意に高かった(p<0.05)。さらに訪問看護師の属性を説明変数,医療介護福祉の地域連携尺度を目的変数としたロジステック回帰分析を実施した結果,医療介護福祉の地域連携尺度には,訪問看護経験年数(5年以上,オッズ比(OR):2.644,95%信頼区間(95%CI):1.791~3.903),役職(主任+管理者,OR:1.683,95%CI:1.065~2.659)が有意に関連した。
結論 訪問看護師の属性の視点から地域連携を促進していく上では,特に訪問看護経験年数,役職に着目することが重要である。
キーワード 訪問看護,地域連携,地域包括ケアシステム,訪問看護経験年数,役職
第69巻第11号 2022年9月 日本の都市高齢者の援助行動と被援助志向性-よこはまシニアボランティアポイント制度登録者における検討-澤岡 詩野(サワオカ シノ) 渡邉 大輔(ワタナベ ダイスケ)中島 民恵子(ナカジマ タエコ) 大上 真一(オオガミ シンイチ) |
目的 日本の都市高齢者のボランティア活動とソーシャルサポートネットワークと,被援助志向性の関連を明らかにすることを目的とした。既になんらかのボランティア活動を行っている高齢者の分析を行うために,シニアボランティアポイント制度の登録者を対象とした。
方法 神奈川県横浜市の介護予防施策「よこはまシニアボランティアポイント制度」の登録者を対象として,2017年10月~12月末日に郵送法による自記式のアンケート調査を行った。このうち,分析に用いる変数に欠損がない1,024人を対象に分析を行った。被援助志向性を明らかにするために,被援助志向性を構成する2つの因子「援助に対する欲求」と「援助に対する抵抗感」それぞれについて,2つの援助要請対象「身近な他者」と「公的な他者」に関する4つの質問項目に対し5件法で尋ねた。これらの被援助志向性4項目それぞれを従属変数とし,重回帰分析を行った。
結果 ①男性よりも女性が「身近な他者」からも「公的な他者」からも「援助に対する抵抗感」をもっていること,②女性では「身近な他者」からの「援助に対する欲求」でボランティア活動の頻度の影響が認められ,活動しているほどに欲求も高いこと,③男性では「身近な他者」からの「援助に対する抵抗感」にボランティア活動の影響が認められ,活動しているほどに抵抗感が高いこと,④加えて受領可能と認識する情緒的サポートネットワークの種類が多いほどに抵抗感も高くなることが示された。
結論 一般高齢者よりも援助志向の高いことが考えられるボランティアポイント制度登録者においても被援助志向性に影響を与える要因は男女で異なることや,「援助をうけることへの欲求がある一方で,他者からの援助をうけることに抵抗を感じる」といった相反する感情が内在する人の存在を明らかにした本研究は重要な知見を提示するものといえる。今後は,男女の違いや相反する感情が内在する人の存在を前提にして支援策を検討することが求められる。
キーワード 援助行動,被援助志向性,ボランティア活動,都市高齢者
第69巻第8号 2022年8月 介護職員の職場外・職場内研修への参加と成長実感の関連河内 康文(コウチ ヤスフミ) |
目的 本研究は,介護職員の職場外・職場内研修への参加と成長実感の関連を明らかにすることとした。
方法 2021年2月に調査会社を通してWeb調査を実施し,回答が得られた429名の介護職員に対して,越境的学習に関する尺度,能力向上尺度,組織コミットメント尺度,を用いて探索的因子分析,確認的因子分析,分散分析およびTukeyによる多重比較を実施した。
結果 回答者は男性154名(35.9%),女性275名(64.1%)で年齢は40歳代が最も多く14.2%,施設種別は訪問介護・通所介護など39.9%,介護老人福祉施設34.7%であった。所有資格は介護福祉士58.0%,ヘルパー系31.7%であり,研修参加は「参加なし」27.0%,「職場のみ参加」35.4%,「職場外のみ参加」4.7%,「職場外・職場内両方参加」32.9%であった。能力向上,組織コミットメントの各尺度と,①職場外・職場内のどちらにも参加したことがある群(職場外・内群),②職場内のみ参加したことがある群(職場内群),③職場外のみ参加したことがある群(職場外群),④参加したことがない群(参加なし群)の4群を分散分析した結果,有意な群差がみられた。多重比較(5%水準)では,能力向上において,「①職場外・内群」>「②職場内群」「④参加なし群」という結果が得られた。組織コミットメントでは,「①職場外・内群」>「④参加なし群」であった。
結論 研修を通した成長実感は,①職場外・職場内のどちらにも参加したことがある群で高い傾向がみられた。①では,組織コミットメントも高い傾向にある。介護職員は,介護現場の課題を認識し,職場外・職場内研修で課題への対応する学びを踏まえて,再度チームで相互に学び合い相互に成長する。介護事業所は,このサイクルをイメージした職場外・職場内研修を意図し,介護職員のキャリア形成にも反映させる取り組みが人材定着に向けて効果的であることが示唆された。
キーワード 介護職員,人材定着,職場外・職場内研修,能力向上,キャリア形成
第69巻第8号 2022年8月 都市部における町会・自治会の
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目的 互助を促す支援者が活用するための「都市部における町会・自治会の互助の機能に関する評価尺度」の予備調査を行った。
方法 2020年1月に東京23区内の地域包括支援センター,社会福祉協議会,区役所の地域包括ケア主管部署357カ所のうち協力同意を得ることができた61施設146人を対象に質問紙調査を行い,因子分析を実施した。
結果 調査票は75部を有効回答(有効回答率51.4%)とし,150町会・自治会に関する回答を最尤法,プロマックス回転で因子分析の対象とした結果,有意確率0.773で4因子13項目の尺度項目を得た。各因子は“くらしの補完”“日常の交流”“話し合える場”“つながり意識”と命名した。信頼性係数Cronbachのα係数はいずれも0.8以上であった。共分散構造分析で確認的因子分析を行った結果,モデルの適合度指標は,CFI=0.987,RMSEA=0.049であった。
結論 分析対象の数は十分とは言い難いものの,「都市部における町会・自治会の互助機能」を説明するモデルとして,内的整合性が確保され,かつ妥当であると判断できる信頼性係数と適合度指標を得た。今後は全国の政令指定都市においても本尺度が活用可能かどうか本調査を行い,都市部において互助を促す支援者が町会・自治会単位の互助機能を測定するための評価尺度を開発したい。
キーワード 互助機能,評価尺度,都市部,尺度開発,支援者,予備調査
第69巻第8号 2022年8月 精度管理指標によるがん検診の体制整備の評価町井 涼子(マチイ リョウコ) 高橋 宏和(タカハシ ヒロカズ) 中山 富雄(ナカヤマ トミオ) |
目的 わが国のがん検診精度管理指標の一つである「事業評価のためのチェックリスト」(以下,チェックリスト)に基づいて,現在の対策型検診(健康増進法に基づく住民検診)の体制整備状況を評価した。
方法 2016~2020年度に胃がん,大腸がん,肺がん,乳がん,子宮頸がん検診を行った全市区町村を対象に,チェックリストの遵守状況を調査した。調査はチェックリストに基づいて独自に作成した質問票を用いて行い,項目ごとに遵守/非遵守の2択で回答を得た。結果を基に,チェックリストの全項目合計の遵守率(全国値,都道府県別),および項目別の遵守率を算出した。
結果 全期間を通じて調査の回収率は95%以上だった。全項目合計の遵守率(全国値)は5がん共通で改善し,集団検診では約70%から約80%に,個別検診では約60%から約70%に改善した。遵守率の推移はがん種や検診方式による違いはなく,全期間を通じて同様に年々増加した。項目別の分析では,対象者名簿と受診者台帳の作成,地域保健・健康増進事業報告,プロセス指標値の単純集計に関する項目の遵守率は比較的高く,一方,個別受診勧奨,精検結果把握と精検勧奨,検診機関の質担保では遵守率が比較的低かった。集団検診と比較して個別検診の遵守率は低かった。都道府県別の分析では全期間を通じて遵守率はばらついていたが,年次が進むにつれて遵守率が低い県の水準が改善し,都道府県格差は縮小した。
結論 2016年以降,わが国の対策型検診の体制整備状況は全国的に改善傾向にある。残る課題として,個別検診全般の体制整備の遅れ,集団検診における個別受診勧奨,精検結果把握と精検勧奨,検診機関の質担保の体制整備の遅れが示唆された。これらの課題解消には,がん検診の実施主体である市区町村の自助努力に加え,国の指針に従って各都道府県が管轄下地域の状況を詳細に把握し,具体的な改善策を助言・指導することが必要である。国はこれらの活動状況を広く把握し,体制改善への影響を評価するとともに,優良事例を全国に展開することが求められる。
キーワード がん検診,精度管理指標,事業評価のためのチェックリスト,対策型検診
第69巻第8号 2022年8月 サルコペニアとBMIの効果量に関するメタ分析澤田 奈々実(サワダ ナナミ) 今川 海沙(イマガワ ミサ) 沖野 ひより(オキノ ヒヨリ)鈴木 佑奈(スズキ ユウナ) 橋本 泰央(ハシモト ヤスヒロ) 上田 由喜子(ウエダ ユキコ) 小塩 真司(オシオ アツシ) |
目的 サルコペニアの有無によるBMIの平均値差をメタ分析によって明らかにすることを目的とした。
方法 J-STAGE, PubMedから1,600本の論文を収集した。そこから①大学紀要を除く査読付き論文かつ原著論文であり,②言語が日本語または英語で書かれており,③サルコペニアの有無とBMIとの関連を検討した論文であり,④サルコペニアの有無の2群に分かれており,それぞれBMIのデータがあり,かつ④European Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)の診断基準に基づき,数値が2項目以上当てはまる論文16本を分析対象とした。効果量には標準化されたBMIの平均値差を用い,変量モデルを採用した。効果量の異質性はQ統計量で計測し,対象者の性別,国籍ごとに分析を行った。Egger法を用いて公表バイアスの有無を検定した。
結果 非サルコペニア群とサルコペニア群の比較(22件)では,サルコペニア群は非サルコペニア群よりも有意にBMIが高く(d=0.71,95%信頼区間(以下,95%CI)[0.45,0.98],p<0.001),この結果は性別で分類してもおよそ同じ傾向であった(男性d=0.73,95%CI[0.21,1.24],p<0.01;女性d=0.53,95%CI[0.24,0.06],p<0.005)。また,男女混合の研究についても有意な効果量がみられ(d=0.89,95%CI[0.50,1.27],p<0.001),日本(d=0.94,95%CI[0.58,1.30],p<0.001)と,それ以外の国(d=0.43,95%CI[0.16,0.11],p<0.01)に分けた場合も変わらなかった。効果量は日本の方が大きく,日本以外の国の方が小さい傾向がみられた。研究全体の異質性は高いことが確認された。公表バイアスが結果に及ぼす影響はいずれも小さいと考えられた。
結論 非サルコペニア群に比べ,サルコペニア群はBMIが高かった。このことから,BMIの高さとサルコペニアのリスクには関連があることが示唆された。
キーワード サルコペニア,BMI,メタ分析,効果量,論文,公表バイアス
第69巻第8号 2022年8月 医療機関の稼働状況が医療費に与える影響について鈴木 健二(スズキ ケンジ) 八郷 秀之(ハチゴウ ヒデユキ) |
目的 医療費の変動要因のうち,日曜日や祭日および土曜日等の数の差により医療機関の稼働状況が変化することによる影響について,直近のデータに基づいて推計を行い,その結果について考察する。
方法 直近のデータのうち,医療費に大きな影響を及ぼすと考えられる制度改正等の影響が少ない72カ月間の1人当たり医療費の対前年同月比の伸び率を用い,そこから診療報酬改定の影響,閏日の影響,またインフルエンザと花粉症の影響を取り除いて得られた伸び率を被説明変数とし,「日曜・祭日等」「土曜日」「休日でない木曜日」「連休数」の数の対前年同月差を説明変数とした重回帰分析を行った。また,得られた結果を用いて過去の医療費の伸びを補正した場合の結果についての検討を行った。
結果 休日数等が総医療費の伸びに与える影響は,「日曜・祭日等」が1日当たり△2.2%,「土曜日」が△0.9%,「休日でない木曜日」が△0.6%,「連休数」が+0.4%となった。
結論 重回帰分析における適切性を評価する指標はおおむね問題ない水準となった。また,以前行っていた同様の分析結果と比較すると,「日曜・祭日等」の影響は小さくなり,「土曜日」は同程度,「休日でない木曜日」は若干大きくなっており,これは以前と比べ3日以上の長期の連休が多くなり「日曜・祭日等」においても稼働している医療機関があり,医療費を減少させる効果が小さくなったことが想定される。また,「連休数」は他の係数とは逆方向(プラス)の影響となり,長期の連休にあっては,医療費の減少効果を抑える結果となっている。また今回得られた結果を用いて過去の医療費の伸びを補正した場合,従前の係数を用いたものと比較して,補正後の伸び率の分散が小さくなる効果がみられた。
キーワード 医療費,メディアス,休日,医療機関
第69巻第7号 2022年7月 京都府および府内市町村の新人保健師における
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目的 京都府では,2012年に「新人保健師研修ガイドライン」を策定し研修を実施している。本研究では,新人保健師が必要とする基礎能力到達目標の到達度について,入職後1年間の推移を京都府,府内市,府内町村別に比較検討することを目的とした。
方法 対象者は,2012~2018年度の7年間に新人保健師研修ガイドラインに基づく研修を受講した新人保健師140名(京都府保健所27名,府内市91名,府内町村22名 ただし政令指定都市の京都市を除く)とした。新人保健師がプリセプターや所属の人材育成責任者の指導を受け記入した「新人保健師の到達目標チェックリスト(厚生労働省:2011)」の自己評価結果を回収し,研修前後の有効な回答が得られた105名について,京都府保健所,府内市,府内町村の各群における目標到達度の入職後1年間の推移を明らかにした。
結果 チェックリストによる到達度の推移では,組織人としての能力(所属機関の理解,部署内のコミュニケーション)に関するすべての項目が3群ともに有意に高くなった。専門職としての能力Ⅰ(個人,家族,小グループの健康課題解決)に含まれる,個人・家族・小グループに対する活動展開,対象者との信頼関係に関する能力の多くの項目は3群ともに到達率が有意に高くなった。また,専門職としての能力Ⅱ(集団・地域の健康課題解決)は,3群ともに到達度が有意に高くなった項目はなく,特に健康危機管理に関する項目の到達度は,府および府内市は入職後1年では低い。専門職としての能力Ⅲ(社会資源の開発と施策化)は府および町村に有意な変化はなかった。予算案や施策化の根拠資料の作成は到達度が低かった。自己管理・自己啓発に関する能力のうち,自己のストレスマネジメントや健康管理に関する能力は3群ともに有意に高くなった。
結論 地方自治体の組織形態に関わらず最も早く到達できる基礎能力がある一方,新人研修内容が到達度向上に影響していると考えられる項目が認められた。3群による到達度の差異については,所属組織における実務経験の内容とOJTの体制等との関連があることが示唆された。到達度が低い項目については,有効な指導,支援体制を整備する必要がある。
キーワード 新人保健師,到達目標,チェックリスト,府/市/町村,人材育成
第69巻第7号 2022年7月 A市における一般介護予防事業としての
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目的 地域の支え合いを広げ,介護予防や生活支援を図るための手法であるボランティアポイント事業(以下,VP事業)を活用した取り組みが各地にあるものの,効果検証は十分でない。本研究はA市のVP事業に着目し対照群を設けたデータを用いて,A市のVP事業参加者の特性を確認し,事業参加に伴う効果を地域活動への参加と介護予防の観点から検証した。A市では2016年10月から一般介護予防事業としてVP事業を開始し,開始から約1年後の時点で要支援・介護認定を受けていない高齢者の約17%が参加している。
方法 使用したのは,Japan Gerontological Evaluation Study(JAGES)の一環で実施された郵送自記式質問紙調査2時点分の縦断データである。A市は,全国39市町の要支援・介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に2016年9月~2017年1月に行われた「健康とくらしの調査2016」に参加している。これをベースラインに,約1年後の時点のVP事業参加者750人,非参加者750人をそれぞれ無作為抽出し,追跡調査を実施した。分析対象は,2時点のデータを結合できた1,185人である。町内会・自治会活動への参加など地域活動に関する4変数と声を出して笑う機会など介護予防に関する3変数を目的変数,VP事業への参加を説明変数に用い,Inverse Probability Weighting推計モデルでVP事業の参加に伴う効果を検証した。
結果 A市のVP事業参加者の特性は,女性,70歳以上,非就労などであり,これらは先行研究で地域活動に参加しやすい高齢者の特性として示されているものと一致した。一方,先行研究で関係が示されている世帯類型,教育年数,主観的健康感などの要因はA市のVP事業への参加とは関連がなかった。VP事業の非参加者に比べ参加者は,町内会・自治会活動(出現割合比:PR=1.24)や地域活動における運営係としての活動(PR=1.25)に参加するようになるほか,週1回以上は声を出して笑う機会を持つ(PR=1.06),月1回以上は友人と会うようになる(PR=1.09)など,地域活動への参加の促進や介護予防に関する効果が示された。
結論 A市のVP事業参加者の特性からすると同事業は比較的参加しやすく,1年後の状態でみる限り,地域活動への参加の促進や介護予防とって有効である可能性が示された。
キーワード インセンティブ,ボランティア,地域活動,介護予防,効果,ポイント
第69巻第7号 2022年7月 LGBT当事者における
鈴木 美紗稀(スズキ ミサキ) 浦中 桂一(ウラナカ ケイイチ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ) |
目的 性的マイノリティであるLGBT当事者は医療現場での差別,侮辱を受けた経験から受診を躊躇する傾向にある。本研究の目的は,LGBT当事者がより抵抗がなく医療機関を受診できる支援の示唆を得るために,医療機関への受診の実態とケアニーズを明らかにすることである。
方法 研究デザインは量的記述的横断研究であり,調査期間は2020年6~11月であった。対象者はLGBT当事者65名であった。調査内容は属性,日本および海外での受診実態,不快な体験,受診時の不都合な体験,ケアニーズであった。分析は,記述統計量を算出し,Fisherの正確確率検定を実施した。
結果 調査票をLGBT当事者65名に配布し,有効回答33部(有効回答率50.8%)を用いてデータ分析を行った。対象者の年齢は20歳代93.9%,30歳代6.1%であった。日本での病院受診経験者90.9%の受診理由は,身体不調66.7%,定期的な受診36.7%,ホルモン療法36.7%であった。不快な経験は,ありが40%であり,内容は本名での呼称50%,周囲からの視線41.7%,身体について医療目的以外の質問8.3%であった。受診時の不都合な体験は,ありが23.3%であり,内容は性行為に関する回答に悩む,性別の回答に悩む,本人と認識されないであった。トランスジェンダー群は,それ以外の群よりも医療機関で不快な体験をした人が有意に多かった(p<0.01)。医療従事者への対応ニーズは,LGBT知識の高さ45.5%,問診票の性別欄の工夫42.4%,自覚している性別で対応42.4%であった。また,受診のための環境ニーズは,LGBTに考慮したトイレ42.4%,シャワー室・更衣室の環境工夫36.4%,待合室の環境工夫12.1%であった。
結論 LGBT当事者の医療機関への受診理由は身体的不調,定期的な受診,ホルモン療法であった。医療機関での不快な体験は本名の呼称,周囲からの視線などであり,受診時の不都合な体験は,性別の回答に悩む,本人と認識されないなどであった。医療従事者に対するLGBTに関する知識向上のためのセミナーが必要であり,施設には性別に関係なく使用できるトイレや更衣室等の設置を現在より多く設置することが必要であることが示唆された。
キーワード 性的マイノリティ,LGBT,横断研究,ケアニーズ
第69巻第7号 2022年7月 運動量と人生に対する満足度の関係における
上野 雄己(ウエノ ユウキ) 平野 真理(ヒラノ マリ) 小塩 真司(オシオ アツシ) |
目的 本研究は日本人成人を対象とした,運動量と人生に対する満足度の関係におけるレジリエンスの媒介効果を検討することを目的とした。
方法 調査は2017年1月(1波)と2019年1月(2波)に行い,分析対象者は日本人成人1,284名(男性865名,女性419名;年齢50.9±10.3歳,20-69歳)であった。分析対象項目は運動量(Kasariの身体活動指標修正版),人生に対する満足度(人生に対する満足度尺度日本語版),レジリエンス(二次元レジリエンス要因尺度)であった。
結果 社会人口統計学的要因(年齢と性別,学歴,婚姻状態,子どもの人数,世帯年収)を統制し媒介分析を行った結果,運動量(1波)からレジリエンス(2波)を介して人生に対する満足度(2波)に影響する媒介経路が示された。一方で,レジリエンス(2波)を媒介変数に投入した場合,運動量(1波)から人生に対する満足度(2波)に対する直接的な関連はみられなかった。
結論 以上のことから,運動量はレジリエンスを媒介し,人生に対する満足度に関連する完全媒介モデルであることが明らかとなった。
キーワード レジリエンス,運動量,人生に対する満足度,縦断調査,日本人成人
第69巻第7号 2022年7月 臨床医師の地理的偏在に関する研究2004-2018年-2次医療圏を単位とした分析-設楽 詠美子(シダラ エミコ) 大久保 一郎(オオクボ イチロウ) |
目的 地方における医師の不足が叫ばれているが,人口当たりの医師の数は継続的に増加しており,医師不足の問題は地域的な偏在に起因していると考えられる。医師の地理的偏在の状況は継続的に変化し,2008年にピークを迎えた医師の不足感を背景に実施された諸政策が,医師の地理的偏在の是正に効果をもたらしたのか否かを実証した研究はまだほとんどない。本研究は,2次医療圏単位での臨床医師の地理的な偏在について最新の測定をし,医師不足問題以後に取られてきた諸政策が地域偏在にどのような影響をもたらしたかを検証することを目的とした。
方法 医師・歯科医師・薬剤師統計を用い2004年から2018年の2次医療圏の臨床医師の地理的偏在をジニ係数により測定した。2次医療圏の境界線を2018年に固定したもの(335医療圏数),各年の医療計画に基づく2次医療圏(2004年に370医療圏あり,2018年には335医療圏となる)のジニ係数を求めた。人口減少による影響を調整するために2次医療圏の境界線を2018年に固定したものに,2004年と2018年の人口を固定し各ジニ係数を計算した。一般病院,大学病院,診療所で働く医師の地理的偏在が臨床医師のジニ係数へ与えた影響を分析するために寄与度・寄与率(2004-2018年)ならびに,変化の寄与度・寄与率(2006-2012年と2012-2018年)を求めた。
結果 新医師臨床医制度後の2006年から2012年までは,2次医療圏の臨床医師のジニ係数は増加傾向にあり,大学病院および一般病院で働く医師の地理的偏在の拡大が臨床医師の地理的偏在の拡大に影響した。しかし,2012年以降は臨床医師のジニ係数は減少に向かった。その減少には一般病院で働く医師の地理的偏在の低下が最も影響し,次に診療所で働く医師の地理的偏在の低下が影響した。
結論 日本の臨床医師の地域偏在は,2012年以降,2018年に向けて改善した。この改善には,一般病院の医師の地域偏在の改善が強く影響し,病院で働く医師の確保が図られ公平な分配に結びついたと評価できる。これは2008年前後の医師不足問題以降に策定された臨床医師の地理的偏在是正諸政策により,一般病院への医師の再分配が進んだと考えられる。また,診療所で働く医師の一貫した地理的偏在の改善は,都市部での地域間競争により地方への分配が促進された。
キーワード 臨床医師,地理的偏在,2次医療圏,ジニ係数,地域保健医療計画,医療計画
第69巻第6号 2022年6月 勤労者におけるインターネット依存の関連要因および
大島 優海(オオシマ ユミ) 大宮 朋子(オオミヤ トモコ) 出口 奈緒子(デグチ ナオコ) |
目的 インターネットの急激な普及に伴い,インターネット依存による健康被害が注目され,インターネット依存による抑うつ傾向の増大や睡眠時間の減少などの身体不調は,勤労者の労働遂行能力に悪影響を及ぼすことが懸念される。しかし,中高生に対するインターネット依存の研究は蓄積されてきたが,勤労者を対象とした調査はほとんどみられない。本研究では,勤労者におけるインターネット依存の関連要因を明らかにすること,インターネット依存が健康状態の悪化による労働遂行能力の低下(プレゼンティーズム)に与える影響を明らかにすることを目的とした。
方法 首都圏の勤労者20~59歳の男女を対象とした無記名のインターネット調査を実施した。調査項目は基本属性,職業性ストレス要因,インターネット依存(Internet Addiction Test;IAT),インターネット利用目的と目的別利用頻度,インターネット利用による周囲の人々との関わり(コミュニケーション)の変化,睡眠の質・量,心身症状,抑うつ,労働遂行能力の低下(プレゼンティーズム)とした。プレゼンティーズムの測定にはWork Functioning Impairment Scale;WFun)を用いた。インターネット依存の関連要因について検討するため,IATスコアを従属変数,基本属性,職業性ストレス要因,インターネット利用目的と目的別利用頻度,インターネット利用による周囲の人々との関わり(コミュニケーション)の変化を独立変数とした重回帰分析を行った。また,WFunスコアを従属変数とし,基本属性,職業性ストレス要因,インターネット依存,インターネット利用による周囲の人々との関わり(コミュニケーション)の変化を独立変数とした重回帰分析を行った。
結果 分析対象者393名のうち,男性52.2%,女性47.8%であり,対象の平均年齢(標準偏差)は44.0(9.3)歳であった。IATスコアを従属変数とした重回帰分析の結果,年齢(β=-0.143,p=0.002),孤独感を和らげる(β=0.147,p=0.003),家族や友人,知人との交流が増えておっくうだ(β=0.125,p=0.030)とインターネット依存に有意な関連があった。また,WFunスコアを従属変数とした重回帰分析の結果,インターネット依存(β=0.111,p=0.008)および抑うつ(β=0.489,p<0.001)と有意な関連があった。
結論 若年層の勤労者および孤独感を和らげる目的でのインターネット使用とインターネット依存との関連が明らかとなった。インターネット依存と労働遂行能力の低下に関連があったことからも,勤労者に対しインターネット依存の予防に早期に取り組む必要性が示唆された。
キーワード 勤労者,インターネット依存,プレゼンティーズム,抑うつ,心身症状,職業性ストレス要因
第69巻第6号 2022年6月 COVID-19まん延下における
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目的 新型コロナウイルス感染症(以下,COVID-19)まん延下における一般市民の「責任の所在」に関する「公」と「自己」の2つの方向性に着目し,これらの方向性の偏りとSOCの関連を,一般市民を対象としたインターネット調査結果の解析から検討,考察することを目的とした。
方法 日本国内に在住する20歳から69歳の成人男女2,100名を対象とし,2020年10月9日から12日に,(株)楽天インサイトのプラットフォームを利用したインターネット調査を実施した。調査内容は,属性(世帯形態,学歴,勤務形態,移動手段,情報入手の媒体,持病の有無,COVID-19に関するPCR検査経験の有無),COVID-19に関する知識,緊急事態宣言発令期間の行動,COVID-19がまん延する社会生活における価値観10項目,COVID-19への感染や感染対策の責任の所在に対する価値観,SOCを測定する3項目であった。
結果 回答は2,100人から得られた。無回答がなかったため,すべてを有効回答票とした。本調査対象者のSOC項目の平均得点±標準偏差は13.6±3.8であった。SOC得点が高くなると公的責任感得点と自己責任感得点が高くなることが示された。SOC得点が高い者は低い者に比べて公的責任感得点が高く,SOC得点が高い者の中では年齢の差は認められないが,SOC得点が低い者の中で,特に20歳代の公的責任感得点が低いことが認められた。SOC得点が高い者は低い者に比べて自己責任感得点が高く,SOC得点が高い者の中では年齢の差は認められないが,SOC得点が低い者の中では,特に20歳代,30~40歳代,50歳以上の順に自己責任感得点が低いことが認められた。
結論 SOC得点が低い者の中では,特に20歳代が他の年齢に比べ「公的責任感得点」や「自己責任感得点」が低いことが明らかとなった。20歳代の調査対象者においてはSOC確立途上であり,今後年齢が高まるにつれSOCが確立され,「責任」に対する意識も変化する可能性が推察された。
キーワード 新型コロナウイルス感染症(COVID-19),SOC(首尾一貫感覚),公的責任感,自己責任感
第69巻第6号 2022年6月 感染症流行下における
杉浦 至郎(スギウラ シロウ) 佐々木 渓円(ササキ ケマル) 山崎 嘉久(ヤマザキ ヨシヒサ) |
目的 感染症流行下における乳幼児健康診査(以下,乳幼児健診)事業の実施状況や課題を把握し,望ましい乳幼児健診に関して考察することとした。
方法 全国1,741自治体の乳幼児健診事業担当者に調査依頼票を郵送し,オンラインもしくは郵送により調査票を回収した。調査回答期間は2020年9月28日~10月26日とし,10月9日までに回答が得られなかった自治体には再依頼を行った。自治体の対応パタンをAからDの4つに大別し,それぞれに現状や課題に関する質問を行った。A:緊急事態宣言による通知を受けて,集団健診を延期し,かつ個別健診とせずに,解除後の通知を受けて集団健診を再開,B:緊急事態宣言による通知を受けて,集団健診から個別健診に変更した健診を実施,C:緊急事態宣言による通知以前および通知後も個別健診を継続して実施,D:緊急事態宣言による通知以前および通知後も集団健診を継続して実施。
結果 1,182自治体から回答が得られた(回答率67.9%)。3~4か月児等健診では,対応Aが43.3%,対応B,C,Dがそれぞれ12.4%,17.4%,13.7%であった。1歳6か月児健診と3歳児健診は,対応Aがそれぞれ72.8%,75.0%であった。また対応は自治体の規模によっても異なっており,対応Aは,3歳児健診年間対象者が50人未満の小規模自治体で少なく,中規模自治体で多く選択されていた。対応Bは,自治体規模が大きいほど該当頻度が多かった。対応パタンCは,1,000人以上の自治体の約70%と250人未満の自治体の20%前後であった。対応Dは,自治体の規模が小さいほど該当頻度が多く認められた。対応Aには受診遅延に伴う疾病スクリーニングの遅れ,対応Bには支援対象者の把握/フォローなどを含めた標準的保健指導が困難になる等,健診方法を延期・変更した自治体にはそれぞれ課題が存在した。感染症流行下における望ましい乳幼児健診のあり方としては「感染予防に配慮した集団健診」と回答した自治体が9割以上であった。
結論 感染症流行に対応して乳幼児健診で行われた対応は,乳幼児健診の対象月齢や,自治体の規模などにより異なる傾向が認められた。それぞれの対応方法にそれぞれの課題があることが明らかとなり,感染症に配慮した集団健診が望まれている現状が明らかとなった。
キーワード 乳幼児健康審査,COVID-19,緊急事態宣言,集団健診,個別健診,オンライン健診
第69巻第6号 2022年6月 がん診療連携拠点病院等の指定要件に関する調査力武 諒子(リキタケ リョウコ) 渡邊 ともね(ワタナベ トモネ) 山元 遥子(ヤマモト ヨウコ)市瀬 雄一(イチノセ ユウイチ) 新野 真理子(ニイノ マリコ) 松木 明(マツキ メイ) 太田 将仁(オオタ マサト) 坂根 純奈(サカネ ジュンナ) 伊藤 ゆり(イトウ ユリ) 東 尚弘(ヒガシ タカヒロ) 若尾 文彦(ワカオ フミヒコ) |
目的 がん診療連携拠点病院等が定められてから20年が経ち,がん診療連携拠点病院等の指定要件項目となっているもののうち,現在のがん医療においての均てん化,集約化すべき項目の整理の必要性が求められている。指定要件項目は各施設から提出される年1回の現況報告で要件の確認が行われている。今回は,それだけでは知り得ない実態や指定要件に対する意見を施設より聴取し,均てん化,集約化すべき項目を明らかにし,今後の指定要件項目等の検討へ提言することを目的とした。
方法 全国のがん診療連携拠点病院等の施設長宛にアンケートを郵送で送付し(2021年5月24日~7月31日),回答を依頼した。アンケートでは,①現行の指定要件各項目に対して,全施設で必要か,一部の施設で必要か,②指定要件各項目に対して,充足・確保可能か困難か,困難な場合には代替要件,③指定要件各項目への意見聴取,④行政や地域等との連携の実施の有無,⑤拠点病院のあるべき姿について調査した。新型コロナウイルス感染症感染拡大(以下,コロナ禍)による影響や現状についても併せて調査した。回答は全体と機能別に集計した。
結果 がん診療連携拠点病院等451施設中256施設(回収率56.8%)から回答が得られた。一部の施設で必要との回答が多かった項目については,既に充足困難であると多くの施設で回答していた項目が多い結果となった。「長期フォローアップの小児がん患者の支援体制」や「AYA世代患者の支援」に関する項目で,より充足困難であるという回答が多かった。コロナ禍により影響を受けた項目は,通常対面で行われていた患者会の実施やカンファレンス,医療者研修などが主であり,オンライン開催への移行が進められているものの,普及過程であったと考えられる。機能別では,都道府県がん診療連携拠点病院ではどの項目も高い割合で充足可能であった。行政,地域,その他との連携については,地域との連携が最も多く実施されていた。就学支援や院内学級の設置等の小児支援を実施している施設は少なかった。
結論 がん診療連携拠点病院等の指定要件項目による意見聴取を行い,均てん化,集約化すべきと考えられる項目が明らかとなり,各施設の現況報告では今まで明らかになることのなかった現況やコロナ禍による影響が明らかになった。
キーワード がん診療連携拠点病院,指定要件,現況報告,均てん化,集約化
第69巻第6号 2022年6月 新型コロナウイルス感染症の影響下における
内藤 惠介(ナイトウ ケイスケ) 西脇 愛美(ニシワキ アイミ) 鈴木 祐子(スズキ ユウコ) |
目的 新型コロナウイルス感染症の流行や緊急事態宣言等の影響による,がんの診断や治療介入の遅れが大きく問題視されている。新型コロナウイルス感染症が東京都内のがん検診の受診状況等に及ぼした影響を把握するため,新型コロナウイルス感染症の流行前後について区市町村が健康増進法に基づいて実施する住民検診型がん検診の実施状況や受診者数等の変化について調査した。
方法 調査対象は東京都内の62区市町村とし,各区市町村のがん検診事業担当部署に対して厚生労働省が「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針」に示す5つのがん検診の実施状況ならびに受診者数を,電子メールで調査票を送付することで調査した。がん検診の実施状況は2020年6月,9月,2021年1月の時点で調査し,受診者数は2019年度と2020年度の上半期,下半期について調査した。
結果 2020年4月から5月にかけては受診者数が著しく減少し,5月の前年同月比は集団検診で1.0%,個別検診で5.1%であった。緊急事態宣言解除後,徐々に検診が再開され,受診者数も増加していった。9月時点で個別検診の実施区市町村率は9割程度であったが,集団検診の実施区市町村率は6-8割程度であり,また規模縮小された検診もあったことから上半期の全体の受診者数は前年度の63.9%,集団検診については前年度比43.1%となった。1月の検診実施状況は集団,個別検診ともに実施区市町村率100%に近く,下半期全体の受診者数の前年度比は集団検診で104.5%,個別検診で114.4%,全体で113.0%であった。通年の全体の受診者数は前年度比90.5%で233,417人の減少であった。全体的に集団検診で延期や規模縮小等による受診機会の減少の影響が大きかったとみられ,がん種別では胃がんや乳がんなど集団検診の割合がもともと大きかったがん種で前年度比が特に小さかった。2019年度には全体の受診者のうち集団検診を受診したのは15%であったが,2020年度は12.6%に低下し,さらに2020年度通年の全体の受診者数の減少のうち,集団検診の受診者数減少が37.5%を占めた。受診機会の減少のほか,感染への恐怖や人の集まる場所への外出を避ける等のいわゆる受診控えといった受診者側の要因も受診者数の減少に寄与した可能性がある。
結論 新型コロナウイルス感染症の流行下において,区市町村によるがん検診の実施体制維持によって受診機会を確保し,ならびに住民への普及啓発活動を強化することは,がん検診の受診者数減少を防ぐために重要な課題と考えられる。
キーワード がん検診,住民検診,新型コロナウイルス感染症,受診機会,受診控え,東京都
第69巻第6号 2022年6月 COVID-19の感染拡大における地域活動の参加数
池田 晋平(イケダ シンペイ) 長谷川 裕司(ハセガワ ユウジ) 関本 繁樹(セキモト シゲキ) |
目的 地域在住高齢者を対象に,新型コロナウイルス(以下,COVID-19)の感染拡大における地域活動の参加数の変化が幸福感にどのような影響を及ぼすのかを明らかにすることである。
方法 神奈川県綾瀬市の要介護度1~5の判定を受けていない地域在住高齢者を対象とした。調査Ⅰ(初期調査)は2019年12月に郵送法で実施した「介護予防・日常生活圏域ニーズ調査」をもとにした。調査Ⅰは970名(無作為抽出)を対象に673名から回答を得た。第1回目の緊急事態宣言(2020年4月7日~5月6日)と第1波のピーク時期(同年5月初旬)を経て,調査Ⅱ(追跡調査)は同年7月に郵送法で実施した。調査Ⅱは,転出等を除く663名が対象で471名から回答を得た。調査内容は,基本属性,幸福感(0~10点のVAS),地域活動(ボランティア,スポーツ,趣味,学習・教養,老人クラブ,町内会・自治会の6項目)の参加数とした。分析は,2時点の地域活動の参加数から「増加群」「維持群」「減少群」「なし群」の4群に分類し,各群の2時点の幸福感の差を対応のあるt検定で確認した。また「なし群」を対照に各群の幸福感の変化の違いを一般線形モデルの反復測定を用いて,時間と群の交互作用の評価を行った。分析は欠損値を除いた計370名とした。
結果 対象者の平均年齢は74.4歳で,女性50.8%であった。2時点の地域活動の参加数の平均は1.52,1.13で,幸福感の平均は7.3,7.0であった。地域活動の参加数の変化は「増加群」11.6%,「維持群」24.9%,「減少群」35.1%,「なし群」28.4%であった。「増加群」の幸福感は2時点それぞれ7.5と7.6で有意差は認められず,「なし群」の幸福感は調査Ⅰ時点で6.8と4群で最も低く,さらに調査Ⅱ時点で6.3と低下し有意差が認められた。時間と群との交互作用が有意であったのは「なし群」と「増加群」,「なし群」と「減少群」で,いずれも「なし群」に有意な主効果が認められた。
結論 「なし群」つまり2時点において地域活動に不参加であることは,幸福感に負の影響を及ぼすことが示され,高齢者が地域活動に参加し社会的な交流を維持することは重要といえる。「増加群」は幸福感が上昇していることが示され,高齢者施策として,COVID-19の感染対策と地域活動の実践の推進を取り上げることは意義がある。
キーワード 新型コロナウイルス,COVID-19,幸福感,地域活動,地域在住高齢者,追跡調査
第69巻第5号 2022年5月 地域在住女性高齢者の抑うつ傾向と生活機能との関連真鳥 伸也(マトリ シンヤ) 上城 憲司(カミジョウ ケンジ) 井上 忠俊(イノウエ タダトシ)兼田 絵美(カネダ エミ) 納戸 美佐子(ノト ミサコ) 中村 貴志(ナカムラ タカシ) |
目的 本研究の目的は,地域在住女性高齢者を対象とし,前期高齢者と後期高齢者のそれぞれについて,抑うつ傾向の有無に関連する生活機能の要因を特定し,年代別の特徴を明らかにすることである。
方法 2015年度から2018年度の4年間にA町の認知症予防推進事業に参加した65歳から84歳までの地域在住女性高齢者を対象とし,年齢,転倒歴,運動習慣,握力,ロコモティブシンドローム質問票(ロコモ),Geriatric Depression Scale短縮版(GDS),Mini-Mental State Examination(MMSE),Trail Making Test partA(TMT),老研式活動能力指標(老研式)の評価を行った。対象者はGDSを用い5点以上を抑うつ傾向群,4点以下を非抑うつ傾向群の2群に分類した。抑うつ傾向の有無別の各測定値の比較は,対応のないt検定を,転倒歴,運動習慣については,χ2独立性の検定を用いて分析した。抑うつ傾向の有無を判別する要因はロジスティック回帰分析(尤度比による変数増加法)を行いて分析した。
結果 対象者は375名であり,前期高齢者の抑うつ傾向群は41名,非抑うつ傾向群は119名,後期高齢者の抑うつ傾向群は70名,非抑うつ傾向群は145名であった。抑うつ傾向の有無別に各測定値を比較した結果,前期高齢者では握力(p=0.013),ロコモ(p=0.012)に有意差が認められた。後期高齢者では握力(p=0.001),ロコモ(p=0.002),MMSE(p=0.001),TMT(p=0.001),老研式(p=0.001)に有意差が認められた。抑うつ傾向の有無を判別する要因は,前期高齢者では,ロコモ(オッズ比(OR)0.711,p=0.029),握力(OR:0.908,p=0.030)が,後期高齢者では,老研式(OR:0.813,p=0.023),MMSE(OR:0.882,p=0.018),握力(OR:0.905,p=0.020)が抽出された。
結論 前期高齢者では運動機能と握力が,後期高齢者では,IADL,認知機能,握力が抑うつ傾向と関連することが明らかとなった。前期高齢者と後期高齢者では抑うつ傾向と関連する要因が異なるため年代を考慮した取り組みが重要であると考える。
キーワード 抑うつ傾向,地域在住女性高齢者,生活機能
第69巻第5号 2022年5月 看護系大学生および社会人における
丸山 未菜実(マルヤマ ミナミ) 太田 佳菜子(オオタ カナコ) 伊藤 玲佳(イトウ レイカ) |
目的 日本ではヒトパピローマウイルス(以下,HPV)ワクチン接種の積極的勧奨は終了したが,先進国の中でもワクチン接種率と子宮頸がん検診受診率が低い。本研究は,看護系大学生と社会人の子宮頸がん予防行動を高める支援方法を検討するために,看護系大学生および社会人における子宮頸がん予防行動の現状,子宮頸がん予防に関する知識と認識を明らかにすることとした。
方法 量的横断的研究デザインであり,看護系大学の学生および社会人に無記名自記式調査票を用いて調査した。2020年7月から8月に,個別郵送法とオンラインでデータを回収した。調査内容は属性,子宮頸がん予防行動の現状,子宮頸がん予防に関する知識および認識であった。因子分析,信頼性分析,相関分析,t検定,χ2検定またはFisherの直接確率検定,多重比較を用いて分析を行った。
結果 対象者のうち学生837名,社会人430名,合計1,267名に調査依頼を行い,有効回答438部(学生356部,社会人82部)を分析データとした。有効回答率は学生42.5%,社会人19.1%であった。子宮頸がん検診受診者は31.1%で,HPVワクチン接種者は28.5%であった。子宮頸がん検診を受けた人は学生より社会人に有意に多く(p<0.001),医療機関および自治体からの情報獲得者が多かった(p<0.01)。HPVワクチン接種者は社会人より学生に有意に多く(p<0.01),医療機関(p<0.05),自治体(p<0.01),教育機関(p<0.05)からの情報獲得者が多かった。子宮頸がんの予防認識得点は社会人が学生より有意に高かったが(p<0.001),検診およびワクチン接種の有無とは関連がなかった。HPVワクチン接種ありの人はHPVワクチン接種なしの人より,子宮頸がん予防知識得点が有意に高く(p<0.05),子宮頸がん検診ありの人は検診なしの人より子宮頸がん予防知識得点が有意に高かった(p<0.05)。
結論 子宮頸がん検診受診率は社会人と比較して学生が低く,HPVワクチン接種率は社会人と比較して学生が高かった。子宮頸がん検診受診者,HPVワクチン接種者は医療機関や自治体から情報獲得をしていた人が多かった。子宮頸がん予防に関する知識の高さは検診受診経験およびワクチン接種経験と関連していた。
キーワード HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン,子宮頸がん,検診,ワクチン,予防知識
第69巻第5号 2022年5月 男性看護師における女性患者へのケアや
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目的 本研究の目的は,男性看護師における女性患者へのケアや職場内外の人間関係と働きやすさとの関連を検討することとした。
方法 対象者は一般社団法人日本男性看護師会の会員で,臨床看護師として病院で働いている男性看護師とした。調査方法はウェブアンケートで,2017年8~9月に会員ウェブサイトを通じて実施した。アンケートでは,対象の属性,働きやすさ,女性患者へのケア,職場内外の人間関係について尋ねた。各調査項目について集計し,「女性患者へのケア・職場内外の人間関係」と「働きやすさ」のクロス集計を行った。
結果 アンケート回答者は104人で,平均年齢(標準偏差)35.1歳(7.3),平均臨床経験年数(標準偏差)11.2年(6.3),既婚者66.3%であった。所属診療科は,一般病棟が最も多く51.0%,次いで,ICU・救急外来/救急病棟・手術室が28.8%であった。女性患者からケアを断られたことがある人は87.5%,男性看護師であることから女性看護師にケア交代を頼んだことがある人は97.1%,女性患者とのコミュニケーションに不安を感じる人は11.5%,信頼関係を築きにくいと感じている人は10.6%であった。女性が多数の中で孤独を感じる人は28.9%,職場内外を問わず相談できる人は92.3%であった。女性患者へのケアと働きやすさとの関連では,「男性看護師がケアを行うことに対して,女性患者が嫌がっているのではないか」と思う人ほど,働きにくいと回答する傾向があった。職場内外の人間関係と働きやすさとの関連では,「職場の看護師同士の関係」が良好ではないと回答した人は,働きにくいと回答する傾向があった。
結論 男性看護師の多くは女性患者にケアを断られた経験があるが,女性患者とのコミュニケーションや信頼関係の構築での困難感は少なかった。また,女性患者に対するケアと働きやすさ,職場内外の人間関係と働きやすさに関連がみられた。今後は,女性患者に対してケアの困難さがある場合でも,職場環境によって働きやすさが変わるのか,これらの要因の組み合わせによる相互の関連性を,さらに検討する必要がある。
キーワード 男性看護師,働きやすさ,アンケート調査,患者-看護師関係,職場内外の人間関係
第69巻第5号 2022年5月 市町村国保の保健指導における1年後の効果の検証-保健指導の有無による変化量の比較-徳留 明美(トクトメ アケミ) 荒井 今日子(アライ キョウコ) 山田 文也(ヤマダ フミヤ)藤井 仁(フジイ ヒトシ) 横山 徹爾(ヨコヤマ テツジ) |
目的 特定健康診査・特定保健指導は,生活習慣病のリスク要因の数に応じて,保健指導対象者を選定し,生活習慣の改善支援を行うものである。本研究は,特定保健指導結果を用い,保健指導の翌年度の健診結果を観察し,保健指導効果を検証したものである。
方法 平成22年度から28年度に埼玉県の市町村国民健康保険の特定健診を受診した者のうち,翌年度の特定健診を受診した者を対象とした。「保健指導を完了した群」の1年後の健診結果の変化量と,「保健指導を全く受けていない群」の1年後の健診結果の変化量を項目別,支援レベル別,性別に比較した。また,複数年度の観察期間により効果の経年的な傾向を検証した。
結果 解析対象者は積極的支援の男性6,864-7,501人,女性1,846-2,159人,動機づけ支援の男性17,473-20,068人,女性11,164-11,646人であった。体重,BMI,腹囲は,支援レベルや性別に関わりなく,保健指導あり群は保健指導なし群より有意に低下しており,保健指導の効果によると推察された。血糖に関する項目では積極的支援より動機づけ支援に保健指導の効果がよりみられた。中性脂肪,HDLコレステロールでは積極的支援の男性,動機づけ支援の男女で,保健指導の効果が推察されたが,LDLコレステロールでは効果はみられなかった。喫煙では動機づけ支援の女性で保健指導の効果が推察されたが,全健診年度を通した保健指導の効果の有意性は認められなかった(本研究の体重等の1年後の平均変化量は厚生労働統計協会ホームページを参照)。
結論 保健指導を受けた者の変化量から保健指導を受けていない者の変化量の差を保健指導による変化量と考え,保健指導の効果として検証した。体重,BMI,腹囲,中性脂肪,HDLコレステロールでは,保健指導の効果が推察できたが,LDLコレステロールは全く保健指導の効果がみられなかった。保険者として自治体が実施する保健指導の効果はみえにくいが,保健指導の効果の一端が示せた。特定保健指導は受診率の低さが課題ではあるが,被保険者が後期高齢医療制度の被保険者に移行する前にリスクを減らす保健活動に期待したい。
キーワード 特定健康診査,特定保健指導,市町村国保,効果の検証,経年的傾向
第69巻第5号 2022年5月 企業における若年性認知症の従業員への対応と課題齊藤 千晶(サイトウ チアキ) 小長谷 陽子(コナガヤ ヨウコ) |
目的 就労中に若年性認知症を発症し退職した場合,再就職は難しいことが多く,いかに就労継続できるかが重要である。そこで,企業内での該当従業員への具体的な対応や効果,課題等を明らかにし,就労継続に必要な職場内外部の支援について明らかにするため,若年性認知症の従業員とともに働いた経験のある企業を対象に,アンケート調査を実施した。
方法 2017年度,全国の従業員数が500人以上の企業に対する調査を行い,若年性認知症(疑いも含む)および軽度認知障害と診断された従業員が以前いた,現在いると回答した63社を把握した。2018年度,63社の前年度回答した人事担当者等に,該当者の具体的な業務内容等について調査を行った。
結果 有効回収数は28社(有効回収率44.4%)であった。若年性認知症等の従業員は33名で,診断名ではアルツハイマー型認知症約5割,調査時の就労状況では退職が27名で多かった。また,診断時の平均年齢は53.0歳,退職時の平均年齢は55.3歳であり,在職期間は約2年間であった。診断名を把握した経緯は,「本人の様子の変化を受け,会社から受診勧奨した」が20名,次いで「本人からの相談・申告」が14名であった。該当従業員の具体的な変化は,「もの忘れの増加」や「指示内容の理解の低下」等の認知機能障害に起因する症状が多かった。対応内容は18名が「他の業務や作業に変更した」であり,その内容は14名で,「直属の上司」が中心に決定した。変更までの期間は11名で「診断直後から6カ月未満」で行われていた。また,個別のコメントでは,症状進行に伴う業務内容の変更や見極めの難しさが挙げられた。
結論 企業等では診断後,直属の上司を中心に診断後6カ月未満には職場内で業務や作業内容の変更等の調整が行われており,それにより就労継続が可能となっていた。しかしながら,症状進行に伴う業務内容の見極めやサポート体制構築の難しさが課題として挙がった。認知症の症状や残存機能に配慮した業務内容や環境調整の具体的な方法の検討や若年性認知症の人への支援の専門職が加わることで,就労継続や退職後の生活再建が円滑に進む可能性が考えられる。
キーワード 若年性認知症,企業,就労継続,就労支援,若年性認知症者支援コーディネーター
第69巻第5号 2022年5月 都道府県別にみる
福井 敬祐(フクイ ケイスケ) 伊藤 ゆり(イトウ ユリ) 片野田 耕太(カタノダ コウ) |
目的 がん死亡の経時変化のモニタリングはがん対策の計画の策定・評価の各場面において,重要な役割を担う。一方で,経時変化のモニタリングには複雑な数理モデリングやデータ解析が必要となるため,各自治体でがん対策の策定・評価を行う実務者が実行するのは容易ではない。本研究では,公的統計を用いて,各自治体の担当者が利用可能なツールの作成とその概要について紹介することを目的とした。
方法 都道府県別の人口動態統計および国勢調査から取得した,1995~2018年のがん死亡データおよび人口データと国立社会保障・人口問題研究所提供の予測人口データから作成した2019〜2030年の各都道府県予測人口を用いた。これらのデータを基に,Nordpred解析を実行するツールをR言語により作成しWeb上に提供した。
結果 本研究で作成したツールでは様々な設定に基づいて,2030年までの各都道府県のがん死亡率の推移と予測値を算出することが可能である。作成したツールを用いることで専門性の高い解析作業なしに,柔軟ながん死亡率の分析が可能となり,迅速ながん対策の策定・評価への活用が期待される。作成したツールはNordpredによるがん死亡率経時変動予測(https://fukui-ke-0507.shinyapps.io/JCanMorTrend/)より利用可能である。
結論 医療・保健政策現場におけるEvidence Based Policy Making,Evidence Based Medicineを促進するには,データの利活用を避けることができないが,データ解析技術等の習得には多大な労力を要する。本研究で作成したWeb applicationツールの利用を通じて,様々な保健医療政策において,データに基づく意思決定の支援を促進していくことが求められる。
キーワード がん対策,Nordpredモデル,Web application,がん死亡率経時変動予測
第69巻第4号 2022年4月 保育園児の足趾筋力と
杉浦 崇夫(スギウラ タカオ) 土肥 夏季(ドヒ ナツキ) 楠 美紗子(クス ミサコ) |
目的 最近,子どもの転倒による事故が増加し,中でも顔のけがが多発しているという。本研究は,4週間のラダートレーニングにより,幼児の足趾筋力ならびに平衡機能が改善されるか否かについて検討することを目的とした。
方法 トレーニングは,2020年11月に実施した。被験者は,O子ども園の年長児,男児6名,女児12名であった。トレーニング前後に被験者全員に開眼・閉眼片足立ちテスト,足趾筋力,開眼・閉眼での重心動揺を測定した。また,ビデオカメラを用いてトレーニングで行ったラダーステップ8種目のうち,4種目のラダー動作を撮影しステップの習熟度について検討した。トレーニングは基本的に1回あたり約45分間,週2回を4週(計7回)にわたって行った。
結果 ラダートレーニングの影響を検討した4種目のラダーステップの得点は,すべてにおいてトレーニング前よりも後に有意に高い値であった(p<0.05)。足趾筋力は,利き足ならびに非利き足ともにトレーニングにより有意に増加した(p<0.05)。また,重心動揺検査のパラメーターのうち,総軌跡長ならびに単位時間当たり総軌跡長はトレーニングにより有意に減少し(p<0.05),総軌跡長と単位時間軌跡長の視覚による姿勢の制御を評価するロンベルグ率(閉眼測定値/開眼測定値)はトレーニングにより有意に増加した(p<0.05)。さらに,足趾筋力に対する重心動揺の各パラメーターの関係では利き足と非利き足の足趾筋力と開眼総軌跡長,開眼単位時間軌跡長,閉眼外周面積,閉眼単位面積軌跡長との間に有意な相関関係が認められた(p<0.05)。
結論 これらの結果から,幼児期のラダートレーニングは足趾筋力と平衡機能を改善し,立位姿勢の安定化を促進し転倒予防として有効である可能性が示唆された。
キーワード 重心動揺,足趾筋力,ラダートレーニング,幼児,転倒予防,ロンベルグ率
第69巻第4号 2022年4月 埼玉県における公立中学校2年生の
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目的 本研究では,埼玉県において自治体内のすべての公立中学校に調査用紙を配布・回収することのできた2自治体のデータを用い,中学2年生の自己肯定感に影響を与えている要因の整理と一般化を試みた。
方法 2018年時点で埼玉県内の「埼玉県子どもの生活に関する調査」(総調査用紙配布数21,673世帯,有効回収率79.0%)の対象として選定された自治体のうち,自治体内のすべての公立中学校への調査用紙配布と回収が行われた2つの自治体のデータのみを抽出した1,533件を分析対象とした。調査用紙は,自記式無記名で生徒が日常生活について回答する部分と保護者が家庭の経済状況などを回答する項目がある。そのなかで自己肯定感に関する「自分には自信がある」「がんばれば良いことがあると思う」という設問への回答と家庭の経済状況,学校等の交友関係,家族との関係などの質問への回答との関連をχ2検定および連関係数を用いて分析した。
結果 自己肯定感の高さは,教員に良いところを認めてもらっている,学校に行くことが楽しみであるという設問に肯定的な回答と相関があった。また友人や家族に受け入れられていると感じている生徒も自己肯定感が高い傾向がある。一方で家庭の経済状況と自己肯定感には相関は見られなかった。学校へ行くことが楽しみかどうかや将来の夢があるかどうかも経済状況との関連は見られなかった。
結論 本研究の結果では,生徒自身の家庭の経済状況よりも学校生活での教員や友人との関係のほうが自己肯定感との関連が強かった。日本の公立中学校に通う生徒は,学校で過ごす時間が長く,かつ親しい友人も学校の友人であることが多く,中学校のコミュニティで受け入れられていると感じることが自分自身を認めることにつながっていると推測される。
キーワード 自己肯定感,公立中学校,教員,友人,承認
第69巻第4号 2022年4月 就労者における抑うつ状態の関連要因-若年層および中高年層の比較-岩田 由香(イワタ ユカ) 有本 梓(アリモト アズサ) 田髙 悦子(タダカ エツコ) |
目的 就労者における抑うつは,就労者個人はもとより社会全体における喫緊の課題であるが,その影響および方策は若年層および中高年層では異なる可能性がある。しかしながら若年層および中高年層の層別にまた同時に検討したものはまだ十分とは言えない。就労者の抑うつに対する公衆衛生による介入をより適切にするためには,対象に応じた方策を検討する必要がある。そこで本研究では,若年層および中高年層の層別に抑うつ状態とその関連要因を明らかにすることを目的とした。
方法 対象は,首都圏A大規模製造事業場に勤務する20~59歳の従業員543名(全数)であり,無記名自記式質問紙調査(留め置き法)を実施した。調査時期は,2016年9~11月である。抑うつ状態はK6を用いて評価し,関連要因として,基本属性,BMI,主観的健康感,生活習慣(Breslow),ヘルスリテラシー(伝達的・批判的ヘルスリテラシー)等を把握した。分析は,20~39歳の若年層と40~59歳の中高年層別に抑うつ群および非抑うつ群における関連要因の群間比較をCochran-Mantel-Haenszel検定および一元配置分散分析にて検討した。
結果 回答者数は417名(回答率76.8%)であり,K6,生活習慣,ヘルスリテラシーの項目に欠損のない有効回答者数387名(有効回答率71.3%)を分析対象とした。対象者の平均年齢は38.0±10.6歳,男性87.1%であった。抑うつ群は,全体では32.3%,若年層では33.9%,中高年層では30.2%であった。抑うつ状態の関連要因は,全体では,BMI,主観的健康感,Breslowの健康習慣得点,睡眠,軽度の身体活動,ヘルスリテラシー得点であり,若年層では,BMI,主観的健康感,間食習慣,睡眠,ヘルスリテラシー得点,中高年層では,主観的健康感,喫煙習慣,睡眠,軽度の身体活動であった。
結論 就労者の抑うつ状態の関連要因は若年層および中高年層の年齢階級別に異なることが明らかとなった。抑うつ状態の影響の緩和および予防の方策に向けては,就労者の年齢階級別の特性を考慮し,若年層ではヘルスリテラシーを勘案した組織レベルでの健康増進の取り組みや,中高年層では主観的健康感を勘案した個人・組織レベルでの生活習慣の変容に向けた取り組みなどの重要性が示唆された。
キーワード 抑うつ状態,就労者,若年,中高年,生活習慣,ヘルスリテラシー
第69巻第4号 2022年4月 通所介護を利用する要介護者等の家族介護者における
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目的 通所介護を利用している要介護者等の家族介護者を対象に,社会との関わり状況と介護負担感の実態,生活満足度との関連を明らかにし,家族介護者の介護負担感の軽減,健康障害の予防を図り,要介護者本人の在宅生活継続に寄与する。
方法 2020年2月1日から7月30日までの間に,通所介護事業所を利用する要介護者等の家族介護者100人へ自記式質問紙を配布し,回収された65人(回収率65.0%)を分析対象とした。主要なアウトカムは,以下の①~③:①社会との関わり状況:社会関連性指標,②介護負担感:Zarit介護負担感尺度日本語版の短縮版(J-ZBI 8),③生活満足度,であった。分析方法は,すべての変数について記述統計量を算出し各変数の傾向を確認した。その後,生活満足度を生活満足度低群,生活満足度高群の2区分とし,すべての変数とのχ2検定,あるいはMann-WhitneyのU検定を行った。その後,関連がみられた項目について,多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 生活満足度と関連のみられた項目は「要介護者等との関係」「趣味を楽しむ」(p<0.05)であった。生活満足度と介護負担感の関連では,生活満足度高群で「要介護者等のそばにいると,気が休まらない」「介護により社会参加の機会が減った」と思わない人の割合が,生活満足度低群に比べて高かった(p<0.01)。また,生活満足度高群で「要介護者等の行動に困る」「要介護者等のそばにいると腹が立つ」「介護があるので,家族・友人と付き合いづらい」「介護を誰かに任せたい」と思わない人の割合が高かった(p<0.05)。多重ロジスティック回帰分析で,生活満足度に最も影響を及ぼしていたのは,介護負担感「要介護者のそばにいると,気が休まらない:思わない」(p<0.05,オッズ比2.15)であった。
結論 要介護者等と家族介護者との関係性を支援するためには,要介護者等と家族介護者双方への支援が望まれる。また,介護生活の中でも,家族介護者が趣味などを通じて「楽しい」と思えるような時間を作ること,家族介護者が社会参加や外出の機会を得て,他者と交流をすることが家族介護者の生活満足度を高めることが示唆された。
キーワード 生活満足度,家族介護者,通所介護,社会との関わり,介護負担感
第69巻第4号 2022年4月 介護予防事業の包括的評価指標としての年齢調整WDP-要介護認定者数を用いた「質」を含む高齢者健康指標による評価および可視化-栗盛 須雅子(クリモリ スガコ) 福田 吉治(フクダ ヨシハル) 星 旦二(ホシ タンジ)石井 麻美(イシイ アサミ) 松本 敦子(マツモト アツコ) 小澤 多賀子(コザワ タカコ) 黒江 悦子(クロエ エツコ) 矢野 敦大(ヤノ アツヒロ) 大田 仁史(オオタ ヒトシ) |
目的 要介護認定者数を用いて算出する「質」を加味した指標である加重障害保有割合(以下,WDP)を介護予防事業の包括的評価指標として活用することを推進するため,高齢者の健康度の推移を可視化し,提示することを目的とした。
方法 要介護認定者数,人口データ,効用値を用いて,全国の2010~2019年の10年間の年齢調整WDPを算出し,その年次推移を示し,同様に茨城県の2006~2019年の14年間の年齢調整WDPを算出し,その年次推移を示した。また,全国,茨城県ともに,最初の年と中間,中間と最後の年,最初と最後の年の平均の差を対応のあるt検定を用いて年比較を行った。さらに,地理情報分析支援システムMANDARAを用いて,全国と茨城県の年齢調整WDPの地域分布図を作成し,年齢調整WDPの2015~2019年の5年間の変遷と地域間比較を行った。
結果 年齢調整WDPの年次推移は,全国の男性は2015年47.53(±3.98)から2019年44.34(±4.08)まで減少し,女性も2015年56.59(±5.17)から2019年52.23(±4.88)まで減少した。茨城県の男性は,2006年39.14(±4.31)から2008年39.98(±4.51)まで増加し,2013年40.23(±3.88)から2019年37.42(±4.17)まで減少傾向にあった。女性は,2006年47.66(±5.20)から2013年の49.55(±3.76)まで増加傾向にあり,2014年49.45(±3.65)から2019年46.83(±4.19)は減少した。対応のあるt検定の結果,全国の男性は2010年と2019年は有意に減少した(p<0.001,p<0.001),女性は2010年と2014年は有意差は認められず,2014年と2019年,2010年と2019年は有意に減少した(p<0.001,p<0.001)。茨城県の男性は2013年と2019年,2006年と2019年は有意に減少し(p<0.001,p=0.043),女性は,2006年と2019年は有意差が認められなかった。全国の地域間比較を8地方区分で比較すると,男性は,2015年は,北海道,東北,近畿,中国,四国が高い傾向にあり,2019年は2015年と比較すると低下している傾向にあった。女性は年の経過とともに,低下する傾向があった。茨城県は5地域で比較すると,男性は,2015年は県南と鹿行が高い傾向にあり,女性は,2018年,2019年には県北,県央,県南,鹿行の一部は高いものの,2015年と2019年を比較すると2019年は低下している傾向にあった。
結論 「質」を加味した高齢者健康指標である年齢調整WDPの推移を可視化し,地域における介護予防事業の包括的評価指標としての有用性を提示した。可視化することで,政策,施策の策定の根拠として,国民,地域住民の理解が得られやすく,介護予防の自助,共助を促す一助となる。
キーワード 年齢調整WDP,包括的評価指標,要介護認定者数,高齢者健康指標,可視化
第69巻第3号 2022年3月 国際生活機能分類普及推進のための語句検索システムの作成
向野 雅彦(ムカイノ マサヒコ) |
目的 国際生活機能分類(以下,ICF)は心身機能から活動と参加までを包含する“生活機能”の包括的な分類として2001年に発表され,臨床への普及が進められている。これらの分類を臨床で使用するためには,多数の分類の中から患者の状態に対応する項目を選択する必要があるが,分類に慣れていないと適切な項目を選択するのに時間がかかることが問題となる。そのため,本研究では臨床で一般的に使われる言葉をICFに基づいて分類し,語句リストを作成することに取り組んだ。
方法 医師,療法士を中心に,186名の検討グループを形成し,語句の選定を実施した。語句の収集はICFの第2レベルの項目261項目を対象に,研究参加者それぞれに15項目ずつを割り当て,項目に関連して現場で使用している語句を記載させ,それをまとめて候補とした。さらにICF専門家からなる10名程度のレビューグループを形成し,語句の検証を実施した。さらに,当院回復期リハビリテーション病棟の入院患者20名を対象として,患者ごとに作成されたプロブレムリストを作成した語句リストに基づいてICFの項目に分類し,生活機能の問題の分布について調査を行った。
結果 ICFの第2レベルの項目の261項目に対し,それぞれ関連する語句のリストを作成した。専門家のレビューにおいては,リストに含む語句の種類,長さについて定義することの必要性が提起され,議論の上で定義が作成,それに基づいて語句リストのブラッシュアップがなされた。語句リストには計3,235の語句が登録された。また,この語句リストに基づき,20名の患者のプロブレムリストをICFに置き換えてその頻度を検討したところ,b730筋力の機能が100%,b510摂食機能,d450歩行,d530排泄,d540更衣の各項目がそれぞれ40%と高頻度であった。
結論 本研究によって,臨床で使用されている語句から,検索システムを用いて問題点を容易にICFに分類し,集計,分析を行うことが可能となった。このような仕組みはさらに,テキスト検索などの手法によって臨床の記録からの問題点の抽出に利用できる可能性がある。
キーワード 国際生活機能分類,ICF,語句リスト,リハビリテーション,生活機能,臨床応用
第69巻第3号 2022年3月 正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇取得に関する研究大山 篤(オオヤマ アツシ) 安藤 雄一(アンドウ ユウイチ)石田 智洋(イシダ トモヒロ) 品田 佳世子(シナダ カヨコ) |
目的 非正規雇用労働者は雇用が不安定で,年次有給休暇の取得は正規雇用労働者に比べて困難となりやすいとされる。今後の職域における保健活動を円滑に進める上でも,非正規雇用労働者の年次有給休暇の取得状況の特性を知っておくことは,意義があると考えられる。本研究では正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇取得や通院による休暇の状況について,男女別に比較・検討することを目的とした。
方法 本研究におけるWeb調査は2017年2月に実施した。回答者はWeb調査会社の登録モニタのうち,20-60歳代の正規/非正規雇用労働者各420名であった。質問内容は最終学歴や事業所の従業員数等の属性,最近1年間の年次有給休暇の取得状況,および通院のために休暇を取得した日数等であった。分析については,年次有給休暇を取得しなかった者の割合や,年次有給休暇を取得した者の平均取得日数,通院による休暇日数等を男女の正規/非正規雇用労働者間で比較した。また,男女別に年次有給休暇取得の有無を目的変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 正規/非正規雇用労働者の年次有給休暇の取得の有無を調べたところ,非正規雇用労働者の方が年次有給休暇を取得した者の割合が低く,男性では2人に1人,女性では3人に1人が年次有給休暇を取得していなかった。しかし,年次有給休暇を取得した正規/非正規雇用労働者に限定して1年間の平均取得日数を比較すると,男女の正規/非正規雇用労働者間に差は見られなかった。通院のために仕事を休んだ平均日数に関しても,同様であった。男女別に年次有給休暇の取得の有無に関する多重ロジスティック回帰分析を行った結果,非正規雇用は年次有給休暇の取得が難しくなる男女共通の要因であり,さらに男性では第三次産業に従事し,大学卒業以上の学歴がない場合,女性では勤務場所(事業所)での従業員数が少なく,年齢が若い傾向にある場合に休暇が取りにくいことが示された。
結論 男女ともに非正規雇用労働者のなかには年次有給休暇の取得が難しい人がいる反面,年次有給休暇を取得していた場合には,正規雇用労働者とほぼ変わらない日数を取得できていた。非正規雇用は年次有給休暇の取得が難しくなる男女共通の要因であったが,年次有給休暇を取りにくい要因には男女差も見られた。
キーワード 非正規雇用,非正規雇用労働者,年次有給休暇,Web調査,産業保健,働き方改革
第69巻第3号 2022年3月 第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)が
久保寺 重行(クボデラ シゲユキ) |
目的 第6期のすべての保険者の第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)を用いて地域間格差が生じる要因について明らかにすることを目的とした。
方法 「(第6期)保険者別保険料一覧」を用いてすべての保険者の第1号被保険者の介護保険料基準額を被説明変数とし,厚生労働省の「平成27年度介護保険事業状況報告(年報)」および「平成27年介護サービス施設・事業所調査」のデータを用いて,所得段階1の割合,後期高齢者割合などを説明変数として重回帰分析を行った。
結果 所得段階1の割合,施設定員率(特養),施設定員率(老健),居宅・施設・地域密着型利用率,要介護認定率は正に有意となっており,第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)を高める要因となっていた。一方,後期高齢者割合は負に有意となっており,第1号被保険者介護保険料基準額(月額)を低くする要因となっていた。また,施設定員率(療養)および2割負担割合は特に関連性はなかった。
結論 分析結果からは,①特別養護老人ホームと介護老人保健施設の定員増加は,第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)の増加につながるということ,②非課税などの低所得者の割合が高い保険者ほど第1号被保険者の介護保険料基準額(月額)が高くなっていることから,介護保険料の算出において,所得段階別加入割合補正係数が機能していない可能性があることの2点が示唆された。
キーワード 第1号被保険者の介護保険料基準額(月額),地域間格差,所得段階1の割合,施設定員率,所得段階別加入割合補正係数
第69巻第3号 2022年3月 高齢者のエイジング・イン・プレイス(地域居住)に
湯川 順子(ユカワ ジュンコ) |
目的 エイジング・イン・プレイス(地域居住)とは,高齢者が住み慣れた地域で最期まで暮らし続けることである。本研究の目的は,インフォーマル・ケアに着目し,当事者である高齢者がエイジング・イン・プレイスに影響を与える要因についてどのように捉えているのかを明らかにすることである。
方法 先行研究を踏まえ,①生活支援・介護,②生活環境(客観的要因),③地域への思い(主観的要因)の大きく3つがエイジング・イン・プレイス(地域居住)に影響を与えていると仮定し,地域で居住する65歳以上の高齢者を対象とした自記式質問紙調査の結果から,地域居住意向を従属変数とした重回帰分析を行った。さらに分析を深めるために主成分分析を用いた。
結果 重回帰分析の結果,エイジング・イン・プレイスに①生活支援・介護の「頼れる程度(近隣・友人)」「家(家族による介護)」,③地域への思い(主観的要因)の「地域住民の利他性」「地域への愛着」「住みやすさ」が有意に関連していた。②生活環境(客観的要因)は,有意ではなかった。また,有意度が最も高かった「住みやすさ」の主成分を投入した重回帰分析を行ったところ,「地域への愛着」「家(家族による介護)」「頼れる程度(近隣・友人)」〈交通利便性のよい地域に居住〉が有意であった。
結論 エイジング・イン・プレイスには,住みやすさや地域への愛着という主観的要因が影響し,主観的要因には,社会的および物理的な生活環境が関係していた。また,近隣や友人に頼れる程度と家族に介護してもらいたいというインフォーマル・ケアが,エイジング・イン・プレイスに影響することがわかった。高齢者は自宅を「住み慣れた場所」と捉え,自宅での生活の継続を望んでいる。ただし,高齢者が自宅で家族による介護を望む背景については,さらなる分析が必要である。
キーワード 高齢者,エイジング・イン・プレイス,地域居住,地域包括ケア,インフォーマル・ケア
第69巻第3号 2022年3月 病臥者の居場所の変遷-1987年から2017年まで30年間の推移-加藤 尚子(カトウ ナオコ) 近藤 正英(コンドウ マサヒデ) 長谷川 敏彦(ハセガワ トシヒコ) |
目的 医療機能分化施策が本格化した1980年代以降,30年間における病臥者の居場所の変遷を把握することを目的とした。各種の統計資料から施設・病床の区分ごとに,さらに長期入院・短期入院および高齢者・若年者の別に,詳細に病臥者数を分析した。本研究でいう病臥者とは,公的な医療福祉介護サービスによる何らかのケアを必要として療養している人のことであり,医師による診断治療中の患者には限定していない。
方法 1日当たりの入院患者数,介護福祉施設の在所者数,在宅療養者数を,厚生労働省が発行する各種の統計資料から抽出した。3年ごとに実施される患者調査のデータを主として,1987年から2017年までの30年間,計11回分の調査データを使用し,年齢は65歳以上と65歳未満,入院期間は3カ月以上と3カ月未満に区分した。他の統計資料のデータも患者調査の発行年に合わせた年次で収集した。
結果 1987年から2017年までの1日当たりの病臥者数の年次推移を見ると,病臥者総数は1.7倍に増加し,2017年には3,284,977人である。最も数が多いのは在宅療養者で病臥者総数の35.9%を占めている。一方,病院一般病床の入院患者数は減少しており,1987年に病臥者総数の43.7%を占めていたものが2017年には21.7%,713,300人になっている。病院一般病床の患者数の内訳をみると,最も患者数が多いのは入院期間3カ月未満・65歳以上のグループで,2017年時点で458,200人,全体の64.2%を占めていた。
結論 病臥者の居場所の変化をたどることで,機能分化施策に従って高齢者の居場所が細分化されていく経緯が明らかになった。1980年代には,病院・福祉施設・在宅というシンプルな構図の元,病院に偏っていた長期療養の高齢者が,30年の間に一般病床から療養病床へ,介護福祉施設へ,そして在宅へと分散していった経緯が見て取れる。機能分化施策が本格化する以前,1970年代に社会的入院として問題視された人たちは,病院の一般病床の長期・高齢者のグループに多く含まれていたと想定できるが,1990年代以降は著しく減少している。
キーワード 機能分化施策,長期入院,社会的入院,地域医療計画,病臥者,居場所
第69巻第4号 2022年4月 Sense of coherence(SOC)における有意味感は高齢者の
大片 久(オオカタ ヒサシ) 澤田 陽一(サワダ ヨウイチ) |
目的 本研究では,高齢期のポジティブな精神的健康を表すMental well-being(MWB)を促進する心理社会的要因を検討した。中でも,Sense of coherence(SOC)の合計点(1因子)のみならず,3つの下位因子(有意味感,把握可能感,処理可能感)の得点がMWBに与える影響も検討した。
方法 2019年2~11月に,地域在住の60歳以上の高齢者567名を対象とし,自記式質問紙による横断調査を実施した。質問内容には基本属性(年齢,性別,教育歴,婚姻状況,就労状況,暮らし向き,同居家族の有無)の他,MWBを捉えるMental Health Continuum14項目短縮版(MHC-SF)とネガティブな精神的健康を捉えるK6,身体的健康状態(疾患の有無,運動器機能,低栄養状態,口腔機能),社会関係の豊かさを評価するSocial Provisions Scale(SPS)12項目短縮版およびSOC13項目短縮版を盛り込んだ。統計解析として,目的変数にMHC-SFの得点(また,補足解析としてK6の得点)を,説明変数に基本属性,身体的健康状態,社会・環境的要因(同居家族の有無,SPS得点),SOC得点(あるいは3つの下位因子得点)を段階的に強制投入した階層的重回帰分析を実施した。
結果 統計解析には,欠損のない543名のデータを用いた(有効回答率95.8%)。階層的重回帰分析の結果,ポジティブな精神的健康を表すMWBの促進に影響を与えていたのは,SOC(β=0.421,p<0.05)あるいは有意味感(β=0.401,p<0.05),SPS得点(SOC1因子時:β=0.115/下位3因子時:β=0.082,p<0.05),暮らし向き(SOC1因子時:β=0.086/下位3因子時:β=0.085,p<0.05)であった(SOC1因子時:R2=0.266/下位3因子時:R2=0.307)。一方,ネガティブな精神的健康(K6得点)の抑制に影響を与えていたのは,SOC(β=-0.558,p<0.05)あるいは有意味感(β=-0.125,p<0.05),把握可能感(β=-0.327,p<0.05),処理可能感(β=-0.203,p<0.05)であった(SOC1因子時:R2=0.369/下位3因子時:R2=0.376)。
結論 本研究により,ポジティブな精神的健康およびネガティブな精神的健康に対するSOCの影響は強く,また,それぞれに与える下位因子の影響は異なっていた。特に,高齢期のMWBの促進にはSOCの下位因子の中でも,有意味感が重要であることが明らかとなった。
キーワード 高齢者,ポジティブな精神的健康,Mental well-being,Sense of coherence,有意味感
第69巻第3号 2022年3月 自治体レベルでの将来人口推計の検証國澤 進(クニサワ ススム) |
目的 日本の医療では,様々な課題が取り上げられ,将来に向けた対策が求められてきている。将来の医療需要や必要病床の推計には,地域ごとの将来の人口,特に年齢構成を考慮した将来人口の推計がその要となる。将来推計の全国人口については高い精度での推計がなされている一方で,自治体レベルでの推計値については,様々な要因で実際との差が生じやすいと考えられる。自治体レベルでの将来人口推計を利用する際に,生じ得る誤差とその傾向を提示する。
方法 2015年国勢調査における人口を実測値として,国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口・世帯数データアーカイブスで公開されている自治体レベルで行われている将来人口推計と比較した。
結果 2015年実測値に対する,各推計値と2015年実測値の差の比を比較指標値1とした場合,全国レベルでは1997年当時の推計値の比較指標値1でも-0.01とほとんど差がないが,都道府県レベルでは-0.23~0.16とばらつきがみられた。比較指標値1の最も大きい奈良県において,市町村レベルでは-0.11~0.35と,さらに大きなばらつきがみられた。また,県レベルで年齢階層別にみると,-0.13~0.44と大きなばらつきがみられた。
結論 自治体レベルでの将来人口推計を応用する際には,全国レベルの推計にはない誤差の考慮が望まれる。
キーワード 将来人口推計,医療政策,地域人口,都道府県
第69巻第2号 2022年2月 国保データベース(KDB)システムの
栗田 淳弘(クリタ アツヒロ) 戸山 久美子(トヤマ クミコ) 中村 好一(ナカムラ ヨシカズ) |
目的 レセプトに記載されている傷病名等や健診受診有無,医療受療状況等の情報と要介護状態の発生リスクの関連等を分析し,要介護の要因を明らかにする。
方法 栃木県の後期高齢者医療の対象者(観察期間中の転出者,死亡者等を除く)を対象として作成された次の3つの統計データについて考察した。①2017年度の年齢階層別の対象者の分布と2019年度末に要介護2以上となった者の割合(以下,要介護リスク)。②2017年度の健診受診者におけるBMI別の対象者の分布と要介護リスク。③2017年度におけるレセプトの傷病名や医療受療状況,健診受診有無等を説明変数,2019年度末における要介護2以上を目的変数として算出した要介護オッズ比。
結果 対象者149,034人(男性64,875人,女性84,159人)について,2019年度末に要介護2以上となったのは7,605人(男性3,009人,女性4,596人)であり,解析対象者の5.1%(男性4.6%,女性5.5%)であった。76歳以降は,男女ともに年齢が高くなるほど要介護リスクが上昇した。BMIは,低値および高値で要介護リスクが上昇傾向となった。要介護オッズ比が特に高い要因は,年齢80歳以上,認知症およびBMI20㎏/㎡未満であり,要介護オッズ比が特に低い要因は,健診を受診している者と歯科医療費が発生している者であった。その他,要介護オッズ比が有意に高い要因は,その他の循環器系疾患,COPD,その他機能低下の関連疾患,筋骨格系疾患,および入院医療費が発生している者であった。
結論 国民生活基礎調査によると,要介護の主な原因は,認知症,脳血管疾患(脳卒中),骨折・転倒とされているが,本研究においても,認知症,その他循環器系疾患,筋骨格系疾患は要介護リスクが有意に高い結果となった。歯科医療費が発生している者については,歯科受診が要介護リスクの減少と関連しているものと考えられる。また,健診受診は,高齢者においても健康維持に寄与している可能性が示された。ただし,既に心身の状態が悪化している場合,健診や歯科診療を受けられない可能性もあることから,これらの因果関係については今後も検討が必要である。本研究で利用した統計データは観察期間が短く,死亡リスクも考慮していないことから,要介護の要因分析については,今後蓄積されるデータを活用し,分析を継続していく必要があると思われる。
キーワード KDB,レセプト,健診,後期高齢者,要介護
第69巻第2号 2022年2月 認知症グループホームの施設特性と
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目的 2018年度の介護報酬の改定より認知症グループホームにおいて「栄養スクリーニング加算」が新設され,利用者個々人の低栄養状態のリスクを把握することが制度化された。しかし,どのような施設特性を持つ認知症グループホームで栄養スクリーニング加算の算定割合が高いのか明らかでなかった。本研究の目的は,認知症グループホームの施設特性として特に併設サービスの種類に着目し,併設サービスの種類と栄養スクリーニング加算算定との関連について検討することである。
方法 日本全国の認知症グループホームから無作為抽出(3割)された施設を対象として2020年6月に郵送による自記式質問紙調査を実施した。説明変数に併設サービスの種類(「病院・診療所」「介護保険施設」「居宅介護支援事業所」)を,アウトカム変数に栄養スクリーニング加算算定の有無を用い,ロジスティック回帰分析で多変量調整オッズ比と95%信頼区間を算出した。共変量には,事業主体,ユニット数,要介護4以上の利用者の割合を用いた。
結果 解析対象1,289施設のうち,栄養スクリーニング加算を算定していた施設は9.5%であった。併設サービスについて,「なし」の群を基準とした場合の粗オッズ比は,病院・診療所,介護保険施設,居宅介護支援事業所のいずれでも「あり」の群で有意に高かったが(オッズ比の範囲:1.60~3.13),共変量をモデルに含めた場合(多変量調整モデル)では3つすべての併設サービスにおけるオッズ比に有意な差はみられなかった(オッズ比の範囲:1.22~1.49)。しかし併設サービスの組み合わせのパターンとして,「3つすべてなし」の群を基準とした場合の多変量調整オッズ比は,「3つすべてあり」で2.63(95%信頼区間:1.20,5.76)と有意に高かった。
結論 同一法人の併設サービスとして「病院・診療所」「介護保険施設」「居宅介護支援事業所」があることが栄養スクリーニング加算算定の促進因子であることが示唆された。
キーワード 介護保険,認知症グループホーム,施設特性,栄養スクリーニング加算,栄養管理
第69巻第2号 2022年2月 市町村介護保険者における
金 吾燮(キム オソップ) |
目的 地域密着型サービスの提供水準による市町村介護保険者の地域差を確認把握した上で,地域特性が地域密着型サービスの利用に与える影響を明らかにすることを目的とする。
方法 全国の市町村介護保険者(広域連合除外)を対象に,2018年度の「介護保険事業状況報告(年報)」と「市町村のすがた」のデータを用いて地域密着型サービスの利用に与える影響を分析する。地域密着型サービスの利用について,サービスの利用者割合が高い介護保険者(上位30%)と低い介護保険者(下位30%)を従属変数にする。説明変数は介護保険者の地域特性(8項目)と事業者参入要因(2項目),利用者要因(4項目)とし,t検定による地域差の検証および二項ロジスティック回帰分析の独立変数を抽出する。その上で,二項ロジスティック回帰分析を用いて,地域密着型サービスの利用要因を分析する。
結果 モデルの有意確率が0.00で,二項ロジスティック回帰モデルとしてふさわしいと判断された。Cox&Snellの寄与率とNagelkerkeの寄与率から,モデルの寄与率は0.16から0.21と考えられる。地域密着型サービスの利用者割合に影響を与える要因として,財政力指数(オッズ比:0.32,95%信頼区間:0.13-0.80,p<0.05),高齢者人口密度(オッズ比:0.99,95%信頼区間:0.99-0.99,p<0.01),一般病院数(オッズ比:1.04,95%信頼区間:1.00-1.07,p<0.05),一般世帯平均人数(オッズ比:0.18,95%信頼区間:0.10-0.33,p<0.01),地域の平均要介護度(オッズ比:6.68,95%信頼区間:3.77-11.85,p<0.01)が選択された。つまり,地域密着型サービスの利用率は,介護保険者の地域特性では財政状況が厳しいほど高く,事業者参入要因では高齢者人口密度が高いほど利用率が低く,一般病院数が多いほど利用率は高い。また,利用者要因の項目では一般世帯平均人数が少ないほど,地域の平均要介護度が高いほど利用率が高い。
結論 自治体の厳しい財政状況と近年の核家族化の進行による家族介護力の低下と高齢化に伴う要介護度の重度化により,地域密着型サービス提供の必要性はこれからさらに高くなると予想され,専門人材を確保できるよう地域における事業者参入が円滑に行われる環境整備が求められる。
キーワード 地域密着型サービス,介護保険サービス,利用要因,地域特性,事業者参入
第69巻第2号 2022年2月 高齢者の社会参加に関する研究 その2
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目的 新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)の流行における高齢者を含む地域住民の生活状況,社会参加,支援活動への参加意向,支援活動への参加促進要因,防災意識等を明らかにし,支援活動の人的資源の確保・育成を含め,その推進に役立てることを目的とする。
方法 A市と埼玉医科大学との協働で,A市C地区に在住する30歳以上の全住民1,581人(施設入所者等を除く)を対象に,2020年9月に郵送による自記式質問票調査を実施した。質問票事項は,対象者の基本的属性,生活状況,支援活動の参加意向,防災意識,コロナ関連等である。
結果 調査票送付数1,581人,回収数785人(回収率49.7%),除外63人,有効回答数722人(45.7%)であった。高齢者の支援活動に参加意向のある者は335人(46.4%)であった。支援活動への参加のきっかけは,男女とも「知人・友人の誘い」76人(47.5%)が多く,男性では「自治会等を通じての参加募集」29人(37.2%)が多かった。支援活動に参加する場合の条件として,「参加の回数・時間・曜日の融通がきく」「自宅から近い」が重視されていた。防災意識については,ほぼすべての住民が何らかの方法で避難指示を入手しており,自治会や家族,知人から情報を入手している者も一定数認められた。コロナの流行においても,既存の支援活動が今までどおりであると回答した者が全体の2割弱あったことから,一定の割合で機能していることがわかった。
結論 本研究で,A市C地区における支援活動参加意向の実態や,参加を促進するための重要な要因をはじめ,台風等の自然災害や未知の感染症パンデミック等の有事に対する地域住民の状況が明らかになった。前回(2019年度)調査実施地区(B地区)で支援活動についてヒアリングを行ったところ,包括的なアウトリーチ支援が有効であることもわかった。その結果も踏まえれば,地域の実情にあった仕組みづくりこそが望まれる。「支え手」「受け手」という関係を超えて,コミュニティの機能を活用してそれぞれが連携しながら,バランスの取れた形で役割を果たし,個人の自律を支えるセーフティネットを充実させていくことが重要であると考える。
キーワード 超高齢社会,地域包括ケアシステム,地域支援活動,防災意識,新型コロナウイルス感染症,アウトリーチ支援
第69巻第2号 2022年2月 高齢者の就労状況とQOLの関連性-QALY試算による経済学的評価も含めて-小牧 靖典(コマキ ヤスノリ) 平塚 義宗(ヒラツカ ヨシムネ) 池田 登顕(イケダ タカアキ)柳 奈津代(ヤナギ ナツヨ) 近藤 克則(コンドウ カツノリ) |
目的 本研究の目的は二つである。第一に,要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者を対象に,健康関連QOL尺度のひとつであるEQ-5D-5Lを用いて,現在の就労状況とQOL値の関連性を明らかにすることである。第二に,これまで最も長く勤めた職種(以下,最長職)別に,現在の就労状況とQOL値の関連性を明らかにすることである。
方法 本研究は日本老年学的評価研究(JAGES)が2016年に実施した「健康とくらしの調査」データを用いた。回答者のうちADLに支障がなく,かつ健康状態の調査項目(EQ-5D-5L)に回答のあった17,695人を対象に解析を行った。EQ-5D-5LのQOL値を算出するために,[歩行][着替え][ふだんの活動][痛み・不快感][不安・ふさぎこみ]の5つの項目を各5段階で評価した。得られた回答を日本語版EQ-5D-5Lの換算表(タリフ)を用いてQOL値に変換し,高齢者の就労状況とQOL値の関連性を解析した。さらに,最長職別に就労状況とQOL値との関連性を解析した。
結果 性別,年齢,教育歴,婚姻状態,世帯の資産,くらし向きを調整したうえでも,就労している群に比べて,退職した(就労していない)群のQOL値は有意に低かった(-0.010,p<0.01)。また,最長職別には,自営職(農林漁業以外)のみ就労している群に比べて,退職した(就労していない)群で有意に低かった(-0.067,p<0.01)。
結論 QOL値は就労している群に比べて,退職した(就労していない)群で有意に低かったことから,高齢者の就労継続は,高齢期のQOLの維持向上に寄与している可能性があることが示唆された。
キーワード 高齢者,就労,QOL,EQ-5D,QALY,職種
第69巻第2号 2022年2月 (撤回論文:令和5年3月22日) 高齢者を対象とした訪問指導と運動教室における
井口 睦仁(イグチ ムツヒト) |
(この論文は二重投稿が発覚したため、著者からの申し出により、令和5年3月22日に論文撤回となりました)
目的 本研究では,在宅高齢者を対象にした訪問による運動の実施者と運動教室の参加者に対して,運動介入を3カ月間実施し,高齢者の身体機能にどのような影響を及ぼすのか検討した。また,訪問型,教室型の参加者に対して簡易運動を実施するように指示し,運動継続に及ぼす影響を検討した。
方法 2016年10月,H市在住の高齢者に介護予防運動研究参加者を募集し,応募のあった65名の内,選定基準を満たす49名を対象者とした。訪問群はスクワットと片足立ちを実施し,訪問日以外は,参加者自身が毎日運動を実施した。教室群は,90分間の運動教室(運動遊び,リズム体操,バランス運動,自重負荷トレーニングなど)を実施し,教室以外では,運動の指示はしなかった。対象者は訪問群(女性24名,70.3±1.8歳)と教室群(女性25名,70.2±1.8歳)に無作為にグループ分けした。測定項目は,30秒椅子立ち上がりテスト(CS-30),最大一歩幅,Timed Up & Go Test(TUG),開眼片足立ちであった。
結果 両群ともにすべての項目で介入前より介入後に有意な向上が示された。群間の差異は,CS-30,TUGともに介入後において訪問群よりも教室群の方が有意に高い値であった。追跡調査の結果,訪問群では,TUGは3カ月後,6カ月後も維持されていることが確認された。CS-30,最大一歩幅,開眼片足立ちは3カ月後まで維持されていたが,6カ月後には有意に低下していることが確認された。一方,教室群では,開眼片足立ちは,介入後の効果が3カ月後まで維持されていたが,6カ月後には有意に低下していることが確認された。CS-30,TUG,最大一歩幅は3カ月後,6カ月後には有意に低下していることが確認された。また,簡易運動の実施状況については,訪問型の方が教室型よりも頻度が有意に多く,両群とも8~11週間後に低下した。
結論 本研究では,介入後に在宅で運動を実施しやすくするために教室群の介入中に簡易運動を実施したが,介入後の簡易運動の実施頻度は,訪問群の方が多かった。簡易運動には,多種目運動と同等の介入効果があり,種目数が2種目と少なく,数分でできるというメリットから,教室後の運動プログラムとして,その経済性が期待された。しかし,教室群では,1人で実施しなければならないという興味性の問題から,訪問型のように高い実施頻度を定着させることができなかったと考えられる。したがって,教室介入後に簡易運動を用いることは運動継続にあまり有効ではないことが示唆された。
キーワード 高齢者,訪問型運動指導,教室型運動指導,運動継続
第69巻第1号 2022年1月 医科メディアスによる推計平均在院日数の動向と
西岡 隆(ニシオカ タカシ) |
目的 令和2年度の概算医療費の公表にあわせて,新たに公表をはじめたNDBの集計による「医科医療費(電算処理分)の動向」(医科メディアス)について,「推計平均在院日数」を取り上げ,その状況を解説する。
方法 平均在院日数には,「病院報告」の「平均在院日数」や「患者調査」の「退院患者の平均在院日数」があるが,レセプトの「件数」と「日数」を用いることで「推計平均在院日数」を計算することができる。医科メディアスの「推計平均在院日数」は疾患別に出すことができ,それを患者調査の結果と比較したところ,おおむね,その疾患ごとの特性を表すことができている。この指標は,毎月示すことができる点でもメリットがある。
結果 医科メディアスの疾患別の「推計平均在院日数」について,平成29年度から令和2年度の推移をみると,新型コロナウイルス感染症の影響を受けて,令和2年度は特徴的な変化が起きている。「呼吸器系の疾患」の場合,入院患者が減少する一方で,相対的に軽い患者の減りが大きく,「推計平均在院日数」が長くなり,「妊娠,分娩及び産じょく」の場合,入院期間を少しでも短くする動きが確認され,「新生物」の場合,各月でみると新型コロナウイルス感染症の流行期に減少幅が大きくなり,感染状況に応じて左右された傾向が確認された。
結論 「推計平均在院日数」はレセプトの件数と日数で計算されたものであるため,新型コロナウイルス感染症の流行期の保険請求の事務処理上の緊急対応でPCR検査の診療報酬を「書面により請求すること」とされたことにより,一時的に,従来から公表しているメディアスの数値に影響が出ていることに留意が必要である。
キーワード メディアス,病院報告,患者調査,推計平均在院日数,疾患別,新型コロナウイルス感染症
第69巻第1号 2022年1月 1996年から2016年の20年間における薬剤師の就業動向安藤 崇仁(アンドウ タカヒト) 井上 和男(イノウエ カズオ)木村 一紀(キムラ カズキ) 安原 眞人(ヤスハラ マサト) |
目的 薬剤師は医療提供施設だけでなく医薬品開発や行政など様々な業種に従事しており,医師・歯科医師と比べて医療提供施設以外の業種に従事する割合が高い。そこで,業種別の薬剤師数を自治体規模別に20年間にわたり縦断的に分析し,わが国における薬剤師の就業動向を明らかにすることを目指した。
方法 1996年,2000年,2006年,2010年,2016年の5時点を対象として1996年から2016年の20年間の縦断分析を行った。調査時点の薬剤師数は,医師・歯科医師・薬剤師調査データを用い,各自治体の人口は国勢調査データを用いた。いずれものデータもe-Statから入手した。調査対象期間において多くの市町村合併が行われていることから,縦断分析における地理的条件を統一するため,各調査時点の自治体を2016年時点の自治体となるように処理した。医師・歯科医師・薬剤師調査で集計されている業種は調査時点ごとに違いがあるため,各調査時点で調査対象業種が共通となるように9種類(薬局薬剤師,病院薬剤師,大学勤務者,大学院生,製造業従事者,販売業従事者,行政従事者,その他,不詳)に分類した。また,薬局薬剤師および病院薬剤師を合わせて医療従事薬剤師とし,大学勤務者,大学院生,製造業従事者,販売業従事者,行政従事者を合わせて非医療従事薬剤師とした。各自治体を自治体規模で区分けし,各区分における人口10万人対薬剤師数を業種ごとに算出した。
結果 調査対象期間の20年間において,総薬剤師数は55.1%増加し,その増加分はほぼ薬局薬剤師数の増加(146.4%増)であった。大学院生(80.5%減)と販売業従事者(24.5%減)は減少していた。自治体規模別の人口10万人対薬剤師数は,薬剤師全体,医療従事薬剤師,非医療従事薬剤師のいずれも自治体規模が大きいほど多かった。前時点を対照とした人口10万人対薬剤師数の変化量は,医療従事薬剤師では自治体規模が大きいほど増加していたが,非医療従事薬剤師では一定の傾向はみられなかった。
結論 調査対象期間の20年間に薬剤師総数は増えており,各自治体規模の薬剤師の絶対数は増加していたが,人口10万人対薬剤師数は大規模自治体ほど多く,その格差は拡大する傾向にあった。
キーワード 薬剤師,医師・歯科医師・薬剤師調査,国勢調査,薬局,病院,市町村合併
第69巻第1号 2022年1月 後期早産と妊娠・出産の満足との関連-一般住民を対象とした横断研究-上原 里程(ウエハラ リテイ) 秋山 有佳(アキヤマ ユウカ) 市川 香織(イチカワ カオリ)尾島 俊之(オジマ トシユキ) 松浦 賢長(マツウラ ケンチョウ) 山崎 嘉久(ヤマザキ ヨシヒサ) 山縣 然太朗(ヤマガタ ゼンタロウ) |
目的 後期早産(在胎週数34-36週)は,児の発達への影響とともに母親の産後の不安や抑うつとの関連が報告されている。3-4カ月児健康診査(以下,健診),1歳6カ月児健診,および3歳児健診を受診した保護者を対象として後期早産児を持つ母親の特性を明らかにすることを目的とした。
方法 健診時期の異なる集団を対象とした横断研究である。「健やか親子21」の最終評価を目的として2013年に「親と子の健康度調査アンケート」が実施された。調査対象は各都道府県の人口規模別に県庁所在地を1カ所含む各10市区町村(472カ所)で上記健診を受診した保護者である。回答者が母親かつ第1子に限定し,アンケートの共通項目について後期早産の母親と早期の早産(同22-33週)および正期産(同37-41週)を比較した。すべての健診時期で後期早産と有意な関連があった項目について,交絡要因を調整して後期早産が関連要因であるかどうかを確認した。
結果 後期早産児の母親は,3-4カ月児健診,1歳6カ月児健診,3歳児健診それぞれで4.2%(361/8,514),4.5%(513/11,398),4.6%(508/11,089)だった。すべての健診時期で,正期産,後期早産,および早期の早産の3群に有意な差が観察された項目は,出産時の母親の年齢と妊娠・出産の満足度だった。妊娠・出産の満足度を目的変数,在胎週数の3区分を説明変数,出産時の母親の年齢など交絡要因を共変量として多変量ロジスティック回帰分析を行うと,すべての健診時期において,後期早産は妊娠・出産の満足度と関連していた(満足していないことに対するオッズ比[95%信頼区間]:3-4カ月児健診2.21[1.50-3.26],1歳6カ月児健診2.55[1.90-3.41],3歳児健診3.79[2.92-4.93])。
結論 一般集団において,後期早産は妊娠・出産に満足していないことに関連していた。後期早産では正期産と比べて妊娠・出産に満足していない頻度が高いことから,後期早産を経験した母親に対して妊娠・出産時からの継続した支援が必要である。
キーワード 後期早産,妊娠,出産,満足,母親,健やか親子21
第69巻第1号 2022年1月 女性が認識する就労時の
古屋 恭彩(フルヤ ヨシミ) 浦中 桂一(ウラナカ ケイイチ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ) |
目的 就労女性が,より少ないストレスで妊娠・出産・育児を継続できる示唆を得るために,就労妊産褥婦が受けたマタニティハラスメントの実態と対処行動を明らかにすることである。
方法 量的横断研究デザインにより,属性,妊娠中・産後の職場の状況とマタニティハラスメントの実態について無記名の自己記入式調査票を用いて,2019年11月から2020年5月に調査した。研究対象は,0~6歳の子どもをもつ就労経験のある女性796名であった。分析はハラスメント経験の有無と属性の2群でχ2検定を実施し,自由記載内容をカテゴライズした。
結果 調査票を796名に配布し,有効回答388部(有効回答率48.7%)を用いてデータ分析を行った。ハラスメントあり群165名(42.5%),なし群223名(57.4%)で,ハラスメントあり群は,なし群より妊娠合併症,産後1年以内の就労復帰者,子どもの通園施設保育園が有意に多かった。妊娠・出産による退職経験者は,42.8%であった。産前のハラスメント経験の内容は,肩身の狭さ52.7%,居心地の悪さ32.7%,心無い言葉26.7%であり,産後は肩身の狭さ51.5%,居心地の悪さ30.3%,冷遇23.0%であった。ハラスメントへの対処行動は,対処できなかった46.7%,家族に相談33.9%,上司・先輩・同僚に相談24.2%であった。ハラスメント経験時の情報提供ニーズは,特になし48%,妊娠・出産・育児に関する制度18%,ハラスメントを受けたときの相談場所14%であった。ハラスメント回避の対策として,周囲に感謝,謙虚な態度,異動,制度の利用が抽出された。
結論 子どもを育児中で就労経験がある女性の42.5%が,マタニティハラスメント経験者であった。ハラスメント経験の内容は肩身の狭さ,居心地の悪さ,心無い言葉,冷遇,誹謗中傷,退職催促であった。ハラスメントへの対処行動は,対処できなかった,家族に相談,上司・先輩・同僚に相談であり,ハラスメント回避の対策は,周囲に感謝,謙虚な態度,異動,制度の利用であった。
キーワード ハラスメント,妊娠期,産褥,実態調査,就労女性
第69巻第1号 2022年1月 学校でのいじめ被害経験と
平光 良充(ヒラミツ ヨシミチ) |
目的 学校でのいじめ被害経験は,成人後の抑うつ,自殺念慮,自殺未遂のリスクを上昇させることが報告されている。自殺対策としては悩んだときに相談することが重要である。本研究の目的は,学校でのいじめ被害経験と成人後に相談相手がいないこととの関連を悩み別に把握することである。
方法 東京大学社会科学研究所が2007年に実施した若年・壮年パネル調査の回答データを使用して二次分析を行った。分析対象者数は20~40歳の男女4,003人である。相談相手の有無を目的変数,学校でのいじめ被害経験の有無を説明変数とした二項ロジスティック回帰分析により,「仕事・勉強の悩み」「求職の悩み」「人間関係の悩み」「金銭面の悩み」の各悩み別にオッズ比を算出した。調整変数は性別,年齢階級,婚姻状態,就業状態,教育歴,精神的健康状態とした。
結果 分析対象者のうち,学校でのいじめ被害経験がある者は907人(22.7%)であった。「人間関係の悩み」では,いじめ被害経験と成人後に相談相手がいないこととに有意な関連がみられた(調整オッズ比1.42(95%信頼区間:1.10-1.82))。その他の悩みでは有意な関連はみられなかった。
結論 学校でのいじめ被害経験がある者は,成人後に「人間関係の悩み」を抱えた際に相談できる人がいないリスクが高いことが示唆された。今後は,学校でのいじめ被害経験者が成人後に相談相手がおらずに孤立しないように,長期的視点での支援方法を検討する必要がある。
キーワード 学校でのいじめ被害経験,成人後,悩み,相談相手,オッズ比,長期的視点
第69巻第1号 2022年1月 日本の脳出血治療の現状と将来像光安 由利栄(ミツヤス ユリエ) 石原 礼子(イシハラ レイコ) |
目的 脳血管疾患は日本の死因の上位で要介護4および5の原因疾患として第1位である。また,日本の脳出血の発症率は諸外国の2倍から3倍高く,突然死リスクや再発率が高いといった問題がある。今回,厚生労働省が公表する平成30年度DPCデータを用いて,日本の脳出血の疾患動向を明確にし,どのような治療が行われているのか分析することを目的とした。
方法 平成30年度「退院患者調査」の参考資料2(6)「診断群分類毎の集計」より,MDC01(神経系疾患)の内訳から010040(非外傷性頭蓋内血腫)を対象とした。性別,年齢,ICD10,治療法,退院時転帰,退院時死亡率,血腫除去方法について診断群分類番号別,重症度別,手術別のいずれかで件数や割合を比較した。割合の比較にはχ2検定を用いた。退院時死亡率は分母に退院患者数,分子に退院時転帰が「死亡」の患者数として算出した。
結果 非外傷性頭蓋内血腫(非外傷性硬膜下血腫以外)の件数は65,025件であった。軽症群は42,773件(65.8%),重症群は22,252件(34.2%)であった。男女別では男性で軽症群が68.3%,女性で62.8%となり,男性で有意に軽症群が多かった。80歳以上の割合は軽症群で28.0%,重症群で38.6%となり,有意に重症群で多かった。65歳以上の割合は軽症群で65.3%,重症群で72.8%となり,有意に重症群で多かった。ICD10の重症度別分布は「I610(大脳)半球の脳内出血,皮質下」が約7割を占めた。治療法は手術なしが軽症群で87.9%,重症群で66.8%となり,有意に軽症群で多かった。一方,手術あり群は重症群で有意に多かった。退院時転帰は「治癒・軽快」が78.0%を占め,最も多かった。退院時死亡率は全体で12.0%であった。血腫除去方法は開頭頭蓋内血腫除去術が全体で72.5%を占め,最も多かった。
結語 手術なしの重症群に死亡率が高く,開頭頭蓋内血腫除去術が多かった。開頭頭蓋内血腫除去術は一般的に多く用いられており,視野が広く血腫吸収率が高いが,侵襲が大きく,全身麻酔による術後合併症のリスクがある。その一方,内視鏡下脳内血腫除去術は手術技術習得に時間を要するが,低侵襲で血腫吸収率が高く,早期にリハビリテーションが出来るため,今後広く用いられることを期待する。さらに,日本で脳出血による血腫除去に特化した医療手術用ロボット技術はまだ導入されていない。将来,脳出血手術のためのロボット技術が開発・発表され,より安全で低侵襲な手術が可能になることを期待する。
キーワード DPC,高齢者,脳出血,非外傷性頭蓋内血腫,内視鏡下脳内血腫除去術
第69巻第1号 2022年1月 福島市における地域在宅高齢者の
伊藤 佳代子(イトウ カヨコ) 森山 信彰(モリヤマ ノブアキ) 安村 誠司(ヤスムラ セイジ) |
目的 地域在宅高齢者の栄養状態を,食品摂取の多様性を評価する指標であるDietary Variety Score(以下,DVS)を用いて判定し,関連する要因を検討した。また,高齢者の低栄養状態を予防・改善し,健康づくりを進めるための施策の提言につなげることを目的とした。
方法 平成28年度「福島市民の健康と生活習慣調査」の結果を二次利用した。この調査では,福島市の住民基本台帳を基に18歳以上84歳以下の人口226,492人から,地区別・年齢別(5歳階級)・性別に偏りがないように人数を案分し,6,023人(65歳以上84歳以下は65,300人から1,736人)が抽出(抽出率2.66%)された。2016年に郵送法で自記式質問紙調査(項目:属性,健康に関する意識,栄養・食生活の状況,運動習慣・地域活動への参加等)を実施した。DVSは10食品群の摂取頻度から10点満点で算出し,合計得点が3点以下(低得点群)と4点以上(高得点群)の2群に区分した。65歳以上を対象として,DVSと各調査項目について単変量解析にて関連を検討した。さらにDVSを従属変数,単変量解析により有意差を認めた項目および年齢を独立変数とした二項ロジスティック回帰分析を性別で行った。
結果 郵送数1,736人,回収数1,256人(回収率72.4%)で,記載に不備のない797人(有効回収率45.9%:男369人,女428人)を解析対象とした。低得点群は398人(49.9%)で,男性210人(56.9%),女性188人(43.9%)だった。DVS(低得点群)と有意な関連を示したのは,男性では1日3食の摂取頻度〔オッズ比(OR):3.11,95%信頼区間(CI):1.28-7.58〕,栄養バランスに気をつけた食生活(OR:2.52,95%CI:1.00-6.38),塩分のとりすぎへの意識(OR:2.86,95%CI:1.50-5.47),運動習慣(OR:1.90,95%CI:1.12-3.24)で,女性では健康を維持するための心がけ(OR:2.11,95%CI:1.06-4.22),塩分のとりすぎへの意識(OR:2.71,95%CI:1.25-5.88)だった。
結論 福島市の地域在宅高齢者の栄養状態を食品摂取の多様性からみると,低い状態にあるものが全体の約半数で特に男性で多かった。この状態を改善するためには,塩分のとりすぎに気をつけ,男性では欠食せず,栄養バランスに気をつけるなどの望ましい食生活を心がけ,運動習慣を持つこと,また,女性では健康を維持するための心がけを持つことが重要であることが明らかになった。
キーワード 地域在宅高齢者,低栄養,食品摂取の多様性
第68巻第15号 2021年12月 子どもをもたない有配偶成人の主観的幸福感とその関連要因-就労形態による分析-福島 朋子(フクシマ トモコ) 沼山 博(ヌマヤマ ヒロシ) |
目的 子どもをもたない中年期有配偶者の主観的幸福感とそれに関連する要因について,就労形態による検討を行うことを目的とする。主観的幸福感に関連する要因としては,夫婦関係満足度,仕事の満足度,伝統的家族・ジェンダー観,経済的ゆとり感を取り上げた。
方法 2018年10月および2019年1月にWeb調査を行った。調査会社にモニター登録している該当者に同社を通して調査依頼を行い,全国の子どものいない45~60歳の有配偶男女667名の協力を得た(女性461名,男性206名)。これらを女性フルタイム群,女性パートタイム群,女性家事専業群,男性フルタイム群の4群に分け,各変数の一元配置分散分析を行った。また,夫婦関係満足度,仕事の満足度,伝統的家族・ジェンダー観,経済的ゆとり感を説明変数,主観的幸福感を目的変数とする階層的重回帰分析を行った。
結果 4群について,まず一元配置分散分析を行ったところ,主観的幸福感,夫婦関係満足度,経済的ゆとり感については,有意な差は認められなかった。仕事の満足度,伝統的家族・ジェンダー観では有意な差が認められ,仕事の満足度では男性フルタイム群より女性パートタイム群で高く,伝統的家族・ジェンダー観では女性フルタイム群・女性家事専業群より男性フルタイム群で高かった。また,階層的重回帰分析を行ったところ,主観的幸福感に対し4群すべてで夫婦関係満足度が有意な正の影響を,女性3群で経済的ゆとり感が有意な正の影響を,女性家事専業群のみにおいて伝統的家族・ジェンダー観が有意な正の影響が認められた。
結論 子どもをもたない中年期有配偶者において,夫婦関係満足度が主観的幸福感を高める重要な要因であることが示された。また,これ以外の要因については,性別や就労形態により異なっており,子どもをもたない成人の幸福感を調査するにあたり,性別や就労形態を含めて把握することの必要性が示唆された。
キーワード 子どもをもたない有配偶成人,主観的幸福感,就労形態,関連要因
第68巻第15号 2021年12月 末子が未就学児の子どもを持つ父親の労働日における生活時間大塚 美耶子(オオツカ ミヤコ) 越智 真奈美(オチ マナミ) 可知 悠子(カチ ユウコ)加藤 承彦(カトウ ツグヒコ) 新村 美知(ニイムラ ミチ) 竹原 健二(タケハラ ケンジ) |
目的 父親が家事・育児に費やすことのできる時間を延ばすことを目的に,政府は父親の家事・育児関連時間を1日あたり150分にすることを目標として掲げている。しかし,まだその達成には至っていない。そこで,本研究では基幹統計のデータを用いて,父親の1日の生活時間の分布を記述し,父親の家事・育児関連時間を増やすための方策を提言するのに必要な基礎資料として提示することを目的とした。
方法 本研究では,総務省が実施している社会生活基本調査の2016年データを用いた。調査参加者176,285人のデータのうち,①父親,②夫婦と子どもの世帯,③末子が未就学児,④就業している,⑤調査日が「仕事の日」の条件をすべて満たす3,755人を対象に分析を行った。対象者の1日の生活時間を「(通勤を含む)仕事関連時間」「家事・育児関連時間」「(睡眠や食事などの)1次活動時間」「(娯楽などの)休息・その他の時間」の4つのカテゴリーに分類し,「仕事関連時間」の時間別の分布を調べた。次に1時間ずつ分けた「仕事関連時間」の長さごとに,その他3つのカテゴリーの平均時間を調べ,「仕事関連時間」と他のカテゴリーの時間との関連をみた。
結果 「仕事関連時間」は,12時間以上の割合が36%と最も高かった。「仕事関連時間」が長いと,「家事・育児関連時間」や「休息・その他の時間」が短くなる傾向がみられた。一方,「1次活動時間」は「仕事関連時間」の長さに大きく影響されず,1日平均10時間前後でほぼ横ばいであった。ただし,全体の36%を占める「仕事関連時間」が12時間以上の群では,「1次活動時間」「休息・その他の時間」の平均時間が他の群と比べて1時間ほど短かった。また,この群における「家事・育児関連時間」は,1日平均10分だった。
結論 父親の「仕事関連時間」が長いほど,「家事・育児関連時間」が短くなる傾向がみられた。仕事がある1日において,健康維持に必要だと思われる10時間程度の「1次活動時間」と最低2時間の「休息・その他の時間」を差し引くと,政府の目標とする父親の家事関連時間150分を達成するためには,父親の「仕事関連時間」が9.5時間未満となることが重要であると示唆された。この結果は,長時間労働をどこまで是正すればよいのか,その一つの具体的な目安になり得るものだと考えられる。
キーワード 父親の生活時間,長時間労働,家事・育児時間,少子化,社会生活基本調査,ワーク・ライフ・バランス
第68巻第15号 2021年12月 愛媛県南宇和郡愛南町における地域医療の現状と課題-地域住民ならびに医師へのアンケート調査から-山下 薫(ヤマシタ カオル) 石川 真由(イシカワ マユ) 鄭 思青(テイ シセイ)佐藤 准子(サトウ セツコ) 友岡 清秀(トモオカ キヨヒデ) 谷川 武(タニガワ タケシ) |
目的 高齢化が進むわが国において,地域医療の需要は各地域により多様であり,その実態に合わせて政策を進める必要がある。そこで本研究では,愛媛県南宇和郡愛南町の地域住民ならびに医師を対象に,地域医療ならびに在宅医療の現状と課題を明らかにすることを目的にアンケート調査を実施した。
方法 愛媛県南宇和郡愛南町(以下,愛南町)の地域住民(497人)ならびに医師(22人)を対象に,2019年7月に無記名自記式アンケート調査を実施した。主な内容として,地域医療の課題や今後必要とされる施策,在宅医療の需要,利用実態とその理由,そして終末期医療の需要について調査した。
結果 地域医療について,53.3%の地域住民が総合的な診療を望んでおり,59.1%の医師が総合診療科の充足を求めていた。在宅医療については,地域住民の67.0%,医師の72.7%が在宅医療のニーズがあると感じていた。53.5%の地域住民が在宅医療を希望する一方で実際に受けている人は1.6%であった。看取りの場所について,43.3%の地域住民が自宅を希望している一方で,実際に自宅で看取ることが多いと答えた医師は18.2%であった。
結論 愛南町の地域医療において,地域住民,医師双方から総合的な診療が求められていることが明らかとなった。また,在宅医療の需要が高い一方で,実際に利用する地域住民や取り組む医師の割合が少ないことが明らかとなった。
キーワード 地域医療,在宅医療,総合診療,高齢化,愛南町
第68巻第15号 2021年12月 患者診療体験調査における
佐藤 三依(サトウ ミヨリ) 渡邊 ともね(ワタナベ トモネ) 市瀬 雄一(イチノセ ユウイチ) |
目的 平成27年厚生労働省がん臨床研究事業としてがん患者と家族の診療体験に基づく評価のためにリッカート尺度の質問で第1回患者体験調査を行ったが,多くの質問で8割の患者が肯定的選択肢を選んだため政策等による変化を捉えられないと考えられた。近年評定尺度表現の変更による回答分布の操作も提案されたことを受け,第1回調査の肯定が2段階,中立が1段階,否定が2段階の選択肢を,第2回では3,1,1段階にしたが,回答が肯定側に誘導された可能性があった。そのため選択肢の変更前後で結果を比べ,第1,2回の調査の回答分布を比較する方法を提案し,さらに項目反応理論に基づき,評定尺度表現の適切性を評価することを目的とする。
方法 2020年3月2日~5日に調査した。1,635人が回答対象者,有効回答は728人(44.5%)であった。インターネット調査会社のパネル患者を2群(A,B)に分け,A群に5段階で中央が中立的選択肢を,B群に5段階で下位2つ目が中立と設定し,肯定の回答者の割合を比較し,比較補正係数を作成した。項目反応理論のパラメタ推定により選択肢間の心理的距離および測定精度を検証した。
結果 A群よりB群の方が天井効果は和らいだが,肯定的選択肢の患者の割合は増加した。潜在特性連続体上の各選択肢の尺度値の差異はみられなかったが,B群においてテスト情報量が増加した。
結論 第1,2回の患者体験調査の比較には,比較補正係数を用いることが必要と考えられた。選択肢変更後において天井効果が和らぎ,誤差が減少しテスト情報量が増加したことより,選択肢変更は選択肢内のばらつきを測定する,経時的な変化を捉えたい場合に有効であると示唆された。
キーワード リッカート法,評定尺度表現,項目反応理論,患者体験調査,比較補正係数
第68巻第15号 2021年12月 わが国の労働者における新型コロナウイルス感染症の
工藤 安史(クドウ ヤスシ) 後藤 由紀(ゴトウ ユキ) 柿原 加代子(カキハラ カヨコ) |
目的 新型コロナウイルスへの感染の疑いのある労働者がいた場合,新型コロナウイルス感染症の診断に必要な検査を受けてもらうことは,事業場での感染拡大を防止するために重要である。本研究では,「新型コロナウイルス感染症に対する労働者の意識」と「新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけ」との関連性を探る。
方法 2020年9月から12月までの間に,調査を実施した。36事業場が研究に参加し,解析対象者は2,056名であった。ヘルスビリーフモデルを参考にして,「新型コロナウイルス感染症に対する労働者の意識」に関連する項目を作成し,因子分析を行った。その後,「新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけ」を目的変数,年齢,性別,勤務形態,婚姻状態,「因子分析で抽出された各因子」を説明変数とする重回帰分析を行った。
結果 労働者の意識に対して因子分析を行った結果,「重篤な健康状態になる恐れ」「偏見にさらされない」「感染拡大防止に早期発見が重要」「生活の安定」「感染リスクの高さ」という5つの因子が抽出された。重回帰分析の結果,重篤な健康状態になる恐れを認識しているほど,感染拡大を防止するために早期発見の重要性を認識しているほど,感染しても生活の安定が確保できると考えているほど,新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけが高かった。また,既婚者は,未婚者よりも,新型コロナウイルス感染症の検査を受ける動機づけが有意に高かった。
結論 「重篤な健康状態になる恐れ」「感染拡大防止に早期発見が重要」「生活の安定」という意識や婚姻状態を考慮することで,検査を受ける動機づけを高めることができる。
キーワード 検査,新型コロナウイルス感染症,動機づけ,ヘルスビリーフモデル,労働者
第68巻第13号 2021年11月 一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感に
楊 暁敏(ヨウ ギョウビン) 神部 智司(カンベ サトシ) 岡田 進一(オカダ シンイチ) |
目的 本研究では,一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感(以下,支援困難感)に関連している要因を探索的に検討することとした。
方法 大阪府下の居宅介護支援事業所と地域包括支援センターから2,500カ所を無作為に抽出した。各施設1人の一人暮らし高齢者を担当した経験がある介護支援専門員2,500人を対象に,自記式質問紙を用いた郵送調査を実施した。調査期間は平成31年1月30日から同年2月25日までであった。本研究では,回答欠損値のない644人(有効回答率:25.8%)を分析対象とした。尺度の信頼性と妥当性が検証された「一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感」尺度(24項目)を従属変数,仕事の状況,労働環境に対する評価,スーパービジョンの状況,性別,年齢,介護支援専門員の経験年数,主任介護支援専門員資格の有無を独立変数とする重回帰分析を行った。
結果 分析の結果,「業務量過多によるケアマネジメントの困難感」「サービスの制約によるケアマネジメントの困難感」が正の方向,「一人暮らし高齢者の見守りサービス状況」「(スーパービジョンを)職場外で受けている」「(スーパービジョンを職場内外の)両方で受けている」「介護支援専門員の経験年数」が負の方向で「支援困難感」との有意な関連を示した。
結論 本研究の結果から,一人暮らし高齢者に対する介護支援専門員の支援困難感に対する対応策として,介護支援専門員自身の実践経験の内省的蓄積とともに,事務業務の簡素化などによる業務負担の軽減,地域資源の充実に向けた制度の見直し,事業所内外におけるスーパービジョン体制の整備などが必要とされる。
キーワード 一人暮らし高齢者,介護支援専門員,支援困難感,スーパービジョン,ケアマネジメント
第68巻第13号 2021年11月 ヘルスリテラシーが主観的健康感に与える影響村松 容子(ムラマツ ヨウコ) |
目的 近年,疾病構造が変化し,慢性疾患等,病気を抱えたまま日常生活を送る人が増えている。慢性疾患は,必ずしも完治を望めないため,主観的健康感が重要となる。一般に,主観的健康感は,加齢や疾病を経験することで下がるが,加齢も疾病も避けることはできない。一方,主観的健康感にはヘルスリテラシーも関連しており,ヘルスリテラシーが低下すると,主観的健康感が低下するといった報告がある。ヘルスリテラシーは,加齢や疾病発症後も向上しうることから,本研究では,主観的健康感を向上させるための試みとして,ヘルスリテラシーが主観的健康感に与える影響を分析した。
方法 データは,ニッセイ基礎研究所が,20~69歳の男女個人を対象に2018年7月に実施したインターネット調査の結果である(有効回答数3,002)。分析は,主観的健康感とヘルスリテラシーの基本属性別分布を確認したうえで,主観的健康感を目的変数,ヘルスリテラシーや生活習慣,最近の治療歴や投薬の状況を説明変数とした重回帰モデルで推計を行った。
結果 主観的健康感を低下させる要因として加齢や疾病の発症があった。ヘルスリテラシーは加齢や疾病を経験することで向上していた。重回帰分析の結果,ヘルスリテラシーは,社会的経済環境,現在の生活習慣,治療歴や投薬の状況とは独立して,主観的健康感とプラスの相関関係があることが認められた。
結論 主観的健康感は,加齢や疾病の発症によって下がるが,ヘルスリテラシーは,年齢や社会経済的環境,治療歴等とは異なり,教育や経験によって向上することが望める。したがって,ヘルスリテラシーの向上によって,年齢や疾病経験による主観的健康感の低下を一定程度埋めることができる可能性がある。長寿化がますます進展する中,自分自身の健康状態について,過剰な不安を抱えずに暮らすためには,医療機関で治療を受けないで済む期間の延伸という視点での疾病の予防だけでなく,主観的健康感の向上が重要な課題と考えられる。
キーワード 主観的健康感,ヘルスリテラシー,疾病経験,加齢,生活習慣
第68巻第13号 2021年11月 日本における主として麻酔科以外の診療科に従事している
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目的 麻酔科については,厚生労働大臣の許可を得た麻酔科標榜医のみ標榜できる。麻酔科標榜医の実態についての先行研究はなく,2016年の医師・歯科医師・薬剤師調査において初めて麻酔科標榜医の数が明らかになった。外科などを専門とする主として麻酔科以外の診療科に従事している麻酔科標榜医(以下,非麻酔科の麻酔科標榜医)が麻酔科医の不足の緩和に貢献していると推察されるが,その実態は不明である。そこで本研究は,非麻酔科の麻酔科標榜医の配置状況について分析し,医療政策への示唆を検討することを目的とした。
方法 2016年末に実施された医師・歯科医師・薬剤師調査の個票データを,厚生労働省の許可を得て入手し,2016年時点の麻酔科標榜医の状況について記述した。次に,主として非麻酔科の麻酔科標榜医の特徴を明らかにするため,非麻酔科の麻酔科標榜医の有無を被説明変数,性,年齢,施設,地域分類,主として従事する診療科を説明変数とする多重ロジスティック回帰分析を行った。
結果 麻酔科標榜医の4割は,非麻酔科の麻酔科標榜医であった。非麻酔科の麻酔科標榜医の特性として,男性,40歳以上,過疎地域,診療所勤務のオッズ比が有意に高いという特徴がみられた。
結論 非麻酔科の麻酔科標榜医は,過疎地域の麻酔科業務の充実に貢献するなど,麻酔科の充実に貢献している可能性が示された一方で,麻酔科専門医と異なり更新がないことから,教育制度の整備について検討が必要である。
キーワード 麻酔科標榜医,医師・歯科医師・薬剤師調査,医師偏在,更新制
第68巻第13号 2021年11月 東日本大震災被災地における
山下 真里(ヤマシタ マリ) 清野 諭(セイノ サトシ) 野藤 悠(ノフジ ユウ) |
目的 東日本大震災の被災地では,新しいコミュニティになじめず孤立や孤独に陥っている者への対策が喫緊の課題となっている。本研究では,被災地在住高齢者の孤独感の実態を把握し,孤独感と関連する可変的要因を横断研究にて明らかにすることを目的とした。
方法 2019年10月,気仙沼市在住の65-84歳の非要介護認定者(要支援者は含む)18,038名から,16社協区別に層化無作為抽出した9,754名を対象に自記式質問紙調査を郵送法により実施した。返送のあった8,150名(回収率83.6%)のうち欠損のない5,034名を解析した。孤独感の評価には,日本語版Three-Item Loneliness Scaleを用い,6点以上を高孤独感ありとした。高孤独感ありと関連する可変的要因として,週1日以上の運動習慣,長時間座位行動,同居人以外との週1回以上の対面交流と非対面交流,孤食,閉じこもり,社会活動(ボランティア,趣味・学習,自治会,交流サロン,スポーツクラブのいずれかに月1回以上参加),ソーシャルサポート(情緒的サポート,手段的サポート),震災後の相談環境の変化について尋ね,マルチレベルロジスティック回帰分析(全変数投入モデル)によりオッズ比(95%信頼区間)を算出した。調整変数は,性別,年齢,独居,婚姻状況,現在の住居,介護保険料の所得段階区分,就労状況,教育歴,既往歴,抑うつの有無,腰と膝の慢性疼痛の有無,移動能力制限,飲酒,喫煙を用いた。
結果 高孤独感を有する割合は,全体で18.2%(916名),男性で19.2%,女性で17.3%であった。また年齢区分別の高孤独感該当者は,前期高齢者で18.2%,後期高齢者で18.3%であった。男女に共通して高孤独感と関連していた可変的要因は,非対面交流なし,孤食あり,社会活動なし,手段的サポートいない,ネガティブな相談環境の変化であった。男性のみに見られた特徴としては無職と高孤独感との有意な関連が認められた。女性のみに見られた特徴としては,情緒的サポートいないと対面交流なしが高孤独感と有意な関連を示した。
結論 孤独感は,人との交流状況や食事環境,ソーシャルサポートと有意に関連していることが明らかになった。また,被災地の孤独の特徴として,震災後の相談環境のネガティブな変化が,現在の孤独感と強く関連していることが示された。被災地の取り組みとして,会食機会の提供等,食を通したコミュニティづくりが効果的であるかもしれない。
キーワード 東日本大震災,孤独感,日本語版Three-Item Loneliness Scale,コミュニティの再構築,身近な相談環境の改善
第68巻第13号 2021年11月 不登校発生に関連する家族要因の検討-子育て世帯全国調査データを用いて-白片 匠(シラカタ タクミ) 平 和也(タイラ カズヤ)長尾 青空(ナガオ セイキ) 伊藤 美樹子(イトウ ミキコ) |
目的 児童生徒の不登校は,犯罪行為や様々な疾患との関連が報告されており,公衆衛生上も重要な課題である。しかし,成育環境の中心を担う家族要因と不登校との関連に関する研究はほとんどされていない。本研究では,不登校発生と家族要因との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 労働政策研究・研修機構が行った「第1回(2011年),第2回(2012年)子育て世帯全国調査」を二次利用し,子どもの人数が3人以下の世帯で,子ども全員が小学生から高校生に含まれ,不登校に関する質問に回答のあった1,884世帯を分析対象とした。ひとり親世帯とふたり親世帯を層化サンプリングしていることから,ひとり親・ふたり親の世帯別に分析を行い,不登校発生の有無を従属変数とし,独立変数には家族要因として子どもの人数や性別,世帯年収,しつけの厳しさ,子どもと過ごす時間を投入した多変量二項ロジスティック回帰分析を行った。
結果 ひとり親世帯は789世帯で,うち不登校ありの世帯は99世帯(12.5%)であった。また,ふたり親世帯は,1,095世帯で,うち不登校ありの世帯は55世帯(5.0%)であった。多変量二項ロジスティック回帰分析の結果,不登校のリスクは,ひとり親世帯では,600万以上800万円未満(参照基準:世帯年収200万円未満に対するオッズ比(OR)=0.12,95%信頼区間(95%CI):0.02-0.98)が低く,しつけをやや甘やかしている(参照基準:とても厳しいに対するOR=8.19,95%CI:1.04-64.39)が高かった。一方,ふたり親世帯では600万以上800万円未満(OR=0.07,95%CI:0.01-0.43)と1000万円以上(OR=0.14,95%CI:0.03-0.75)が不登校のリスクが低かった(いずれも参照基準,200万円未満)。
結論 不登校発生に関連する家族要因として,全国平均の世帯年収よりも低いことやしつけの厳しさで甘やかしている家庭では,不登校発生のリスクが高いことが示唆された。
キーワード 不登校,家族要因,子ども,世帯年収,しつけ
第68巻第13号 2021年11月 国民生活基礎調査データを用いた学歴と有配偶率との関連の分析-2010-2019年-奥井 佑(オクイ タスク) |
目的 本研究では国民生活基礎調査のデータをもとに配偶状況と学歴との関連についての近年の動向を分析した。
方法 2010年から2019年までの国民生活基礎調査のデータを用いた。対象年齢について,20-24歳から75-79歳までの5歳刻みの年齢階級のデータを用いた。配偶者の有無は,調査時に配偶者を有しているか否かをもとに有配偶者と無配偶者に分類されている。学歴について,小学・中学・高校・旧制中,専門学校・短大・高専,大学・大学院卒の3区分に分け分析を行った。各学歴における有配偶率を年齢階級,性,調査年別に算出した。また,2010年の全対象者における年齢階級別人口を基準人口として,各調査年の年齢調整有配偶率を性および学歴別に算出した。加えて,学歴と所得との関連を確かめるため,役員以外の雇用者に対象を限定したうえで学歴と低所得者割合との関連について同様の分析を行った。
結果 学歴と配偶状況との関係は年齢階級により異なり,20代では男女とも小学・中学・高校・旧制中卒の有配偶率が最も高かったが,以降の年齢ではその他の学歴の方がより有配偶率が高い傾向がみられた。年齢調整有配偶率は,男性では調査年を問わず,大学・大学院卒,専門学校・短大・高専卒,小学・中学・高校・旧制中卒の順番に有配偶率が高くなり,調査年を経るごとに大学・大学院卒と小学・中学・高校・旧制中卒の差が拡大した。また,学歴を問わず年齢調整有配偶率は2010年から2019年にかけて減少した。女性では学歴による年齢調整有配偶率の差は調査年を問わず男性よりも小さかったが,2012年以降においては専門学校・短大・高専卒以上が小学・中学・高校・旧制中卒を上回る結果となっていた。また,雇用者に限定して,学歴と低所得者割合の関連を調べたところ,男女とも学歴が低いほど低所得者割合が高いことが示された。
結論 男性において有配偶率の減少が学歴を問わず顕著であるとともに,学歴による有配偶率の格差も拡大傾向であることが示された。女性では学歴による有配偶率の差は小さかったが,近年,学歴により有配偶率に差が生じ始めていることがわかった。
キーワード 国民生活基礎調査,有配偶率,学歴,公的統計,所得,低所得者割合
第68巻第12号 2021年10月 日本の成人女性における院内助産システムに対するケアニーズ黒﨑 直央(クロサキ スナオ) 宮﨑 文子(ミヤザキ フミコ) 朝澤 恭子(アサザワ キョウコ) |
目的 日本では助産師外来・院内助産の普及が推進されているが,その普及率は停滞している。本研究の目的は,院内助産システム推進の示唆を得ることを目指し,成人女性における院内助産システムに対するケアニーズを明らかにすることである。さらに助産所出産経験者(以下,助産所群)と,病院出産経験者および出産未経験者(以下,助産所以外群)におけるケアニーズの相違および院内助産システム認知の有無によるケアニーズの相違を明らかにした。
方法 関東地方の18~39歳の女性697名に対して,無記名自記式質問紙を用いて量的横断的研究を行った。調査内容は,院内助産システムに対するケアニーズおよび利用ニーズであった。分析は記述統計量算出およびχ2検定を実施した。
結果 有効回答は340部(有効回答率48.8%)であり,助産所群62部と,助産所以外群278部のデータを用いて分析した。助産師外来を知っている人は37.1%,院内助産を知っている人は13.2%であった。院内助産システムのケアニーズは,「助産師が誠実」86.8%,「助産師と医師のチームワークがよい」86.5%,「秘密やプライバシーの保持」86.5%,「助産師がよく話を聞いてくれる」84.4%の順に多かった。院内助産システムの利用交通ニーズは徒歩では10分以内と回答する人が55.0%で最も多く,院内助産の分娩費用ニーズは出産育児一時金と同額が54.7%と最も多かった。
結論 院内助産システムに対するケアニーズは,誠実,医師とのチームワーク,プライバシー保持,傾聴といった顧客コミュニケーションが上位を占めていた。助産所群は自然分娩,フリースタイル分娩,分娩部屋選択,産褥マッサージ,家族立ち会い出産という具体的なケアニーズが多く,助産所以外群は送迎バスの利用やスタッフの独自の白衣といったケア以外の利用ニーズが多かった。
キーワード 助産師,院内助産システム,ケアニーズ,助産師外来,横断調査
第68巻第12号 2021年10月 市民後見人における受任調整の現状と後見活動時
永野 叙子(ナガノ ノブコ) 小澤 温(オザワ アツシ) |
目的 市民後見人の受任調整の現状を分析し,後見活動時に感じる困難さの内容と,困難さを規定する要因を明らかにすることを目的とした。
方法 2016年12月~2017年3月に,現任の市民後見人142名に対して質問紙調査を実施した。調査内容は,市民後見人の属性,被後見人等の概要,後見活動時に感じる困難さとした。有効回収票は113件(有効回収率=79.6%),分析対象は112件(1件辞退)であった。分析項目の独立変数は,①居所2群:「在宅,施設等」,②申立人2群:「親族(本人含),市町村長申立」,③介護度4群:「要支援1~要介護2,要介護3,要介護4,要介護5」,④受任経験:「有,無」,⑤資格所有:「社会福祉士,介護福祉士,看護師,税理士,教員,その他等の記入があった場合を有,記入なしを無」,⑥支援・監督組織の2群:「独自養成の実績がある3カ所の実施機関(2011年老人福祉法の改正ならびに,市民後見推進事業開始以前より市民後見人を独自研修プログラムで養成してきた成年後見実施機関),それ以外の7カ所の実施機関」とした。従属変数は,「活動時に感じる困難さ19項目」とし,独立変数①~⑥との関連性をみるためにχ2検定を行った。
結果 困難さを規定する要因のうち被後見人等の要件では,市町村長申立案件の場合に,「家族等との意見調整」を「困難である」と感じる傾向がみられた(p<0.05)。次に,市民後見人の要件では,受任経験がある者が「葬儀等の手配」(p<0.01),「財産の引き渡し」(p<0.05)を「困難でない」と感じる傾向がみられた。また,市民後見人を支援・監督する組織での検討では,独自養成の実績がある組織で支援・監督を受ける市民後見人は,「家族同様のかかわり」「保証人等を求められる」「家族等との意見調整」「緊急時の対応」に困難さを感じない傾向がみられた。
結論 死後事務は,1ケース1回限りの非日常的かつ個別性が高い活動であるが,市民後見人の受任経験が死後事務の手続き・手順への理解を促進し,見通しをもった活動につながると考えられた。一方,独自養成の実績がある組織で支援・監督を受ける市民後見人には,困難さを感じない傾向がみられたことから,当該機関は,受任後の市民後見人に対する継続的支援を推進していると考えられた。したがって,受任調整時には市民後見人の受任経験を考慮する一方で,支援・監督組織が市民後見人の育成・支援を通じて自らも実務経験を積みつつ,現任の市民後見人への継続的支援を推進することが,市民後見事業の普及・促進につながると考えられる。
キーワード 成年後見制度,市町村申立,市民後見人,受任調整,困難さ,成年後見制度利用促進基本計画
第68巻第12号 2021年10月 世帯の社会的脆弱性尺度の開発
福定 正城(フクサダ マサキ) 斉藤 雅茂(サイトウ マサシゲ) |
目的 本研究は,世帯境界の概念を提示し,その境界を通したさまざまな刺激の出入りや,対人関係における距離感にかかわる評価尺度である世帯の社会的脆弱性尺度を開発し,信頼性と妥当性を検討することを目的とした。
方法 先行研究から抽出した30項目で尺度原案(5件法)を作成し,表面妥当性の検討後,予備調査を行った。予備調査後に4件法への修正を行い,本調査では愛知県内すべての地域包括支援センターに質問紙を配布し,112カ所347名(有効回答307名)から回答を得た。調査期間は2020年6月〜8月であった。評価対象世帯は,①2名以上の世帯員がいる,②65歳以上の高齢者が1名以上含まれる,③生活に困難が生じているにもかかわらず自ら支援を望まない,これらすべてを満たす世帯と定義した。探索的因子分析(最尤法・プロマックス回転)で因子的妥当性を確認した後に,内的一貫性をクロンバックα係数で検討した。そして,社会的孤立,セルフ・ネグレクト,支援困難感にかかわる指標を外部基準とし,基準関連妥当性を検討した。また,世帯構成の違いによる尺度得点の相違について,一元配置分散分析後にScheffe法を用いた多重比較によって確認した。さらに,内容的妥当性を専門家へのヒアリングを行い検討した。
結果 探索的因子分析の結果,スクリー基準と因子の解釈可能性により3因子構造を採択し,第1因子「セルフ・ネグレクト」,第2因子「社会的不適応」,第3因子「社会的孤立」と解釈した。全項目が0.35以上の因子負荷量をもち,因子的妥当性は確保されていた。クロンバックα係数は,尺度全体が0.84,第1~3因子が0.73,0.70,0.78であり,尺度の信頼性が示された。外部基準と尺度得点との間に有意な相関が認められた。多重比較の結果,高齢者と未婚の子世帯は,高齢者夫婦世帯よりも尺度得点が有意に高い傾向が確認された。専門家4名全員から,主観的評価と尺度得点との間に矛盾は認められず,本尺度の項目は世帯の社会的脆弱性を測定するうえで必要な内容をカバーしているとの意見を得られた。
結論 本研究によって開発された世帯の社会的脆弱性尺度は,信頼性と妥当性を有する尺度であることが示された。本尺度は,対象世帯を支援する者にとって,有益な介入効果測定の指標となると考えられる。
キーワード 世帯の社会的脆弱性尺度,世帯境界,家族システム,社会的孤立,セルフ・ネグレクト,因子分析
第68巻第12号 2021年10月 子ども虐待と子育て不安や就学前親子のニーズとの関連性-岡山市の就学前親子の居場所に関する調査より-八重樫 牧子(ヤエガシ マキコ) |
目的 本論文では,親子が安全・安心に過ごすことのできる岡山市の就学前親子の居場所のあり方を検討するために,岡山市の就学前の子どものいる世帯を対象に就学前親子が利用する居場所のニーズなどに関する質問紙調査を実施し,子ども虐待と子育て不安や就学前親子のニーズとの関連性について検討した。
方法 調査対象は,2019年5月現在の岡山市住民基本台帳から0歳から5歳までの子どもがいる36,742世帯から2,520世帯を無作為抽出し,同年6月7日~6月30日に郵送調査法による質問紙調査を実施した。1,275人から回答が得られた(有効回答率は50.6%)。子ども虐待意識・経験・子育て不安・居場所ニーズのスピアマンの順位相関係数を算出した。子ども虐待意識・経験については,家計状況・家族形態・子育て不安・居場所ニーズによる違いを検討するためにKruskal-Wallis検定を行った。「子どもをたたいた(経験)」を従属変数,子どもの月数・就園状況・家計状況・子ども虐待意識・子ども虐待経験・子どもの頃の虐待経験・子育て不安・居場所ニーズを独立変数とする重回帰分析を行った。
結果 「子どもをたたいた(経験)」と「子どもの頃親等にたたかれた(経験)」の相関はρ=0.295(p<0.01)で低い正の相関があったが,「子どもをたたいた(経験)」と「子どもの頃親等に怒鳴られた」の相関は,ρ=0.598(p<0.01)でかなり高い正の相関があった。余裕のある人より,普通・苦しい人の方が子どもをたたくことが多く,親等にたたかれた経験も多くなっていた。重回帰分析の結果,子どもの月数が多く,怒鳴ることに肯定的であり,子どもの頃親等にたたかれたり,怒鳴られた経験のある人ほど子どもをたたき,さらに,子育て困難感が高く,子育て相談・支援ニーズが低く,遊び場ニーズの高い人ほど子どもをたたく傾向があることが明らかになった。
結論 子どもをたたいたり,怒鳴ったりすることは体罰であり,しつけとして体罰を用いない,特に怒鳴らない子育ての方法を親子の居場所などで伝えていく必要がある。親子の居場所において,子育て不安が高く,子どもをたたく人や子どもを怒鳴る人,子どもの頃親等に怒鳴られた経験のある人,そして家計の苦しい人やひとり親家庭などを個別に把握し,寄り添っていく伴走的な子育て支援を実践するとともに,子育て支援プログラムや虐待治療プログラムなどを含む福祉サービスにつなげていくソーシャルワークに基づいた子育て支援が求められている。
キーワード 親子の居場所,地域子育て支援拠点,子ども虐待意識,子ども虐待経験,被虐待経験
第68巻第12号 2021年10月 若年性認知症者の経済状況に応じた
竹本 与志人(タケモト ヨシヒト) 杉山 京(スギヤマ ケイ) 倉本 亜優未(クラモト アユミ) |
目的 本研究では,居宅介護支援事業所の介護支援専門員を対象に,若年性認知症者の経済状況に応じた社会保障制度の選定能力について,事例問題を用いて明らかにすることを目的とした。
方法 近畿,中国(うち1県を除く),四国,九州・沖縄地方に設置されている居宅介護支援事業所16,345カ所(2017年7月時点)から層化二段階抽出法により選定した1,500カ所の事業所を対象に質問紙による郵送調査を行った。調査内容は属性,若年性認知症者の事例問題,社会保障制度の選定能力を確認する項目,事例問題における経済問題の軽減・解決のための相談先の意向等で構成した。調査期間は2017年10月から同年11月の2カ月間であった。
結果 回答は478名から得られ,統計解析には当該項目に欠損値のない386名の資料を用いた。事例問題に対する社会保障制度の利用の可否の回答を用いてクラスター分析を行った結果,5つのクラスターに類型化されると判断した。
結論 5つのクラスターいずれもが社会保障制度の選定能力に課題を有していたが,相談先の意向を確認すると,その選定能力を補完する援助要請を行っている可能性が示唆された。今後は,相談先の人・機関が適切な助言を行うことができているか否かについて確認することが課題である。
キーワード 若年性認知症者,社会保障制度,介護支援専門員,経済問題,経済支援,事例問題
第68巻第12号 2021年10月 高齢者介護施設のケア従事者における
富永 真己(トミナガ マキ) 田中 真佐恵(タナカ マサエ) |
目的 本研究は,高齢者介護施設のケア従事者を対象に,現状の組織の受け入れの準備体制と,外国人介護職の受け入れへの期待と不安の実態について,仕事のストレスと人間関係に関わる職場環境の側面から明らかにすることを目的とした。
方法 倫理委員会の承認後,10府県の高齢者介護施設(N=30)のすべての介護士・看護師(N=1,060)を対象に,2019年9~10月に無記名の自記式質問調査票による量的調査を実施した(回収率71%)。調査項目は,基本属性,雇用・労働特性,施設と職場での外国人介護職の受け入れ状況,受け入れへの期待と不安の程度,仕事のストレス,「職場のソーシャル・キャピタルと倫理的風土」の3下位尺度を含めた。欠損のない583票を解析に用いた。外国人介護職の受け入れの有無の2群による期待と不安の回答割合および施設の受け入れの準備体制の有無の回答割合はχ2検定にて,受け入れへの低い期待と強い不安の有無の2群による仕事のストレスと「職場のソーシャル・キャピタルと倫理的風土」の3下位尺度の平均値の差はt検定にて検討した。
結果 対象者の平均年齢は42.6(±12.2)歳,女性が67%で,対象者の36%が現在の施設で,22%が職場で外国人を受け入れていた。施設の受け入れの準備体制について全7項目で「わからない」の回答が最も多かった。受け入れへの期待については対象者全体の8割が「多少・全くない」と回答し,受け入れの不安については3割が「非常に・かなり不安」と回答した。一方,外国人介護職が働く施設の者はそれ以外の者に比べ,施設と自分の職場での受け入れに対し,期待が「全くない」「非常に不安」との回答割合が有意に低かった。受け入れに対し期待が「全くない」者は,それ以外の者に比べ職場のソーシャル・キャピタルと倫理的リーダーシップの平均値が有意に低かった(p<0.05)。受け入れに非常に不安な者はそれ以外の者に比べ,仕事のストレスの平均値が有意に高く(p<0.01),職場のソーシャル・キャピタルの平均値は有意に低かった(p<0.05)。
結論 日本人という同質のケア従事者が異質の外国人を排斥するような職場風土より,むしろ現存する仕事のストレスや人間関係に関わる職場環境の課題が,外国人介護職の受け入れに対する低い期待度や強い不安を抱くケア従事者に認められた。課題の解決の取り組みとともに取り組みの周知の必要性が示唆された。外国人材の長期定着化に向け,受け入れ後の日本語や資格合格を目指した教育・訓練とともに,やりがいのある職場環境の構築がより一層,望まれる。
キーワード 高齢者介護施設,外国人,介護職,職場環境,不安,期待
第68巻第11号 2021年9月 共働き世帯における母親の
細川 陸也(ホソカワ リクヤ) 桂 敏樹(カツラ トシキ) 平 和也(タイラ カズヤ) |
目的 近年,子育て世帯における共働きの割合は増加傾向にある。しかし,共働き世帯を支える社会システムの整備はいまだ不十分であり,仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の推進は重要な課題となっている。親のワーク・ライフ・バランスは,子どものメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性がある。本研究は,共働き世帯における母親のワーク・ライフ・バランスと学童期の児の社会適応との関連を明らかにすることを目的とした。
方法 2019年10~12月に,愛知県内の小学5年生(10-11歳児)とその養育者1,414名を対象に自記式質問紙調査を実施した。主な調査項目は,親の雇用形態,家庭の世帯収入等とし,ワーク・ライフ・バランス尺度(Survey Work-Home Interaction-NijmeGen),児の社会適応(Child Social Preference Scale)尺度などを用いた。目的変数を児の社会適応,説明変数を母親のワーク・ライフ・バランス,調整変数を性別,家族構成,親の雇用形態,家庭の世帯収入として重回帰分析を行った。
結果 有効回答の得られた709名のうち,基準を満たす共働き世帯の児443名を分析対象とした。分析の結果,仕事から家庭へのネガティブな影響が大きいほど児の社会不適応のリスクが高くなる(シャイネス:β=0.180,p<0.001,社会的無関心:β=0.149,p=0.003)一方,仕事から家庭へのポジティブな影響が大きいほど社会不適応のリスクが低くなる(シャイネス:β=-0.130,p=0.008)傾向がみられた。
結論 母親のワーク・ライフ・バランスは,ネガティブな面でもポジティブな面でも,児の社会適応に関連していることが示唆された。仕事と子育てを両立するための積極的な取り組みは,児の社会適応にとって重要であると考える。
キーワード 共働き世帯,母親,ワーク・ライフ・バランス,学童期,社会適応
第68巻第11号 2021年9月 後期高齢者率の高い地区と低い地区における
泉 眞知子(イズミ マチコ) 池田 直隆(イケダ ナオタカ) |
目的 本研究は,後期高齢者率の高い地区と低い地区における住民ボランティアによる独居高齢者への見守り活動状況を比較することを目的とした。
方法 大都市近郊である大阪府寝屋川市の住民ボランティア全数である1,812名に対して自記式質問紙配布による調査を実施した。調査項目は,基本属性や見守り活動状況として,住民ボランティアが実施している見守り活動の対象者数と見守り関連活動の実施頻度を把握した。同市24小学校区において,2017年の全国の平均後期高齢者率である13.8%を基準として,後期高齢者率が13.8%以上の17小学校区を後期高齢者率が高い地区,13.8%未満の7小学校区を後期高齢者率の低い地区とした。後期高齢者率の高い地区と低い地区における住民ボランティアの基本属性,見守り活動の対象者数と見守り関連活動の活動頻度の違いについて,χ2検定により検討した。
結果 有効回答数は764名(42.2%)であった。基本属性は,後期高齢者率の高い地区の住民ボランティアは低い地区の住民ボランティアに比べて,ボランティア自身が75歳以上の者(p<0.05),男性(p<0.001),暮らし向きに余裕がある者(p<0.05),無職者(p<0.05)の割合が高かった。住民ボランティアの見守り活動の対象者数については,後期高齢者率の高い地区では低い地区に比べて,声かけ(p<0.05),ポストや明かりの確認(p<0.01),戸別訪問(p<0.01)の対象者数が0人である者の割合が高かった。一方,見守り関連活動は,後期高齢者率の高い地区の住民ボランティアは低い地区の住民ボランティアに比べて,会食・サロン・喫茶運営を実施していない者の割合が低かった(p<0.01)。
結論 本研究の結果より,後期高齢者率の高い地区では低い地区と比べて,住民ボランティアが実施している声かけ,ポストや明かりの確認,戸別訪問などの見守り活動は頻繁に行われていない一方,会食・サロン・喫茶運営などの見守り関連活動は活発に行われている可能性が示唆された。このことより,後期高齢者率の高い地区にあっても住民ボランティア自身の体力や意欲に応じたボランティア活動を継続していると考えられる。
キーワード 後期高齢者率,住民ボランティア,独居高齢者,見守り活動
第68巻第11号 2021年9月 小規模多機能型居宅介護における認知症の人を支える
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目的 認知症の人を支える家族介護者への心理的支援に関する先行研究では,通所介護を主に訪問介護と短期入所介護の組み合わせ,つまり,小規模多機能型居宅介護の仕組みが有効としている。しかし,小規模多機能型居宅介護を対象とした有効性の検証はほとんどない。そこで本研究は,小規模多機能型居宅介護の専門職を対象に質的研究を行い,専門職の客観的観点から認知症の人を支える家族介護者の心理的支援の有効性に関する要因を明確にすることを目的とした。
方法 小規模多機能型居宅介護における,認知症の人を支える家族介護者の心理的支援の有効性を検討するために,2019年8月から2019年9月に調査を行った。全国における小規模多機能型居宅介護事業所の中で14カ所の専門職14人を対象に質的研究を実施した。調査方法は,半構造化面接によるインタビューの方法で実践体験や事例を自由に語ってもらった。分析にはテキストマイニング手法を行った。
結果 分析の結果,『安心した地域生活の連続』『理解を得る持続的な説明』『柔軟性に富んだサービス』『最期を支える』『臨機応変な支援』『認知症と家族の相互作用による関係性』『心理的支援への取り組み』『変化する状況へのアプローチ』という8つの有効な要因が示され,小規模多機能型居宅介護は併設型か,単独型かによって支援や関わり方の内容が一部異なっていることが明らかにできた。
結論 小規模多機能型居宅介護は他の在宅サービスと比べて緊急時の利用が可能で臨機応変な対応ができることと,いつでも支援を求めることが可能な接近性が容易であること,利用者のニーズによってサービスを組み合わせることができること,認知症の人と家族が必要な時に専門職から相談できる体制になっていること,看取りを支えることで人生の最期まで安心して住み慣れた地域で生活することができて,心理的安定にもつながっていた。
キーワード 認知症の人,家族介護者,心理的支援,小規模多機能型居宅介護,専門職
第68巻第11号 2021年9月 周術期における術後せん妄アセスメントシートの検討野末 波輝(ノズエ ナミキ) 斉藤 理恵(サイトウ リエ)鷲見 由紀子(スミ ユキコ) 藤原 美樹(フジワラ ミキ) |
目的 せん妄は病棟の種類を問わず入院患者の1割程度に発症している。急速に高齢化が進行しているわが国においては,今後ますます,せん妄患者が増加することが予想される。また,外科学の進歩に伴い高齢者が手術を必要とする疾患に罹患することも多くなると推測され,高齢者手術で最も多い合併症である術後せん妄の発症も増加すると予測される。術後せん妄は,患者の生命に大きな影響を及ぼすだけでなく,医療スタッフの負担となりマンパワー不足にもつながる。そのため,術後せん妄のリスクをアセスメントし,早期からの予防的介入に組織的に取り組むことは重要である。本研究では,当病棟で使用している簡便な術後せん妄アセスメントシートのリスク因子と因子数の妥当性を検討した。
方法 対象者は2019年6月~2020年3月までの手術予定患者301名とした。入院時,担当看護師が術後せん妄アセスメントシートを記載し,後日研究メンバーによってシートの回収を行った。その他関連因子については,研究メンバーによって情報取集した。各調査項目と術後せん妄の有無についてχ2検定を行った。カットオフ値を算出し,感度,特異度を算出,ROC曲線を作成した。
結果 調査項目のうち,年齢,要支援または要介護認定あり,日常生活自立度A以下,開腹手術,認知症ありまたはMMSE24点以下,脳血管障害の既往あり,ICU入室あり,抗精神病薬の定期内服あり,視覚,聴覚障害ありと術後せん妄に有意な関連がみられた。術後せん妄アセスメントシートのカットオフ値を2項目に設定した時の感度は,94.0%,特異度は76.5%であった。
結論 調査項目と術後せん妄の有無については過去の先行研究とおおむね一致した結果であった。術後せん妄アセスメントシートの感度,特異度が最大となるカットオフ値は2点であったことから,2項目以上にチェックの入る患者にはより注意して介入を行っていくことが必要である。今後も術後せん妄患者は増加することが予想されるため,せん妄予防の取り組みがより重要となると考えられる。
キーワード 術後せん妄,周術期,術後せん妄アセスメントシート,術後せん妄リスク因子